2015年8月28日金曜日

【回転窓】二兎を追うための時間

 「ぼくたちは秀才だが、あいつだけは天才だ」。文芸評論家の小林秀雄がそう評したのが、骨董(こっとう)の目利きとして知られた装丁家の青山二郎。青山が骨董の世界で注目されたのは横河グループの創始者・横河民輔が収集した膨大な中国陶磁器の図録の作成。26歳の若さだった▼装丁家以外の顔を持つ青山に、詩人の中原中也は「二兎(と)を追うものは一兎をも得ず」と一つに絞るよう促したが、青山は「一兎を追うのは誰でもするが、二兎を追うことこそが俺の本懐だ」と即答したといわれる▼将来の市場縮小に備えて事業領域の拡大を模索する建設業界の動きを見て、そんな話を思い出した。ただ、骨董と装丁の両方の世界で評価を得た青山に対して、建設業界では新分野の開拓に挑戦して成果を挙げている企業はまだ少ない▼青山が骨董収集に目覚めたのは中学生のころとされる。天才といわれた青山ですら、横河民輔の収集品を鑑定する力を付けるまでに10年を要したことになる▼企業でも本業を補完する新事業を育てるまでには相応の時間がかかると見るべきだろう。本腰を入れて取り組めるかが成否のカギである。

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