2016年12月7日水曜日

【現場を担う-鉄筋×左官】竹中工務店シニアマイスター、最前線で現場を支える

 担い手の確保・育成が大きな課題となっている中で、現場を率いる職長の存在にあらためて注目が集まっている。品質と作業の安全を守りつつ、効率的に施工を進める上で、最前線でのリーダーシップが非常に大きな意味を持つからだ。竹中工務店では、優良職長制度を設け、優れた人材に光を当てている。その最上位である「シニアマイスター」の2人に、仕事に向かう姿勢を聞いた。

 福岡鉄筋工業(福岡市)の鉄筋工・洲澤隼人氏(33)は今年2月、全国最年少でシニアマイスターに選ばれた。初めて職長を任されたのは21歳の時。「負けん気だけは負けない」。そうした気概で仕事に励んできた。今は福岡市内の建築現場で働く。洲澤氏と仕事をしてきた竹中工務店の冷川則文所長は「若くて実力があり、安心感がある魅力的な職長」と評する。

 だが、本人は実力不足を痛感する場面もある。「周りにはすごい人がたくさんいる。自分の見通しが甘くて付いていけないことがある。その時は申し訳なくて…」とも。「今は楽しさよりも難しさの方が強い。品質を任されている人間として日々勉強しなければいけない」。

 躯体工事は、大工、とび、鉄筋工という全体の連携が勝負となる。「『自分が自分が』では現場は止まる」との思いも強い。他職の仕事も勉強し、現場では積極的に声を掛ける。

 大きな現場では50人ほどの職人を率いた。そうなると、作業箇所ごとに分かれて仕事を進めることになる。任せる相手を各チームに1人ずつ選び、信頼して仕事を託す。「自分には、お願いすることしかできない」。その謙虚さが基本姿勢だ。

 だが、品質に不安がある時には、ためらうことなく厳しい言葉を発する。それができなければ、職長としての存在意義はないと思っている。

 若手への接し方も同様だ。最初の1年半程度は厳しく指導する。「最初に優しくすると、それが当たり前になり、だらだらと仕事をされてしまう。それではプロとして駄目」。その代わり、一人前になると対等に付き合う。年齢など関係ない。

 「自分でこうだと決めて突っ走れば、やればやるだけ自分に返ってくる」。それが職人の仕事だ。自宅に帰れば3人娘の父親。子どもの成長が何よりの楽しみだからこそ、将来のためにまだまだ走り続ける。

 昨年4月に創設された竹中工務店のシニアマイスター制度。村井業務店(東京都港区)の左官工・岡島信孝氏(52)は、全国で21人選ばれた第1号認定者のうちの一人だ。

 中学を卒業後、左官職人だった父に弟子入りした。自分の身内ということもあったのだろう、師匠の指導は、岡島さんが毎日のように辞めたいと思うほど厳しかった。それでも周りの仲間の支えと「この道を極めよう」という強い意志で37年間、職人の道をいちずに歩んできた。

 20年来、いくつもの現場で苦楽を共にしてきた竹中工務店東京本店の伊津圭一東京西地区FMセンター所長は「職域を超えて皆に声を掛けられる存在。現場を回っていると、いろんな職人さんから『きょうはノブさん来てるの?』と声を掛けられる」という。多様な職種の連携が不可欠になる現場では、貴重な存在だ。

 仕事をする上でのモットーは「絶対に手を抜かないこと。お客さまに満足してもらえるよう、その日その日に目いっぱいの力を出す」と仕事に妥協は許さない。伊津所長も「真面目で一生懸命な性格が出来栄えに現れ、周りに評価されている」と仕事に対する姿勢を認める。

その考えの根底にあるのは周りへの感謝の気持ち。「作業は一人で行うことが多いが、現場の多くの人の連携がなければ成り立たない。今の自分があるのは社長や所長、そして仲間たちの支えのおかげ。自分の仕事で会社や現場の名前に傷を付けることはできない」。そうした思いが仕事への厳しさと、周囲への配慮につながっている。

 「同じ作業でも現場の状況が違えばやり方も変わる。毎日が勉強できることが左官職人の一番の魅力」とさらなる高みを目指し、きょうも現場で学び続けている。

 《竹中工務店シニアマイスターの概要》

 竹中工務店が12年に導入した「竹中優良職長制度」の中で最高位の称号。同社の作業所で1年間に150日以上勤務するなどの条件をクリアして「マイスター」に認定された職長の中から、3年間にわたり同社の現場で年間150日以上働き、本・支店の審査・選考と本社の承認によって顕著な功績が認められた職長に与えられる。作業日数に応じて1日当たり1000~4000円の報奨金を受けられる。16年度当初までに41人が認定されている。

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