2015年6月8日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・97


海外事業の成功には良きパートナーが欠かせない
 ◇エンジニアとして新しい価値を創りたい◇

 仕事で日本と東南アジアの間を頻繁に行き来するようになって5年。1年前に買ったスーツケースは、貼ったまま放っているセキュリティーチェックのシールと傷で、まるで10年前から使っているような状態になっている。
 建設コンサルタントで、海外分野の新規事業開拓を担当する大谷壮人さん(仮名)は、交通系の技術者として国内業務を15年余り担当した後、専門領域を離れて現在の部門に異動した。建設コンサルの枠を超えた仕事と向き合うことに大きな可能性を感じながら、「技術や知識の新しい生かし方も学べている」と自らの歩みを振り返る。「コンサルタントエンジニアとして新しい価値を創りたい」。それが大谷さんが抱き続ける技術者としての信条だ。
 大谷さんの会社では今、海外事業の拡大が将来を見据えた重要な経営課題の一つになっている。大谷さんが率いる部署には、国内業務の延長線上ではなく、新しいフィールドでしっかりと存在感を示すことが求められている。
 今週はベトナム、少し間をおいてインドネシア、その次はフィリピンと忙しく駆け回る。出張を重ねるごとにくたびれていくスーツケースとパスポート、そして痛いほど強烈な日差しを浴びて真っ黒に焼けた腕と顔は、仕事と正面から向き合ってきたと胸を張れる証しだ。
 道路や橋といったインフラの整備にとどまらず、各国の現地企業と連携して地域開発にも食い込んでいく。大谷さんの会社は、これまでよりも一歩も二歩も踏み込んだ形で海外事業の展開を目指している。「現地パートナーの存在によってリスクは大幅に抑えられる。いかに親密な関係を構築できるか、それが事業の成否の鍵を握る」。
 海外の仕事を通じて出会った人から、大切なことを学んだ。日系大手ゼネコンの技術者として海外工事を担当していたその人は、会社を辞めて海外に移住。今は事業投資会社の社長として大谷さんの会社の海外事業で重要なパートナーになっている。
 「同じ舞台で仕事をしていても、私と彼では覚悟が違う」。事業を成功に導くには、情熱と信念が何よりも必要だと気付かせてくれたパートナーに感謝しながら、大谷さんは「歩みを決して止めずに進み続ければ、必ず先は開ける」と強い思いを胸に秘める。
 これまで積み重ねてきた努力が実り始め、海外での新事業のつぼみがようやくほころび始めた。「今の状況は1年前には想像もできなかった」。
 自らの足跡をしっかりと残し、経験を後輩に伝えるために、忙しい仕事の合間を縫ってあることに挑戦している。それは大学院に通い、官民連携(PPP)を研究テーマに博士号を取得することだ。出張先から帰国しても自宅に帰らずに研究室へ直行することもある。「ドクター」という世界で通用する肩書を得ることで、さらに大きな可能性が開けるかもしれないと思っている。
 「今の自分は日本で見れば土木技術者の枠には当てはまらないかもしれない。だが世界的に見れば自分もシビルエンジニアの一人だと自負している」。後に続く若い技術者にも臆せず挑戦してほしいと願いながら、愛用のスーツケースを携え、再び海外へと旅立つ。

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