2019年6月10日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・228

足場がなければ現場は進まない。ものづくりを支える仕事に誇りを感じている
 ◇とびの格好良さ広めたい◇

 十数人の社員を抱える建設会社を経営する野中孝さん(仮名)は、とび職人の姿に憧れて、建設業界に入った。今は現場作業から離れているが、「やっぱりとび職人は格好いい。それが一番」という思いは変わらない。

 野中さんが入職したのは16歳。通っていた高校になじめず、迷っていた際に、知人からとびの仕事に誘ってもらった。試しにとアルバイトで現場に入って、てきぱき足場を組み立てる作業の様子を間近で見た。流れるような連携プレーに驚いた。自分もこうなりたい。そう決意して、職人の世界に飛び込んだ。

 夢中になって仕事をして腕を磨いていった結果、年上のとび職人も率いる職長に選ばれた。足場の善しあしが自分の指揮によって左右される。それは大きなやりがいになった。

 だがリーダーの立場に慣れていくにつれ、だんだんと余裕ができてきて、物足りなさを感じるようになった。「暇な時間があると、考え込んでしまう。もっと一生懸命に打ち込む何かがほしいと思い詰めてしまった」と、野中さんは振り返る。

 そんな時に、企業経営者の先輩から、「独立して起業したら、新しい世界が広がるよ」とアドバイスされた。会社経営など考えたことも無かったが、そう言われて、自分の下で働いてくれている若手職人たちの姿が真っ先に思い浮かんだ。より良い就業環境で、共に働けたら、もっと充実した人生を送ることができるのではないか。そう考え、一念発起して会社を立ち上げた。

 当時住んでいたアパートが自宅兼事務所となった。職人たちに、玄関前や近くで待機してもらうような状況だった。だが、働く仲間に恵まれたこともあり、会社は順調に軌道に乗っていき、大きな事務所に移った。「自分一人の力では何もできない。助けてもらいながら、業績を上げて、対価を増やす。社員のモチベーションを高めて、会社を大きくしていきたい」。そうした意識で、経営に当たっている。

 だが、建設業全体で担い手確保が大きな課題となっている中で、自分の会社だけが良くなっても、駄目だと思っている。次世代の職人を育てなければ、建設業の仕事は回らない。そうした危機意識から、職人仕事を体験してもらうイベントを企画した。

 イベント当日、集まってくれた子どもたちは、小さなヘルメットをかぶりながら、楽しそうに作業してくれた。付き添いの保護者たちは最初は心配そうな表情をしていたが、子どもたちの笑顔を見ると安心したようで、スマートフォンで何度も撮影していた。そうした姿に自然と笑みがこぼれた。周りの仲間も温かい笑顔で見守っていたのが、余計にうれしかった。

 参加した子どもたちが、職人になってくれるかどうかは分からない。けれども、そうした小さな一歩が無ければ前には進めない。目標は「とびは格好いい!」と若者に思ってもらうこと。そのための挑戦は、これからが本番だ。

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