2018年7月11日水曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・205

会社の「歯車」では満たされなかった自分の心。
今はやる気に満ちている
 ◇夢に向かう若い会社の羅針盤に◇

 有名私立大学を卒業し上場するゼネコンで働いていた経験を持つ眞嶋基さん(仮名)は、1年前に地方の専門工事会社に転職した。バブル崩壊後の就職氷河期に入った知名度の高い会社で働きながら、心のどこかに何か満たされない感覚があった。30歳の時に会社を辞めて以来、転職を繰り返した末、ようやくたどり着いた専門工事会社で眞嶋さんは今、やる気に満ちあふれた日々を過ごしている。

 数千人規模の会社で自分は、あくまで歯車の一つだった。入社6年目に人事異動の担当チームへ異動。信頼を寄せていた直属の上司はいわゆるリストラ担当だった。バブル崩壊による建設不況は業績悪化を招き、その結果、社内組織をいびつにしていった。

 「人を大事にしない組織は長続きしない」と苦悩しながらも、リストラを実行させざるを得ない上司の姿を見るのはつらかった。上司を支える立場でしか業務に関わらない眞嶋さんも、リストラの対象者から恨み言をぶつけられるようになった。

 時に理不尽だと感じ、到底納得できないような仕事も、我慢してやらなければならない。退職が頭にちらつき出す頃には、仕事への情熱を失っていた。上司に相談すると「経験を積めばこの仕事の良さが分かってくる」「就職難のいま会社を辞めてどうする」と諭されたが、自分自身を励ましているようにしか感じられなくなった。

 そんな思いが積み重なり、眞嶋さんが出した結論は退職という道だった。 

 いくつかの会社で働き秘書や経理などの仕事を担当した。どれもそれなりにやりがいのある業務だったが、長く続けることはできなかった。

 昨年、業界交流会で現在の会社の社長に出会った。地域に密着し、ほそぼそと事業を展開する専門工事会社を先代から引き継いだ社長はまだ30代。旧態依然とした建設業界の慣習を変革したいという熱意を持っていた。本業を中核に据えながら事業の多角化を目指し、さまざまなことに取り組む。「人を大事にしたから今の会社がある。純粋にものづくりを楽しむ若者たちを育てたい」。会社の未来を描き、不器用ながらも真っすぐな目で思いを話す姿に引かれた。心の目が開き、積もりに積もっていたわだかまりが解け、一回り年下の社長を支えたいと本気で思うようになった。

 今の会社で眞嶋さんは経理を任されている。社長の思いを実現するため、ゼネコン時代に培ったノウハウや人脈を生かしながら、組織の枠を超えた仕事にも取り組んでいる。ゼネコンに勤務していた時は決して許されなかった担当以外の業務に関われる面白さ。時に難しい局面に立たされることもある。ただ社長の夢を実現するため全社員がモチベーション高く仕事に取り組んでいる。その一端を担えることは楽しく、やりがいもある。

 若い社長の取り組みは緒に就いたばかり。この先どんなことが待っているかは分からない。眞嶋さんは乗り込んだ船の羅針盤になる覚悟を決めた。航路を誤らずに航海できるよう若い社長をサポートしながら、夢の実現にまい進する。

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