2017年9月27日水曜日

【JICA海外ボランティア事情】〝育てる〟㊤・海外で活躍する人材の成長後押し

タイで現地工員を指導する岡本さん㊧
社会・経済のグローバル化の進展により、海外で活躍できる人材の育成が、建設分野を含め産業全体にとって重要課題の一つになっている。こうした産業界のニーズを踏まえ、国際協力機構(JICA)は、途上国を中心に展開するボランティア事業を企業の人材育成や海外進出などの経営課題と結び付ける活動に力を入れている。途上国開発を支援しながら日本企業の人材力も高める同事業の可能性を探った。

 ◇途上国支援で活躍、企業ニーズへの対応に課題も◇

 JICAが派遣するボランティアには青年海外協力隊(対象年齢20~39歳)、シニア海外ボランティア(40~69歳)のほか、中南米の日系社会を支援対象とする青年・シニアの両ボランティアの計4種類がある。1965年の協力隊発足から半世紀が過ぎ、ボランティア全体の派遣実績は累計5万人を超える。

 参加者の門戸を広げるため、企業・団体や自治体などの職員が所属先に身分を残したままボランティア事業に参加できる現職参加制度では、人件費の補てんなど所属先の理解を得るための支援策を講じている。12年に創設した民間連携ボランティア制度では、各社のニーズに合わせて派遣国・地域、職種、派遣期間(原則1~2年)などを調整できる仕組みも設けた。

 プラスチック成形や金型製造などのプロニクス(京都府宇治市)は、中国、ベトナムに続いてタイに進出する際、民間連携ボランティア制度を初めて活用。若手技術者の岡本和大さんが協力隊員としてタイの技術高等専門学校に派遣された。14年10月からの1年間、同社に籍を置いたままタイの学生たちに工作機械やCADによる設計指導などに当たり、任期を終えて15年11月にタイ現地法人の工場長に着任した。

 それまで工員たちの定着率が低かったタイ工場での指導・管理で、岡本さんは「良いところを見つけて褒めて伸ばす」を心掛けたという。プライドの高いタイの人たちに対し、上から押さえ付ける指導は逆効果と分析。ボランティア活動を通して知ったタイの文化、国民性などを踏まえ、工員たちとのコミュニケーションを積極的に取ったことが奏功したのか、定着率が改善し、勤続1年以上の工員も増えつつあるという。

 今年は初の社員旅行を企画するなど、工員たちとの信頼関係をさらに深めようと模索する。工場の安定操業と事業拡大に向けて工員の募集活動にも注力。赴任していた高専のインターンシップ(就業体験)で自社を紹介するなど、ボランティアで築いたネットワークも積極活用している。
タイの高専で教壇に立つ新木さん㊧
高専側がボランティアの継続派遣を要請し、JICAの依頼もあったことから、プロニクスの岡本さんの後輩で女性技術者の新木千尋さんが16年1月から教壇に立っている。それまで人前で話したり指導したりするのが苦手だった新木さんは、ボランティア活動を通して積極的な性格に変わったという。外国人との接し方を学び、自分一人で抱え込まずに相手に頼り、力を借りることもできるようになったと振り返る。

 18年1月で任期が満了する新木さんはタイ現法に配属される見通し。事業拡大に向けた新戦力として期待がかかる。

 民間連携制度を活用し、2人続けてタイでの事業を担う若手の育成に取り組んだプロニクスだが、3人目のボランティアは出さない方向だという。異国での経験は成長の大きな糧になる一方で、企業がボランティアに社員を出し続けるには限界もある。特に中小企業は大手に比べて経営基盤がぜい弱でボランティアに人を回す余力に乏しい。

 海外での事業戦略や人材の育成方針など、多様な企業ニーズにどこまで適応した制度とするか。営利を追求する企業の行動原則などを踏まえ、ボランティア制度自体の枠組みを見直す必要もありそうだ。(つづく)

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