2016年10月4日火曜日

【語り継ぐ土木の心】笹島建設大桐作業所所長・山本淳二氏

◇人と人の信頼関係が原動力に◇

 --土木の役割とは。

 「自分や家族を守る基礎的な環境整備を担うのが土木。外敵や災害などによって人命や財産などが奪われないようにするための仕事といっていい。文明の発展に伴って土木の役割も拡大し、今や地球規模の課題にも対応する。スケールの大変大きな構造物を造る仕事でもあり、その構造物は個人のためというのではなく、公を対象にしたものだ。完成すればたくさんの人が使うから、安全で使いやすい構造物にしなければならない。まさに男性の仕事だと思う」

 --最近は建設現場で働く女性も増えている。

 「私が携わるトンネル工事には、女性はまず入ってこない。山の女神が嫉妬するから入坑を拒むなどと言われるが、そうではなく、トンネル工事の現場は大変危険だし、汚い工程も多い。私自身は、女性にはさせたくないという気持ちが強い」

 --土木技術者にとって大事なことは。

 「土木の仕事は自然が相手だ。刻々と変化する現場の天候や地山の状況を常に把握し、常に正しい判断をスピーディーに行うことだ。最近はICT(情報通信技術)の進展によって、操作や監視など遠隔地からできる作業も増えている。それ自体は喜ばしいことだが、限られた一部の状況把握ができるに過ぎない。全体を見て総合的に判断することが大事だ」

 「人間関係づくりも土木技術者の役割として重要な要素だ。現場の仕事をすべて社内の直用者で賄うのは不可能。時には外注業者の手を借りることも多い。土木技術者は仲間や外注業者などと良好な人間関係を構築できなければ駄目だ」

 --笹島建設は卓越したトンネル専門工事会社として知られている。

 「これまでさまざまな現場を経験して良い人間関係が構築でき、それが積み重なって現在に至っている。ここの現場(北陸新幹線新北陸トンネル大桐工区)にも、これまで培ってきた人間関係で優秀な人材をそろえることができ、最高のメンバーと仕事ができている。規模の大きな現場だが、安心して仕事に従事できるのは、信頼できる彼らの存在のおかげだ」

 「危険な場所で仕事をするのだから、働きやすい環境をつくるのは当たり前。それが信頼関係の構築にもつながる。うそをついたり適当にやったりせず、決めたことはきちんと守る。この繰り返しだと思う」

 --業界への若い入職者が減っている。

 「ここの現場では息子2人と一緒に働いている。転勤の繰り返しだったので、親子が日々顔を合わせる生活がようやく実現できたともいえる。かつては親の職業を継ぐ形で入職する人が多かったが、最近、建設業は子どもにはさせたくない職業になっているという。自分と同じ苦労を子どもには経験させたくないのだろう。この業界が若者に魅力がないのは処遇に問題があるからだ。そこを改善しない限り、若者は入ってこない」

 「一般的な会社員なら、忙しい仕事が集中しても短期間で終わる。建設現場は着工から竣工まで長期間拘束され、気の休まることがない。これでは給与水準を高めても若い人は魅力を感じないだろう。交代で休めるような環境をわれわれの世代が構築しなければならない。ものづくりの魅力より、まずは働く者の生活の基盤を整えること。処遇の改善は急務だ。日本の基礎を構築する土木には今後も優秀な人材が欠かせない。優秀な若者に入ってきてもらい、仲良く仕事をしていきたい」。

 (やまもと・じゅんじ)

1 件のコメント :

  1. 「私自身は、女性にはさせたくないという気持ちが強い」
    正しいことも言えないおかしな世論の中、正論をはっきり言い切っていただいて小気味よかったです!

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