2018年4月9日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・196

記者会見では複数の記者から質問が相次ぐ
 ◇記者に思いを伝える広報に徹する◇

 「どうすれば製品の良さがきちんと記者に伝わるのか」。建材メーカーに勤務する坂口章さん(仮名)は昨春、初めて広報課に配属され、仕事上の大きな壁に突き当たった。入社以来、籍を置いた営業畑を離れ、広報部門への異動が決まった時は、営業も広報も似たような業務だと軽く考えていた。だが現実は違った。

 坂口さんの仕事は、新聞や雑誌などのメディアに新製品や会社の新しい取り組みについて情報を発信したり、取材に応じたりする報道対応業務。

 営業部時代の坂口さんは成績がすこぶる良く、自社の製品や経営を熟知していると自負していた。しかし、広報課に赴任して初めてメディア対応の矢面に立った時、自分が10年以上在籍した会社のことを何も知らないに等しいと気付き、がくぜんとした。

 電話対応や会見の場で、記者の質問に答えられないことが多かったが、その場合は回答を保留し、担当部署に聞いたり、調べ直したりした上で答えを提示すれば問題はなかった。最も困るのは、どんなに丁寧に取材に応じても、後日、掲載された紙面に目を通すと、数字や固有名詞に誤りがあった時。こちらが伝えようとした意図と異なる内容の記事が載るケースが頻繁にあった。

 「広報の仕事は自分に向いていない」。坂口さんは苦悩を深めていった。

 そんなある時、懇意にしている若い雑誌記者から聞いた話が、坂口さんの心を軽くする契機になった。彼いわく、取材して記事にした内容が果たして正確に事実を伝えているのか、いつも不安だという。記者経験を積むうちに不安は徐々に軽くなっていったが、完全に消えることはない。だからこそ、取材では徹底的に事実関係を確認し、書いた記事は何度も見直す。それを聞いた坂口さんは「記者も人間だ。誤解やミスはなくならない。それなら自分が変わればいい」と思った。相手の間違いを責めるのではなく、自分が伝達能力を磨けば、結果的に掲載される記事にも間違いが減っていくはずだ。

 坂口さんは、勉強に打ち込んだ。同業他社の報道発表資料の書き方を調べ上げ、複数の専門紙を熟読して文章の傾向をつかんだ。記者の性格や略歴をファイリングし、自分が取材に応じた記事がどんな形で掲載されたかを検証した。社内外の勉強会や研修会、異業種交流会にも参加し、論理的思考や伝達能力を磨いた。

 それらの成果は目に見える形で表れた。言いたいことを記事にしてもらえることが増え、広報業務を面白く感じるようになった。記事の内容を操作することはできない。だからこそ、記者に思いが伝わり、的確な記事が掲載された時の喜びは大きい。

 広報課に配属されて1年。坂口さんは今回の配置換えで多くのことを学んだ。戸惑いや不安は今もまだあるが、それを抱えたまま、前に進むことにした。

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