2018年11月13日火曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・214

大工仕事は楽しい。子どもたちの笑顔を見ると分かる
 ◇カリスマ職人育てたい◇

 大工職人の内森公太さん(仮名)は、実力と誇りを持った大工を一人でも多く育てたいと、若手の育成に力を入れている。こだわっているのは木材を自ら加工する手刻みの技術。新築だけではなく、現場合わせの修繕などもしっかりとこなせる人材が地元に根付いている。それが目指す姿だ。

 そう思うようになったきっかけは、自分たちの地域を襲った自然災害だった。「困っているんです」「いつになったら修繕に来てもらえますか?」。災害後、内森さんの会社は家が壊れてしまった人からの依頼電話が鳴り響くようになった。一日も早く快適な住まいに戻してあげたいと思いながらも仕事が追いつかず、被災者に工事を待ってもらう日々が続いた。「自分の技術を求めているお客さんがいるのに応えられない」と無力感に包まれた。

 自分だけが頑張ろうとしてもたかが知れている。仲間を増やすしかない。そうした答えに行き着き、仕事の合間を使って大工講座や学生向けの授業などを始めた。災害を通じて自分の考えが変わったことが原動力になった。

 若者も災害を経て、人のためになる仕事を求めるようになったと感じている。「来てくれる若者は、『いくら稼ぐか』よりも『何で稼ぐか』を考えている。効率よく稼ぐことが格好いいとは思っていない」。そうした若者は軸足がしっかりしているからこそ、腕を上げるための努力を惜しまない。それは大工として筋が良いことを意味する。

 内森さんは、使命感ややりがいを持った若者を頼もしい存在だと思っている。だが、そうした若者が大工として人生を全うするには、「いくら稼ぐか」も非常に重要だ。そのためのキーワードは「ブランド化」だという。

 「一生で一番高い買い物のはずなのに、造っているのが名も無き大工さんというのは、おかしいと思う」。人の住まいやなりわいの拠点は何年も使い続けられ、時には世代を超えて利用される大事な物だ。伝統工芸品や料理、美容などの世界にはカリスマと呼ばれる人が存在する。一流のプロが手掛ける物やサービスを求める顧客は、何年でも待つはずだ。

 「あの大工さんは5年待ちだよ」。そう言われるような大工がどんどん出てくるべきではないのか。当然責任は増すが、そうした評判が定着すれば、仕事に対する誇りも収入も必ず付いてくる。一心に腕を磨くことはもちろん、成果物について分かりやすく説明し、時には楽しく顧客と話すことができるコミュニケーション能力が必須になるだろう。

 地域に住んでいる人が、地元のカリスマ大工に仕事を頼み、その大工が地元の材料を使って住宅などを造る。人材までも含めた地産地消が理想の形だ。一つ一つは小さい仕事であってもお金が循環することで、地域の持続可能性も高まっていくはずだ。大きなことをやるつもりはない。手の届く範囲で地域に貢献していきたいと思っている。地道な取り組みが地方創生につながると思っている。

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