2018年12月17日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・218

対話を重ね顧客の要望を設計に生かしている
 ◇建築で人々に笑顔を◇

 人々に寄り添える建築を設計したい-。大手建築設計事務所の構造部門でグループ長を務める飯塚一義さん(仮名)が追い求める理想像は、利用するすべての人が笑顔になれる建築をつくること。複雑で多様化する発注者からの要望に真摯(しんし)に向き合う中で、利用者一人一人の顔を思い浮かべながら設計することを心掛けている。

 建築の世界に興味を持ったのは地元の市役所を訪れた時に父親から出た「有名な建築家が設計しているそうだ」の一言。斬新でダイナミックな外観を目の当たりにして以来、建築に魅了された。最初はデザインそのものに興味を持っていたが、いつしか設計者という仕事に心が奪われた。

 地元の高校を卒業し、東京都内の大学で建築を学んだ。研究室に在籍していた先輩が数多く入社していると聞き、現在の会社へと就職した。

 約1カ月の研修を経て、配属されたのは構造設計部門。日々の仕事をこなしていく中、転機となった仕事に出会った。ある自治体が発注する図書館の設計だ。「お前の好きなようにやってみろ」。上司に掛けられた言葉に初めは緊張もした。思案するうち、いつしか「建物が完成した後、市民が喜んで使ってもらえる図書館をつくりたい」と感じ、寝る間も惜しんで仕事に没頭した。

 設計者の仕事は、ただ図面を描き上げるだけでなく、発注者や元請のゼネコン、下請の専門工事会社との調整といった現場監理など、やるべきことは多岐にわたる。苦労は絶えなかったが、決して辞めたいとも思わなかった。トラブルが発生した際も迅速に対応できるよう、コミュニケーションを重ねた。約1年5カ月の工期を経て、ようやく完成へとこぎ着けた。

 完成式典の夜、関係者と酒席を共にした。皆一様に笑顔だった。中には、これまでの苦労に涙する者もおり、感無量だった。その後、この図書館が建築の賞を受賞することになり、自分の仕事に対して改めて自信が付いた。

 就職して約20年がたち、部下も増えた。部下に対しては「常に顧客や利用者の目線に立って仕事をしてほしい」と対話の重要性を説いている。この仕事は顧客の要望を聞き、双方が納得した時に醍醐味(だいごみ)を感じる仕事。それを怠ってしまっては良い仕事ができない。

 設計者にとって、一番悔しいことはプロポーザルやコンペに落選すること。自分の提案で何が足りなかったのかを考えた時、「発注者や利用者を第一に考えていなかった」ことを痛感する。この悔しさを反省に変え、次の仕事に生かしている。

 辛くなったり、諦めかけたりした時、図書館の建築で一緒に仕事をしたゼネコン社員と飲みに行くこともある。「久しぶりにあの図書館に行ったら、市民の笑顔であふれていた」と話す仲間。思い描く理想の姿に、また一歩近づけたような気がした。

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