2016年7月19日火曜日

【記者手帖】見たこと聞いたこと忘れずに

高速道路は路面に段差ができ、橋桁の継ぎ目に大きな隙間が空いていた。炎天下、縦に1列だけ残った城の石垣が辛うじて櫓(やぐら)を支えていた。上層階がつぶれた市庁舎の割れた窓に垂れ下がるブラインドが風に揺れていた◆タクシーは橋に差し掛かるたびに減速し、通過すると尻に衝撃が伝わる。夜の駅前は周囲に建つホテルの明かりが消え、音も少なかった。普段は進入禁止のはずの小学校のグラウンドが自家用車でいっぱいになっていた。営業を再開したばかりの飲食店のガスホースが備え付けられたテーブルに座り、カセットコンロで馬肉を焼いた◆自身も被災しながら道路や堤防で黙々と応急復旧工事に従事する人たちが頼もしく見えた。被災した住宅地でカメラを向けた家の隣家から家族らしい話し声が聞こえ、それが思いのほか明るく、シャッターを押すのをためらった◆熊本地震の取材で会った人たちを分けるため、新しい名刺ホルダーを買った。復旧・復興にどれだけの期間がかかるか分からないが、見たこと、聞いたこと、感じたことを忘れずにいたい。(松)

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