2016年9月29日木曜日

【語り継ぐ土木の心】宮坂建設工業社長・宮坂寿文氏

 ◇市民の近くで役割果たそう◇

 --「土木」をどう定義している。

 「土木は英語では『シビル・エンジニアリング』という。土木はシビル、つまり市民のためにある。日本の建設会社の多くが江戸時代の火消しを発祥としているのを見ても、土木は市民に近いものだといえるだろう。産業活動や、人間が生活する上での基本的な基盤を造る仕事、それが土木だ」

 --最近、土木にはかつてのような元気がないともいわれる。

 「確かに、若い技術者を見ても、建築に比べると土木は元気がない。一つには、昔と違って世間の目を引く大規模な土木プロジェクトが少なくなってきていることが影響しているだろう。昔は国の将来を憂え、大志を抱いて土木の世界に入ってくる人が多かった」

 「残念なことに、土木は受・発注者とも自分たちの功績をPRしなかったことも大きい。公共事業をめぐる不祥事が起きて世間から糾弾されると、サイレントマジョリティー(静かな多数派)になり、何をやっているのか世間から理解されにくい存在になってしまった」

 --もっと自信を持つことも必要では。

 「他産業は土木業界の動向を注視しており、もっと見直されてもよい。建設業者は、社会資本の整備や維持管理に加え、いったん災害が起きれば、当たり前のように復旧活動に従事する。そうした建設業者の役割に対しては国民の期待も大きいはずで、受・発注者とももっと胸を張り、自信を持つべきではないか」

 --土木技術者はどうあるべきか。

 「土木技術者はブルーカラーとホワイトカラーの中間的存在といえる。建設現場で働くのも土木技術者だし、計画を立てるのも土木技術者だ。土木の会社に入ったら、ある程度の年齢までは皆、現場に出るべきだろう」

 --これから土木が取り組むべき仕事は。

 「人々が生活する場所を安全にし、災害から生命や財産を守らなければならない。地震や津波、水害などの災害に強い街を造るプロジェクトがまずは重要だ。仮に、4年後の東京五輪開催中に大地震が東京を襲い、大きな被害が出たら世界に恥をさらすことになる。そうならないよう、今こそ防災対策を強力に進めるべきだ」

 「環境問題への対応も重要だ。今、手入れのされない山林が全国的に増えている。木を適切に伐採しながら山を健全に育てていくことは極めて大切な仕事だ。そうした山を育てる土木技術をこれからも継承していかなければならない。木を増やして山の保水力を高め、ダムを造って水力発電をする。水力発電はクリーンなエネルギーでもある。建設業はエネルギー産業の一角を担っているともいえるだろう」

 --建設業の課題は。

 「いくら夢のある仕事だと言っても、就業環境がしっかりしていなければ若者は入ってこないだろう。雇用や就業形態を他産業と見劣りしないよう整える必要がある」
 「公共事業では近年、PFIやコンセッション(公共施設等運営権)方式といった民間のノウハウを生かす手法が拡大している。建設業もこうした新しい手法に率先して取り組むようでなければならない」

 --次代を担う若者に期待することは。

 「私が住む北海道には農業もあるし、今後は観光にももっと力を入れなければならない。河川、道路の防災事業をはじめ、空港、港湾、道路など交通基盤整備はまだまだ不十分だ。国内外から多くの観光客に来てもらうために、誰もが自由に移動できる街に造り替えることも必要だ。人に優しい施設を造るのは土木の大事な役割でもある。社会基盤をもう一度造り直すぐらいの気構えを持って土木の道を志してほしい」。

 (みやさか・としふみ)

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