2020年6月30日火曜日

【プチ芸能人と割り切って上手に伸ばそう】若者研究家・原田曜平氏に聞く「若者研究のススメ」

 ◇下から目線と未来志向がキーワード◇

 イマドキの若者の気持ちはよく分からない-。世代を超えて言い続けられているフレーズだ。社会の変化のスピードが増している中で、そうした思いをより強くしている人も多いだろう。ITツールの浸透などが、これまでとは異なる変化を若者に与えている要素もある。社会に出てきた若者世代とどう付き合っていくべきなのか。若者研究家でマーケティングアナリストの原田曜平氏にアドバイスしてもらった。

 □「Z世代」は新種の生き物□


 大卒者で社会人2年目くらいの22、23歳から下の世代は「ジェネレーションZ(Z世代)」や「脱ゆとり世代」と呼ばれている。Z世代は初めて手にした携帯電話がスマートフォンで、高校1年生のころにはツイッターやインスタグラムなど複数のSNS(インターネット交流サイト)を使いこなしていた。「SNS・スマホネーティブ」とも言えよう。

 携帯電話が広まる前は、職場や以前からの友人が交流の中心だったため、こうした人間関係を何とかうまくやっていこうと周りに合わせていた。私も含めて昭和型の人は「一緒に飲んで話をすれば分かる」というところがあった。だがZ世代は違う。「社会とはこういうものだ」と話をしても、スマホですぐに検索すれば、違う回答や選択肢が出てくる。スマホやSNSでガス抜きができてしまうため、むやみに愛社精神を持ったり徒弟社会を受け入れたりする必要がない。Z世代は新種の生き物と考えた方が良い。

 Z世代を考える上でのキーワードは「チル(まったり)&ミー(自分)」だ。成熟社会に生まれてきたため、もともとの生活ベースが豊かで衣食住は足りている。まったりしていても生活できた。少子化の環境でかわいがられて育ってきて、SNSで発信すれば「いいね!」とほめられるため、自意識や権利意識が非常に強いことも特徴だ。写真投稿に慣れていて美的感覚に優れているのは強みだが、言葉を選ばずに言えば「プチ芸能人気取り」の側面がある。

 労働人口が減少傾向にある中で、新型コロナウイルスの影響が出る前は有効求人倍率が非常に高く、「ダイヤモンドの卵」とまで言われていた。就職や転職への不安や恐怖感が減っていて、嫌なことがあればすぐに辞めてしまうような行動にもつながっていた。新型コロナの影響に伴う景気悪化で若者の意識が少し保守的になるかもしれないが、長期的に見て恵まれている状況に変わりはない。

 □受け止め方側の認識を大切に□


 上からではなく若者の目線でアドバイスすることが重要。「この人と一緒にいれば得をする」と思われれば、若者は付いてくる。「横から目線」もっと言えば「下から目線」で接するべきだ。今までとは違ったコミュニケーション能力が必要になるため、管理職のレベルを上げなければいけない。

 動機付けも非常に大切な要素となる。バブル崩壊以降の低成長時代を生きてきたため、「上昇志向を持ったところで報われないし、見返りも少ない」というような感覚を持っている。何らかのインセンティブを見せる必要がある。若者の自意識をくすぐりながら気持ち良くさせ、成長を後押しするようなしたたかさが必要だ。

 Z世代は昔の世代のように給料に対してガツガツはしていない。だがSNSがあるので、周りより低ければそれが可視化され不満につながる。処遇が少しずつ上がっていく感覚をしっかりと与えるべきだ。

 実際の可処分所得だけではなく、感覚的な面での満足度も大切となる。自己承認欲求が強いので、誕生日を祝ったり、順番に表彰したりするだけでも非常に喜ぶ。例えば女性社員に美容手当を支給しているあるIT企業は、大手一流企業に比べて処遇は見劣りする。だが若者からの人気は非常に高い。給料がそれほど高くなくても、別の面で満たされていれば「体感給与」(給与の受け止め方)は上がるのだ。

 十分な休日の確保やワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭の調和)は必須条件だ。ただ単に休みを増やすのではなく、ボランティア休暇など若者の意向に沿った休みを増やした方が良いだろう。忘れてはいけないのは、Z世代にとって“プライベートを上回る仕事は存在しない”ということ。スマホでゲームをしたり動画サイトを見たりしていた方が絶対に楽しい。どれほど楽しい仕事であっても、プライベートを超えるほど好きにならないと諦めた方が良い。

 □権限移譲し任せてみよう□


 就活生に企業ホームページの感想を聞いたところ、いかにも昭和世代という経営者の熱いメッセージは大不評だった。会社への帰属意識が低下し、転職も当たり前になっているため、「数年間は気持ち良さそうだ」と何となく思わせることが重要になる。今の若者は著名なタレントよりも、近しい人に憧れる傾向がある。ほどほどに感じが良い若手社員が前面に出ていて、快適に過ごしている姿を見せる方が良いイメージを持ってもらえる。

 技術の話をしても、自分の文脈で物事を考えるZ世代にはあまり響かない。Z世代は自分が第一。困難に立ち向かって切り抜けていくような姿を示すことは、マイナスではないが順位としては2番目になっている。ただしっかりとした企業哲学を持っていることは、親世代に対してはポイントが高い。親子をセットに考えてアピールすることも大事だろう。

 若者研究を20年続けているが、この10年くらいはジェネレーションギャップを強く感じている。正直に言えば、若者の考えていることがよく分からない。だからこそ、私が主宰する若者研究所では、若者たち自身にアイデアや答えを考えてもらい形にしている。若者も時間がたてば社会の中枢で活躍する。若者研究とは未来研究であり、それは広い意味で企業が未来の社会に適合していくことにつながる。

 建設業界で働く若者にインタビューをすると、多くが「縦社会がきつい」「上から染めようとしている」といった不満を口にする。彼ら、彼女らが快適に思う会社や制度にしていくべきだ。若手だけのプロジェクトチームに権限を移譲する。若者にとって持続可能なモデルを考えてもらい、その方向に会社を修正していく。建設会社もそうした方法をとってみてはどうか。それは企業が長く続くための未来目線を作ることでもある。

 □今が変革のチャンス□


 若者はずっとスマホを手にしており、テレビ世代よりもはるかに多くの時間を広告と接している。そうした状況を踏まえつつ、広告・広報戦略を練って若者にPRしてほしい。厳しい言い方だが、若者にとって建設分野は無関心業界に近い。もっとプロモーションに力を入れるべきだ。

 新型コロナの影響が広がっているが、スマホネーティブの若者世代は遠隔でのやりとりにもともと慣れている。むしろ中高年の方が価値観は変わったはずだ。新型コロナによる変化をきっかけの一つにして、建設業界のイメージを変えていってほしい。今こそチャンスの時期だ。

 (はらだ・ようへい)マーケティングアナリスト、渡辺プロダクション所属。慶応大学商学部卒業後、博報堂に入社し博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーなどを歴任。「さとり世代」や「マイルドヤンキー」など流行語の名づけ親として知られる。若者と共に広告・プロモーション開発を行う原田曜平若者研究所も主宰する。TBS「ひるおび」などにレギュラー出演中。

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