2015年7月28日火曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・103

顔はスマイルでも相手の様子をしっかりと観察
◇きっと誰かが見てくれている◇

 商談などで企業を訪ねた人が最初に接する「受付」。多くは女性がその職務を担い、笑顔で来客を迎える。その会社の第一印象を左右する重要なポジションであり、気配りと高いビジネスマナーが求められる。
 ゼネコンの総務部に勤める井本千浩さん(仮名)もかつて受付の仕事をしていた。30歳になったのを機に生まれ育った関西を離れ、東京へ。人材派遣会社に登録し、紹介されたのが今勤めているゼネコンの受付の仕事だった。
 好奇心旺盛で人との交流にも自信があった。不慣れな標準語に悪戦苦闘しながらも持ち前の負けん気を発揮。徐々に自分のペースをつかんだ。「お客さまの名前とどの部署にどんな用事で来ているのかを覚えることに集中する毎日でした」と振り返る。
 受付の仕事は「お客さまより先に誰々をお訪ねですね」と言えるようになって一人前。来客が持つ封筒や襟元の社章などからその人の情報を得ようと努めた。知らない会社はすぐにインターネットで調べて復習する習慣を徹底。「金融系」や「商事系」など雰囲気で人をカテゴライズする技も身に付けた。
 転機が訪れたのは3年目。ある朝、出社してきた社長に声を掛けられた。「お客さまがあなたのことを褒めてくれた。毎日本当によくやってくれている。社員として一緒に働かないか」。ずっと東京で暮らす覚悟ができずに少し迷ったが、上京後に孤独だった自分に居場所を与えてくれ、温かく見守ってくれた会社に恩返ししようと決心した。
 社員になると姿勢が変わった。「分からない」では済まされないというプロ意識が目覚め、来客応対だけしていればいいという考えも捨てた。知識の幅を広げようと、自社が売り込んでいる工法をはじめ、ホームページに掲載されている情報は最低限、自分で説明できるように猛勉強した。
 受付から待っている人の様子が確認できるよう、受付と待合室の間のパーテーションを取り除くなどエントランスのレイアウトの変更を提案すると、すぐに採用された。
 長く受付を経験したからこそのアイデアだった。そのころにはもう、社内外に名前が知れる名物受付になっていた。
 正社員になって3年。6年にわたる受付の仕事を卒業し、代表電話の応対や役所へ提出する書類の作成・届け出、備品発注など総務・庶務の仕事を任されるようになった。中でもマスコミ対応や社内報の作成など広報の仕事にやりがいを感じている。心が躍るのは、新聞社から依頼された現場取材の同行。「記事になる過程を間近で見られる。取材を受けた人に掲載紙を見せて喜んでもらえるのもうれしい」。
 派遣から正社員に。イレギュラーな入り方に負い目を感じ、周囲に不必要に気を使い、他人の目が気になる日々もあったが、受付から一歩踏み込んだ仕事をするようになって迷いは消えた。「頑張っていれば、きっと誰かが見てくれている」。
 「自分の会社を知るためにも、受付の仕事を一度は経験するといい」。新入社員研修に受付の仕事を取り入れてはと提案しようと思っている。

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