2019年4月8日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・225

国は労働安全衛生法令の重点課題に「安全性と生産性の両立」を指摘する
 ◇「かけがえのない命」と「働くこと」を守りたい◇

 厚生労働省で働く吉田太郎さん(仮名)。入省から約25年、労働行政一筋の公務員生活を送ってきた経験から、1日施行の働き方改革関連法を「労働行政の大転換点」と捉え、「雇用主に真剣になって取り組んでもらわないと、日本は人口減少・少子高齢時代を生き抜いていけない」と危機感を募らせる。

 好景気に浮かれたバブル期の余韻が残る時期に大学時代を過ごした。売り手市場だった就職活動で、好待遇の民間企業でなく役所を志したのは学校の先生だった両親からの強い勧めがあったからだ。大学時代の専攻は土木工学。数ある省庁の中から労働省(当時)を選んだのは、「労働省は文系のイメージが強かったが、調べてみると理系の方も土木や建築、科学など多岐の分野にわたり多かったので興味を持った」からだ。

 入省後、建設現場を含むあらゆる職場で事故や健康障害の発生を防ぐため、労働安全衛生法令の整備・改正に携わってきた。労働基準監督署では建設工事計画の審査や機械の検査も担当。多数の現場を抜き打ちでパトロールし、法令順守の確認やより安全な現場にするために助言したのも一度や二度ではない。「二度と思い出したくない」という死亡災害の現場調査では、心の底から震える経験もした。

 労働安全衛生の行政官として忘れないように心掛けている思いがある。それは「労働災害で亡くなられた方は遺族にとってかけがえのない存在だった」ということだ。「労働災害の撲滅こそがわれわれ行政官に課せられた責務だ」と常に考え、職場の安全水準向上に妥協なく取り組むことを信条にしている。

 とはいえ、労働安全衛生法令の新規整備や抜本的な見直しは、生産設備の改造など大きなコストと長期的な対応が必要なケースが多い。企業や労働者に大きな負担を掛ける場合もある。

 〝安全〟という視点を忘れずに、さまざまな理工学系分野への知見を深めるように心掛けている。取り組みに対する理解を深めてもらうために、丁寧な合意形成にも心血を注ぐ。

 建設現場などあらゆる職場でロボットやICT(情報通信技術)といった技術の導入が広がる。労働行政の在り方も今後、変わってくるはず。安全性と生産性の向上を両立させる規制がどうなっていくのか、大きな転換期になるかもしれないと考えている。働き方改革関連法の定着に向けて日々の仕事に集中しながら、将来を見据え課題の掘り起こしと対応策の検討にも注意を向ける。

 身近な働き方改革も考えるようになった。「厚労省の残業時間を減らすことから始めるべきだ」と苦笑いを浮かべながら、「生活を犠牲にしてまで仕事する必要はなかったと感じている。自分を守れない人間が職場で働く人たちを守れるはずがない」と思いを新たにしている。

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