2016年6月20日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・141

決算説明会の成果が株価に影響することも…

 ◇置かれた場所でベストを尽くす◇

 過去最高益を更新するなど16年3月期は好決算が相次いだゼネコン。東日本大震災の復興事業に加え、2020年東京五輪に向けたインフラ整備やリニア中央新幹線など大規模プロジェクトも本格化し始め、投資家からのまなざしも熱い。

 中堅ゼネコンに勤務する上田次郎さん(仮名)は、経営企画部で中長期的な経営計画や事業戦略の立案、アナリスト対応などを任されている。会社は3期連続の増収増益を達成。営業利益は創業以来最高となった。東京都内で5月下旬に開いた16年3月期の決算説明会には例年を上回る参加者があり、手応えを感じた。

 今年で入社25年目。左官職人の父に憧れて大学で建築学を専攻。幼いころは仕事をしている父について、現場によく連れていってもらったという。「父と同じものづくりに関わる仕事に就きたい」。就職活動中に研究室の先生の紹介もあって今の会社に入社。念願かなって設計部に配属された。

 入社が決まった時は父も喜んでくれた。ただ、バブル崩壊後の不況で会社は経営不振が続き、建築部門の縮小を決定。入社後1年もたたずに設計部から総務部に異動になった。与えられた仕事は、2000年になるとコンピューターが誤作動する可能性があるとされた「2000年問題」への対応だった。

 すべてが初めての経験だった。図面に向かうのではなく、パソコンとにらめっこする毎日。もともと悪かった視力がさらに低下し、度のきつい眼鏡を掛けるようになった。「ここは自分の能力を発揮できる場所ではない」。転職を考えたことも一度や二度ではない。「この仕事が終われば呼び戻す」。異動前に設計部の上司が言ってくれたその言葉を信じて踏みとどまった。

 考え得るあらゆる可能性をつぶし、システムの再点検など万全の態勢で2000年を迎えた。おかげでトラブルの発生は最小限で済んだ。だが、いつまでたっても設計部から声は掛からなかった。「だまされたとは思わなかった。自分のやりたいことじゃない、と立ち去るのは簡単だ。もう少し頑張ってみよう」。そう考えるようになった。

 経営企画部は、誰かが作ったマニュアルがある部署ではない。東京五輪後を見据え、本業の強化と同時に、海外事業や新規事業など収益源の多様化も模索する。業績が上向いた今だからこそ、次の布石が必要だと感じている。社内では誰も経験したことのない施策を考える仕事にやりがいを感じている。半面、会社の経営と直結する部署としてプレッシャーも大きい。

 新しい事業を展開するためにも人材の確保が欠かせない。採用担当の同僚から相談を受けることも少なくない。「新入社員が『自分がやりたいことではなかった』と言って辞めていく」と嘆く同僚には、「サラリーマンをやっていれば思い通りにならないことばかり。給料をもらった上に面白おかしく働こうというのがそもそも虫の良すぎる話」と突き返す。

 「望んだ部署ではないから」「仕事がつまらない」と言い訳ばかり探していた時代が自分にもあった。それも含めて自分の人生。そう割り切るすべをこの25年の間に身に付けた。今いる場所でベストを尽くす。その積み重ねが今の自分を形成していると思っている。

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