2017年3月6日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・161

前例踏襲が通用しない仕事もある
◇最前線でシビアな「現実」体感◇

 政府が最優先課題として取り組む東日本大震災からの復興加速。2020年度までの5年間を「復興・創生期間」と位置付け、被災地の自立と地方創生の先導モデルになるような復興の実現を目標に、各地で住宅再建やまちづくりが進む。そうした中で今、大きな課題になっているのが、福島第1原発事故の影響で遅れている福島の復興だ。

 東京・霞が関の中央官庁で働く大川隆介さん(仮名)はこの3年間、ピーク時はほぼ毎週のように福島第1原発周辺の自治体や住民の集会所、国の出先事務所などに足を運んできた。現地では、原発事故で飛散した放射性物質の除染作業が最優先課題として進められてきた。出張の目的は、住民への説明や除染作業の進ちょく状況の確認だ。

 現地へ向かう鉄道の車中、窓外に広がる田園風景を眺めながら、目的の駅が近づくにつれ、「何かトラブルでも起きて東京に引き返せればいいのに」と思ってしまうことがある。

 この3年間、現地で住民説明を行うたびに、住民から怒鳴られたり、罵声を浴びせられたりする繰り返しだった。自身には直接の責任がない原発立地の経緯を問いただされたことや、国の官僚というだけで悪者扱いされたこともある。

 立ち入り制限で避難先から自宅に帰ることもできず、膨大な除染廃棄物が庭や沿道に仮置きされた住民の心中を察すると、それも仕方のないことだと思う。「我慢、我慢、我慢…。何があっても丁寧に」。心の中で何度もこの言葉をつぶやきながら、こみ上げてくる複雑な思いを胸の奥にしまい込んできた。

 今の仕事にはプライドを持っている。ただ、出張は土日に行くことも多く、「妻と5歳の娘に申し訳ない」と思う。家族と休日を過ごす時間をつぶすのはつらいが、「家族には心配をかけたくないので、住民説明の様子はなるべく話さないようにしてきた」。

 11日で東日本大震災の発生から6年。放射線量が比較的低い居住地で行ってきた除染は今月でほぼ完了。17年度からは、これまで放射線量が高く手付かずだった原発近くの

 「帰還困難区域」の除染が本格的に始まる。「帰還困難区域の除染は当分続くし、除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設の建設はこれから。中間貯蔵施設の用地買収交渉は本当に難しく大変だろう」。

 この3年間の仕事は、役所仕事の基本ともいえる「前例踏襲」が通用しない世界だった。見方を変えれば、そんな現場の最前線に身を置けたのは役人として幸運だったとも思う。「霞が関の庁舎にいるだけでは分からないシビアな『現実』を体感できたから」。

 霞が関は間もなく春の定期人事異動を迎える。今後も福島の復興に携わる部署に配属されるかどうかは分からないが、「どんな部署でも3年間の経験が必ず良い方向に生かせる」と考えている。

 「定年退職したら、復興した福島をのんびりと旅行したい」。そんな思いも抱きながら、きょうも福島へと足を運ぶ。

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