2016年5月6日金曜日

【建築と美術のふかーい関わり】「竹中工務店400年の夢」展、世田谷美術館で開催中

会場に展示されている「薬師寺東院堂」の構造模型
◇6月19日まで世田谷美術館で◇

 竹中工務店が手掛けた建築を通じ、建築の歴史と美術との関わりを紹介する展覧会「竹中工務店400年の夢-時をきざむ建築の文化史-」が、6月19日まで東京都世田谷区の世田谷美術館で開催されている。会場には図面や模型のほか、建築物を題材にした絵画や写真、チラシやポスターなどが数多く並び、社会背景や産業構造と相互に影響を与えながら変遷を続けた建築の様子、写真や絵画など文化・芸術の発展にも影響を与える建築の姿を映し出している。

 世田谷美術館ではこれまで、「企業と美術」をテーマにした展覧会を3回にわたり開催し、文化と暮らし、社会をつなぐ企業の役割を紹介。07年の「福原信三と美術と資生堂展」を皮切りに、13年に「暮らしと美術と高島屋展」、15年に「東宝スタジオ展」と、企業活動により生み出された産物が、どのような社会的背景の中で、どのように人々の生活や社会に影響を与えてきたかを浮かび上がらせてきた。
竹中工務店の展覧会は、この「企業と美術」シリーズの第4弾。同社が400年以上に及ぶ歴史の中で携わってきた数多くの事業の中から、300のプロジェクトをピックアップしている。

 展示室内は、プロジェクトの目的、用途などによって八つのカテゴリーに分類し、各プロジェクトにまつわる模型や図面、パネルなどを展示。人々の暮らしに不可欠な衣食住に深く関係するさまざまな施設を作り上げてきた建築が、時代の変遷とともに形を変えながらも、人々の暮らしや社会、芸術・文化にも多くの影響を与えている姿を映し出している。
展示室に入り、観覧者を最初に出迎える「はじまりのかたち」では、ひときわ目を引く薬師寺東院堂屋根構造の縮尺2分の1の模型を中心に、大工棟梁時代の建築作品に関する歴史資料や数多くの大工道具を展示。織田家の普請奉行、寺社の造営に始まる竹中工務店の成り立ちと、そこから生まれた設計施工を一体と捉える「棟梁精神」、今も脈々と続く高い建築デザイン性とそこに込められたものづくりに対する美意識を紹介している。

 ◇建築と文化・芸術の関わり紹介◇

 先へ進むと、人々の記憶や思い出を作る劇場やホテル、商業施設などに焦点を当てた「出会いのかたち」、明治以降急速に進んだ社会構造や労働形態の変化に応じて形を変えたオフィスビルなどを取り上げる「はたらくかたち」をテーマにした展示が続く。「夢を追うかたち」では、人類が夢の実現に挑戦するパイオニア精神に焦点を当て、東京タワーや南極観測用施設、東京ドームなど時代を先導した建築物群を紹介している。

 「暮らしのかたち」は都市化の中で生まれた多様な形態の集合住宅をはじめとした生活拠点、「感性を育むかたち」は学校や美術館、博物館など感性を創造する場としての建築にスポットを当てる。「時を紡ぐかたち」では保存、修復、復元をテーマに和の伝統的な建築文化の継承に焦点を当て、「これからのかたち」では重なり合う布に映し出された映像と音楽を通じ、目に見えない環境とつながる未来の建築のあり方を思考する場を提供している。
会場に並ぶ展示品は約1000点。図面や模型だけではなく、竹中工務店が設計・施工した大阪市の堂島ビルヂングから堂島川下流方向の街並みを描いた小出楢重作の「街景」、当時の日本では実績が少なかったSRC造の大坂朝日新聞社社屋が描かれた佐伯祐三作の「肥後橋風景」などの絵画や、昭和初期に観光立国政策の一環として外国人客誘致のために建設された雲仙観光ホテル(長崎県雲仙市)の写真など、美術館主催の展覧会らしく、建築物を題材とした美術品も数多く並ぶ。

 展示品は、竹中工務店所蔵のものばかりではなく、それぞれの建築物の施主や個人の所有で普段は目にする機会が少ないものも多い。同社の歴史だけではなく、それらの芸術作品を通じ、各建築物が竣工した時代の気配、時代背景と共に歩んできた建築の変遷も知る貴重な機会となっている。

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