2020年12月22日火曜日

【回転窓】コツコツと地道に

  年始のあいさつとして親しい人やお世話になった人に送る年賀状。正月の朝、ポストに届いたはがきを見て安心したりびっくりしたりすると、「新しい年が来たな」としみじみ思う▼年賀状が一般に定着したのは1873年に郵便はがきが発行されるようになってから。年始のあいさつをする風習は平安時代からあり、遠方で訪れるのが難しい場合、貴族や公家、武家などが簡易書簡を送っていたという▼おなじみのお年玉付き郵便はがきは2003年用の44・6億枚が発行枚数のピークで、電子メールやSNS(インターネット交流サイト)の普及もあり、20年用の当初発行枚数は最盛期の約半分、23・5億枚まで減った▼新型コロナウイルスの流行で直接会うのがなかなか難しい現在。巣ごもり時間が多くなったこともあるのか、年賀状アプリのダウンロード数が昨年より増えているという。会えない分は思いを込めた年賀状で届けるのだろう▼元日配達を希望する場合、25日までに投函(とうかん)する必要がある。21年は丑(うし)年。牛は「誠実さ」を象徴している。コツコツと地道に-。第一歩は年賀はがきの購入からか。

【施工は竹中工務店・大林組JV】うめきた2期地区開発、南北両街区で賃貸棟の建設着手

南街区賃貸棟の完成イメージ

 都市再生機構と三菱地所を代表とする9社の企業連合は21日、JR大阪駅北側(大阪市北区大深町)で進める「(仮称)うめきた2期地区開発事業」で、賃貸棟の建設工事に着手したと発表した。「『みどり』と『イノベーション』の融合拠点」のまちづくり方針のもと、コロナ禍で加速したニューノーマルや持続可能な開発目標(SDGs)などに配慮した新しい都市モデルの実現を目指す。賃貸棟の施工は竹中工務店・大林組JVが担当。一部の都市公園を含め2024年夏ごろに先行区域のまちびらきを予定。

 計画地は大阪駅北側に隣接する約9万1550平方メートル。都市再生機構が土地区画整理事業を進め、南街区と北街区の間に約4万5000平方メートルの都市公園を整備する。両街区には業務や商業、居住、宿泊、MICE(国際的なイベント)機能などを設け、施設群の総延べ床面積は55万平方メートルを超える。

 両街区ともに賃貸棟と分譲棟を計画。南街区の賃貸棟は西棟が地下3階地上39階建て、東棟が地下3階地上28階建てで総延べ約31万4250平方メートル。低層階に店舗を置き、国内外の大手企業が入居するオフィスを設置。東棟は都市型スパ、西棟にはMICE施設が入る。宿泊機能は高級ホテルなど約730室も設ける。分譲棟は地下2階地上51階建て延べ約9万3000平方メートル。住戸数は約600戸。

 北街区の賃貸棟は地下3階地上26階建て延べ約6万4200平方メートル。低層階に店舗で、その上はイノベーションを創出する企業などに賃貸。10階以上は約300室のホテルが入る。分譲棟は約600戸で規模は地下1階地上47階建て延べ約8万5000平方メートルを想定する。

都市公園の完成イメージ

 都市公園の南エリアは芝生広場と水景を中心とした芝生の広場とし、多くの人が集う場所にする。北エリアは緑豊かな自然を感じられる憩いの空間として整備する。南北エリアは空中デッキで結ぶ。公園の管理運営はマネジメント組織が担い、多彩なプログラムやイベントを実施する。

 このほか、区域内にはおおむね8万平方メートルの「みどり」を創出。公園の連続性を高めるため、園路を設けるほか、大阪駅や隣接するグランフロント大阪北館などと接続するデッキを設置し、歩行者の利便性を確保する。27年度に全体の開業を目指す。

 企業連合は三菱地所のほか、大阪ガス都市開発、オリックス不動産、関電不動産開発、積水ハウス、竹中工務店、阪急電鉄、三菱地所レジデンス、うめきた開発特定目的会社の9社で構成する。

 設計全体を日建設計と三菱地所設計が統括し、南街区の賃貸棟は三菱地所設計と日建設計、大林組、竹中工務店、北街区の賃貸棟は日建設計と竹中工務店がそれぞれ設計を担当。分譲棟は両街区ともに設計者は未定。

【サッカースタジアムなど総延べ19.5万㎡】長崎スタジアムシティ、ジャパネットHDが設計・施工者の公募手続き開始

長崎スタジアムシティプロジェクトの鳥瞰イメージ
(ジャパネットHD提供、構想段階のため今後デザイン含め変更の可能性がある)

  ◇4工区、総延べ19・5万㎡◇

 通信販売大手のジャパネットホールディングス(HD、長崎県佐世保市)は21日、「長崎スタジアムシティプロジェクト」の実施設計・施工一括発注の競争見積もり合わせ参加希望者募集を開始した。I~IV工区で構成し施設規模は総延べ約19万4900平方メートル。2021年1月8日まで参加申請書、同3月19日に見積書をそれぞれ受け付け、同4月に実施設計・施工予定者を決定する。

 同プロジェクトでは三菱重工業長崎造船所幸町工場跡地(長崎市幸町ほか、敷地面積6万8746平方メートル)にサッカーJリーグ2部(J2)に所属するV・ファーレン長崎のホームとなる約2万席のスタジアム、約5000席のアリーナ、約270室のホテル、オフィス、商業施設などを建設する。

 建物規模は▽I工区(スタジアム棟、ホテル棟、南商業棟)S・RC造16階建て延べ約10万6800平方メートル▽II工区(アリーナ・サブアリーナ棟、エネルギーセンター棟)SRC・RC一部S造4階建て延べ約2万6300平方メートル▽III工区(オフィス棟)S造13階建て延べ約4万1800平方メートル▽IV工区(駐車場棟)S造6階建て延べ約2万平方メートル。

サッカースタジアムの完成イメージ
(ジャパネットHD提供、構想段階のため今後デザイン含め変更の可能性がある)

 業務内容は各工区の実施設計、工事監理、施工など。実施設計は基本設計担当者とJVを結成して行う。実施設計期間は21年4月下旬~22年3月下旬(建築確認申請期間を含む)。22年に着工し、24年2月ごろの開業を目指す。

 見積もり合わせには単独企業で参加し、工事請負契約の締結までに県内に本社がある企業、市内に本社がある企業各1者以上とのJV結成を求める。

 参加資格は▽I工区=収容人員1万人以上の球技場や陸上競技場、延べ2万平方メートル以上のホテルを有する施設▽II工期=収容人員2500人以上か延べ4000平方メートル以上のアリーナや運動施設▽III工区=延べ2万平方メートル以上の事務所や庁舎▽IV工区=延べ5000平方メートル以上の立体駐車場-のいずれも新築工事を00年度以降に元請として完成済みまたは完成を予定していることなど。

 PM(プロジェクト・マネジメント)業務はジョーンズラングラサール、CM(コンストラクション・マネジメント)業務は三菱地所設計、基本設計業務は環境デザイン研究所・安井建築設計事務所JVが担当。

【凜】東京都住宅政策本部都営住宅経営部・太田綾子さん

 ◇「建物を安全に」初心忘れず◇

 実家のある石川県の高等専門学校で建築を学んでいたころ、阪神・淡路大震災があった。早朝の揺れで目は覚めたが、まさか大惨事になるとは思いもしなかった。しばらくしてテレビをつけた時、目に飛び込んできた神戸の街。「その光景が忘れられない」と話す。以来、構造分野に意識的に取り組むようになった。

 高専と大学では地盤や建物の振動解析を一貫して研究。設計事務所に就職し構造設計に9年携わった。結婚と出産を経て生活環境が変わった時期に転職を決意。以前と違う形でも「地震と建物に関わる仕事は続ける」と心に決めていた。

 入庁して間もなく担当した都庁舎の長周期地震動対策が印象に残っている。有識者会議で約3年調査・検討し、2011年に対策内容をまとめた。段階的な改修工事は今も進む。庁舎内のフロアに設置された制振装置を感慨深く見つめる。

 現在は都営住宅の耐震化を担当。低層階に併設する保育所や店舗と調整しながら、耐震化をいかに実現できるかが腕の見せどころ。設計実務と求められる役割は異なるが、都民の安全を守るため奮闘している。

 2人の子どもを育てながら仕事を続けてきたこつは「今できることをやる」に尽きる。「仕事の時は仕事。子どものことで譲れない時はそれを精いっぱいやる」。建物を安全にする仕事に関わり続けたい-。高専生のころの初心を思い出せばまだまだ頑張れそうだ。

 (住宅整備課課長代理建築担当、おおた・あやこ)

【やっぱり!マイユニホーム!!】タツミプランニング「女性の活躍、おしゃれに後押し」

  高松コンストラクショングループ(TCG)の事業会社、タツミプランニング(横浜市西区、寺田勇一郎社長)は、2017年から女性専用のユニホームを導入している。

 シックなネイビーの生地に映える鮮やかなピンクのファスナーラインが特徴。「女性の魅力ややる気を引き出し、建設現場で働く女性のさらなる活躍を後押ししたい」と開発担当者は話す。

 上着の裾で腰袋が隠れないよう、上着のサイドにファスナーを設けて腰袋を使いやすくした。パンツの生地にはストレッチ素材を採用し、現場での動きやすさに配慮した。パンツの裾の裏側に入ったピンクのラインは隠れたアクセント。現場以外の場所で裾をロールアップすると、ラインがのぞいてアクセントになる仕掛けだ。現場の外で「隠れたおしゃれ」を楽しめる遊び心を盛り込んだ。

 以前は男女共通のユニホームを着用していたが、女性社員の増加などを背景に専用ユニホームを用意した。現場監督を務める工事部の女性社員は「ポケットの位置は現場での動きを想定していて使いやすい。(ユニホームを着ると)現場仕事に気合が入る」と話している。

【駆け出しのころ】ピーエス三菱常務執行役員東京建築支店長・光田秀幸氏

  ◇人のつながりが仕事の縁に◇

 三菱建設(現ピーエス三菱)に入社後、最初の配属先が札幌支店と聞いて耳を疑いました。地元が九州の新入社員は東京以西のエリアに例年配属されていたのですが、私の代はできるだけ親元から離し若いうちにいろいろな経験を積ませようと、会社の方針が変わったようです。

 研修を終えて6月から札幌市内で施工中の事務所ビルの現場に3カ月ほど勤務。先輩に教わりながら墨出しや各工程の写真撮影などを行いました。

 1年目の秋から自衛隊の宿舎と隊舎の建築工事の現場を担当し、真冬の北海道を体感しました。生コンクリートの打設や左官といった作業があった日は、養生のため夜通しでジェットヒーターを運転し続けます。現場事務所のストーブの前で寒さに耐えながら、4時間おきに給油する作業はさすがにこたえました。

 現場所長に施工図の描き方を教わった時、「自分で考えて(線を)引かないとうまくならないぞ」とよく言われたのを覚えています。描いた通りに現場が動いているかをチェックし、収まりなど細部により気を配るようになりました。

 2年目は夏から冬にかけてニセコのスキー場でリフトの延伸とレストランの整備に携わりました。ミキサー車が現場には入れず、既設のリフトを使ってバケツで生コンを運搬。リフトの延伸場所にはヘリコプターで運びました。作業が予定より早く終わった時、遊覧飛行でヘリに搭乗させてもらったのは良い思い出です。

 3年目で結婚し翌年には九州支店へ異動。単身赴任であちこちの現場を回り、長男が生まれた時は沖縄だったため、息子の顔を初めて見たのは生後2カ月たってから。家族に申し訳ないという思いが拭えませんでした。

 30歳前後で担当した福岡・天神の大型複合ビルは思い出深い現場の一つです。未経験の地下工事に多少の怖さも感じましたが、地元注目の案件だったのでやりがいはありました。

 40代になって営業職に異動しました。右も左も分からない中、プライベートも含めて人とのつながりを大切にしてきたことが受注につながりました。営業で大切なのは自ら汗をかくこと。コロナ禍で最近はオンラインでの打ち合わせが増えていますが、面と向かって相手が何を求めているか感じ取ることも重要です。顧客のかゆいところに手が届くような仕事をしないと長続きしません。

 若手には「周囲から愛されるファンをつくる」「失敗を恐れず何事にもチャレンジする」ことを心掛けてもらいたい。一人で完結させようとして失敗する若者の姿をよく目にします。上司や先輩にうまく頼ることが苦手なのかもしれません。社内外でファンを増やしながら、失敗も成長の糧にステップアップしてほしいです。

営業マンとして駆け出しだった入社19年目、九州支店の同僚らと
(右から2人目が本人)

 (みつた・ひでゆき)1981年熊本大学工学部環境建設工学科卒、三菱建設(現ピーエス三菱)入社。九州支店副支店長、建築本部副本部長、執行役員東北支店長などを経て2020年4月から現職。熊本県出身、63歳。

2020年12月16日水曜日

【回転窓】身近な美しい景色

  紅葉が終盤を迎え、イチョウ並木では黄色いじゅうたんを見掛けるようになった。冬の訪れを前に木々たちも準備を開始したようだ▼20年前に元マラソン選手で、今も解説者として活躍する増田明美さんに取材したことがある。ランナーから見た道路づくりを聞いたのだが、その時印象的だったのが、競技中に見たナナカマドの紅葉の美しさが忘れられないという話▼札幌市で開かれた大会でのこと。数十キロ走り、少し疲れたところで沿道に植えられ赤く染まったナナカマドを見て「まるで頬を染めたクリスマスツリーのようだった」と。そう思うと急に疲れが取れ一気に走れたという▼競技中、先頭集団から遅れずるずると後退していく時、前を走る選手の背中とその間の道路しか見えなくなる。それで視線がどんどん下がり、足が重くなっていくという。どんなにつらい時も視線を落とさず、周りを見る余裕が大切なのかもしれない▼政府はGoToトラベルの全国一斉の一時停止を決めた。年末年始の旅行を楽しみにしていた方もいただろう。だが、今は我慢の時。周りを見渡せば身近にも美しいものがたくさんあるはずだ。

【回転窓】単純明快でいいのに

  通勤電車に乗っていると車内にいる多くの人がスマートフォンを操作している。ニュースにファッション情報、乗り換え案内、ゲーム。片手に収まる小さな端末は必需品の一つになっている▼総務省の2020年版情報通信白書によると、世帯の96・1%(19年実績)が何らかのIT機器を保有し、スマホの保有率は83・4%と初めて8割を超えた。10年実績で9・7%だったスマホの保有率は10年間で9倍になった計算だ▼スマホは確かに便利なのだが、料金の高さや料金体系の複雑さが玉にきず。4人家族で全員がスマホを持ち、大手キャリアと契約していると1カ月の料金が平気で2万円を超えてしまう▼菅義偉首相が官房長官の頃からことあるたびに求めてきた携帯料金の引き下げ。ここに来てNTTドコモが月間データ容量20ギガバイトが月額2980円で利用できる料金プランを発表。残る2社がどう対抗するのか動向が注目される▼もうすぐ78歳になる母親が最近、ガラケーからスマホに変えた。基本料金は安いのになぜか月に払うのは5000円近く。もっと単純明快な料金体系にすればいいのにと思わずにはいられない。

【3部門で入賞作品選定】ウッドデザイン賞、最優秀賞に「有明体操競技場」選定

最優秀賞を受賞した「有明体操競技場」。天井の木架構の現しは来場者を圧倒する

 
 ウッドデザイン賞運営事務局(活木活木森ネットワーク、国土緑化推進機構、ユニーバーサルデザイン総合研究所)は第6回「ウッドデザイン賞2020」を決めた。応募総数432点の中から最優秀賞(農林水産大臣賞)に「有明体操競技場」(日建設計、清水建設ら)を選定。優秀賞9点、奨励賞15点、特別賞4点も選んだ。18日に東京都内で開く表彰式をオンラインで映像配信する。

 ウッドデザイン賞は木で暮らしと社会を豊かにするモノ・コトを表彰し、国内外に発信するための顕彰制度。▽ライフスタイルデザイン▽ハートフルデザイン▽ソーシャルデザイン-の3部門で構成する。

 最優秀賞は日建設計、清水建設、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の3者が手掛けた「有明体操競技場」が受賞。日本の伝統的な木造建築の美しさを醸しつつ、多くの観客を迎え入れる競技場としての機能性を併せ持つ、世界に発信すべき建築として高い評価を得た。

 優秀賞(林野庁長官賞)には3部門各3点の計9点が選ばれた。ライフスタイルデザイン部門は三菱地所、三菱地所設計、隈研吾建築都市設計事務所の3者による「CLT PARK HARUMI」が受賞。CLT(直交集成板)のショーケースで木に触れ、魅力を感じることができる空間。都市と地方を結ぶ循環型経済モデルとしても独創的な取り組みと評価された。

 ハートフルデザイン部門の奈良県コンベンションセンターは奈良県、PFI奈良賑わいと交流拠点、大林組大阪本店一級建築士事務所、梓設計、大林組によるプロジェクト。地域の交流拠点として、天平文化の高貴さの表現と木の質感や表情がうまく融合していると評された。

 ソーシャルデザイン部門は竹中工務店ら6者による「FLATS WOODS木場」が受賞。都市の景観に柔らかさを与えつつ、森林資源と経済の循環を目指す先導的モデルである点が高く評価された。

【BMX会場の都有地活用】有明アーバンスポーツパーク整備運営事業、都が民間ヒアリングの参加者募集

 東京都は、東京五輪・パラリンピック閉幕後の整備を予定している「(仮称)有明アーバンスポーツパーク」の運営に意欲を持つ民間事業者を対象としたヒアリングを行う。

 都は施設整備や運営・維持管理を担う民間事業者を公募する方向で検討している。ヒアリングでは、周辺一帯ににぎわいをもたらす施設となるための事業手法や事業内容、施設整備、運営内容などを聞く。

 同パークの整備予定地は江東区有明1の7の2の一部。東京五輪の自転車(BMX)とスケートボードの仮設競技会場を設置する都有地を活用する。都は同パークを含む有明北地区を「有明レガシーエリア」と位置付け、ほかのアーバンスポーツの仮設施設も集約した「アーバンスポーツゾーン」を形成することを計画している。

 ヒアリングへの参加申し込みを2021年1月8日まで受け付け、同1月22日まで資料提出を求める。参加事業者には、実際の運営を担うことを前提に事業手法や事業計画を提案してもらう。単独でもグループでも参加可能。スポーツを中心に据えた施設の運営実績が参加要件となる。ヒアリング結果を基に同パークの整備・運営計画を具体化させる。

 都は有明レガシーエリアのコンセプトを固めるため、民間の進出意欲を探るサウンディング(対話)型調査を18年度に行っている。同調査には建設業者やデベロッパーなど26者が参加。アーバンスポーツゾーンには教育やリハビリなどのスポーツ関連施設に加え、キャンプ施設や職業体験施設を設けるアイデアが寄せられていた。

【総延べ4.9万㎡の施設整備計画】としまえん跡地開発(東京都練馬区)、基礎解体に大成建設参画

スタジオツアー施設の完成イメージ
(8月18日時点、報道発表資料より)

  伊藤忠商事と西武鉄道が計画する東京都練馬区の「としまえん」の跡地開発に、大成建設が参画していることが明らかになった。一部の基礎解体工事を手掛けている。既存の遊戯施設や建築物の解体は、西武建設が担当。2021年3月に始まる予定の本体工事の施工者は決まっていない。23年2月末の竣工を目指す。

 としまえん(向山3の25の1)は、8月31日に閉園した遊園地。跡地に、ワーナーブラザースジャパンの映画「ハリーポッター」シリーズのスタジオツアー施設を中心とした、総延べ約4・9万平方メートルの建築物を整備する。設計は久米設計が担当している。

 施設を巡っては、▽ワーナーブラザースジャパン(施設運営者)▽西武鉄道(土地所有者)▽伊藤忠商事(施設建築者)▽芙蓉総合リース(施設所有予定者)-の4社が、整備の本契約を結んだと8月18日発表した。

 本契約公表時点の計画によると、スタジオツアー施設の名称は「ワーナーブラザーススタジオツアー東京 -メイキング・オブ ハリー・ポッター」。ハリーポッターシリーズの映画の撮影で使用したセットや小道具などを展示する。23年前半の開業を見込む。

【沿線の湧水活用しわさび栽培】JR東グループ会社、わさび栽培で沿線地域の活性化目指す

  鉄道沿線の湧水を使って「鉄道わさび」を栽培-。JR東日本の子会社、JR東日本スタートアップ(東京都港区、柴田裕社長)は、わさび栽培を通じた地域活性化の取り組みを展開する。

 湧水資源を活用したわさび栽培の事業化を目指すベンチャー企業、グリーンインパクト(千葉市中央区、多橋泰昭代表)と連携。トンネル湧水などを活用したわさび栽培の実証実験を行い、ビジネス化の可能性などを探る。

 実証実験は新潟県湯沢町のGALA湯沢駐車場内と千葉県君津市の円覺寺境内で行う。新潟では上越新幹線のトンネル湧水を使い本わさびを栽培。育成に成功したわさびをGALA湯沢スキー場内のレストランに提供する。千葉の実証実験では久留里駅周辺などにある自噴井戸の水を使って本わさびと西洋わさびを栽培する。

 収穫した鉄道わさびを栽培地周辺の飲食店に提供したり、加工・流通経路を探ったりしてビジネスモデルを構築する。

2020年12月14日月曜日

【回転窓】接客業の矜持とは

 南東北地方の山奥にある温泉駅に忘れてきてしまった手帳を売店の女性が送ってくださった。取材先のメールアドレスを書き留めており、電話口で読み上げてもらうなど大変な迷惑をお掛けした▼「お礼なんて結構ですよ。またいらしてください」。伺うのも、招くのも慎重にならざるを得ない時勢。思いがけない親切な言葉と善意にとても温かい気持ちになった▼駅近くに刀で鬼を退治する大人気漫画・アニメのファンがいわゆる聖地の一つに挙げる老舗の宿がある。吹き抜けのロビーの一部が、最終決戦にも登場するシーンを連想させてくれるのだと聞いた▼人気にどうあやかっているのか尋ねると、「これからもアピールはしません」と支配人。よもやの回答に驚いた。四季の絶景や上質なサービスが好評で常連客も多い。「おもてなしの中で『すてきな建築ですね』と評価していただければありがたい」。いっときの流行に乗らない姿勢に接客業の矜持(きょうじ)を感じた▼GoToトラベルの在り方が問われている。中止と継続、立場によってどちらも誤った判断になってしまう。感染症の収束を願わずにいられない。

【常に前向きな姿勢忘れずに】ものつくり大学・島本裕美子さん、技能五輪左官職で金賞獲得

 ものつくり大学の島本裕美子さん(技能工芸学部建設学科4年)が、愛知県で11月13~16日に開かれた「第58回技能五輪全国大会」の左官職種で金賞を受賞した。同大学では過去に3人が金賞を受賞。島本さんは4人目、女子学生として初めて金賞を獲得した。

 左官職種の競技は2日間で計10時間行われた。石こうボード2枚分の大きさの架台に軽量鉄骨と石こうボードで「ふかし壁」を作成し、その上に左官材料を塗る作業が課題だった。

 「今回の課題はふかし壁に段差や開口部があり、より繊細さが必要になる内容だった」と島本さん。大学で練習していた時と比べ架台の位置が高く、「脚立が必要になって時間をロスしたので、練習通り素早く作業することを心掛けた」という。

 大学で左官の授業を聞き、興味を持ったことが大会参加のきっかけ。先生の指導を受けながら練習を積み重ね本番に備えた。

 卒業後は左官関係の会社に就職が決まっている。常に前向きな姿勢を忘れず、「全国大会で入賞した女性の職人が頑張っている姿を見てもらい、職人を目指す人たちやお客さまに関心を持っていただけるようになれたらうれしい」とほほ笑む。

 同大会は厚生労働省と中央職業能力開発協会が主催。愛知県国際展示場など7会場で40種目が行われた。

【中堅世代】それぞれの建設業・274

基礎自治体や事業者との調整作業は重要だ

 ◇今度は背中を見るだけでなく◇ 

 3回も一緒に仕事をすることになるとは-。松井修也さんと、先輩の鈴木拓さん(いずれも仮名)は15年以上、広域自治体の事務系職員として苦楽を共にしてきた。今は関連団体に出向し、市町村の連絡調整や人事交流に携わっている。担当する自治体は土木や建築の職員が不足しているケースが多く、交流してノウハウを共有することが「喫緊の課題」と捉えている。

 2人は部長と次長という立場。鈴木さんは松井さんを「とにかくエネルギーがすごい人」、松井さんは鈴木さんを「3手4手先を読んで調整できる。僕とは対照的」と評価する。

 知り合ったのは入庁6年目の松井さんが厚生関係の部署から市町村課に異動した時。税制を市町村の担当者に説明する業務を行っていた。自分では一生懸命取り組んでいるつもりだったが、どうも空回りしてしまう。なかなか理解してもらえず苦悩は深まるばかりだった。

 そんな松井さんを見かねて飲みに誘ったのが同じ課で働く鈴木さん。「配属当初は多分君より失敗していた」「自分を『翻訳者』と割り切ればいい」と松井さんを励ました。

 翻訳するには相手の言葉を知らなければいけない。松井さんは中小事業者の声を聞きたいと思った。鈴木さんに知り合いの商店経営者を紹介してもらって話を聞き、情報を頭に入れて自治体担当者に説明するようにした。熱意は人一倍の松井さん。膝を詰めて説明を重ねる中で「分かってもらえるようになった」という。

 市町村課の後、防災関連の部署を経て異動した広報課でも鈴木さんが上司だった。報道対応では、取材の翌日にテレビを見たり新聞を読んだりするたび、意図とは違う報じられ方をする場面が出てくる。「僕たちがどういう情報を出したいかより、『自分が記者だったら』と考えてみればいい」と話す鈴木さん。まだまだ学ぶことは多いと感じた。

 広報を2年務めた後、松井さんは行政改革を担当した。新しく就任した知事が公共事業の入札制度改正に取り組んでおり、注目度の高い部署だった。

 知事の思いは伝わってきたが、ヒアリングでは中小企業の担当者から「人気取りに終始し、現場を見ていない」と批判の声が相次いだ。自分に何ができるかと、頭を抱える日々。思い出したのが鈴木さんの言葉だ。「翻訳者だと割り切る」「自分が業者だったら」と考えて、知事や幹部が何を意図しているのか、かみ砕いて説明した。

 そんな日々を2年過ごした後、現在の関連団体に出向した。鈴木さんも先に異動していた。「今度は背中を見ているだけではダメだな」。良き先輩を手本にして「僕にしかできないことを探したい」と決意を新たにしている。

【サークル】日本工営囲碁部「自由に対局できる環境で半世紀超え」

 1964年以前に設立され、社内でも屈指の歴史と伝統を誇る。相手の3手先を読む囲碁の面白さに魅了された有志の中には、歴代の社長もいた。ピーク時は総勢83人だった部員数は15人まで減ってしまった。けれども役職や年代に関係なく、一人でも多くの社員が「自由に気持ち良く対局できる環境づくり」をモットーに、活動を継続している。

 部員が多かったころは昼休みや週1回の「囲碁の日」に自由に対局したり、プロ棋士の岡信光氏が指導に当たったりして腕を磨いた。建設コンサルタントが参加する囲碁大会で4連覇を達成するなど、輝かしい戦績を収めている。熱海や箱根といった温泉地での強化合宿を通じ、部員の絆を強めてきた。

 8月に東京・麹町に本社が移転。現在は新社屋にある和室が活動拠点だ。新型コロナウイルスの流行を契機に「オンライン対戦」の導入も検討。「ざっくばらんに交流できる」のが囲碁の素晴らしさと部長の桜庭俊太さん。中断していた強化合宿を復活させたり、新入部員の勧誘を積極的に展開したりして、これからも伝統を守っていく。

【駆け出しのころ】日本設計取締役副社長執行役員・三井雅貴氏

 ◇設計力と対話力に磨きを◇ 

 若いころ、親戚が営む工務店の鉄工所で働いていた時に建築士の仕事に憧れを持ち、一念発起で建築を学ぶために進学しました。

 学生時代は地元の愛知で設計に関わるバイトをいろいろ行いながら、自分に合った就職先を考えていましたが、指導教官から勧められたのが日本設計でした。当時、東京の会社のことはよく知りませんでしたが、大きな組織で扱っている規模や業務内容の幅の広さに驚いたのを覚えています。

 入社後、最初の部署はオフィスや研究所、電算センターなどを比較的多く担当していました。当時はバブル期でとにかく忙しい毎日。新人ながら設計スタッフとして、いきなり顧客との打ち合わせに行き、図面も徹夜して描いていました。

 駆け出しのころ印象に残っている案件はIBMの幕張ビル。設計から現場での監理業務まですべてのプロセスを経験しました。すべて苦労の連続でしたが、プレゼンテーションの仕方から模型の作り方や見せ方、パースの描き方など、大変勉強になりました。

 図面を描くだけでは建築は成り立たず、きちんと顧客に説明し納得してもらう。建築士にとっての設計力は基礎体力としてもちろん大切ですが、対話する力がないとプロジェクトは絶対にうまくいきません。

 指導担当の先輩からよく言われたのは「知ったかぶりをするな」。若手の自分の知識は底が浅いのだから、積極的に聞くように諭されました。知識を蓄えるのは最低条件であり、少なくとも顧客よりも知っていないと、仕事でお金をもらう資格はありません。謙虚に勉強することが大切です。

 思い出深い仕事は東京スタジアム(味の素スタジアム)建設工事。その前に埼玉アリーナのコンペで負けた悔しさと、その時に勉強したスタンドのある建築物の面白さなどから、自ら志願してプロポーザルのチームに参加。スタジアムは当時の日本設計には実績がなかったため、友人や知人のつてをたどり、ずうずうしくもライバル会社の関係者に教えを請うことも。周囲の知恵を借りながら、知識を蓄えました。

 設計業務から現場常駐の監理業務まで約7年にわたって携わりました。設計変更が多く大変な事業でしたが、職人や元請など施工関係者の知恵を聞け、ネットワークが広がったのは今も大きな財産です。

 誰もが希望する仕事を担当できるわけではありません。どんな仕事でも興味の対象を見つけないと、成長の機会を逃すだけ。若手には面白みを見つける努力をしなさいと伝えています。またこういう時代だからこそ、丁寧に対話する必要性が増しています。設計力と対話力を磨き続け、選ばれる人、選ばれる組織へとさらなる成長を目指してほしいです。

入社2年目ころ。寝る間を惜しんで図面を描き上げていた

 (みつい・まさき)1984年豊田工業高等専門学校建築学科卒、88年豊橋技術科学大学大学院工学研究科建設工学専攻修了、日本設計入社。執行役員設計群長などを経て現職。愛知県出身、60歳。

2020年12月11日金曜日

【回転窓】多様性を支える

  「新型コロナウイルスで若者と女性、障害者がとても苦しい状況にある」。11月30日の参院本会議で自民党の今井絵理子参院議員が手話を交えて訴えた。手話を使った質問は参院本会議で初めて▼新型コロナでマスク姿が増え、口の動きを読めないことに困っている聴覚障害者の声があったそうだ。企業での障害者の解雇が増えた現状に触れ、「雇用や生活、人権を守るために、強力な対策を講じる必要がある」と強調した▼今井氏には聴覚障害のある息子がいる。その礼夢氏が7日、川崎市多摩区のプロレス団体「ヒートアップ」の大会でプロレスラーとしてデビュー。30分一本勝負のシングルマッチに臨み、敗れたものの奮闘する姿を見せた▼心配や不安があったが、夢を追い続けてほしいと応援してきた今井氏。「これからも挑戦し続けて、笑顔と勇気を与えられる選手になってほしい」。SNS(インターネット交流サイト)にそうつづった▼ダイバーシティー(多様性)が叫ばれる昨今。多くの人が選択肢を持ち続けられる社会をどう造り上げていくのか。コロナ禍の苦境下だからこそ、しっかり考えていくべきだろう。

【鉄道関連工事の効率と安全性を向上】東鉄工業、枕木交換作業を機械化

  10日深夜、茨城県石岡市のJR常磐線石岡~羽鳥駅間で東鉄工業による線路の枕木交換作業が行われた。作業には同社が11月から導入した枕木交換機を活用。オペレーターが機械を巧みに操作し、古い枕木を次々と引き抜いて新しい枕木に交換していった。

 作業を開始したのは終電後の午前0時50分ころ。園部川橋梁のレールと枕木を固定するボルトを外し、古い枕木を抜きやすいようレールを浮かせた状態まで準備すると、同1時40分ころに枕木交換機を現場に投入した。

 枕木交換機は踏切から進入してレールを走行。アームで古い枕木を引き抜くと180度旋回して後方の荷台に乗せる作業を繰り返し、次に新しい枕木を前方の荷台からつかみレールの下に並べていった。

 枕木の交換は1本当たり2人で行う。作業場所が橋梁などで足場が悪い場合、転倒や墜落などのリスクがあった。枕木交換機を導入することで作業時の安全性を高めた。

【色鮮やかなピンク実現】竹中工務店、長居球技場改修にECMカラーコンクリ採用

 色鮮やかなセレッソピンクのコンクリートを実現-。竹中工務店は施工を担当する大阪市立長居球技場の大規模改修プロジェクトで、選手入場口の躯体に同球技場を本拠地にするJリーグ・セレッソ大阪のチームカラーであるピンクのコンクリートを採用した。

 これまで難しかった明るい色彩のコンクリートを実現するため、自社開発した「ECM(エネルギー・CO2・ミニマム)カラーコンクリート」と呼ぶ技術を活用。灰色の普通ポルトランドセメントを白い高炉スラグの微粉末に変更し、必要な性能を保ちながらピンクや黄など明るい色が出せるようにした。

 普通ポルトランドセメントの代替材料に高炉スラグを多く含むECMセメントを採用。二酸化炭素(CO2)の削減効果も高く、通常のコンクリートに対してCO2排出量が6割以上削減できるという。ECMセメントは高炉スラグ微粉末が60~70%を占める。ホワイトセメントを使ったカラーコンクリートに比べ75~80%も安価に製造できる。

桜スタジアムプロジェクトの完成イメージ
(竹中工務店報道発表資料より)
 長居球技場の改修では間口7メートル、奥行き5メートル、高さ3メートルの選手入場口の躯体にセレッソピンクのECMカラーコンクリート35立方メートルを打設した。同社は今後、スタジアムへの適用拡大に加え、幅広い建築物への採用を提案する方針だ。

 長居球技場の所在地は大阪市東住吉区長居公園1の1。「桜スタジアムプロジェクト」と銘打ち、桜スタジアム建設募金団体とセレッソ大阪スポーツクラブが大規模改修事業を実施している。メインスタンドはRC造5階建てになり、S造の屋根を架設する。工期は2019年7月~2021年3月。設計はIAO竹田設計(意匠)と竹中工務店(構造・設備)が担当した。

2020年12月10日木曜日

【回転窓】気象観測の要

 気象庁が東京・虎ノ門の新庁舎に移転した。虎ノ門は政府が1875(明治8)年に気象と地震の観測を開始し、当時の東京気象台が皇居北部に移転するまで置かれた場所。大手町の旧庁舎から138年ぶりに創設の地に戻った▼気候変動の影響などを受け自然災害の激甚化、頻発化が叫ばれる中、気象庁の役割も一段と重要性が増す。自然災害から人々の安心・安全を守る気象観測の要として、より精度の高い情報を迅速に発信することが求められる▼このほど文部科学省と共同で公表した報告書「日本の気候変動2020」。日本の気候が地球温暖化で今世紀末にどう変わるかを、2種類の気温上昇シナリオ別に予測。どちらの場合も猛暑や大雨が増え、温室効果ガスの排出を削減する緩和策に努めなければ、災害発生リスクがさらに高まる見通しが示された▼8日に閣議決定した政府の追加経済対策では、防災・減災や国土強靱化の取り組みを推進。2兆円の基金を設立し、脱炭素化で革新的な研究開発を行う企業支援も盛り込んだ▼気象に関わる社会的課題は増大する一方。関連機関はもちろん、個人の行動が問われている。

【1年で平均7㎝に成長、最大8.5㎝も】大林組、アワビの循環式陸上養殖技術を開発


  大林組は水産物の安定供給を実現する養殖技術として、アワビに特化した「循環式陸上養殖技術」を開発した。フンや残餌によって飼育水に蓄積した有機物や窒素化合物を微生物の力で分解、除去し清浄な水質を維持。海水を浄化しながら再利用することで排水による海への環境負荷も減らす。漁獲量低下で養殖の期待が大きい地域の活性化にも貢献する考えで、年間10万個程度の出荷を目指す。将来的には中間育成の事業化も視野に入れる。

 養殖に必要な水質環境を保つためばっ気・水流攪拌(かくはん)装置や電解装置、固形物ろ過装置、脱窒装置、生物ろ過槽などを使用する。微生物を使って飼育水内の有機物や窒素化合物を分解、除去する浄化技術に加え、適切な水質測定に基づくミネラル補給や清掃などの調整ノウハウも確立。天然アワビよりも成長を早めることができる。


 ろ過した海水を常時供給する従来のかけ流し方式では1時間に1~2回の水交換が必要。開発した技術では飼育水に人工海水を利用するため、新たな水の供給は1日に水槽の2%程度で済む。

 同じサイズのかけ流し方式に比べ、給排水量を1200~2400分の1に抑えられる。清浄な水質を保ちながら屋内で飼育ができ、悪天候や海の水質汚濁といった環境変化にも左右されない。

 清浄な海水を好むアワビは水質など成育環境の適切な管理が求められる。水域環境の保全技術などを多数保有する大林組は、技術研究所(東京都清瀬市)で1年間の実証実験を実施。適切な温度管理や水槽の衛生管理手法を使って飼育した結果、殻長が3~4センチの稚貝を約1年で平均7センチ程度、最大8・5センチに成長させることに成功した。

【大臣賞6点など選定】国交省小学生図画コンクール、入賞作品決まる

大臣賞を受賞した浅井大護さんの「遠隔臨場」

  国土交通省は全国の小学生を対象に実施した2020年度「国土と交通に関する図画コンクール」で84点の入賞作品を決定した。最優秀賞の国土交通大臣賞には1~6年生の6人が選ばれた。本年度のコンクールには全国から2632点の応募があった。

 大臣賞6点のほか、優秀賞18点と佳作60点を選定。入賞作品は国交省ホームページにあるキッズコーナーに掲載されている。

 大臣賞の作品と受賞者は次の通り。敬称略。

 △「ひこうきマンション」=上まどか(東京都中野区立中野第一小学校1年)△「あったらいいな、こんなまち」=良田陽菜(徳島市助任小学校2年)△「高速道路の除雪三台ていだん」=高橋快(新潟県湯沢町立湯沢小学校3年)△「大手町ダイヤモンドクロス」=由佐築生(愛媛大学教育学部付属小学校4年)△「遠隔臨場」=浅井大護(名古屋市立志段味東小学校5年)△「道路のある風景」=川勝千紗子(京都市立大宮小学校6年)。

2020年12月9日水曜日

【回転窓】食べる楽しさ

  いつもの年の瀬とはどうも違う。例年であればこの時期は、手帳に夜の宴席予定がびっしり。だが今年は真っ白なまま。今更ながらコロナ禍の影響を感じる▼作家の池波正太郎は、子どものころ「ポテ正(しょう)」と呼ばれていた。手伝いの駄賃がたまるとポテトフライを買って食べていたため、その名が付いたそう。青年時代はカレーライスとチキンライスにはまった。好きな食べ物はとことん極める。そんな性格だったようだ▼50歳を過ぎて、食へのこだわりが多くの食べ物エッセーの名著を生んだ。『食卓の情景』『散歩の時に何か食べたくなって』『むかしの味』…。扱う料理はおでんや天ぷら、すし、シューマイなど、ありふれたものだが、読後に不思議と食欲が湧いてくる▼人は食べ方や飲み方を見ればどういう人か分かるという。池波は「通」のたしなみを語るのではなく、料理人や隣の席で食べている人などを観察し、おいしいものを食べる楽しさを素直に伝えてくれる▼収まる気配のない感染症。現況を考えると今は我慢の時だろう。ただなじみの店がどうなっているか心配は尽きない。手厚い支援を願いたい。

【回転窓】ピンチをチャンスに

 年末恒例の「2020ユーキャン新語・流行語大賞」が先週発表され、今年話題になった新語・流行語の年間大賞に「3密」が選ばれた▼1月末に北海道内で新型コロナウイルスの1例目の感染者が確認されて以降、時間がたつにつれ事態は深刻化していった。中国・武漢市のロックダウン(都市封鎖)を「海外のこと」と思っていたら、コロナ禍はあっという間に歯止めがきかない状態になった▼厚生労働省らが呼び掛けた3密の回避。日常生活や仕事のありようを大きく変え、外出自粛に伴い「巣ごもり需要」を生み出した。在宅勤務やリモートの定着に目を付け、家具や雑貨を扱う大手企業は新型店を相次ぎオープンしている▼スウェーデンが発祥で青色と黄色のロゴが目を引くイケアは先月末、東京都渋谷区に都市型店舗「イケア渋谷」を開店した。巣ごもりを意識した品ぞろえ。無印良品でおなじみの良品計画も東京都江東区に「無印良品 東京有明」をオープンし、こちらの店舗も“住み心地の良い自宅”の需要がターゲットという▼市場や顧客のニーズを見極め需要に応える。建設業界にも大きなチャンスがあるはず。

【品川開発プロジェクト現場で出土】JR東日本、「高輪築堤」保存の在り方検討

  JR東日本の深澤祐二社長は8日に東京都内で定例会見し、港区内で計画する「品川開発プロジェクト」の現場から「高輪築堤」の一部とみられる石積みの構造物が出土したことに関し、「今後どのような形で保存していくかを含めて決めていきたい」と述べた。

 延べ約85万平方メートルの施設群を整備する。来春からの順次着工に向けた準備工事中で、事業スケジュールに影響がありそうだ。

 高輪築堤は明治時代初期に、鉄道を敷設するため海上に造られた構造物。近代日本の鉄道の歴史や土木技術を伝える遺構として、同社は区教育委員会など関係者と調査や協議を進めていく。会見で深澤社長は「築堤がかなりきれいな形で出てきている」と現状を説明した。「鉄道が初めて走った箇所でこのような遺産が出てきたのは意義深い」とも指摘した。同プロジェクトの事業スケジュールについては「現段階で見直しするか、(協議が)たどり着いていない。しっかり調査して詰めたい」と述べるにとどめた。

 同プロジェクトは、I期事業として高輪ゲートウェイ、品川両駅一帯を4街区に分け、整備を進める。2021年4月1日の3街区を皮切りに、1、4街区が同6月1日に着工する予定。同10月1日に2街区の工事を始める見通し。いずれの街区も、完成予定は25年3月31日。JR東日本建築設計・JR東日本コンサルタンツ・日本設計・日建設計JVが設計を手掛ける。1街区がフジタ、2街区は鹿島、3、4街区は大林組が施工予定者となっている。

【本体工事、施工は大林組JV】川上ダム建設(三重県伊賀市)、堤体コンクリ打設が40万㎥に到達

 水資源機構は、三重県伊賀市に建設を進めている川上ダムの堤体コンクリート打設量が40万立方メートルに到達すると7日に発表した。

 2019年9月からコンクリート打設を開始し、約1年3カ月で全体(堤体積45万立方メートル)の88%に達する。到達予定日は10日。引き続き打設を進め、21年度早期の完了を目指す。

 ダム本体工事の施工は大林組・佐藤工業・日本国土開発JVが担当している。

 川上ダムは洪水調節や利水、河川の正常な機能維持を目的に淀川水系の木津川支川前深瀬川に計画し、1981年から実施計画調査を始めた。形式は重力式コンクリートダム。堤高は84メートル、堤頂は282メートル。総貯水容量は約3100万立方メートル。総事業費は1180億円を見込む。

 ダム本体の建設は付け替え県道や転流工となる仮排水トンネルが完成後、18年9月にスタート。基礎掘削を経て、19年7月に減勢工コンクリート打設、同年9月に堤体コンクリート打設を始めた。23年度内の完成を目指す。

【監修は隈研吾氏が担当】寺田倉庫、東京・天王洲の水上施設をウエディングに活用

  寺田倉庫(東京都品川区、寺田航平社長)は、ウエディング事業大手のテイクアンドギヴ・ニーズと業務提携した。品川区の天王洲アイルにある水上施設「T-LOTUS M(ティーロータス・エム)」を活用したウエディング空間を提供する。

 ティーロータス・エムの所在地は東品川2の1。建築家の隈研吾氏が監修して建設された。地下部分と1階、トップデッキの3層で構成され、最大170人収容できる。来訪者は隣接する水上ホテル「PETALS TOKYO(ペタルス・トーキョー)」での宿泊も可能。色彩豊かな4隻(客室数4室)の小舟を活用したホテルは、水辺ならではの自然を体感できる。

 オリジナルウエディングの企画・提案が得意なテイクアンドギヴ・ニーズと連携し、独自性が高く豪華なウエディングサービスを提供する。施設の運営を通じ、両社は運河の街である天王洲の新たな魅力創出に力を注ぐ。

【経済競争力の底上げが課題に】世界の都市総合力ランキング、東京は3位に

  経済競争力に課題-。森記念財団都市戦略研究所(竹中平蔵所長)が8日に公表した2020年版「世界の都市総合力ランキング」で、東京の順位は19年版と同じく全体3位にランクされた。

 「交通・アクセス」などの分野でスコアが上昇した一方、経済指標の低下が昨年から続いた。総合ランキングは昨年と変わらず、首位のロンドンに続いてニューヨーク、東京、パリ、シンガポールの順だった

 ランキングを構成する6分野のうち、東京の「経済」スコアは全体4位。国内総生産(GDP)の成長率や、優秀な人材の確保、法人税率の低さといった指標が、世界の主要都市に比べ低水準にあるとした。ワーキングプレイスなどで整備の遅れも指摘した。

 ランキング作成に携わった明治大学の市川宏雄名誉教授は、8日の会見で「緊急的に対策を打たないと不安だ」と危機感をあらわにした。

 東京は「環境」と「交通・アクセス」の分野で昨年から順位を上げた。環境分野は、新たに設けた指標「都市空間の清潔さ」で高い水準と評価された。「国際貨物流通規模」の指標でスコアを高めたことで、交通・アクセス分野の順位は昨年から1ランク上げ7位となった。

 竹中所長は「統計の関係で新型コロナウイルスの影響は一部分に反映しているだけだが、来年以降どのような影響が出てくるのか注目してほしい」と話した。

2020年12月7日月曜日

【回転窓】季節の便りがなくなる

  四季の変化がある日本には季節の到来を感じさせてくれる生物や植物が数多くある。ウグイスやアブラゼミの初鳴き、桜の開花、イチョウの落ち葉…。身近にあって季節の変わり目をいち早く伝えてくれる▼気象庁が1953年に全国統一の観測方法で開始した「生物季節観測」は季節の遅れ進み、気候の違いや変化を的確にとらえる。2020年1月時点で全国の気象台・測候所58地点が植物34種目、動物23種目を対象に、開花や初鳴きなどを観測している▼観測データは地球温暖化など長期的な気候変動の貴重な指標にも活用されている。例えばクマゼミは主に近畿以南に生息していたが、現在は北限が関東付近まで移動しているそうだ▼気象庁は21年1月から動物の季節観測をすべて廃止し、植物は桜の開花・満開など6種目9現象に減らすと発表した。気象台周辺の生態環境が変わり、標本木の確保や対象動物を見つけるのが難しくなったのが理由という▼被害規模が大きな自然災害が多発する中、防災につながるデータや情報の重要性は高まっていく。気候の長期変化を把握する貴重な観測をやめてしまうのはもったいない。

【歴代車両が勢揃い】ロマンスカーミュージアム、2021年4月神奈川県海老名市に開業

 小田急電鉄は、神奈川県海老名市の小田急線海老名駅隣接地に建設している「ロマンスカーミュージアム」を2021年4月中旬に開業する=内観イメージ。1927年に小田急線が開業してから初めての屋内常設展示施設。歴代の車両や沿線を再現した巨大ジオラマなど、主要コンテンツも併せて公表した。

 建設地は海老名駅や海老名電車基地に隣接するめぐみ町。敷地面積は約4000m2。施設はS造2階建て延べ約4400m2。「子どもも大人も楽しめる鉄道ミュージアム」をコンセプトに、ロマンスカーの歴代車両を展示する「ロマンスカーギャラリー」、ロマンスカーの歴史をまとめたショートムービーを放映する「ヒストリーシアター」、ミュージアムショップ、カフェなどを備える。

 小田急線の歴史を後世に伝えるとともに、新たな街のシンボルとしてにぎわいを創出する役割を担う。基本設計・監修はUDS、実施設計と施工はフジタが担当している。

【3カ月で改修完了、施工は新日本空調】東京都、新型コロナ専用医療施設を12月16日に開設

  東京都は16日、府中市に新型コロナウイルス感染症の専用医療施設を開設する。都立府中療育センターの旧施設(府中市武蔵台2の9の2)を改修し転用。陰圧隔離を行うための空調・換気装置を各病室に設置し、感染症の患者に特化した医療環境を整える。

 東京都内の感染拡大が収まらず医療現場の逼迫(ひっぱく)懸念が高まる中、改修工事を約3カ月で完了した。

 都立病院初の新型コロナ専用施設となる。府中療育センターの旧施設は1968年竣工。6月に新施設への機能移転が完了していた。改修したのは5階建ての旧施設の2~4階部分。新型コロナの軽症・中等症程度の患者を受け入れる100床程度を確保した。旧施設の直近の改修工事を手掛け施設内の設備や配管に詳しい新日本空調に改修工事を特命発注した。

 患者の受け入れ開始を前に、施設内部を報道機関に公開した。改修工事では各病室に仕切りを新設する内装工事も行った。重症心身障害者を受け入れる施設だったため、ストレッチャーが通る広いスペースを確保できるよう壁や仕切りが省かれていた。感染の可能性があるエリアと安全なエリアを区分けする「ゾーンニング」を適切に行い、院内感染予防に万全を期す。

 工事着手後も医療スタッフからの要望を踏まえ設計変更を行った。感染予防をより徹底するため、一部の個室にもトイレを設置。電子カルテやモニタリング装置を導入するための電気設備工事も追加した。当初は10月末の完了を予定していたが、追加工事への対応などで工期を1カ月程度延伸した。

 開設後の運営を担う都立多摩総合医療センターの近藤泰児院長は「ハード面は思ったようにできた」としつつ、運営面について「都立病院全体でバックアップしてもらい医師や看護師を配置していく」と話した。収容患者が重症化した場合は多摩総合医療センターに移送することを想定し、各段階で治療する態勢を整えていると強調した。

【凜】東京土木施工管理技士会業務課課長・轡田絵里香さん

 ◇担い手確保に貢献したい◇

 新型コロナウイルスの流行で技術者向けの講習会を対面式からオンライン方式に切り替えた。「足を運ばなくていい」と好評を得ている。離島在住者の参加もあった。オンラインの需要を実感しつつ、対面での実施の必要性も感じている。「人に教えたり、教わったりするのは難しい」。事務局を務める自身の経験からだ。

 東京建設業協会(東建)から出向したのは5年前。技士会設立20周年の節目に当たった。通常事業と周年事業が重なり、めまぐるしい毎日を過ごした。講習会や現場見学会、委員会の運営、機関誌発行などと担当範囲は広い。技術者と触れ合う機会が増え、ひたむきな姿を間近にし土木の魅力にほれ直した。担い手確保に貢献したいと今まで以上に強く思うようになった。

 法人会員の中にはコロナ禍で採用活動に苦労している企業も少なくない。学生に業界や会員企業の仕事の情報を発信するイベントを今月12、13の両日、オンラインで東建と開催する。企業の担当者がスタジオからライブ配信する。初の試みだが、持ち前のチャレンジ精神で笑顔を忘れない。

 モチベーションを維持する秘訣(ひけつ)は「仕事とプライベートを完全に切り離す」こと。「自宅は東京都内を避けた」そうだ。高校時代に山岳部で鍛えた健脚の持ち主。直近では北アルプス・西穂高岳の登頂にチャレンジした。

 (くつわた・えりか)

【中堅世代】それぞれの建設業・273

再開発事業では住民との意思疎通が欠かせない

 ◇コロナ下でも住民と進める再開発◇

  「いい街ができれば、人と人のコミュニティーも良くなっていく」。自治体で再開発事業の取りまとめを担当する大森博さん(仮名)は、コロナ禍で顔を合わせたコミュニケーションが取りにくい状況にあって、「行政が地域の意見を聞きながら、課題の解決方法を探っていくことが使命」と熱意を見せる。

 新型コロナウイルスの感染防止もあり、住民と自治体の意見交換は難しくなっている。再開発事業は、都市計画手続きを進めるための説明会などを開催できず、足踏みしている案件が少なくない。

 だが大森さんは都市計画手続きを前に進めることに意欲を燃やす。街の課題を解決してほしいという住民の切実な声に応え、新型コロナの収束後いち早く新生活に移行できるようにすることが大事だと判断した。

 最初の課題は地区計画や再開発の原案縦覧を開始した時、住民に周知する方法が無いことだった。通常であれば再開発の告知は、シルバー人材センターに頼んで資料をポスティングしてもらっている。だが感染リスクの高い高齢者への委託は難しい。

 告知をホームページに掲載してもすべての住民が見られるとは限らず、民間委託も経費が準備できない。「自分たちで配るしかない」。大森さんは腹をくくり約75ヘクタールに及ぶ地域を職員7人で分担し、約8000戸にポスティングした。

 作業を終えるまで5日間がかかったが、「現場を歩いたことでこれまで以上に街を知るきっかけになった」という。

 コロナ下での再開発に頭を悩ませていた他の自治体からも、手続きをどのように進めているのか問い合わせがあった。「方法がないからと諦めるのではなく、どうしたらできるのかを考えた」。

 6月には住民向けの説明会を開催。1回当たりの参加人数を絞り、計3回開くなど感染防止対策に万全を期した。反対意見を寄せた住民と個別に面会し丁寧に説明するなど、すべての住民に納得してもらうことを心掛けた。

 さまざまな取り組みが実を結び、都市計画決定前の最終段階となる都市計画案の縦覧では反対意見がゼロに。「これまでの取り組みに意義があったことを実感できた」。その後、事業は無事に都市計画決定の手続きを終えた。住民から感謝の言葉をもらう機会も多いが「背中を押してもらったのは自分たち」と話す。

 街づくりに懸ける思いが強いのは「街づくりは人づくり」との思いがあるからだ。再開発などを通じて建物を共同化すると、そこに住む人々の間に新たな関係が生まれることになる。「建物だけではなく地域のコミュニティーも作っている」との思いが常にある。

 地区では新たな再開発の機運も高まりつつある。「地域の声を大事にしながら希望に応えられるような街づくりを進めていきたい」と決意を新たにしている。

【やっぱり!マイ・ユニホーム!!】旭日電気工業「汚れ落ちと着心地を追求」

  2019年12月にユニホームを刷新した。20年1月のロゴ変更に先駆けて新しいロゴを胸ポケットの上にあしらった。デザインは、全国の幹部社員が集まり議論し、幅広い年代層に対応できるようにと数種類の中から選定した。

 淡いグレーと紺の2色使い。スタイリッシュなデザインが目を引く。ヘルメットもリニューアルし、現場でも目立つ青色を採用した。

 生地の厚さで夏用と冬用の2種類を用意。綿との混紡生地で汚れの落ちやすさと着心地を追求した。上着はフルハーネス対応。パンツは以前の作業着に比べてタイトな仕上がりで、スマートフォンが入るポケットも備えた。

 新しいユニホームのこだわりは「上着の胸ポケットにファスナーを付けたこと」と担当者。以前は前傾姿勢で作業をすると、胸ポケットからペンや野帳が落ちてしまうことが多かった。改善を求める現場の声に応えファスナー付きにしたという。

 日々ユニホームを着て現場に立つ社員からは「ズボンがタイトになり見た目が格好よくなった」「汚れが落ちやすく助かっている」との声が届くなど、評判は上々だ。

【駆け出しのころ】鹿島道路代表取締役専務執行役員生産技術本部長・里見辰男氏

  ◇気付ける感性に磨きを◇

 大学時代は長い休みに入ると、建築業を営む実家に戻って現場作業を手伝っていました。セメントをミキサーで練るなど、実地でいろいろなことを学ぶことができました。

 就職活動はオイルショックで大変な時期でしたが、縁あって鹿島道路に入社しました。配属先の千葉工事事務所での最初の担当は国道の維持管理業務。約50キロの対象区間で路面の穴埋めや路肩の草刈り、側溝の泥かき、事故で散乱した車両の破片拾いなど、道路の維持管理に関わることを何でもやりました。

 同期の社員が道路の新設工事などの華々しい現場で活躍しているのに比べて、維持管理は地味な仕事だったため、他の現場に早く移りたいと内心思っていました。土日は巡回のパトロールもあり、ほとんど休む暇もなかったですが、地域に欠かせない道路を1年守り続けたという達成感はありました。

 管理の仕事では技術的に特別な指導はありませんでしたが、「作業員には敬語を使うように」と先輩に叱られました。気付かずに横柄な態度が出ていたのかもしれません。作業員にしっかり働いてもらえるように段取りしないと利益に跳ね返ることを、言葉遣いの点から注意されました。

 2年目は開港前の成田空港のエプロン舗装の現場に移りましたが、過激派が管制塔を占拠する事件が起き、工事が止まってしまいました。すぐに工事が再開されないことから、千葉県市原市の姉ケ崎工事事務所に異動。結局、空港の現場には戻らず、同事務所でコンビナート関係の民間土木の現場を4年ほど回りました。

 タンクの盛り土や底盤のアスファルト舗装など、高い精度が求められる仕事でいろいろと勉強になりました。ただ、道路整備をメインとする会社ですから、官庁工事の現場代理人をやるのがステータスでもあり、いつまでも民間工事を担当している状況に複雑な思いが正直ありました。

 その後、新潟営業所に異動となり、建設省(現国土交通省)発注の幹線道路の修繕工事で初めて現場代理人を任されました。前年に自社で行った同じ現場の工事書類などを参考に、四苦八苦しながら取り組んだのを覚えています。

 30代前半で現場代理人として初めて新設工事を担当し、優良工事表彰を受けた4車線化の舗装工事は思い出深い現場の一つです。新設工事を自分で描いたストーリー通りに終えられるのが一番の喜びであり、楽しさでもあります。

 発注者や作業員など、工事関係者との良好なコミュニケーションが現場技術者には不可欠。さまざまな物事にいち早く気付ける感性を磨くことも重要です。若手には経験の中から気付きを積み重ね、成長してもらいたいと思います。

入社16年目、家族と出かけた新潟・蓮華温泉に向かう木道で

 (さとみ・たつお)1977年日本大学工学部土木工学科卒、鹿島道路入社。北陸支店長、執行役員関東支店長、取締役専務執行役員営業本部長などを経て2020年4月から現職。埼玉県出身、66歳。

2020年12月4日金曜日

【回転窓】命を軸に未来社会描く

  2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)が実現へ大きく前進した▼博覧会国際事務局(BIE)は1日のオンライン総会で、日本政府による登録申請書を承認した。各国に対する政府の招致活動も本格化。井上信治万博担当相は早速、在京大使に参加を呼び掛けた▼大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。生命科学やデジタル技術の急激な進化で、命に対する向き合い方や社会の形が大きく変わろうとしている。そうした中で、新たな在り方を提案していく意思が込められている▼生物学者の福岡伸一氏や映画監督の河瀬直美氏らプロデューサーも決定済み。「知る」「守る」「つむぐ」「高める」など八つの切り口から命を見つめ直していくという。パビリオンでの展示やイベントを通じて、さまざまな発信をしていく▼コロナ禍を経て開かれる万博。日本がどのような未来像を提示していくのか世界の注目が集まる。持続可能な社会を目指すには、技術面はもちろん、国家や民族を超えた融合が不可欠。さまざまな場面で分断が懸念される状況だからこそ、つながりを広げる機会になればと願う。

【開業予定は2021年夏】ポルシェジャパン、千葉県木更津市にテストコース整備

 ポルシェジャパン(東京都港区、ミヒャエル・キルシュ社長)は、千葉県木更津市に建設している「ポルシェ・エクスペリエンスセンター(PEC)東京」=完成イメージ(ポルシェジャパン提供)=を2021年夏にオープンする。

 全長2・1キロの周回コースやオフロードなどさまざまなコースでポルシェ車が運転できる国内初の施設。ドライビングスクールやレーシングシミュレーターなども用意するという。設計者と施工者は非公表。

 建設地は伊豆島中ノ台1148の1ほか。敷地面積は約43ヘクタールでこのうち事業区域は13ヘクタール。周回コースは独ニュルブルクリンクや米ラグナ・セカなど世界的に有名なサーキットのコーナーを再現したエリアを設け、元の地形を生かした高低差のあるコースとする。併設する建屋は伝統工芸の江戸切子をモチーフとし矢来紋を使った和風の外観デザインを採用。内装もしっくいや日本庭園のイメージを取り入れた。

 PEC東京の建設に合わせ同社は6月に千葉県と自然環境保全協定を締結。工事に当たって自然環境保全や植生の回復、伐採樹木の情報公開、湿地希少植物の保護などを実施する。今後、災害連携やコミュニティー支援などのプログラムも計画しているという。

 キルシュ社長は「新しい観光スポットを作り、雇用の機会を創出するだけでなく、世界的にも美しいこの千葉の立地でエキサイティングな試乗体験を提供したい」とコメントした。PECは英シルバーストーンや米アトランタなど世界9カ国にあり、アジアは上海に次いで2カ所目になる。

【基本設計、受託候補は石本建築事務所JV】仙台市本庁舎建替、コンセプトは「小さな活動の場を核とする公共空間」

仙台市新庁舎の完成イメージ
(石本建築事務所・千葉学建築計画事務所JV提供)

  仙台市の本庁舎建て替え基本設計の公募型プロポーザルで受託候補者に選定された石本建築事務所・千葉学建築計画事務所(東京都渋谷区)JVは新庁舎のコンセプトに「小さな活動の場を核とする公共空間」を打ち出した。

 技術提案書によると、敷地内を回遊する通路「みち」を整備。その際、周辺に広がる勾当台公園エリアの活気や一番町商店街から続く街路を引き込む。市の地域防災リーダー(SBL)のサテライトなど、市民活動・協働の拠点施設に当たる「みせ」を低層部の各階に配置する。それらを立体的に交差して創出される地上スペース「ひろば」を多彩なイベントの場や防災拠点として活用。市民が行政と一体となって街の未来を考えていく場とする。

 審査委員会は委員長を建築家の伊東豊雄氏、副委員長を都市計画の専門家である佐藤滋早稲田大学名誉教授が務めた。

 11月29日に仙台市青葉区の仙台国際センターで開かれた最終審査の公開プレゼンテーションでは、伊東氏が「非常に良くまとまっている」と話した上で「庁舎のシンボルは何か」と質問。それに対し、JVの担当者は「小さな活動の場の集積として建物ができていることだ。マルシェなど多彩なイベントの場である低層部の『ひろば』には仙台の魅力が凝縮され、ここに来ることで街の魅力に改めて気づくということも人が集まるきっかけになると思う」と回答した。

 基本設計の履行期限は来年2月に予定する契約締結日の翌日から22年3月18日。委託費の上限は税込みで2億8102万5800円となっている。

【東京駅八重洲北口コンコースなどに採用】新幹線700系車体材を内装材にアップサイクル

  金属建材メーカーの菊川工業(東京都墨田区、宇津野嘉彦社長)は3日、東海道新幹線で使われていた700系車両のアルミニウム車体材を建材に再生するプロジェクトに参画したと発表した。

 JR東海グループの東京ステーション開発(東京都千代田区、谷津剛也社長)による取り組み。特殊なアルミ材を低コストで展伸材に再生。東京駅八重洲北口コンコースなどの内装材としてよみがえらせた=写真。東海道新幹線で初めての試みという。

 用いたのは「カモノハシ」の愛称で知られる東海道新幹線700系のアルミニウム車体材。丸い棒状のビレッドと呼ばれる展伸材で、難易度の高い加工が求められたが、各工程で製造・加工方法を開発して対応。アルミを用いて、のれんや桜の花びらの柔らかなデザインを再現した。再生した内装材は、東京駅八重洲北口コンコースと、専門店街「東京ギフトパレット」で活用されている。

新幹線700系車両(ⓒJR東海)

 もともとの形状や特徴を生かしつつ別のものに生まれ変わらせる「アップサイクル」の取り組みとして、高い評価を得た。東京ステーション開発は今回の取り組みで日本アルミニウム協会(岡本一郎会長)から開発賞を受賞している。

 菊川工業は、プロジェクトマネジメントを担当する乃村工芸社からの相談がきっかけで参画した。今後も顧客の課題解決を通じて、持続可能な社会を目指した取り組みに貢献する。

2020年12月3日木曜日

【回転窓】像に込められた思い

  まきを背負って読書をする子ども時代の二宮金次郎の像。家の仕事を手伝いながら一生懸命に勉強し、より良い生活を目指す姿を表す。学校の校庭で見掛けた人も多かろう▼像が設置されたのは戦前、模範的な少年として修身(現在の道徳)の国定教科書によく取り上げられたことなどが要因のようだ。金次郎のように立派に育ってほしいと願う親心から、全国的に像を設置する動きが広がった▼像に込められた思いを現代の子どもたちが素直に受け取るかどうか。「昔の子は学校に行けなくてかわいそう」「歩きながら本を読むのは危ない」などのマイナスイメージを持つ子も少なくないようだ。今の教育方針にそぐわないといった声から像を撤去するケースもあると聞く▼金次郎の地元・神奈川県小田原市に4日開業する複合商業施設「ミナカ小田原」の広場に、映画「二宮金次郎」の夫婦像が設置された。映画を通して功績や教えを深く知ってもらいたいとの願いが込められている▼厳しい緊縮策による奉公先の財政再建や独特の仕法で農村の復興を成し遂げた改革者。伝えることの難しさと大切さを郷土の偉人から学びたい。

【3社に2社が後継者不足、帝国データ調べ】建設業の後継者不在率、70・5%

  帝国データバンクが実施した2020年の「後継者不在率動向調査」によると、約26.6万社(全国・全業種)の後継者不在状況は、全体の約65.1%に当たる約17万社で困難な状況に直面していることが分かった。

 建設業の後継者不在率は70.5%。総合工事は67.0%、専門工事が73.7%、設備工事は71.5%の割合だった。

 後継候補がいる回答企業(9.3万社)に経営者との関係を聞いたところ、最も多いのは「子ども」の40.4%だった。非同族は33.2%。

 後継者不足率は3年連続で低下しているものの、3社に2社が後継者不足という状況にある。事業継承の検討時期を迎える50代で後継者不在が7割に迫る。同社は「時間や経営体力に余力がない中小企業ほど事業継承が難しい」と指摘。後継者難による倒産が増加傾向にあることを踏まえ、「ビジネスモデルや事業の将来が見込める企業に支援のリソースを集中させるなど、事業継承支援の質に注目する必要がある」としている。

 調査は同社が保有する企業概要データベースと信用調査報告ファイルを基に、事業継承の実態分析が可能な約26万6000社の動向を集計した。

【各国への参加呼び掛け本格化へ】BIE、大阪・関西万博の登録承認

万博会場のイメージ(経産省提供)

  博覧会国際事務局(BIE、本部・仏パリ)は、オンラインで開いた1日の総会で、日本政府が提出した2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の開催計画を記載した登録申請書を承認した。今後は政府が各国に参加を呼び掛けるとともに、開催準備の具体的な方針をまとめた基本方針を年内に閣議決定する。招請活動と並行し、必要となる関連施設の整備に向けた調整も加速する。

 BIE総会は6月に開催予定だったが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で延期になっていた。総会後に会見した井上信治万博担当相は「毎週のように関西に通い地元の期待を受け止めてきた。(開催に向けて)大きく前進したことはうれしい。国家プロジェクトとして絶対に成功させたい」と意欲を示した。

 大阪・関西万博は25年4月13日~10月13日に、大阪市此花区の人工島「夢洲(ゆめしま)」で開催。150カ国以上の参加を目指す。準備期間は出展方法で異なるが、参加国が自らパビリオンを設計・建設する場合、3~4年程度は必要になる見通し。10月に予定していたドバイ万博の開催が1年延期になり、各国の準備期間が短くなることが懸念される。

 コロナ禍で海外に直接出向いた招請活動を実施しにくい状況だが、井上担当相は「できることは全てやっていく」と述べた。井上担当相は2日、東京都内で複数国の在京大使と会談。開催への協力を呼び掛けた。

2020年12月2日水曜日

【回転窓】強靱化対策15兆円

 澄んだ夜空にぽっかり浮かんだ、まん丸お月さま。霜が降り始めるこの時期の満月をフロストムーンと呼ぶそうだ。コロナ禍で気がめいることが多い中で、時を忘れて昨夜の月を眺めた人もいただろう▼今年も異常気象による災害が世界各地で発生した。国内では熊本県などを襲った7月豪雨災害が記憶に新しい。中国では夏場に長江中・下流で記録的な大雨が降り、多くの死者と不明者が出た▼台湾は台風がことごとく日本側にそれて水不足が深刻という。農業だけでなく、製造業への影響も懸念されており、台湾政府は渇水対策に50億円を計上した。特に半導体製造には大量の水が必要で、水の確保は喫緊の課題なのだろう▼台湾南部はもともと不毛の大地。そこに90年前、烏山頭ダムを建設して大穀倉地帯に変貌させたのが日本土木技術者の八田與一だ。いまも台湾の中で最も愛されている日本人の一人で、水の神様のようにあがめられている▼霜月が終わり、師走に入った。建設業界が心配していた防災・減災国土強靱化緊急対策が、来年度から5カ年計画で15兆円の規模になると決まった。ぜひ効果的な対策を期待したい。