2017年5月12日金曜日

【今後の運営方針は】芝浦工大・堀越英嗣建築学部長に聞く


 ◇時代の要求に応える人材育てる◇

 創立90周年を機に、三つの建築系学科を集約し、「建築学部」を創設した芝浦工業大学。4月からは東京ベイエリアの豊洲キャンパスに第1期生を迎え、同一キャンパスで4年を過ごす一貫教育に乗りだした。初代の建築学部長に就いた堀越英嗣教授は「利用者の視点で課題を見付け、多様な要求に応えられる力を身に付けた学生を育てたい」と語り、「先輩、後輩が刺激を与え合い、自ら考え、行動を起こしてほしい」と期待を込める。

 --建築学部が誕生した。

 「従来は工学部に建築学科と建築工学科、システム理工学部に環境システム学科、デザイン工学部にデザイン工学科の四つの建築系学科が存在した。環境システム学科は大宮キャンパスで4年間の一貫教育を実施してきたが、建築、建築工学、デザイン工学の3学科は1~2年が大宮キャンパス、3年から豊洲キャンパスで学ぶ形になっていた。学生は先輩の卒業研究を手伝いながら、後ろ姿を見て育つ。キャンパスが分かれていると、こうした関わりが薄くなる。新しい時代の建築教育に向けてコンパクトに連携した教育をしようと3学科の一本化が決まった」

 --豊洲キャンパスに機能を集約した。

 「豊洲の周辺は多くの開発計画があり、これから2020年東京五輪の競技施設も建設される。門前仲町や月島などの下町、銀座などの古くからの繁華街が身近にあり、地域と建築の関係、古い街並みと新しい街並みとの共存という『これからの都市の暮らし』を考えるきっかけとなる地域でもあり、気付きを増やせる場所だ」

 「キャンパス内にガラス張りの新製図室『アーキテクチャープラザ』を新設した。学生には地面に近いところで外を歩く人の姿や緑の木々などの街を見ながら、図面を描く前にじっくりと考える大切さを学んでほしい。建築とは社会と切り離された存在ではなく、利用者の視点でモノを捉え直すことが求められる。利用者の多様な要求に応えられる力を身に付けてもらいたい」

 --他校の教育とどう差別化を図る。

 「1~2年は教養課程を学び、3年から専門課程に移るのが原則だが、専門に目覚め、改めて教養課程を学ぶ必要性を感じることも多い。専門課程の履修を前倒しで行い、気付きの中で学生がいつでも教養課程を学び直せるカリキュラムを編成した。学生が自ら興味を持ち、自主的に多様な学び方ができる仕組みをつくった。他学部の学生との交流も増え、刺激を受ける。これも多くの学生がいる豊洲だからできることだ」

 「社会に出て、問題に向き合うと人は考える。建築設計業務の発注ではプロポーザル方式の採用が増えている。アイデアを出せて、現場にも臨め、努力を惜しまない人材が企業から求められている。PBL(課題解決型学習)に力を入れる。何かを与えたらやり遂げる能力を持つ人材を育成したい。多彩な専門分野の教員が集まり、それぞれの分野で深い研究を行っている人が多い。専門分野で『生きた教科書』となる先生がいることは重要で、それによって学生の学びの選択肢も増える。芝浦工大の売りの一つにしたい」

 --グローバル人材の育成も重要になる。

 「世界レベルの教育研究を行う国の『スーパーグローバル大学創成支援事業』の採択校になり、多様な国から留学生を積極的に受け入れている。素材を把握し、構造計算もできるオールラウンドプレーヤーを育成するのが日本の建築教育の強みだ。三つのコースのうち、APコースは多様な価値観と国際的な知見で社会の課題を解決する建築技術者を養成する。ものをまとめるという意味の『アーキ』と技術を意味する『テクチャー』が融合してアーキテクチャーだ。日本の建築士は災害時にも一人の技術者として皆をまとめ上げ、問題を解決できる能力がある。こうした教育方法はアジア各国のニーズに合う。トータルで考えることができる人間をつくる」

 --時代に合った教育も求められる。

 「建築に対するニーズは時代によって変わっていく。エネルギー政策は転換点にあり、人口も減少する。この10年は特に変わるだろう。高度経済成長期にはモノを作ることが優先されたが、今は作られたモノをどう更新するかが問われる。これからは作り手の時代から使い手の時代になる。作る段階で使い方のサイクルを考える教育が必要になる。今のうちから技術を磨かなければならない」

 「使い手の目線を持つことが大切になる。きめ細かい建築には女性目線が重要になる。女性教員、女子学生を増やしたい。自主的に空き家改修プロジェクトに関わっている学生もいる。自ら課題を探し、解決しようとする若い人たちの取り組みを、教育にフィードバックしたい。地域からの要望に応える社会とつながった教育を目指す。複雑なものを技術力と能力でまとめ上げる『アーキテクチャー』教育を貫く」。

 □2学科1領域を統合、1学部1学科3コースに□

4月に工学部建築学科と建築工学科、デザイン工学部デザイン工学科(建築・空間デザイン領域)の2学科1領域を統合・再編し、豊洲キャンパス(東京都江東区豊洲3の7の5)に「建築学部建築学科」として開設された。1学部1学科でAP(先進的プロジェクトデザイン)、SA(空間・建築デザイン)、UA(都市・建築デザイン)の3コース制。入学定員は240人(APコース30人、SAコース105人、UAコース105人)。各コースに大学院がある。

ガラス張りの「プラザ」で活動を公開する
教員数は34人。建築デザイン、建築計画、都市デザイン、都市計画、建築史、建築生産、建築環境設備、建築材料、建築構造、プロジェクトデザインの専門家が在籍する。3年次の「プロジェクトゼミ」と4年次の「卒業研究」では、所属するコースにかかわらず、全研究室(10分野29研究室)から、自らの専門分野を主体的に選択できる。

 進路は建築設計事務所、デザイン事務所、ゼネコン、ハウスメーカー、各種コンサルタント、国家公務員、地方公務員など。

 新たな製図室棟「アーキテクチャープラザ」はS一部RC造平屋624m2。設計監理は日建設計、施工は鹿島が担当した。大きなガラス面で室内での教育活動を外に公開し、学生が主役となり、建物が背景となるよう意図。内装は、学生が材料や構造を直接見て学べる工夫が施されている。

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