2016年2月22日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設・127

建設業界でも女性の活躍の場は急速に広がりつつある
 ◇状況を変えるのは自分◇

 「なぜ女がいるんだ。おたくは女を現場に寄こすのか」。

 ゼネコンで現場支援や技術開発などを担当し、今は女性の活躍を後押しする部署の管理職に就いている大塚恵美さん(仮名)。10年以上前のことだ。トラブル対応に向かった現場で、自分を見た施主の役員がそう怒鳴り散らした。

 コンクリートの品質トラブルが発生し、急きょ派遣された現場。顧客の大切な建物を造るに当たって、品質トラブルを起こしてしまった元請の一員として責任は痛感していた。「なぜ女がいる」というような言葉を平気で口にする人間が多くないことも承知はしていた。それでも「今までの私は何だったのだろう」と思わずにはいられなかった。悔しくて、悲しかった。

 「嫌なら戻ってきていい」。いきさつを耳にした所属部門のトップが連絡をくれた。気遣ってくれているからこそ、慰めるようなことをしてくれなかった同僚もいただろう。「ほかの人には作れない資料を仕上げます」。本社にそう伝えた。悔しさが意地に変わった。「そんなことばかりやっていたんですよ」。今は笑いながら、他社の女性職員に当時のエピソードを披露する。

 身内に建設関係の技術者が多く、就職先として自然とゼネコンを選択。技術職として入社した。

 「『女が来た』と職人が逃げていった」。今と比較すれば女性の現場技術者ははるかに少なかった。職長や作業員には女性に対するアレルギーが少なからずあり、こちらが何もしなければ、言葉を交わす機会もなかった。「状況を変えるなら自分からだ」。休憩時間には彼らと一緒にたばこを吸って仕事のやり方を聞いた。次第に声を掛けてもらえるようになり、指示にも熱心に耳を傾けてくれるようになった。

 コンクリート解析の知識は誰にも負けないようにしようと、勉強に励んだ時期もある。打設の効率化に役立つ技術の開発に力を入れていた時には、生コン業者と言い争いになったこともある。互いに立場が違い、考え方も異なるのは分かっている。「仲間を増やすのが一番の近道」と考え、正面から意見を言い続けた。

 担当を離れる時、ねぎらいの場を設けてくれるような人とは思っていなかった上司から誘いを受けた。行ってみると、内緒で企画された送別会だった。楽しかった。戦い続けた生コン業者が顔をそろえ、みんなが温かく送り出してくれたことがとにかくうれしかった。

 「自分次第で状況は変えられる」。それが、仕事と向き合うに当たっての心構えとなっている。もう一つある。「他人のことは変えられない。でも、いつか時代のほうが変わる」。あの日の施主の言葉を念頭に、そう思う。女性の活躍を促す取り組みが再び活発になってきたこともあって、経験が評価され、管理職としてダイバーシティー(人材の多様化)関連の一部署を任された。

 「管理職になって部下を育てようという思いが芽生えた」。自分を育ててくれたように部下を育成しようと考える一方で、「残業になる打ち合わせはしない」「若手の相談にはどんどん乗る」と決めている。「個性を生かしてあげられるよう奮闘したい」。今はその一心で仕事と向き合う。

0 コメント :

コメントを投稿