2017年9月25日月曜日

【建設業の心温まる物語】地下室・坪崎陽一郎さん(東京都)

 ◇父の感じていた感動◇

 私の父は、個人で一級建築士事務所をしていました。私は幼いながら、当時、父の収入はかなり波が激しく、多い時と極端に少ない時の差がとても激しかったことを覚えています。そのため、父は親族から「仕事を変えろ」とよく言われていました。そのため私も、建築業だけは絶対やりたくないと思っていました。

 私は学校を卒業して以来、建築業とは異なる業界で働いていました。事情があり、転職を考えているとき、ふと父の仕事ぶりを思い出しました。父はあんなにも親族たちに反対されていたにもかかわらず、なぜ設計の仕事を続けてきたのだろうか。そしてなぜ今まで続けることができたのだろうか。それまで考えたこともなかったのですが、父の気持ちが不思議に感じたのです。

 私が小さいころから通っていた夫婦で経営している病院は、父が昔設計した建物でした。そのご夫婦に会うと今でも「良い病院を建ててもらってよかった」と言ってくれます。もう建築して30年以上経つにも関わらず、綺麗に使っていただいています。また父が設計したビルや総合病院も、現在も立派に残っています。父の仕事は長いあいだ、人の心や街に残り続けている素晴らしい仕事だと改めてわかりました。

 その後、私は建設会社に就職しました。現在までに何件か引き渡した物件があります。そのうちの1件の住宅にメンテナンスに伺ったときのことです。お施主様が「本当に良い家を作ってくれてありがとう」と言ってくださり、飾ってある一枚の木彫りプレートを見せてくれました。そこには私も含め施工に携わった大工さん、職人さんの名前が彫ってありました。

 それを見た時、父が感じていた感動を少しでも感じることができるようになったのだ、と思いました。

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