2017年5月15日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・167

現場に足を運び、働く人に直接話を聞くことが原点
 ◇現場と同じ目線、これからも◇

 国の各省庁がある東京・霞が関の官庁街。それぞれの役所に課せられたミッションがある。その中にあって国土交通省は、霞が関を拠点にしながら、地方整備局、地方運輸局をはじめとする全国の出先機関を合わせて総勢6万人もの職員を抱えている。自ら各種インフラの整備を担い、災害時には現地に駆け付けて活躍する。そんな組織の強みは「現場力」と表現されることも多い。

 省内で中堅世代に差し掛かってきた天野晶子さん(仮名)。小さいころから親に「人のためになる仕事をするようになりなさい」と言われて育った。国立大の法学部に学んだ身にとっては、公務員は一つの選択肢となっていた。就職先を決める際に官庁訪問を行い、各省の担当者に話を聞いた。そうした中で国交省の仕事は「道路でも港湾でも成果が目に見える」と魅力的に映った。陸海空のすべてをフィールドにする幅の広さもある。国民にも関心を持ってもらえそうだ。好奇心も人一倍強かっただけに、全国に現場を持つ仕事に興味が湧いた。

 国交省への就職が内定し、卒業にもめどが立った頃、道路工事の警備員のアルバイトに就いた。それまでのアルバイトを辞め、あえてその仕事を選んだのは、少しでも現場の感覚を養っておきたいと思ったからだという。「現場の人とコミュニケーションがしっかり取れないようでは、仕事が回らないと考えた」。

 アルバイト先では、資材を運ぶトラックの運転手の人たちなどに積極的に話し掛けた。最初は「誰?」と不思議そうな顔で見られたが、慣れてくると次第に打ち解け、いろいろな話を聞くことができるようになった。

 この時の体験は以後、公務員生活を送る上での礎となった。「現場で働く人たちや国民がどういう考えを持っているか。同じ目線でそれを捉えることができる公務員になろうと決心した」。

 国交省に入省してから、さまざまな仕事を手掛けることができた。航空交渉、トラック、省全体の政策の取りまとめ、土地問題…。どんな仕事であっても現場感覚を重視してきた。「自分が担当する政策が所管する業界や国民生活にどう役に立っているのか。それが分からないと机上の空論になってしまう」。だから、どんな政策を遂行する上でも、関係する業界の人たちの話を聞きに行くことを怠らないようにしている。

 自動車や建設産業など、国交省が所管する業界では将来の人手不足が大きな問題になっている。「現場で働く人たちは、普段は目立たない存在だが、確実に日本経済を支えている」と思う。「そんな人たちが正当に評価され、光が当たるような世の中にしていきたい」と考えている。

 あの警備員のアルバイト経験がやはり原点だ。現場に足を運び、働く人たちに直接話を聞く。それを基に、政策として何をすべきかを見定める。公務員として、そんな姿勢をこれからも持ち続けたいと思っている。

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