2015年4月6日月曜日

【回転窓】時代を見てきた谷根千の桜


 春の陽気に誘われて、3月末に「谷根千」に足を運んだ。東京都文京区から台東区にかけての谷中・根津・千駄木一帯を指し、今も下町風情が色濃く残る▼谷中銀座商店街には大勢の人出が。テレビでよく取り上げられるコロッケ店や焼き鳥店には長蛇の列ができ、狭い通りは歩くだけで精いっぱいだ。谷中霊園は桜が満開。古びたお墓ときれいな桜のコントラストが印象深い▼一画には最後の将軍・徳川慶喜の墓も。大政奉還や戊辰戦争の後、静岡で隠居生活に入り趣味に没頭。都内に転居して1913年に亡くなったという。享年76。皮肉にも徳川歴代将軍で最も長命だった▼明治7(1874)年開設の谷中霊園には、元首相の鳩山一郎、実業家の渋沢栄一、日本画家の横山大観など、近代日本の礎を築いた多くの人々も眠る。その上に枝を広げる古木は、明治から昭和への激動の時代に何を見てきたのか。そう眺めると、かれんな桜の花びらが違って見えた▼「桜の樹の下には屍体が埋まっている」と短編小説に書いたのは梶井基次郎。怪しいまでに人々を魅了する「谷根千」の桜の見ごろもそろそろ終盤に。

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