2018年9月3日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・208

人材を育てる重要性は企業規模の大小に関係ない
 ◇人材育成こそが企業を持続成長させる◇

 20年ほど前に産声を上げたまだ若い建設会社に入ったのが昨年のこと。1000人規模の社員を抱える比較的規模の大きな建設会社に10年勤めた後に辞めた高野政史(仮名)さんが、あえて発展途上の中小企業を選んだのには、それなりの理由があった。

 大学を卒業して事務職として入社した前の会社では、現場事務所の経理などを経験した後に本社勤務となり、総務・人事畑で働いた。人事の仕事では、現場への人員を配置してうまくいくこともあれば、そうでないケースも当然ある。なかなか現場の雰囲気になじめず、孤独を感じて辞表を出す若手も少なくない。

 「人事って一体何なんだろうか」

 若手が辞めていく姿を見送るたびに、高野さんの心には、むなしさにも似た思いがこみ上げていた。同時に「何とかしなければ」と所属する総務・人事部門から会社を変えていくことができないかを考える時間が増えていた。

 上司からは、「会社を改革するような提案なら、どんどん出していい」と言われていた。高野さんは数日がかりでA4用紙数枚にわたる「人事部門からの提案」をしたため、提出した。

 提案は、これまでの若手の採用と育成方針を抜本的に改める内容だった。何も知らないまま入社にした若手が現場に出たとしても戦力として使えるわけではない。現場のOJTで生きた教育を施すのが会社の基本スタンスだが、「若手をしっかり面倒を見るだけの余裕が現場にはあるのだろうか」と高野さんは疑問を感じていた。

 ならば、現場に出る前に徹底した教育をしてから送り出した方が効率的だし、即戦力として活躍できるようになるのではないか。毎朝読む建設業界新聞でも地域単位で「職人育成」に取り組む動きが各地にあることを見て知っていた。

 しかし、高野さんの提案は採用されなかった。「どんどん提案して」と言った上司からも、「簡単にできるものではない」と一蹴された。30代前半とまだ若い高野さんの進言を受け入れるだけの土壌がこの会社にはないのだろうか。残念だった。

 そんな折、異業種を含めてさまざまな人たちが集まる会合に出て、今の会社の社長に出会った。意気投合した高野さんは、会社に出した提案内容を含め、結局却下となった経緯を悔しさ混じりに吐露した。

 話を聞き終わる間もなく、社長から「うちの会社に入らないか。実践しよう」と言われた。半ば愚痴のような話をしっかり受け止めてくれるだけのキャパシティーがこの社長にはあると思った。

 世話になった会社を辞め、社長の下で働き始め、提案した人材の採用と育成の取り組みを託された。今は忙しくても提案が徐々に具体化することにやりがいを感じている。少子高齢化で若者はどんどん減る。その中でもしっかりと育てることこそが、持続成長する企業の要素だと確固たる信念で取り組む。規模の大小は関係がない。

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