2018年3月19日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・194

産業界では女性の活躍を後押しする環境整備が進んでいる
 ◇オンリーワンの自分になるために◇

 ゼネコンに勤務して14年目の忽那恵美さん(仮称)は、デベロッパーの設計部門で働く父親に憧れ、大学で建築学科に進んだ。会社には技術職として採用されたが、当時はまだ女性が少なく、最初は建築部署の事務として配属された。

 3年目に首都圏の建築事業を専門に手掛ける支店の積算部署に異動した。大学で意匠設計を中心に学んだため、積算の経験はなかった。壁を表す「W」、杭を表す「P」と、積算記号を覚えるための単語帳を作ることから始めた。常にこの単語帳を手元に置き、通勤途中も目を通した。

 概算の積算段階では、詳細な図面がないことも少なくない。営業担当者が顧客から聞いてきた情報を基に、柱、梁、スラブ、コンクリート型枠、鉄筋の数量を算出する。受注に必要な作業と分かっていても、同じことを繰り返す日々にやりがいを見いだせなかった。何度も辞めようと思った。

 彼女の頑張りを支えたのは、20歳も上の同じ部署にいた大先輩。話し掛けづらいオーラを放っていたが、持ち前の積極性で貪欲に指導を求めた。踏みとどまれたのは、この人の存在も大きかった。

 初めて二人きりで飲みに連れて行ってもらった時、大先輩から「仕事には度胸と勘と経験が必要だ。お前は度胸と勘は十分ある。後は経験を積みなさい」と言われた。この言葉に勇気付けられた。積算部には11年間在籍。「この規模の建物なら、柱の大きさはこのサイズ、鉄筋量はこれくらい必要」と、すぐに分かるまでになった。

 転機が訪れたのは2年前。本社の民間建築営業部署への異動を打診された。女性の技術職は増えてきたが、営業職はまだ少ない。「積算だってできたんだから、営業も大丈夫」。二つ返事で承諾した。

 決められた受注目標の達成に向けてプレッシャーはあるが、営業の仕事に男女の差はない。忽那さんには、自分で積算ができるという大きな強みもある。「お客さんのところに行って具体的なコストの話をするにも、経験を生かした受け答えができ、レスポンスの早さが気に入られている」と笑顔で話す。

 相手の気持ちになり、最適な提案をする。それが彼女のスタイルだ。「もし自分がマンションを建てる側なら、コストは安くしたいけれど、見栄えも品質も良くしたくなるはず。相手の気持ちを考えることが一番重要」と力を込める。

 3年前に出産を経験し、子育てと仕事を両立する。社内に女性の後輩が増え、「姉貴」と慕われる。母校の後輩の就職相談に乗る機会も増えた。

 「彼女たちの将来を一方的に決め付けることはできないので、自分が歩んできた経験を伝えるようにしている。最終的な目標は自分で決めること。目標を決めるまでの手伝いをしてあげたい」

 積算部門の大先輩からもうひとつ言われた言葉がある。「自分にしかできないオンリーワンを目指せ」。積算の経験を持った女性営業職は、社内に自分しかいない。「少しはオンリーワンになれたかな」。

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