2017年9月4日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・177

国内と全く異なる環境や文化が人を育てる
 ◇日々の充足感を求めて…◇

 学生時代はスポーツに打ち込み、大学卒業後に建設資機材のメーカーに就職した藤本陽一さん(仮名)。持ち前の体力を生かし、営業マンとして製品供給先の建設会社や工事現場などを飛び回った。入社後の数年間、それなりに充実した日々を送っていたが、どこかに物足りなさも感じていた。今後の生き方に悩んでいたころ、社内で海外進出の話が持ち上がる。東南アジアに生産拠点を設ける計画が検討され始めると、次第に海外への興味がわいてきた。

 語学堪能とはいえず、特に海外志向も強かったわけではなかった藤本さん。ただ、平凡な日常を変えたいという気持ちの高まりから、海外事業を具体化する担当部署への異動を希望。本人のやる気を買って、会社は希望を受け入れた。

 「付き合いのない営業先から新規契約を取った時などはやりがいを感じるが、決まったサイクルの中で仕事をしている自分の先行きを考えた時、どうしても発展性を感じられなかった。海外に行けば何かが変わり、会社だけでなく、自分の人生にとって新たな可能性も見えてくるのではないかと思った」

 異動先の部署では対象国のカウンターパートとの打ち合わせなど、これまでと全く異なる業務で苦労も多かった。それでも計画の具体化に向けて一歩ずつ進む毎日に充足感を得られた。

 国内での事前検討にめどが付き、現地に入って本格的な実現可能性調査に乗りだそうとした矢先、海外進出を一時中断すると経営層から伝えられた。経営不振で海外よりもまずは国内での体制強化を優先する-。テロの発生など情勢が不安定な中、海外事業に不慣れな会社が国外拠点を整備するのは、時期尚早との判断が下された。

 海外へのはしごが外され仕事への情熱も急速に冷めていった。経営陣の一人だった海外推進担当の役員からは、国際協力機構(JICA)のボランティア事業で中小企業の海外展開進出のサポートを後押しする支援策などが盛り込まれた「民間連携ボランティア」制度を活用し、藤本さんを対象国に派遣することも提案された。

 自分が海外に行ったところで進出に消極的な会社側の態度は変わらず、将来が見通せない状況に嫌気がさした藤本さん。会社を辞めJICAの青年海外協力隊員として、まっさらな形で新たな経験を積む道を選択した。選考を無事にクリアし、これから向かう赴任国ではスポーツ指導が主な仕事になるという。

 「ゼロからの挑戦に不安はあったが、家族や辞めた会社の同僚からの応援もあり、心機一転で頑張りたい」と藤本さん。赴任先での2年間の経験が自分をさらに成長させてくれると信じている。

 帰国後に何をやるか、今は全く考えていない。目の前のことを一生懸命やっていけば自然と道は開けるはず。建設産業で働いてきた自分の人生を否定することなく、次へのステップアップにつなげる。

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