2018年3月8日木曜日

【プロジェクトアイ】Jヴィレッジ再整備(福島県楢葉町)

Jヴィレッジ再整備の完成イメージ(提供:福島県)
福島県楢葉町と広野町にまたがるサッカーのナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」。福島第1原発事故への対応で前線基地となり、運営が休止していた同施設の再整備が本格化している。19年4月の全面開業を目指しており、「施設再開で福島復興をアピールしていきたい」(上田栄治Jヴィレッジ副社長)という。従来施設の原状回復に加え、全天候型サッカー練習場と新宿泊棟を新設する現場を訪ねた。

□新宿泊棟新営工事(実施設計・施工=安藤ハザマ)□

 ◇ビジネス層の誘客狙う◇

 新宿泊棟は、Jヴィレッジ本館に隣接して建設する。本館にも宿泊施設はあるが、利用はサッカー関係者に限られる。周辺で進む原発の廃炉やロボットなどの産業集積を目指す「福島イノベーション・コースト構想」とも連携し、新たにビジネス層の誘客を図る。

 建物規模はS造地下1階地上8階建て延べ5420㎡。1階にコンベンションホールを配置し、会議などに利用。2~7階に客室、8階に大浴場を設ける。実施設計・施工は安藤ハザマが担当。17年4月に着工し、鉄骨の組み立てが完了した現場では、内装工事が進行中だ。

 建設地は山を切り崩した場所に位置し、4・5mの高低差がある。そのため、工事の際には地盤の傾斜が課題となった。場所によって支持層の位置が違うので、正しい地盤状況を把握することが求められた。ボーリング調査のデータを基に、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)で視覚的に地盤状況を確認できるようにした。その分コストがかさむが、「しっかりとした建物を造るためには手間を惜しんではいけないと考えた」と安藤ハザマの中島聡一所長は話す。

 杭打設時も衛星利用測位システム(GPS)で正確な位置を捉えながら、シミュレーションとのズレが起きないように慎重に作業を行った。「この規模の工事でGPSを使うことは珍しい。それだけ難しい現場ということだ」(中島所長)。

 前田建設の施工で原状回復工事が行われている本館と隣接する現場は、十分なスペースを確保するのも困難だった。

 事故や建物の損傷を防止するため、両社は毎月1~2回の調整会議を実施するなど、常に工事状況の情報交換に努めている。市街地の工事と同じだけの配慮が求められ、相互のコミュニケーションを重視しながら、安全確保に努めている。

 現場は6月の完成に向け、これからが最盛期。中島所長は「Jヴィレッジの転換点となる重要な施設となる。期待に沿えるものとなるように、丁寧に施工を進めていきたい」と語る。

□全天候型サッカー練習場新営工事(実施設計・施工=前田建設JV)□

 ◇幕屋根付き全面人工芝ピッチを整備◇

 新設する全天候型サッカー練習場は、サッカートレーニング施設として日本初となる全面人工芝の公式ピッチ(105×68m)を覆う全面膜屋根が付いた施設となる。

 再整備前は屋外グラウンドしかなかったが、今後は天候に左右されない練習環境が常時確保できる。8月の完成に向け、工事は大詰めを迎えていた。

 同練習場を整備するのは、Jヴィレッジ北西側にあった10、11番グラウンド跡地。建物規模はS造2階建て延べ1万0158㎡、アーチ鉄骨スパン92・8m、桁行方向117m、大ひさしを含むと125m、ピッチ中心部天井高さ(トラス鉄骨下端)は22mとなる。

 再整備では事業手法に実施設計・施工一括(DB)方式を採用。プロポーザルで耐震安全性や耐風性能の向上を提案したことが評価され、前田建設・佐藤総合計画JVが受注した。

 着工は17年3月。屋根トラスなどの鉄骨を組み立て、屋根膜の設置が完了した現場では、屋根膜ジョイント部カバー設置や内装、設備工事などが行われている。

 鉄骨の組み立て作業は基本設計時点で現場溶接の接合だったが、技能者不足や悪天候などによる工期遅延が懸念されたため、機械式接合トラスに変更。鉄骨工場製作の精度管理と現場組み立ての施工の管理を確実に行い、工期遅延がなく、省人・省力化も実現した。

 楢葉町、広野町は原発事故に伴う避難指示が15年に解除され、避難から戻った地元の職人がJヴィレッジ再整備の現場に従事している。

 その1人で、とびの職長の草野弘典氏(草野鳶工業)は「若者が戻って来ないと復興はないという思いで帰ってきた」とし、「この施設の完成が今も避難している人たちが戻ってくるきっかけになれば」と思いを語る。

 工事の進捗(しんちょく)率は約90%(2月26日時点)。これまで無事故で順調に進んでおり、作業は終盤に入っている。

 前田JVの松本通孝所長は、福島県民や関係者の再整備に対する思いを強く感じながら工事に当たり、「無事故で高品質の建物をお渡しし、ピッチに再び歓声が響く時を心待ちにしている」と話す。

 《工事概要》

 【両施設共通】

 工事場所=福島県楢葉町山田岡美シ森8
 
 基本設計=梓設計
 
 コンストラクションマネジメント(CM)=明豊ファシリティワークス(発注はいず れも福島県電源地域振興財団)

 【Jヴィレッジ新宿泊棟新営工事】

 発注者=福島県電源地域振興財団
 
 工事監理者=清水公夫研究所
 
 実施設計・施工者=安藤ハザマ
 
 施設規模=S造地下1階地上8階建て延べ5420㎡
 
 工期=17年4月~18年6月
 
 【Jヴィレッジ全天候型サッカー練習場新営工事】

 発注者=福島県
 
 実施設計・施工者=前田建設・佐藤総合計画JV

 工事監理者=永山建築設計事務所

 施設規模=S造2階建て延べ1万0158㎡

 工期=17年3月~18年8月

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