2021年7月5日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・290

足場の設置は安全確保が最も重要になる

 ◇安全を見える形で提供するために◇

  足場工事会社の代表を務める佐藤知史(仮名)さんがとび職の世界に飛び込んだのは17歳の時。理由は「1番稼ぐことのできる仕事」と思ったからだが、職人の世界はそんなに甘くなかった。梅雨時など現場に出られない日が続くと給料は減る。月の出勤日数が10日に満たなかった時は「このまま生活を続けていけるのか」と、将来への不安が頭をよぎった。

 建築物や土木構造物は一品生産。建設現場は一つとして同じものがない。働き続けることに不安はあったが、いつも挑戦できる何かに出会える建設の仕事に魅了されていった。多くの現場で汗を流し少しずつ腕を磨き、21歳の時に思い切って会社を立ち上げた。

 収入面で不安を抱えていた自分の経験もあり、職人に固定給を支払う「職人のサラリーマン化」を目指そうと思った。月給制で年2回ボーナスを支払い、もちろん残業代も支給する。たとえ1カ月間仕事が無くても職人には給料を払う。日給月給制が当たり前だった職人の世界で、安定した収入が保証できれば若者は集まると考えた。「仕事の有無に左右されない会社を作る」。社長として信念を貫く覚悟だった。

 最も大切なのは足場を丁寧に組み上げ、慎重に解体すること。職人には「最大のサービスは安全」という思いで仕事をするよう、指導している。「足場が原因になるような事故をなくす」ため、会社に迎えた新人の教育は徹底している。反発心の強い世代は頭ごなしに叱っても心に響かない。だがら入社後は座学や現場見学に時間を割く。

 新人一人一人に先輩社員を付け、寄り添うように指導する。職人だけでなく事務職員も現場研修に参加。研修期間の最後に行う社内試験をパスしてから現場に出すようにしている。そのために必要な期間は1カ月半以上という。

 そこまで教育に力を入れるのは、顧客に「『安全』というサービスを見える形で提供する」ためだ。

 創業したばかりの頃は社員や資材が少なく、一般住宅の塗り替えの足場などが主な仕事だった。懸命に仕事を受注し少しずつ利益を積み上げ、たまった資金を資材の購入などに充てた。苦労は多かったが、経営は軌道に乗り仕事の量を増やすことができるようになった。今ではマンションやショッピングモールなど、大きな建築物の足場工事を手掛けるまでになった。

 安全確保に対する取り組みは信頼へとつながり、最近では「この現場の足場は他の会社には組めない」と頭を抱える現場所長から、仕事を任されることも増えた。「安全、安心を掲げるのは当たり前のことかもしれない。だが、それを極めるにはやらなければならないことがたくさんある」。決して現状に慢心せず、これからも社員と一緒に歩み続けようとも思っている。

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