2020年10月12日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・268

上司に鍛えてもらった経験から
「現場は自分が育った場所」という意識が強い

 ◇自分を鍛えてくれた上司◇

  「誰にでもモチベーションを高められるタイミングがある」。土木系技術職としてゼネコンで働く岩槻弘敏(仮名)さんは、現場で上司に鍛えてもらった経験からそれを知った。だが自分が上司の立場になった今、部下や後輩のモチベーションを高めながらどう育てていくか悩んでいる。現場は人手不足もあり仕事に追われる日々。自分を育ててくれた当時の上司と同じような指導はできていない。

 広島県出身の岩槻さんは大学進学時に東京へ上京し卒業後、ゼネコンに就職した。東京や関東地方の土木現場をいくつか回った後、30代で北海道に赴任。配属されたのはJV職員だけで50人くらいはいる大規模なダム現場だった。ちょうど掘削が終わり、工事が最盛期を迎えていた。意気込んで赴任したものの、配属当初は「散々だった」と岩槻さんは振り返る。

 「もっと働け、おまえの仕事なんか全然仕事しているうちに入らない」。今でも頭に残っている当時所長だった上司の言葉だ。一生懸命頑張っているのに、他の社員や職人の前で毎日のように叱責(しっせき)された。いくら何でも言いすぎだろうと思ったし、理不尽さに反感を覚えたり落ち込んだりもした。

 上司に叱られる日々の中で、自分のモチベーションが徐々に高まっていたと気付いたのは工事が一段落してからだ。叱られないように、ミスをしないように必死に仕事に食らいついていたら、いつの間にか着工当初から現場にいる人たちと同じモチベーションで仕事と向き合うようになっていた。

 「途中から工事に参加した自分が彼らと同じモチベーションで働けるよう、上司はあえて厳しい言葉で鼓舞してくれたのではないか」。工事を最盛期まで引っ張ってきた人からすれば、途中から来た岩槻さんが「自分はみんなと同じくらい働いている」というスタンスだったら、受け入れがたかったかもしれない。

 もちろん単に叱れば鼓舞できるというものでもない。上司には部下のモチベーションを高めるタイミングが見えていたのだと、岩槻さんは思っている。そしてモチベーションが高まっている状態で仕事をやり遂げた時、充実感や達成感がより大きくなることを知った。

 ダムの現場を完成まで10年ほど担当し、現在は北海道内の別の現場で管理職をしている。先端技術の普及に伴い、現場には施工効率を高めるさまざまなICT(情報通信技術)ツールが導入されている。だが人手不足で社員が忙殺される状態はあまり解消されていない。

 「『いま頑張れば大きな達成感があるよ』とハッパを掛けたいが、自分はかつての上司のように叱ることはできない」と岩槻さん。疲弊している彼らの労働時間を少しでも減らさなければ「モチベーションもなにもない」と指導の在り方に悩む。職員の負担を減らすことに尽力し、叱らずともしっかりと職員と向き合う。「上司のやり方とは違うかもしれないが、自分なりの方法で後輩たちを成長させたい」と思っている。

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