2018年2月19日月曜日

【駆け出しのころ】竹中工務店常務執行役員・車戸城二氏

 ◇自分を育ててくれたひと言◇

 入社1年目は新入研修で作業所、設計、見積もりの仕事を経験しました。建築設計を志望して採用されたため、研修を終えた2年目には設計部に正式配属されると考えていたのですが、受け取った辞令は作業所勤務でした。

 この作業所で、その後の自分の考え方に大きな影響を与える出来事がありました。地下工事を担当していたある日のことです。「土工だって人間だぞ」-。土工の職長さんから一言、そう言われたのです。そんなことわかっている。と思ったものの、自分はそれほど人の気持ちがわからない人間なのかと自信がぐらつき、時がたてばたつほど、この言葉が刺さってくるのです。その後折に触れいろいろ考えさせられました。

 当時の私は、とにかく自分の役割をしっかり果たすことだけに一生懸命でいたのかもしれません。例えば職人さんに何かをやってもらうとします。それは仕事上やって当然のことであってもありがとうと一言付けるかどうかで大きな違いが出てきます。自分にそれができていたのかと。

 仕事というのは目的を達するために行うものですが、もう一つの側面として、人はそれぞれに幸福になろうとします。われわれが「竹中の品質」にこだわるのは、もちろんお客さまのためですが、造り上げた時に達成感を得て自分も幸せになれると信じているからです。

 私はそんな人としてのありようというか、人はなぜ働いているのかという本質に気付けていなかったのかもしれません。いつかは学ばなくてはいけなかった。そのことに最初の作業所で気付けたのは幸運でした。ですから今でもあの職長さんには本当に感謝しています。

 設計部に異動したのは5年目です。作業所での経験は必ず役に立つと励ましてくださる方もいましたが、設計部の上司からはいきなり「作業所の経験は役に立たない。君には3年のビハインドがあるから、よほど頑張らないと皆に追い付けないよ」と言われました。

 正直に言ってもらって感謝するとともに、風通しの良い風土を感じました。元々は建築設計が好きで会社に入ったのですから、それ以降は設計部の仕事にどんどんのめり込んでいきました。

 こうした経験を自分の学びに昇華して、自分の武器にできるかどうかは自分次第です。どんな経験からも学ぶことはできます。大切なのは、さまざまな事象から学ぶためのセンサーを磨くことだと思います。自分の専門以外のことも学ぶと、思わぬ学びがあるかもしれません。ヒントはあらゆるところにあるものです。

 (くるまど・じょうじ)1981年早大大学院修了、竹中工務店入社。88年カリフォルニア大バークレー校建築学修士課程修了、89年コロンビア大都市デザイン修士課程修了。本社設計部長、執行役員設計本部長などを経て、2017年3月から現職。東京都出身、61歳。

入社1年目に研修を受けた作業所の事務所で
(手前3人の右端が本人)

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