2016年1月25日月曜日

【回転窓】故・鈴木博之氏のまなざし

建築史家の鈴木博之氏(東大名誉教授、享年68)が鬼籍に入られて間もなく2年になる。弁舌さわやかで、議論にめっぽう強く、論破された建築家・研究者は数知れない。ひとたび議論から離れると、気さくで謙虚な一面もあった▼建築史研究の成果をアカデミーという枠にとどめず、広く一般社会に発信。モダニズム建築や歴史的建造物の保存運動では主導的な役割を果たし、東京駅丸の内駅舎復元や国立近現代建築資料館(東京都文京区)創立に尽力した▼建築の賞やコンペなどの審査員も数多く務め、最後の大きな審査会は12年に行われた新国立競技場の国際デザインコンペだった▼「技術的挑戦課題も含め圧倒的に優れている」とザハ・ハディド氏の案を評したのが印象に残る。この案は建設費の増大で白紙撤回されたが、建築物が社会の財産であり、その時代の象徴であることを、国民に再認識させたのではないか▼鈴木氏が一連の騒動を予期していたとは思えないが、新たに選定された大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所JVのデザイン案にも、厳しくも温かいまなざしを向けているに違いない。

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