2016年10月18日火曜日

【稼ぐ力の向上を】佐々木基内閣府地方創生推進事務局長に聞く/今後の建設業の役割は

 ◇地方創生は地域総力戦、交付金でハード対策重点支援◇

 政府が最優先課題の一つに位置付ける地方創生。人口の東京一極集中を是正し、地方の人口減少や超高齢化に歯止めを掛けようと、安倍政権が提唱してから今年9月で2年を経過した。これまで公共事業に頼りがちだった地場の建設業は異業種に参入するなどの新たな展開を見せている。施策を担当する国土交通省出身の佐々木基内閣府地方創生推進事務局長に、地方創生に向けた建設業の役割や貢献のあり方などを聞いた。

 --この2年の成果と課題をどう見る。

 「14年に制定されたまち・ひと・しごと創生法に基づき、地方自治体には地方人口ビジョンや地域全体の意識を考慮した地方版総合戦略を策定してもらってきた。多くの自治体が危機意識を持ったのではないか。何か手を打たなければまちが消滅するかもしれないというところまで真剣に考える自治体が増えたのは、大きな転換点だったと思う」

 「地方創生を政府の最優先課題として掲げたのは、人口の減少や高齢化といった構造的な問題に対応するためだ。1~2年程度で解決できるような問題ではなく、かなり長期的な視野で取り組んでいく必要がある。官民や業種の枠を超えて一丸となって対応していかないといけない」

 --地方創生に成功している地域とそうでない地域は何が違う。

 「第一に首長の意識が決定的な差を生んでいると思う。首長に意識がなければ地域やまちとしての方向性が定まらない。国が首長の意識まで変えることは難しいが、地方創生に意欲的な自治体を財政・人材・情報面で重点的に支援する。一律的な予算のバラマキをするつもりはない」

 --16年度第2次補正予算で地方創生拠点整備交付金(900億円)の使途をハード対策に限定した。狙いは。

 「(16年度当初予算で創設した)交付金の使途はソフト対策に重点化した。地方創生の初期段階では施策などを企画立案するための調査や合意形成などにコストがかかることも踏まえたものだ。ただ、ここに来て地方創生の実行段階に移行する自治体も増え、交付金をハード対策に使いたいとの要望がかなり多くなってきた」

 「例えば、1次産業の農業は地方創生と連動し、生産に加え加工・流通まで一貫して手掛ける『6次産業化』の動きが出始めているが、これに関係する施設を造りたいとの要望も多い。自治体はこうした施設をかなり前から整備したかったようだが、十分な予算を確保できずに着手できなかった計画も多いようだ。これは補正予算によるものなので、できる限り早く支援して具体化してもらいたい」

 --地方創生をけん引する人材の確保・育成も必要ではないか。

 「地方創生を企画立案して実行に移すには、その地域の外部や若い人材の発想や原動力と、これを受け入れる地域の懐の深さが不可欠だ。例えば、企業活動にしても、東京には多数の企業があり、世界中で活躍してきた人材も豊富にいる。政府として、そうした人材を各地域にマネジャーのような立場で派遣し、地元の企業とのビジネスマッチングを支援するような取り組みも行っている。そうしたことを自発的に行っている自治体は地方創生に成功しているケースが多いように感じる」

 --建設業に期待する役割は。

 「地方創生は産学官に加え、金(金融機関)・労(労働組合)・言(言論界)も含めた地域の総力戦だ。中でも建設業は地域で最も有力な産業で地元の金融機関との関係性も強い。そして底力がある。建設機械を保有・運転して工事を行う従来の役割に加え、地域全体で新しい事業を行う時に知恵を出してもらう役割にも期待する。業界の若手にはそうした活動を一生懸命やられている方々が多いようだし、引退したゼネコンなどのOBにも若い時に赴任した地方で経験を生かしたいと思われている方々が多いと聞く。こうした人材を積極的に受け入れて生かす環境を自治体が構築できれば、人が人を次々と呼び込めるような良い連鎖反応を生み出せるのではないか」

 --建設業が主体となって地方創生に貢献している事例は。

 「例えば、公共事業が頭打ちになっている離島の島根県海士町では、地場の建設業者が農業(畜産業)を営む会社を設立し、地元産の隠岐牛のブランド化を目指して生産から販売まで一貫して手掛けている。これまでに一定の出荷実績を残し、都市部からの移住者を含めた新規雇用の創出にも一役買っている。かつて聞かれた単なる異業種進出とは異なり、地方創生におけるこうした事例を聞くと、建設業の将来には非常に期待を持てると感じる」

 --地方創生と連動して建設業を強くしようとする職人育成のような動きをどう評価する。

 「まったく正しいことだと思う。建設業を含め地域産業全般の労働生産性を高めることが、地域全体の『稼ぐ力』を上げていくのに必要だ。そうしないと肝心の人材が地方に集まってこない。その一つとして、父親の家事の時間が長いほど2人以上の子どもを育てている家庭が多いことからも、週休2日の定着は不可欠だと思う。国交省が推進している建設現場の生産性向上策『i-Construction』に対応する動きが、大企業に限らず、地場の建設会社にまで広がっていくことを期待している」。

0 コメント :

コメントを投稿