2018年1月22日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・189

若い社員の獲得が大きな悩み。
子どもの頃から建設業に親しんでもらう必要がある
 ◇〝このまま〟を維持するために◇

 地場建設会社の2代目として、日々奔走する神田憲広さん(仮名)。10年後の目標を聞くと、「今の売り上げや利益を現状のまま維持していくこと」という答えが返ってきた。それが、従業員やその家族を守ることにつながると考えている。

 もともとは建設会社を継ぐつもりなどなかった。大学では理学部に進み、就職先は製造業関係の大企業を選んだ。だが、仕事に慣れたころに、父から連絡が来た。「若手の技術者が育ってきた。若い子たちの未来を考えると、自分の代で会社をたたむことはできない」。地元に戻って、建設会社の仕事を一緒にやってほしいと、頭を下げられた。覚悟を決めるまで、1年ぐらいかかった。

 相当な決意での転職だったが、入ってみて、がくぜんとした。現場は雑然としていて、はっきり言って汚い。仕事のレベルも低いと感じた。公共事業が減少し、業界を取り巻く環境が悪化している時期だった。このままでは将来はない-。危機感ばかりが募った。

 前職の製造業の現場では、整理整頓が徹底されていた。無駄やミスを防ぎ、品質や生産性を高める上で極めて重要だからだ。現場の仮囲いやカラーコーンを、まっすぐに同じ高さで並べる。そういうところから始めた。徹底していくと、住民から「ここの現場はきれいだね」と言ってもらえるようになった。すると、安全パトロールで不備を指摘されることが無くなり、工事成績も上がっていった。発注者からの見方も変わった。

 だが、正直なところ、現場を褒められることに違和感も覚える。かつての自分たちのような低レベルの企業が多いことの裏返しだからだ。「どこから来たかも分からない人が、自分の家の前で工事をやっているのだから、嫌がられるのが当たり前」。だから、あいさつをして顔を覚えてもらい、現場もきれいに整える。その積み重ねが、建設業のイメージを良くしていくと思う。

 建設現場の生産性向上策i-Constructionには、真っ先に取り組んだ。生産性革命や働き方改革など国土交通省の動きにしっかりと追随していかなければ生き残れないと、強く感じている。

 だが、会社の規模を大きくすることは目指していない。「売り上げが10倍になったら、従業員の幸せも10倍になるかというと、そうではないと思う。本当に信頼できる社員たちと、しっかりと仕事をしていくだけだ」。淡々とした語り口で話す。一つ一つの工事で、発注者に評価される成果を残すことが、最大の生き残り戦略。そのためには、少数精鋭の方がやりやすい。

 地域建設業では、「後継者がいない」とよく言われるが、少し違うと思う。子どもが継ぎたくなるような会社に進化させる努力が必要なのだ。「自分たちが変わろうと思えば、会社も評価も必ず変わる。だから、建設業は本当に面白い」とも。人間は、細胞が新陳代謝しなければ生きていけない。それと同じで、今の姿を保つために変わり続ける。そこに進むべき道がある。

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