2019年8月19日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・234

機械設備が好きな一心で公務員になった
 ◇自覚は後からついてくる◇

 地方自治体の下水道局に勤務する原口文人さん(仮名)は働き始めて14年目。入庁から5年間は下水道施設の機械設備工事に奔走した。豊富な現場経験を持つ原口さんの仕事ぶりに周囲も厚い信頼を寄せるが、その評価とは裏腹に「最初から公務員になりたくてなったわけではない。公僕としての自覚を持ったのもだいぶ遅かった」と苦笑する。

 原口さんは大学、大学院で機械工学を専攻し、院生時代には指導教授と共同研究に打ち込んだ。就職活動では機械関係の職種を希望。研究職は頭になく、メーカーも性に合っていないと感じた。機械というだけでただでさえ就職先の幅が狭まってしまった上、えり好みもあって公務員という道しか選択肢がなかった。

 入庁してすぐ、下水道設備の保全を手掛ける部署に配属された。専門用語が飛び交う環境に身を置き、早く下水道の知識を身に付けなければと焦る日々。しかし、指導係の先輩は職人かたぎで手取り足取り教えてくれるタイプではなかった。最初の指導らしい指導といえば、ミーティング時に言われた「分からなくてもいいから、とにかく聞こえたままノートに書いておけ」という指示。その言葉に従い愚直にメモを取り続けた。

 数カ月後、ふと入庁当初に使っていたノートを開いてみると、空耳で書き留めた単語がずらっと並んでいた。思わず笑ってしまったが、「間違いを笑えるということはそれだけ知識が身に付いたということ。自らの成長を実感する貴重な経験ができた」。その後も習うより慣れろの精神で、現場に出て技術屋としての知識や経験に磨きを掛けていった。

 6年目に畑違いの環境局に異動した。下水道局は自ら事業を持っているが、環境局は規制部門として地域住民の生活に害が及ばないよう環境影響評価(環境アセス)の実施や、大気汚染・水質汚染対策などを指導する立場だ。環境局の営繕系の部署に着任したが大きな機械が好きなため、ビルの換気扇やエレベーターには興味が持てなかった。当初は仕事のモチベーションを維持するのが大変だったが、続けるうちに行政ならではの仕事のおもしろさも感じられるように。

 「規制される側からする側へと立場が逆転し、グループの別会社に転職したような新鮮な気分を味わえた」

 現在は下水道局に戻り設備設計を担当している。いつかは現場に戻りたい。その時には「次に現場を担当するときは若手職員を率いる立場になる。現場を円滑に回すためうまく立ち回らなければならない」と思っている。

 技術屋としての腕を試したいと息巻いていた若いころとは現場に対する考え方が変化した。「公務員は住民の生活を守るために誰かがやらなければいけない仕事だ。だったら俺がやってやる」。選んだ理由は消極的だったが、今は公務員を一生の仕事だと思っている。

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