2018年12月3日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・216

人が居て、動く。そんな生きた空間や場をつくり続けたい
 ◇建築から始まった「衣食住」のデザイン◇

 「生活をしていく基礎となる『衣食住』に関わる仕事がしてみたい」。子どものころから漠然とそう思っていたという細井由香里さん(仮名)。大学受験の時、衣服、食物、住居の三つの選択肢から「建築」の道を選んだ。もともと住まいに興味を持っていたこともあり、課題は多かったが設計製図の授業にのめり込んだ。

 大学院に進学したものの1年で中退。大学の先輩となる夫が独立し、建築士事務所を立ち上げたのがきっかけ。夫婦で営む小さな事務所の本業は建築設計だが、「業務に線引きをせず、さまざまなことに積極的に関わり、空間や場をつくる」のがモットーだ。

 例えば店舗物件の場合、内装設計だけでなく、メニュー表やディスプレーなど、運営に関わるものをデザインする。住宅や店舗などを新築・改装したいと思う理由はさまざま。今までとこれからの暮らし方、お店の在り方などを時間をかけてクライアントと話し合い一緒に考えていきながら、専門家として空間や場を提案していく。

 「考える」や「つくる」ということに携わってもらい、クライアントが主体性を持って物事を決めていく。多くの議論を重ね、自身で考えたことが形になる。こうした体験が、「空間や場への愛着となり、大切に思う気持ちへとつながっていくように思う」。

 建築設計とデザインの二つを軸に活動していく中で、「ようやく自分たちだからこそ提案できる“カタチ”が、少しずつ見えてきた」。そんなことを思い始めたころ、田舎と都会をつなぐ仕事をしようと、家族でふるさとの高知県にUターンした。

 夫と共に事務所の拠点を移して約3年がたった。この間、手掛けるデザインも一歩踏み込み、ライフスタイルに関するブランドを立ち上げた。地元で生産される素晴らしい農産物を、多くの人たちにプレゼンテーションしたいと思えるようなカタチへとデザイン。ようやくオーガニックのブレンドティー6種を商品化できた。「企画から販売、販路開拓まで、すべてを手掛けた。初めての商品開発は苦労の連続だった」と振り返る。

 食物の次は衣服と続いた。都会での店舗立ち上げプロジェクトで店舗設計やグラフィックデザイン、食材の紹介のほか、ユニホームのデザインも手掛けるなど、トータルで携わることができた。一方、高知では自然派のワインバルの運営にも乗り出した。田舎と都会の仕事を通じて、常にいろんな角度、立場から考えられるようになってきた。

 建築を学び始め、一つの目標としていたのが「場」をつくること。建築の仕事に携わることで、「自分ならこんな空間、場をいつかはつくりたい。そんな思いをずっと持ち続けられている」という。人が居て、動く。そんな生きた空間こそが目指すべき「場」だと確信している。

 建築から始まった「場」をつくる仕事。その領域は、子どものころに抱いていた「衣食住」のデザインへと広がっている。東京、高知に続く第3の拠点も模索中。「それは海外です。夢を実現させるため、これからも走ります」。

0 コメント :

コメントを投稿