2016年8月31日水曜日

【語り継ぐ土木の心】立命館大学教授(工学博士)・建山和由氏

 ◇本来ある独創性取り戻せ◇

 --土木に対するイメージをどう捉えている。

 「一般の人は、建築に比べるとあまり良いイメージを持っていないのではないか。高校生の進路志望を見ても、土木と建築を比べたら建築志望が圧倒的に多い。その大きな原因の一つに、『創造性』に関するイメージの違いがあると思う」

 「人と環境が調和できる場を作るのが土木の役割。自然を相手に、どのような環境、条件下でも、その環境や条件に適したものを自分なりに見つけて構造物を造っていくことを考えれば、土木も建築に劣らずもともと極めて独創的な仕事だといえる。現場に正面から向き合い、最高の仕事をするために創造性を最大限発揮するのが土木の本来の姿だとすれば、今はその独創性が見えにくくなってしまっているということだろう」

 --原因はどこにあるのか。

 「土木はかつて、自然を相手にさまざまな工夫を凝らして構造物を造ってきた。しかし時代が進むにつれ、インフラを効率よく造るニーズが次第に高まってきた。これに対応して設計方法が体系化され、基準やマニュアルを基調とする一律管理の方法が確立された。一律管理が進むと、発注者側の担当者も現場に出ることなく、事務所で数値を確認して管理するようになる。一律管理の下で現場の工夫の余地は狭まり、創造的な側面が薄れた。それが現在の土木のイメージにつながっているのではないか」

 --独創性を生み出す条件は。

 「高度成長期は夢があった。大規模なプロジェクトに予算が付き、新しいことに挑戦する活気もあった。多くの建設会社が新しい技術の開発に乗りだし、他社とは違うことをやろうとした。いわば独創性を競い合うような雰囲気があった。その後バブルがはじけ、景気が悪くなると、予算も投資も減り、市場が縮小してチャレンジを生む活気も失われた。土木が独創的でなくなったのは、市場の縮小も一因だといえるだろう」

 --大規模な土木のプロジェクトはかつてに比べると随分減っている。

 「建設会社は売上高の0・4%程度しか研究開発に投資していないのに、製薬会社は1~3割、電機や自動車メーカーも約4%を研究開発に充てている。そんな企業の開発担当者から以前、『土木の方がすごい。世界一長いトンネルや橋梁を造る技術を生み出す土木という業界をわれわれは畏敬の念を持って見ている』と言われ、驚いたことがある」

 「特定のテーマを決めて研究予算を投じるのではなく、実際のプロジェクトの課題や問題を解決するための工夫を、そのプロジェクトの中で行い、技術開発を積み重ねる。それが土木流のやり方だ。現場での創意工夫が土木技術を支えているともいえる。中小規模の工事でも、独創的な技術開発を誘発するような仕組みや雰囲気があってほしい。技術は使い続けるだけでは陳腐化してしまう」

 --次代の土木を担う若者に何を期待する。

 「土木は『総合工学』だ。例えば、建設機械がないと工事はできない。ICT(情報通信技術)や環境、生態系などの知見もどんどん取り込みながら、土木は進化していくべきだ。固定的な考えを持つのではなく、広い視野で他分野の知識や情報を土木の中に生かしていくようなことを考えてほしい」

 「土木自体を変えるような話もしてもらいたい。不思議と、景気が悪くなるとそういったことを考えなくなってしまう。新しい発想が生まれなくなるが、本来は逆だ。閉そく感を打破するような新しいアイデアを若者には期待している」。

(たてやま・かずよし)

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