2015年4月20日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・91

仕事を断る異例な状況も長くは続かない…

 ◇50代は若造、会社人生の旬はこれから◇

 ゼネコンで建築営業を担当する坂上真さん(仮名)は、「社内では、『余計な仕事は取ってくるな』とくぎを刺されている」と真顔で話す。本来、顧客を回って1件でも多く工事を受注してくることが、営業マンとして会社から与えられた役割のはずだが、その会社から、仕事放棄の容認とも受け取れるような指示を受けている。
 景気回復によって民間の設備投資も活発化し、仕事の話はあちこちで聞こえてくる。ただ、今の社内は、設計、積算、現場部門も含めて手持ち工事に対応するので手一杯。よほど割のいい仕事以外は無理して取る必要がない状況だ。
 建設コストは高止まりしている。着工後のコスト上昇のリスクも受注額にできる限り織り込みたいため、施主と交わす請負契約が着工間近のぎりぎりになるケースも増えているという。
 顧客から仕事の話を持ち掛けられても、見積もりを出さずに断ることもある。
 「最近では、仕事を出す前に顧客の担当者が複数社の合い見積もりでうちを指名していいか探りを入れてくる。こちらも断り続けて顧客との関係を壊したくないので、担当者レベルでの事前確認は互いのリスク回避策としてありがたい」
 数年前までは、建設需要が縮小を続ける一方で、建設会社の数は変わらず、激しい過当競争になった。採算度外視の安値で請け負うダンピング受注も少なくなかった。供給過多の建設市場では、施工者側が仕事を選別すること、ましてや顧客からの仕事の話を断ることなど考えられなかった。
 今は環境が一変した。「業績が回復基調となって社内の雰囲気にも明るさが戻り、気分も上向いて飲み会の件数も増えてきた」と坂上さん。それでもバブル崩壊後の「失われた20年」を経験した建設業界には、無理に仕事を取って受注拡大に走ろうと考える企業はいないと見ている。
 量を追うにはそれに見合った組織体制を築き、会社の規模も大きくする必要がある。需要の増加傾向が続けば問題はないが、仕事がなくなった時には膨らんだ組織を削るリストラを迫られる。坂上さんの会社も含め、多くの企業が過去に経験したその痛みは、現在の経営層も十分に分かっている。
 2020年の東京五輪前には、今の需要増の流れは失速すると坂上さんはみている。「五輪後を見据え、どこの業界・分野で仕事を開拓するかが営業マンの腕の見せ所だ」。超高齢化社会に対応した介護・福祉関連施設、海外から人や投資を呼び込む訪日外国人向け施設…。狙い目はどこなのか、知恵を絞る日々だ。
 建設業界では人材の高齢化が進み、若手入職者をいかに増やすかが大きな課題になっている。坂上さんは、次代を担う若手確保の必要性は理解するが、中堅以上の世代が今より頑張ればいいとも考える。
 「ゼネコンの社員は、長年培った経験やノウハウと築いた人脈を生かせば、体力的な衰えがあっても60代、70代でも若手に負けない仕事が十分にできる。50歳前後のわれわれはまだまだ若造。会社人生の旬はこれから」と話す坂上さん。
 体力は落ちても若い感覚を持ち続け、まだまだ一花も二花も咲かそうと思っている。

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