2018年3月12日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・193

対話を重視したワークショップによる街づくり検討が充実しつつある

 ◇丁寧なコミュニケーションで設計したい◇

 川野美也子さん(仮名)は、大学で建築を学び設計事務所で働いていたが、事務所の倒産に直面したことをきっかけに、仲間と共に「企業組合」方式による設計事務所を立ち上げた。今から10年ほど前のことだ。

 企業組合は、組合員が資本と労働を提供して共同で事業を行う組織。中小企業等協同組合法に基づく組合法人で、都道府県の認可を受けて設立できる。企業組合の目的は相互扶助、働く場の確保、経営の合理化とされる。組合員が1人1票の議決権を有し、代表理事を置くが、あくまで組合員は対等の立場となる。

 「事務所の倒産に際して、出資比率の問題で紛争が生じる姿を見てきた。設立認可を得るまで相当の労力がかかったが、1人1票という組織形態に関心を持ち、ぜひとも企業組合を設立したいと考えていた」。川野さんはそう振り返る。

 以前の事務所にいた時代は月平均80~100時間程度の残業が当たり前だった。今の企業組合では月30~40時間程度。労働条件の面でも、企業組合の良さが出てきたといえる。

 川野さんの企業組合では、理念として「建主の思いを受けとめ、使う人の立場に立った設計」「集団の力を生かし、より良い建築を創造する」「さまざまなネットワークを広げ、人と地域とのつながりをつくる」を掲げる。

 事務所が手掛ける仕事は、保育施設、高齢者施設、診療所などの医療施設などの設計が中心となっている。事務職を含め10人ほどのスタッフがいる。

 仕事の進め方について川野さんは「建主、使い手らと丁寧なコミュニケーションを重ねて進めていきたい」という思いが強い。

 設計に当たって関係者が参加するワークショップの開き方についても「最初から敷地条件の制約を前提としてしまうのではなく、そうした制約を取り払った上で、今の施設の良い所、改良したい点などを自由かつ率直に出し合って、まとめていきたい」と対話を重視する。そうした過程を経ることによって、「建物を大事に使ってもらう気持ちも強まってくる」との考えからだ。

 しかし、丁寧なコミュケーションを進めたいと考える思いがあっても、それを困難にさせる現実が立ちはだかる。

 近年、保育所の不足、児童の入所難が大きな社会問題となり、保育士の処遇改善の機運が高まってきた。一方で、保護者からは保育時間の延長を求める声があり、それに応えるため、勤務時間に2交代制を導入する園も増えている。そのため「どうしても職員全員が一堂に会する機会を持ちにくく、丁寧な手作り感があるワークショップが進めにくくなっている」という。

 法律や条令の改正などに伴い、制度面で対応が必要な業務も増えてきた。企業組合としても建主のニーズに対応するため、病院・診療所の建て替えの際、建築の専門家の立場から建主に各種の助言を行う「建築コンサルタント業務」にも取り組み始めている。社会の変化に応じ、新たな挑戦が求められるようになってきた。

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