2016年1月6日水曜日

【観光産業を狙え!!】建設業界、事業参入に虎視眈々

 政府が推進する「地域創生」で最も期待される取り組みが、地域の資源を生かした観光振興だ。インフラ整備で人々の安全・安心な暮らしを支えてきた建設関連産業の役割も大きい。地域おこしの中核となるインフラの再生に向けた技術支援や、観光資源をより充実させるために建設系の教育機関(大学・高校など)と連携した付加価値づくり、集客のためのITを駆使したサービス事業の創出など多種多様な取り組みで地域の観光ビジネスを後押ししている。

 ◇建設コンサル、観光事業に熱視線◇

オリエンタルコンサルタンツ主催の
トレッキングツアーには多くの参加者が集まる
ビジネスの裾野を広げるため、観光振興を切り口にさまざまな事業を手掛け始めているのが大手建設コンサルタント会社だ。

最も多彩なビジネスを展開しているACKグループは、九州地方で地熱発電とハウス栽培、温泉施設を複合した新規事業や、山梨県南アルプス市で市内周遊観光事業とトレッキングツアー事業を展開中。キャンプ場など交流施設の運営参画や、福岡県うきは市で観光客の携帯端末に、市内の遺跡・旧跡、飲食店の情報やクーポンを配信する観光情報配信サービスも始めた。

 パシフィックコンサルタンツは道の駅や、地域物産・農水産物を直売する地域振興施設の運営を手掛ける。建設技術研究所は所有する電気ボート「江戸東京号」で日本橋川や神田川、隅田川を巡りながら街並みに残る江戸の雰囲気を体験する有料の「お江戸日本橋舟めぐり」ツアーを実施している。

 このほかにも観光ビジネスへの参入を検討している企業は多く、コンサルタント業務に付随し、各種のデータ収集・分析で培ったIT、機器類を駆使。ソフト面から魅力ある街づくりに協力し、ハードも充実させて産業振興と雇用創出までを手伝う。

 各社が各地の観光振興策を後押しする背景には、人口減少による税収減からインフラの維持管理・更新に予算を充てられない自治体が増えれば、自らの本業にも影響が及ぶからだ。自らが観光ビジネスに投資するという企業のトップが目立ち、自治体が観光で得た収入をインフラ投資に振り向けるよう促し、建設投資の減少分を補う新たな収益事業の確立も目指す。

 国内だけでなく、長大はインドネシア・バリ島で旅行者向けに観光情報をスマートフォンで提供する事業を開始するなど、海外でも同様の取り組みを広げる動きが顕著になってきた。

 ◇高知建設教育協議会、四国遍路のあずまや整備◇

地元建設会社の指導を受けながら高校生があずまやを作った
弘法大師空海ゆかりの88カ所の札所寺院をめぐる四国遍路。そのルート上に一休みできるあずまやを学生が設計・施工する取り組みがもう一つ始まりそうだ。県内の大学・高校・高等専門学校で構成する高知県建設系教育協議会は、地元自治体や建設会社と連携し、高知県安芸市の海岸沿いに11年にあずまやを竣工させた。設計や施工には、小学生、高校生、大学生が携わった。土佐市でもあずまやを建設する方向で検討が行われており、動向が注目される。

 四国遍路のルートは、道路をはじめインフラの整備に力が入れられている。ただ四国は台風が通過することも多いだけに、あずまやのように壊れてしまう施設が少なくない。太平洋に面した安芸市・大山岬のあずまやは05年に台風で流失してしまった。

 協議会は、建設を学ぶ学生の教育には実際の設計・施工が最も効果的と考え、学生が関与する形で安芸市と連携しながらあずまやを再建する事業に乗りだすことにした。この事業では、小学生がイメージを描き、高校生が建築図面に起こした。ただ集成材を使わなければ実現が難しい曲線アーチが含まれていたことから、大学生が地元で調達できるヒノキの線材を組み合わせた部材で再設計した。

 施工は高校生が担当し、地元建設業者が立ち会った。協議会の活動も担っている中村文香高知県立高知工業高校教諭は、「現物をデザインし、施工を体験でき、生徒の良い経験になった。地域にも貢献できた」と振り返る。

 協議会には、土佐市から新居海岸の公園内にあずまやを建てる依頼が届いており、対応を協議している。小学生、高校生、大学生がリレーしながら、ものづくりの魅力を感じてもらえ、地域に貢献したことで、市と協議会は実行を前向きに検討中。早ければ16年にも本格的に事業が始動するという。

 ◇日建連、世界遺産保存をサポート◇

15年7月、世界遺産に登録された軍艦島
(国土交通省『島の宝100景』から)
日本建設業連合会(日建連)は、昨年7月に世界文化遺産に登録された長崎市の端島炭坑(通称・軍艦島)に、コンクリート分野の専門家を派遣する方向で調整に入った。学識者からの要請を受けた措置。軍艦島は、1974年の閉山から長年放置され、護岸や建物が劣化している。長崎市は、9月に保存管理計画を策定したものの、景観との兼ね合いで補強方策の立案に頭を悩ませており、日建連の調査に期待を寄せている。

 軍艦島の護岸は、明治期に造られた石積みの遺構がコンクリートで覆われている。最盛期には約5300人が居住。中枢機能を担ったれんが造りの総合事務所や、日本最古とされるRC造高層アパート(1916年竣工、7階建て)、学校、病院、娯楽施設などが整備された。

 世界遺産登録もあって上陸ツアーが盛況だが、危険な建物が多く、立ち入り制限エリアが広い。護岸は亀裂が入り、9メートル以上の高波が打ち寄せると倒壊する危険が指摘されている。市は、保存管理計画で、遺産価値のある護岸と生産施設の保存を優先する一方、保存が困難な建物の劣化の進行を抑制する方針を打ち出した。消波ブロックの設置やコンクリート補強の案を示したが、意見を聞いた専門家委員会は景観が損なわれるために慎重に対応するよう求めた。

 軍艦島は、岸壁が島を囲い、RC造の高層建物が林立する偉容が魅力の一つ。外観が軍艦に似ていることで、「軍艦島」の通称が知れ渡ることになった。市の専門家委員会は、護岸の整備や保護のスケジュールなどに関する意見を今年3月にまとめる。日建連は、土木工事技術委員会のコンクリート技術部会のメンバーが1月に現地入りする見通し。外観を損なわず、建物を適切に保存-。専門的な見地から日建連がどういった意見を提示するか注目される。

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