2015年10月15日木曜日

【災害頻発への対応策は】元国交省技監・足立敏之氏に聞く/治水安全度向上が急務


 9月に発生した関東・東北豪雨。茨城県常総市で鬼怒川の堤防が66年ぶりに決壊するなど、各地に大きな爪痕を残す災害となった。発生から1カ月たった現在も避難生活を余儀なくされている住民が不安な日々を過ごしており、一日も早い復旧・復興が待たれる。頻発する災害にどう対応していくべきか。元国土交通省技監の足立敏之氏に話を聞いた。

 --関東・東北豪雨による洪水災害をどう見るか。

 「地球温暖化で気候が激甚化している中で、起こるべくして起きてしまったことだと思う。日本の河川堤防は土でできているので、越水すれば当然、破堤に及ぶ危険があり、越水しなくても長時間経過すると破堤する可能性がある」

 --こうした水害をどのように防いでいくべきか。

 「国交省は地球温暖化対策でいろいろな提案を行ってきている。防災・減災対策ではハードとソフトのベスミックスが必要とされており、そういった施策をこれからもしっかり実施していかなければならない。関東・東北豪雨では、防災の中枢である市役所が浸水し、一時的に機能がまひした。だが、電気・機械設備を水が来ないところに設置しておくなどすれば、そうした被害は未然に防げる。これまでの台風や豪雨による災害でも同じ反省があったはずだが、それが生かされていなかったと言えるだろう」

 「ハード面では、粘り強い堤防の整備など、治水安全度を高めていくための取り組みが急がれる。河川に限らず安全度を全国的に確保することは急務であり、着実に国土を強靱きょうじん化していく必要がある」

 --国交省時代には緊急災害対策派遣隊(テックフォース)の創設に関わった。

 「2004年の台風23号での経験から、災害対応で頑張っている建設分野に光を当てたいと考えた施策だった。この災害では次の台風が接近していたこともあり、地方整備局の職員と地元建設業の皆さんが5日間、24時間体制で切れた堤防の復旧に当たった。現場代理人には自分の家が浸水し、家族が避難所に待避していた方もいたが、現場の復旧を優先していただいた」

 「災害時にこうした大きな貢献をしているにもかかわらず、その活動が目に見えてよく分かってもらえないことに忸怩じくじたる思いがあった。このため警察や消防の方々の活動も参考にさせてもらいながら、全国的な緊急災害対策の派遣体制を整えようと考えたのがテックフォースであり、私が国交省河川計画課長時代に制度づくりを始めた」

関東・東北豪雨の被災地(茨城県常総市)㊤と、土砂崩れが起きた
現場で測量するテックフォース(栃木県日光市芹沢地区、国交省撮影)
--建設業界に必ずしも光が当たっているとは言えない状況だが。

 「確かに建設業界にもっと光が当たるべきだと思う。当初はテックフォースを建設会社や建設コンサルタントなど建設分野全体の組織に位置付けたかったが、制度的には役所からやるしかなかった。いずれは建設分野全体の動きに広げられるよう取り組んでいきたい。そうすることで、建設分野が果たしている役割を地域の方々にきっと体感していただけるだろう」

 「冬季の除雪もほとんどを建設業界に担っていただいている。安全・安心を確保するためのインフラ整備や地方創生でも、それらの担い手は建設業界といえる。テックフォースの取り組みをきかっけに、そうした理解が広まっていくよう期待している」

 --地域の安全・安心を担う地方建設業界は厳しい経営環境に置かれている。

 「業界の方々に話を聞くと、アベノミクスの効果で一昨年と昨年は前政権とは違うという感じを持って取り組めたが、今年はどうも公共事業の発注が遅く、総量も減っていると感じられているようだ。地域によっては『今年は前年の4割減なので何とかしてほしい』といった切実な声も直接聞いている」

 「安倍政権は経済対策を最優先課題とし、新たな3本の矢も示されたが、ぜひこの中で補正予算をしっかり打っていただきたい。補正予算と言うと、すぐに『ばらまき』などと批判されるが、堤防の強化や既存インフラの老朽化対策、耐震対策などあらかじめやっておかなければならないことは多い。そもそもストック効果があるから公共投資の対象となるのであって、それが結果としてフローにも生きてくる。引き続き国土の強靱化や安全・安心につながる施策の重要性に理解を求めていきたい」。

 【あだち・としゆき】1954年兵庫県西宮市生まれ。79年京大大学院修士課程修了、建設省(現国土交通省)入省。内閣官房参事官(安全保障・危機管理担当)、近畿地方整備局企画部長、河川局河川計画課長、四国地方整備局長、中部地方整備局長、水管理・国土保全局長、技監などを経て、2014年7月退職。

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