2018年8月6日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・206

上司や同僚とはしばしば杯を交わし、思いをぶつけ励まし合った
 ◇上司や同僚に恵まれた会社で最後まで◇

 「全く知らない業界で、続けていけるか不安だった」。建材などを販売する東京都内の専門商社で30年以上働いている三田浩二さん(仮名)は、入社直後の心境をそう振り返る。一から知識を補うために努力を重ね、頭角を現していった。それでも三田さんは、「ここまで来られたのは素晴らしい上司や同僚に恵まれたおかげ」と控えめに話す。

 出身は北海道。大学入学を機に単身上京した。卒業を控え就職活動を始めたが、なかなか就職先が決まらなかった。数十社を渡り歩き、ようやく決まったのが今の会社。全く知識がない建材業界への就職に不安もあったが、「内定を出してくれた期待に応えたい」と考え、入社を決めた。

 入社して間もなく、ハウスメーカーなどを担当する営業部門に配属された。驚いたのは取り扱う商材の多さ。建材の規格や用途、価格は多岐にわたる。客先が求めるものを正確に把握できず、悔しい思いをした。商材の知識を付けるため、寝る間も惜しんで勉強した。何冊ものカタログを持って、必死に客先を回った。

 入社して数年が経過したころ、三田さんが販売した合板の中に不良品が見つかり、客先からクレームが入った。合板の販売はロット単位。不良品と同じロットの合板すべてに不備がないか確認する必要があった。合板メーカーに対応を任せることもできたが、「お客さまは自分から商品を購入してくれた。自分がやらなければ営業マンとしての存在意義がない」。そう考え、北海道から沖縄まで全国の現場を飛び回り、自ら対応に当たった。現場によっては、施主にも直接状況を説明した。上司や同僚の力も借りながら、無事に対応が済んだ時の安心感と達成感は、今でも忘れられない。

 日々の努力が実を結び、仕事が軌道に乗り始めた。競合他社より高い値段を提示しても、「三田さんだから注文する」と言われた時には、「営業マンとしてこの上ない喜び」を感じた。そんな折、ある客先から呼び出され、「うちに来ないか」と誘いを受けた。「自分を高く評価してくれている」ことがうれしく、心が揺れた。だが、「自分が苦しい時に励ましてくれた上司や同僚の顔が浮かんだ」。客先には、丁重に断りの連絡を入れた。

 今は営業部門を離れ、管理部門で客先の与信判断などを担当している。長年在籍した営業部門からの異動に戸惑いはあったが、「普段から管理部門の同僚と連携を取り合っていたし、不安はなかった。営業活動で得た客先の情報なども生かせる」と、新たな業務にも前向きだ。

 2人の子どもが自立し、退職後のことを考えるようになった。一番の希望は、地元の北海道に戻ること。入社して以来、勤務地はすべて首都圏だった。「空気がおいしい広い故郷で、静かに老後を過ごしたい」。そんな願いも持ちつつ、「この会社で最後まで働き続けたい」との思いを胸に、今日も誠実に仕事に取り組む。

0 コメント :

コメントを投稿