2015年11月2日月曜日

【駆け出しのころ】前田建設取締役専務執行役員建築事業本部長・早坂善彦氏


 ◇もの造りは完成のない人間勉強◇

 就職して設計業務に携わりたかった私は、前田建設の面接に大学の卒業設計で描いた図面を20枚ほど持っていきました。そこで面接官から「受ける会社が違っているのでは」と言われたものですから、「いや、これからはゼネコンの設計部です」と啖呵を切ってしまったんです。実はこれ、大学の教授から指導されたセリフだったのですが、おそらく、この時の声の大きさと勢いを見て、「こいつは現場向きだ」と採用を決めていただいたのではと思っています。

 自衛隊での新入社員研修を終えて配属されたのは、本社に近い「白百合学園(九段)改築工事(第2期)」の現場でした。もともと現場勤務は望んだ道ではなかったのですが、わずか1、2週間で「俺にとっての天職だなぁー」と考えが変わっていました。建築現場という職場の空気、職人さんたちとの会話、仙台の大工職人の家に生まれ育った自分にはとても合っている仕事だと実感できたのです。

 ところがこの現場で、40年たった今も忘れられない経験をします。所長からシャッターゲートの前をきれいにしておくよう指示された私は、「はい、分かりました」と答えたのですが、すぐ取り掛からずに、別のことをやってから慌ててそこに向かいました。この間、15分ほどだったでしょうか。すると、既に所長が自ら掃除をされていたのです。駆け付けた私は「もうお前には頼まない!」と怒鳴られ、これには血の気が引く思いでした。現場の玄関がきれいかどうかは、皆の心構えが反映されるものです。なぜ言われたことをすぐに実行しなかったのか。かなりインパクトの強い出来事でした。この経験はその後、何が大切なのか、何を急がなければいけないのかを判断するのに大きな教訓となりました。

 現場でのもの造りは、さまざまな方々と接することでもあり、私は完成することのない人間勉強だと考えています。現場に限ったことではありませんが、ここが建設業の面白さだと感じています。それと大切なのは、何事からも逃げないことです。仕事にはトラブルが付きもので、逃げても必ず追い掛けられます。

 また、部下が相談に来るのは、何らかの迷いがあって答えを求めている時であり、こちらも真剣に答えることが必要です。絶対にやってはいけないのは、後になってその時に出した答えを自分に都合よく変えてしまうことです。それでは部下がどうしたらよいのか困ってしまいます。若い人たちは逃げず、私たちリーダーはブレない。そしてこれからもお互いに人間勉強を続けていけたらと思います。

 (はやさか・よしひこ)1975年東北工業大学工学部建築学科卒、前田建設入社。東関東支店建築部長、同支店長、執行役員関東支店長、取締役常務執行役員東京支店長、同東京建築支店長などを経て、12年4月から現職。宮城県出身、62歳。

最初に配属された現場で。
「親御さんに送って上げなさい」と先輩が撮ってくれた

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