2020年9月4日金曜日

【公共トイレのイメージ一新】日本財団、東京・渋谷で「THE TOKYO TOILET」プロジェクト

はるのおがわコミュニティパークに整備されたトイレ。
施錠すると不透明になる特殊なガラスを採用している

 ◇建築家らが快適空間デザイン◇

  東京都渋谷区内にある公共トイレが新たな姿に生まれ変わっている。日本財団(東京都港区、笹川陽平会長)が建築家やデザイナーらと連携し、トイレをデザインするプロジェクト「THE TOKYO TOILET」を展開。多様性を受け入れる社会の実現を目指し、幅広い利用者が快適に利用でき、デザイン性も兼ね備えた公共トイレを整備している。

 改修対象は渋谷区内にある17カ所の公共トイレ。日本財団の笹川順平常務理事は、公共トイレには安全・衛生面でマイナスイメージが強く、「一部の利用者にとって使用しにくい状況になっている」と指摘する。プロジェクトには「幅広くみんながフェアな世界を作っていく」思いを込めている。

 「クリエーティブの力で社会課題を変えていくのは重要」と笹川常務理事。内外装のデザインはプロジェクトに賛同した16人の建築家、デザイナーらが担当した。建築家の槇文彦、坂茂、坂倉竹之助の各氏をはじめ、世界で活躍するクリエイターが名を連ねる。快適な空間を創出するデザイン力や発信力を通じて、プロジェクトの意義を多くの人々に周知する。

 リニューアルするトイレの機能やデザインの検討にはTOTOも協力。先進的な機能を備えたトイレが公共スペースで利用できることで「日本が誇るトイレを世界中に発信する」(笹川常務理事)狙いもあるという。

 トイレの建設費は1カ所当たり約1億円。設計と施工は大和ハウス工業が担当している。8月31日時点で6カ所が竣工した。恵比寿公園のデザインはインテリアデザイナーの片山正通氏が担った。川で直接用を足す縄文時代早期のトイレ「川屋」をイメージ。コンクリートの壁15枚を組み合わせた建物は「何げなく公園にたたずむオブジェクト」として公園になじんでおり、利用者が「不思議な遊具と戯れる」ような独特な関係性を目指した。

 坂氏は代々木深町小公園と、はるのおがわコミュニティパークの二つをデザインした。最大の特徴は外壁に使用した特殊なガラス。施錠時だけ不透明になる仕様になっている。利用者が外から内部を確認できるようにすることで、不安を感じることなく利用できるようにした。「透けるトイレ」という斬新な発想は国内外のメディアも注目し、発信しているという。

 恵比寿東公園に完成したトイレは槇氏のデザイン。建物全体をなだらかな屋根が覆い、壁との隙間から光や風を取り込む構造になっている。

 赤い外壁が目を引く東三丁目公衆トイレのデザインは、プロダクトデザイナーの田村奈穂氏が手掛けた。渋谷を訪れるインバウンド(訪日外国人旅行者)へのおもてなしや、利用者を「包み込む安全な場所」を念頭に、日本の贈り物文化を象徴する「折形」をほうふつとさせるデザインにした。


 西原一丁目公園には坂倉氏がデザインしたトイレが完成。トイレの外壁が内部照明の明かりを通し、夜間の公園を「あんどん」のように照らす。公園全体のイメージを明るく開放的にして、気軽に足を運べるようにした。

 トイレの完成後も快適な空間を維持するための取り組みに力を入れる。日本財団と区、渋谷区観光協会は協定を結び、清掃などメンテナンスを継続的に行う。「快適な空間を提供するという誇りを持ってもらいたい」(笹川常務理事)との思いから、清掃員のユニホームも新調した。

 プロジェクトを通じて「身近にある課題は変えられるということを世の中に理解してもらいたい」と笹川常務理事。公共トイレ以外の社会課題に対しても「これまでに無い解決方法でトライすることで、より良い社会になっていくのではないか」と話す。2021年夏までにすべてのトイレでリニューアルが完了する見通しだ。

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