2015年4月13日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・90



 ◇地下から人知れず社会支える誇り◇

 首都圏の土木工事現場で作業所長を務める村井隆さん(仮名)。「この工事は他社には取らせず、何が何でもわが社が受注することが至上命令だった」と振り返る。現場から徒歩圏内に創業家の邸宅があり、過去に周辺で行われた多くの工事も自社で施工してきたからだ。特に今回の工事は社内でも注目の案件だった。
 どんなにのどから手が出るほど欲しい工事でも、赤字受注は許されない。この工事も、コスト削減や工期短縮などで知恵を絞って勝ち取った。無駄を徹底してそぎ落としたため、工程・コストに余裕は全くない。
 人や車の通りが激しい幹線道路下での工事。現場条件は厳しく、施工難度も高い。限られた工事費の中で品質を確保し、工期も厳守するには、さまざまなリスクが顕在化する前に対応していくことが不可欠になる。
 「人手不足や資材高騰で急激に跳ね上がった建設コストも、最近はだいぶ落ち着いてきた。しかし、東京圏では今後も大規模工事がめじろ押し。調達面の潜在的リスクは一段と高まっている」と村井さんは不安を隠さない。
 都市土木を中心に工事現場を長年渡り歩いてきた。都心部の現場では、受注してから、現地で実際に工事に着手するまで、前段階の調整に特に労力と時間がかかる。道路占用許可の手続き一つを見ても、交通規制のかけ方や期間・時間の設定など、地元関係者への影響を最小限に抑えた計画を綿密に検討する必要がある。
 「現場のちょっとした不具合が、都心部では周囲に大きな影響を与え、対応を間違えるとさらに問題が拡散する。そうなると施工者だけでは事態を収めることができなくなってしまう。都心部に限ったことではないが、着工前には現場で起こり得るあらゆるリスクを洗い出す」
 ビルが乱立し、ライフラインなどさまざまな埋設物・支障物がひしめく都心部では、適切な仮設計画や準備工事が円滑に作業を進める上での生命線になる。コストや工期を気にせずに対策を講じられれば、現場のリスクを限りなくゼロに近づけて工事を進めることができる。でも、現実には限りあるコストと時間の中で最善策を突き詰めるしかない。
 村井さんがこれまでに受け持った現場では、幸いにも大きな事故は起きていない。しかし、「どんなに対策を講じても、不安をすべて拭い切るのは難しい。休日でも仕事用の携帯電話の着信音が鳴り響くと、びくびくしてしまう」。
 都心の地下で人知れず進められる土木工事には、超高層ビルの現場のような華やかさはない。作業も夜間に行われることが多い。
 それでも人々の暮らしや社会を支えているという土木屋の誇りがあるからこそ、どんな困難に直面しても前を向いていられると思っている。「格好付けた言葉に聞こえるかもしれないが、世のため、人のために働ける喜びは何ものにも代え難い」。
 これからも人知れず、地下深くの現場で黙々と工事を進めていく。

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