2021年9月29日水曜日

【大林ミドルイーストが施設施工】ドバイ万博日本館、最新技術とグラフィックアート駆使

最新技術とアートが融合する展示イメージ(報道発表資料から)

  政府は10月1日にアラブ首長国連邦(UAE)で開幕する2020年ドバイ万国博覧会(万博)の日本館を報道陣に26日公開した。最新技術とグラフィックアートを駆使し展示空間を形成する。館内で貸し出すスマートフォンで来場者の行動データを収集。集計結果を踏まえて展示のクライマックスシーンを変える。25年に開催する日本国際博覧会(大阪・関西万博)のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」につながる取り組みも紹介する。

 日本館の外観はイスラム建築などに使われる「アラベスク」模様と折り紙のイメージを組み合わせ、中東地域と日本の歴史のつながりを表現した。設計者は電通ライブ。チーフデザイナーとして永山祐子建築設計とNTTファシリティーズが参画している。大林組のグループ会社、大林ミドルイースト(UAE)が施工した。

 ドバイ万博のテーマは「心をつなぎ、未来をつくる」。192カ国以上が参加する予定だ。会期は22年3月31日まで。

【初期投資額は1兆0800億円】大阪IR、事業予定者に米MGM・オリックスグループ

大阪IRの完成イメージ
(MGMリゾーツ・インターナショナル、オリックス提供)


  大阪府と大阪市は28日、大阪に誘致するカジノを含むIR(統合型リゾート)の設置運営事業予定者を米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスのコンソーシアム(共同事業体)に決めたと発表した。大阪市此花区夢洲(約49・2万平方メートル)に世界最高水準の成長型IRを地域とつくる。初期投資額は約1兆0800億円で、総延べ床面積は約77万平方メートルの複合観光施設を整備する。府市と共同事業体は国に提出する区域整備計画を年末か来年早々に作成。2020年代後半の開業を目指す。

 共同事業体は開発コンセプトを「結びの水都」とした。世界中から夢洲に訪れた人々を大阪・関西だけでなく日本全体と結ぶ結節点を水都・大阪につくる方針。

 提案によると、国際会議場施設(延べ床面積約3・7万平方メートル、最大会議室6000人超収容)や展示など施設(同約3・1万平方メートル、展示面積2万平方メートル)、魅力増進施設(同約1・5万平方メートル、日本食PR施設や博物館など)、送客施設(同約1・4万平方メートル、バスターミナル、フェリーターミナルなど)、宿泊施設(同約28・9万平方メートル、客室約2500室など)、エンターテインメント施設(同約1・3万平方メートル)、飲食・物販・サービスなど施設(同約31・0万平方メートル)、カジノ施設(同約6・1万平方メートル)を整備する。

 このうち国際会議場・展示など施設で構成するMICE(国際的なイベント)施設は多様な催事に対応可能な世界最高水準の空間を確保。宿泊施設はエンターテインメントホテル「MGM大阪」、多世代型アクアリゾートホテル「MUSUBIホテル(仮称)」、VIP向け最高級ホテルの3棟を設ける。

宿泊施設「MGM大阪」の完成イメージ
(MGMリゾーツ・インターナショナル、オリックス提供)

 投資額には大阪メトロ中央線の夢洲への延伸費の一部も含む。共同事業体は展示施設と宿泊施設を35年間の事業期間中に施設を段階的に整備する見通し。

 吉村洋文知事は同日、「世界最高水準のIRをつくるのにMGM共同事業体は最高のペア。国から選ばれるように努力したい」と語った。

【BT+コンセッションで整備・運営へ】JSC、新秩父宮ラグビー場整備でPFI実施方針公表

新秩父宮ラグビー場の完成イメージ(港区議会資料から)

  日本スポーツ振興センター(JSC)は28日、東京・神宮外苑で計画する「新秩父宮ラグビー場(仮称)整備・運営等事業」をPFI法に基づく特定事業に選定し民間事業者を選定するための実施方針を公表した。ラグビー場やスポーツ博物館などを一体化した延べ約7・7万平方メートル規模のスタジアムを新設。BT(建設・移管)+コンセッション(公共施設等運営権)方式のPFIを採用する方針だ。

 JSCは実施方針の公表に伴い、事業に関心のある民間事業者を対象に意見と質問を募る。10月14日正午まで本部事務所施設部新ラグビー場運営計画課で受け付ける。質問に対する回答は11月ころホームページで公表する。特定事業選定の評価も公募による聞き取り調査を実施する。10月5日まで同課へのメールで受け付ける。

 今後のスケジュールは、2022年1月に一般競争入札(WTO対象)を公告する。同2月に参加申請を受け付け、同3月に参加資格の確認結果を通知する。同6月に事業提案書を締め切り、同8月に落札者を決定・公表する。同10月に特定事業契約を交わす。27年度に公共施設等運営権を設定する。

 基本・実施設計は22年度秋ころから24年秋ころまでの2年程度を想定。工事は2期に分けて実施する。1期は24年秋ころから27年度の3年半程度とし、28年3月末に施設を引き渡し、28年度に供用を開始する。2期は23年春ころの着工を予定。1期と2期の施設は一体の施設で、それぞれ竣工後に順次運営を開始する。運営期間はI期施設竣工後の28年度から30年間を想定している。スポーツ博物館は運営に含まないものとする。

 JSCが今月まとめた業務要求水準書(案)によると、建設地は明治神宮第二球場の解体跡地と新宿区道の一部(東京都新宿区霞ケ丘町3の2、敷地面積約4万3480平方メートル)。国際的な大会に対応可能なラグビー場のほか、文化交流機能としてのスポーツ博物館や店舗、駐車場の機能を盛り込んだ延べ7万6700平方メートルの施設になる。ラグビー場のフィールドは134メートル×84メートル、フィールド内の競技区域は120×70メートル。観客席はスタンド席1万5422席以上とフィールドを利用したアリーナ席を含め約2万人の収容を想定する。

 参加形態は、単体か複数の企業で構成するグループ。主な要件は、設計担当者が文部科学省で建築関係設計・施工管理業務の認定を受ける1級建築士事務所。建設担当者は文科省の算定点数が建築一式工事1200点以上、電気工事1100点以上、管工事1100点以上-など。同事業のアドバイザリー業務に関わったのは日本総合研究所、山下PMC、トーマツ、西村あさひ法律事務所。

【糠平ダムや緒方川多連アーチ石橋群など】土木学会、21年度選奨土木遺産に25件選定

選奨土木遺産に選定した北海道士幌町にある「糖平ダム」(土木学会提供)

  土木学会(谷口博昭会長)は28日、2021年度「土木学会選奨土木遺産」として25件を選定したと発表した。選定したのは北海道東部十勝地方の士幌町にある「糠平ダム」など。同ダムは十勝川水系1級河川音更川の中流部にあり、1956年に竣工した。建設時に国産大型機械や前例のなかったコンクリートの蒸気養生を採用。寒冷地で短期施工を実現した。

 00年度に創設した選奨土木遺産は、竣工から50年以上が経過した土木関連施設が対象になる。社会や土木技術者へのアピール、街づくりでの活用などの観点で、土木学会選奨土木遺産委員会(天野光一委員長)が選定。青銅製の銘板を贈る。

大分県豊後大野市にある緒方川の「多連アーチ石橋群」(土木学会提供)

2021年9月28日火曜日

【回転窓】新聞記者の心得とは

  新聞記者の心得で最も大切なのは何か。組織や人によって考え方はさまざまだが「正確な情報を適切な表現で文章にして分かりやすく読者に届ける」ことは、最優先事項の一つだろう▼先日受けた研修で講師が「情報は人を通じて伝わることで必ず『ひずみ』が起こる。できるだけひずみを抑え文字にして読者に届けるのが新聞社、新聞記者の役割」と話していたのが印象に残った▼情報を正確に伝える上では“適切な表現”をいかに守るかがポイント。そこで悩みの種になるのがカタカナで書いた外来語の扱いだ。証拠の意味を持つ「エビデンス」、持続可能性が日本語訳の「サステナビリティ」・・・。ここ数年頻繁に使われるカタカナ語は枚挙にいとまがない▼文化庁が先週公表した2020年度の「国語に関する世論調査」では、コロナ禍に関連した言葉のうち「ウィズコロナ」は回答者の7割が説明や言い換えが必要と考えていたそうだ▼カタカナ語のすべてがそうではないが多くのケースは官公庁がいつの間にか使い始め世の中に広がる。意味を理解して表現できているか--。新聞記者の心得を忘れずに仕事と向き合いたい。

2021年9月27日月曜日

【回転窓】ラッピングされた凱旋門

  フランス・パリの凱旋(がいせん)門が布で覆われている。「梱包(こんぽう)」芸術で知られ昨年亡くなった芸術家クリスト氏(ブルガリア出身、1935~2020年)と、妻で芸術家のジャンヌ=クロード氏(モロッコ出身、1935~2009年)が長年温めていた構想という▼包まれることで細かい装飾は見えなくなるが凱旋門の形が浮き出て強調される。プロジェクトをニュースで見て、約10年前に日本で行われた講演会での「隠すことで現れるものがある」という言葉を思い出した▼プロジェクトの実現に向け行政や関係機関との交渉、建設工事にも匹敵する技術的検討などアートと無縁のような問題を一つ一つ解決し膨大な作業を積み上げる。当時75歳近いクリスト氏だったが、熱意とエネルギーあふれる講演に感銘した▼作品を2~3週間で撤去するのが流儀で凱旋門のラッピングも10月3日まで。強烈なインパクトで現代社会に何を問い掛けるのか。氏の言葉とともに考えさせられる▼コロナ禍の閉塞(へいそく)感のある生活が続く。だからこそ人々の想像力をかき立てるアートが必要なのかもしれない。

【長さ25.8Km、予想超えた難工事に挑む】鉄道運輸機構、「岩手一戸トンネル」の工事記録動画を公開

  鉄道建設・運輸施設整備支援機構は、東北新幹線いわて沼宮内駅(岩手県岩手町)~二戸駅(同二戸市)間にある鉄道トンネル「岩手一戸トンネル」の工事記録映像を、動画投稿サイト・ユーチューブの「JRTT鉄道・運輸機構公式チャンネル」で公開した。

 長さ25・8キロの陸上トンネルで2002年の開業時に世界最長を記録。地質が複雑で数多くの断層が存在するため、さまざまな工法を用いて工事を進めた。岩盤や湧水との戦いに果敢に挑み、予想をはるかに超えた難工事に携わった技術者た
ちの物語を伝える。

 トンネル工事の記録動画の第2弾。時間は約32分。同機構の前身となる日本鉄道建設公団が03年に制作した。今後も長い間眠っていた貴重な記録映画を順次公開。「京葉線-多摩川をわたる沈埋トンネル」「東北新幹線(盛岡・八戸間)試験運転動画」を予定している。

【ドリカム・中村正人さんらとコラボ】日建連けんせつ小町委、ユニホームプロジェクト始動!!

  憧れのユニホームづくりでコラボレーション--。日本建設業連合会(日建連、宮本洋一会長)のけんせつ小町委員会(新井英雄委員長)は、おしゃれで機能も優れたオリジナルユニホームづくりのプロジェクトを始動した。

 人気バンド「DREAMS COME TRUE」の中村正人さんと、ユニホームメーカー「原田」(山口県防府市)の原田栄造社長がプロジェクトに参画。自身を「建設オタク」と語る中村さんはオリジナルユニホームブランドMSTを手掛け、コンサートでも着用している。原田社長と親交がある経緯もあり、プロジェクトに協力する。

 「ユニフォームから建設業界を変える!ドリームプロジェクト」がテーマ。一般的なイメージや固定観念にとらわれない格好良さと機能を追求し、子供や女性が着てみたいと思うユニホームを作り上げる。

 完成までの様子は、動画投稿サイト・ユーチューブの「けんせつ小町チャンネル」で公開。既に2本の動画をアップしている。来春に予定する現場見学会でお披露目する予定だ。

【凜】グリーン・コンサルタント設計センター設計部・吉井佐和子さん

  ◇根拠のある設計を追求◇

 競輪場やテストコースといった特殊走路が得意の会社で設計を担当している。4年働いた道路舗装会社から転職して2年目。カーブ区間のマッコーネルのような緩和曲線、自治体によって異なる雨水排水の基準など、必要な知識や習得すべきことの多さに戸惑う日がある。心掛けているのは「根拠を大事にする」。土地や建物の特徴と規制・基準を踏まえた最適な設計の追求に努めている。

 子どものころ、住宅販売のチラシを見て、間取りから暮らし方を想像していたのが建設に関心を持つきっかけになった。都市を形成するインフラを整えるものづくりを仕事に決め、道路舗装会社に就職した。職人とのコミュニケーションの大切さ、発注者や元請会社との協議のポイント、現場代理人の役割と責任など、忙しかった日々のすべてが大切な思い出のまま。経験と知識は貴重な財産になっている。

 雨水計画を立案した駐車場の工事が完了した。「アイデアが形になるプロセスが見えるのと完成したときの達成感」。縁あって仕事は変えたが同じやりがいを感じている。「根拠のある分かりやすい設計図」を描こうと、街中の建物や設計に視線が向かうようになった。「積算も一人で担える設計者」を目指し奮闘する構えだ。

 今は映画鑑賞が休日の憩いの時間。お気に入りの動画配信サービスの豊富さに感心している。

 (設計2グループ、よしい・さわこ)

【きみに期待】前田建設土木事業本部人材開発グループ主査・山科みづほさん

山科さん㊧と上村グループ長。サテライトオフィスで

  ◇多様な人材輝ける仕組みを◇

 入社後は現場や本社の土木事業本部などでキャリアを積んできた。1年間の産休・育休を経て今年から復職。現在の部署では社員のキャリア開発や教育制度の立案・実施に携わる。社員のレベルアップを目的とした研修を企画し、研修では講師も務める。資格取得を目指す職員や、悩みを抱える職員の支援、女性土木技術者の活躍推進といった多様な働き方を実現できる環境作りに取り組んでいる。

 「さまざまな生活・労働環境にあるグループのメンバーとコミュニケーションを取りながら、一つ上の立場を意識した仕事をしていきたい」というのが現在の仕事での目標だ。多様な人材が輝ける仕組みづくりに心を砕く一方で、自身も仕事と育児の両立に悩みながら前向きに業務に取り組み、「目標とされる人材」となることを目指している。休日はコロナ禍でも楽しめる方法を模索し、1歳の子どもと遊びリフレッシュしている。

 上司の上村昭博人材開発グループ長は「話をよく聞き、人の気持ちに寄り添える共感力が高い人材」と評価。「その長所を生かし、周りに安心感を与えてメンバーの能力を伸ばせるリーダーになってもらいたい」と今後に期待する。

【駆け出しのころ】世紀東急工業取締役常務執行役員事業推進本部副本部長・樗木裕治氏

  ◇気後れせず何事にもチャレンジ◇

 大学4年の時に道路舗装会社の試験作業を手伝ったことが、就職を考えるきっかけになりました。担当教授の推薦枠もありましたが、せっかくなら働く会社は自分で決めたいという思いが強く、いろいろ探す中で東急グループの当社に興味を持ちました。リゾート地やテニスコート、ゴルフ場などグループの開発事業にも一体的に関わり、道路一辺倒ではなく、面白そうな会社だと感じたのを覚えています。

 入社後2カ月ほどの研修を経て、静岡県裾野市にある東海出張所に配属。出張所の裏にある古い宿舎で寝泊まりしながら、現場に通いました。

 最初の現場は、東急建設が元請で施工する研修棟の外構工事。最初は専門工事業者の人たちと一緒に同じ作業をすることで、現場のことを覚えていきました。鉄筋を結束するハッカーなど、専門の工具を身に付け、作業が大変そうだったら自ら率先して手伝いました。先輩からは「職人気質の方もいるから、やってもらう作業の大変さや仕事の頼み方など、相手のことをよく理解するように」と諭されました。

 続いて任された測量業務は、高低差のある山あいの現場で合わせる基準が少なく苦労しました。当時は座標も手計算だったこともあり、間違えてはいけないと緊張の連続。指導を受けていた先輩が途中から元請側の仕事に手を取られることが増え、一人でやらなければいけない場面も多くなりました。

 厳しい工期の現場が無事に完工し、打ち上げが開かれたすし店で現場所長に「よく頑張った」と声を掛けられた時、緊張が途切れたからか、感極まって涙を流しました。「これで土木の仕事から抜けられなくなったな」という先輩の言葉が今でも耳に残っています。

 続いて、調整池のアスファルト防水を打ち直す現場に勤務。斜面で人と大型機械が同時に作業するため、安全には特に気を使います。資機材の点検管理をどれだけ徹底しても、事故が起こらないかと不安の毎日でした。

 3年目には現場代理人として、自衛隊の格納庫のコンクリート舗装の工事を担当。現場作業のことは分かりますが、発注者とのやりとりは理解できておらず、他の工区のやり方を見ながら必死に取り組みました。標高が高く、冬季は氷点下になる場所のため、大量のコンクリートを短期間で打設する必要がありました。自分の判断で施工方法を工夫しながら、朝から晩まで作業を続け、何とか工期通りに終えることができました。こうした経験を糧にし、気後れせず何事にもチャレンジする姿勢が身に付いたと思います。

 現場では小さなミスが大きなトラブルを招きます。若手には「確認」を大切にしてもらいたい。単に見るだけでなく、深く掘り下げて調べることがミスをなくし、周囲からの信頼につながります。

入社1年目、研修時の懇親会で同期らと(右端が本人)

 (おおてき・ゆうじ)1988年東京電機大学理工学部卒、世紀東急工業入社。北関東支店長、九州支店長などを経て、2021年から現職。鹿児島県出身、57歳。

2021年9月24日金曜日

【文学愛好者が集う拠点に】早大早稲田キャンパスに「村上春樹ライブラリー」、10月1日開館

  早稲田大学は10月1日、東京都新宿区の早稲田キャンパスに「早稲田大学国際文学館」(村上春樹ライブラリー、十重田裕一館長)を開館する。

 コンセプトは「物語を拓(ひら)こう、心を語ろう」。作家の村上春樹氏が寄贈した資料や書籍などを展示。国内外の文学愛好者や研究者が集い、国際文学や翻訳文学を研究・発信する拠点となる。既存建物をリノベーションした。設計は隈研吾建築都市設計事務所。熊谷組が施工した。

 RC造地下1階地上5階建て延べ2147平方メートルの規模。デビューから現在に至る作品の初版本や、村上氏の翻訳作品をそろえた。地下には村上氏の書斎を再現したスペースやラウンジ、カフェを配置。上層階に研究書庫などを設ける。

 特徴的なのは、入り口から地下へと向かう「階段本棚」。期間ごとに入れ替え、来館者と本との新たな出会いを後押しする。屋外には木造のトンネルが据え付けられており、パラレルワールドを扱う村上氏の作品の世界観を体感してもらう。

 開館に先立ち22日の会見で、早大の田中愛治総長は「文学・文化の発信・交流の場になることを願う」と語った。村上氏は「大学における自由で独特でフレッシュなスポットになるといい。できるだけ協力したい」と述べた。

 整備を支援したファーストリテイリングの柳井正代表取締役会長兼社長は「新しい文化を発信する場所になってほしい」と期待した。建築家の隈研吾氏は「何でもない扉を開けると違う世界で違う時間が流れる。そういうトンネル構造の文学だと思う」と村上作品の印象に触れ、「今までとは違う新しい交流ができれば」と語った。

【味スタにパラスポーツ練習場】東京都、観客席下などに体育室や多目的スタジオを整備

 東京都オリンピック・パラリンピック準備局は、調布市にある東京スタジアム(味の素スタジアム)に、障害者スポーツ(パラスポーツ)の練習施設を整備する。

 観客席の下に位置する地下1階と地上1階の一部に、体育室やトレーニング室、多目的スタジオなどを整備する。11月から実施設計に入り、2022年度に改修工事を始める。22年度末の開業を目指す。

 東京スタジアムは18年4月から19年5月まで、東京都多摩障害者スポーツセンターの改修中の代替施設として活用。バリアフリー対応の改修工事が実施され、障害者にも利用しやすい施設となっている。

 同準備局は東京都パラスポーツトレーニングセンター(仮称)の施設運営計画の中間まとめを22日に公表した。地下1階に▽体育室(床面積744平方メートル)▽トレーニング室(520平方メートル)▽多目的室(186平方メートル)、地上1階に▽二つの小体育室(82平方メートル、123平方メートル)▽多目的スタジオ(127平方メートル)▽三つの集会室(各86平方メートル)-を整備する。

 年間利用者数は約3万人を想定。年間運営費(概算費用)は約2・2億円と試算している。管理運営には、指定管理者制度を活用。今後、指定管理者選定の中で提案を募り、効率的な施設運営策を検討する。

【東京辰巳アイスアリーナ、25年度開業目指す】東京辰巳国際水泳場(江東区)、アイスリンク改修に着手

 東京都オリンピック・パラリンピック準備局は、東京辰巳国際水泳場(江東区)のアイスアリーナ転用で年度内に実施設計を始め、2023年度にも改修工事に着手する。

 メインリンク(60メートル×30メートル)やサブリンク(47メートル×17メートル)などを整備。都立施設初の通年アイスリンクとして、25年度の開業を予定している。基本設計は新築時の設計を手掛けた環境デザイン研究所が担当している。

 1993年に竣工した同水泳場はRC一部SRC造地下2階地上3階建て延べ2万2319平方メートル。曲面が印象的な屋根構造は鉄骨立体トラス造となっている。五輪時に水球会場として使用。都は2019年3月、五輪後に約44億円の改修費で都立施設として初の通年アイスリンクに用途転換する方針を決めた。

 同準備局は22日に東京辰巳アイスアリーナ(仮称)の施設運営計画の中間まとめを公表した。メインとサブの2面のリンクを保有し、固定席約3500席、仮設席約1500席、会議室、車いす対応トイレなどを備える施設。国際・国内競技大会の会場や都民の氷上スポーツの場として活用し、年間約26万人の利用者数を想定している。

 管理運営には、指定管理者制度を活用する考え。概算費用から概算収入を除いた年間運営費は約1・65億円と試算している。今後、指定管理者選定の中で提案を募るなどし効率的な施設運営策を検討する。

2021年9月22日水曜日

【回転窓】宇宙旅行元年

  「美しい。地球は青い」。1961年に宇宙船「ヴォストーク1号」に乗り込み、世界で初めて大気圏外を1周したユーリ・ガガーリン少佐が残した言葉だ▼宇宙から地球がどう見えるのか。当時の人たちは人類初の宇宙飛行士の言葉を感動的に捉えたに違いない。ただ世界では「周りを見渡したがここに神は見当たらない」という言葉の方が有名という。神の存在と宇宙の神秘の方が関心事だったのかもしれない▼今年は「宇宙旅行元年」と言われる。米国スペースXが先週末、自社の宇宙船に民間人4人を乗せて3日間の地球周回ツアーに成功した(読売新聞20日付)。5カ月間の訓練を受けたというが、民間人だけでの宇宙飛行は画期的だ▼米国では既にヴァージン・ギャラクティック、ブルーオリジンの2社が宇宙で数分間の無重力体験ツアーを実施している。今後、各社は本格的な宇宙旅行ビジネスを展開するという▼ガガーリンは飛行中に中尉から少佐へ昇進した。当時のソ連高官が生きて帰還できる可能性が低いと判断し昇進を決めたとも。まだ宇宙旅行の安全性が完全に確保された訳ではない。まずは安全第一で。

【滑らかな色調変化が特徴】清水建設、3Dプリンターでグラデーションカラーのベンチ造形


  清水建設は、滑らかに色が変化するグラデーションカラーのコンクリートベンチを3Dプリンティングで造形する技術を確立した。自社開発した繊維補強モルタル「ラクツム」を使用。色調が異なる4種類を用意し、ポンプに投入する材料を切り替えてグラデーションを表現した。2022年春に開業予定の複合開発街区「ミチノテラス豊洲」(東京都江東区)の外構に3基設置する。

 ベンチの造形にはラクツムに顔料を混練した「カラーラクツム」を使った。3Dプリンターに色調が違う4種類のカラーラクツムを投入し、自由曲面形状の背もたれ付きベンチを約3時間で一括印刷した。

 ラクツムは通常のモルタルに使うセメント、砂、長さ6ミリの合成短繊維などで構成する。形状を保持したまま2メートル以上の高さまで積層できる。ラクツムのプリント造形物は耐久性が高く、積層面が目視で確認できないほど一体化できる。劣化の原因となる水や空気の侵入を助長する気泡や空げきが内部にほとんどできない。顔料を混ぜても発色がよく、任意の色合いにカラーリングできる。

 ラクツムの積層に使う3Dプリンターは産業用ロボットアームと制御ソフト、材料移送ポンプ、ノズル、レーザー距離計で構成する。造形物の3DCADデータで自動生成したロボット制御プログラムに基づいて印刷。ロボットアーム先端のノズルからラクツムを一定の速度で押し出し造形する。

【ガラス2枚の間に発電セル封入】AGCの採光型太陽光発電ガラス、シンガポール工科大に採用

  AGCが販売する太陽光発電ガラスが、2024年にオープン予定のシンガポール工科大学ブンゴル新キャンパスに採用された。ガラス2枚の間に太陽光発電セルを封入した構造。ガラス本来の機能を生かしつつ発電できる。設置場所はフードコート天窓部分の面積約400m2。キャンパスのエネルギー源の一つとして活用される。

 同キャンパスは、エネルギーの供給元を分散化し地域で再生可能エネルギーを有効活用する「マルチエネルギー・マイクログリッド」を東南アジアで初めて導入する予定。同国建設局が従来比で40%以上のエネルギー削減を実現した建物に与えるSLE(スパー・ロー・エネルギー)認証の取得を目指している。

 採光型の太陽光発電用合わせガラスで、発電と同時にガラス本来の特徴を生かした開放感と遮熱性能を生み出す。国内では「サンジュール」のブランド名で00年に発売。施工実績は250件を超えている。

 太陽光発電ガラスの優れた機能に加え、東南アジア地域統括拠点であるAGCアジアパシフィックが基本設計から材料供給、施工までのサービスをワンストップで提供している点も評価を受けた。

【川を巡って東京を知る】建設技術研究所、クルージングイベントの動画配信

  建設技術研究所は、無料で行っているクルージングイベント「江戸東京・川のなぜなぜ舟めぐり」の様子を動画投稿サイトのユーチューブで配信する。神田川や隅田川などを下りながら、同社の土木技術者が土木インフラの役割を分かりやすく解説する。配信期間は24日~10月12日。

 クルージングイベントは、同社とNPO法人の東京中央ネット(細田眞理事長)が共催する「EDO ART EXPO」の一環。2013年に開始し、今年で8回目を迎える。新型コロナウイルスが流行する中、ニューノーマル(新常態)に対応するためオンライン開催に切り替えた。

 公開する動画は▽「分水路」って何だろう?神田川・隅田川の水害と防災を学ぶ(コース1)▽「親水」って何だろう?都市の水辺空間が果たす役割を学ぶ(同2)-の2コース。コース1は日本橋川船着場(東京都中央区)を発着し神田川、隅田川を下る。案内役は大川重雄氏(東京本社河川部)が務める。

 コース2は日本橋川船着場を起点に隅田川や小名木川、横十間川などを経ておしなり公園船着場(東京都墨田区)に至るルート。途中、水位差を調整して船を通航させる扇橋閘門(こうもん)も通る。内田大輔氏(東京本社交通システム部)がガイド役を担う。詳細は舟めぐりのユーチューブチャンネルへ。


2021年9月21日火曜日

【回転窓】栗と道の駅

  栗の栽培面積と生産量がともに1位の茨城県。代表的な産地の笠間市に「道の駅かさま」が先週開業した。栗を植樹し、歩道の境に栗のモニュメントを置くなど、笠間焼と並ぶ名産品のアピールに余念がない▼道の駅の整備は農家の所得向上と観光振興が狙い。「ありがとう」「また持ってくるね」。開業初日、真新しい施設は納入する農産品をやりとりする関係者の笑顔と活気であふれていた▼道の駅は全国に続々と誕生している。生活雑貨メーカーが農家の商品開発と販売を促したり温浴施設やキャンプエリアなどを設けた滞在型にしたりと、運営の幅が広がりを見せる▼背景には政府の積極的な支援がある。国土交通省は地域活性化の意欲や企画が優れる道の駅の整備に社会資本整備総合交付金を投じている。一方、赤字続きで自治体の財政支援を受ける道の駅が少なからずあり、埋没しない経営努力が欠かせなくなった▼道の駅かさまでは栗のペーストをフイーロ(糸)にした見た目にもこだわるデザートなどが味わえる。地域の資源を最大限に生かし、住む人にも来た人にも必要とされる道の駅がさらに増えてほしい。

【設計・施工は竹中工務店】東京都中央区に新ソニービル、22年6月着工へ

 ソニー企業(東京都中央区、永野大輔社長)は、東京・銀座で2段階に分けて進めている「Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)」プロジェクトで、第2ステップとなる新ソニービルの建設に着手する。

 第1ステップで整備した公園スペースを解体し、延べ約4300平方メートルのビルを新築する。解体や新築の設計・施工は竹中工務店。10月に解体に着手し、2022年6月にも新築に着工する。24年5月の竣工を目指す。

 ソニーパークの所在地は中央区銀座5の3の1(敷地面積712平方メートル)。17年に閉鎖したソニービルの地下躯体などを活用し、地下に4層の吹き抜けがある垂直立体公園として開園した。規模はSRC造地下5階地上1階建て延べ3808平方メートル。イベント会場などとして活用され、18年8月の開園から約3年間で830万人が来園した。

 新たに建設するビルはSRC一部S造地下4階地上5階建て延べ4323平方メートルの規模となる。高さは約34メートル。銀座の公共的スペースというコンセプトを引き継ぎつつ、商業施設や展示場が入る新たな複合施設を目指す。

【「100周年」記念ヘッドマークなど計画】箱根登山ケーブルカー、12月1日に開業100周年

  神奈川県箱根町の強羅駅と早雲山駅を結ぶ箱根登山ケーブルカーが、12月1日に開業100周年を迎える。運行する小田急グループの箱根登山鉄道(神奈川県小田原市、抱山洋之社長)は、100周年を記念して25日からキャンペーンを展開する。

 箱根登山鉄道の終点・強羅駅と、箱根ロープウエーの発着点・早雲山駅を結ぶ約1・2キロが営業路線。駅数は6駅、高低差は214メートル。登山鉄道に連絡する箱根回遊コースの一環として計画され、1921(大正10)年12月1日に営業運転を開始した。

 国内では1918年に開業した生駒鋼索鉄道(通称・生駒ケーブル)に続く2番目に歴史のある路線で、関東初の鋼索鉄道という。開業時の軌条、車両、巻き上げ装置などすべての機材をスイスから輸入した。100年の間に車両を4度更新。現在運行するケーブルカーで5代目になる。25日~22年3月31日は全車両の前面と後面に「100周年」記念ヘッドマークを取り付ける。

【「建設業ではたらく人々」など3部門】滋賀建協夢けんせつフォトコンテスト、3部門の入賞作決定

居原裕也さんの「暑さを笑顔にかえて」

  滋賀県建設業協会(滋賀建協、桑原勝良会長)が主催する第27回「夢けんせつフォトコンテスト」の入賞作品がこのほど決まった。本年度は第1部グランプリに居原裕也さん(滋賀県)の「暑さを笑顔にかえて」、第2部グランプリには田中雄哉さん(滋賀県)の「願いを込めて」が選ばれた。第3部のインスタグラム部門ではmeguchan3さんの「女神に見守られて」がグランプリを獲得した。

 コンテストは、建設業界に対する理解促進とイメージアップを図り、将来の入職者増加につなげようと、滋賀建協らで構成する実行委員会(桑原勝良委員長)が毎年行っている。

田中雄哉さんの「願いを込めて」

 本年度は、第1部の「建設業にはたらく人々」、第2部の「建設物がある滋賀の風景」、第3部の「インスタグラム部門」で7月20日まで募集。第1部・2部には168人(県内130人、県外38人)から計300点(第1部130点、2部170点)の作品が寄せられた。第3部には6人から計9点が提出された。

 審査では第1部と2部でグランプリ1作品、優秀賞4作品、特別賞1作品、U22特別賞1作品、入選10作品、奨励賞5作品をそれぞれ決定。第3部はグランプリ1作品、優秀賞1作品を選んだ。

meguchan3さんの「女神に見守られて」

 10月中旬に表彰を行う予定。入賞作品は県内各地で開かれる各種フェアや滋賀建協ホームページなどで展示される。

2021年9月17日金曜日

【回転窓】歌川国芳の視点

  長髪を振り乱すように踊るとうもろこし。後ろには唄と笛を担当する野菜が控える。江戸後期に活躍した浮世絵師、歌川国芳が歌舞伎役者をモチーフに描いた作品だ。軽やかでユニークなタッチは古くささをまったく感じさせない▼武者絵で人気作家となった国芳は、戯画を得意にした。無類の猫好きで、猫のしぐさとだじゃれで東海道五十三次を表現したり、猫と魚で文字を形作ったりとアイデア豊富な作品を残した▼当時は娯楽を制限した天保の改革の嵐が吹き荒れ、ペリーが来航した激動の時代だった。平安の物語を題材にした作品は幕府を暗に風刺していると大きな話題に▼版元が絵を回収する騒ぎとなったが、かえって人気を呼び高価な海賊版まで出回ったそうだ。卓越した画力と、ユーモアあふれる視点から時代を切り取る構想力に、多くの喝采が送られたのだろう▼今年は国芳の没後160年に当たる。3月に専門美術館が岡山県倉敷市にオープン。東京都渋谷区の太田記念美術館で展覧会も開催中だ。楽しみが抑制され欲求不満が渦巻く昨今。江戸っ子を沸かせた浮世絵で、にやりとしてみてはどうだろうか。

【小池煙草店など活用へ】西武プロパティーズら、埼玉県秩父市で歴史的建造物活用事業

小池煙草店・宮谷家の改修イメージ(報道発表資料から)

  西武プロパティーズ(東京都豊島区、上野彰久社長)ら4社は、埼玉県秩父市にある歴史的建造物や古民家を改修し、ホテルやレストランとして活用するプロジェクトを開始する。初弾として西武鉄道西武秩父駅の周辺に点在する3物件をホテルにリノベーションする。新たな観光拠点として2022年春のオープンを目指す。

 参画するのは▽西武プロパティーズ▽秩父地域おもてなし観光公社(埼玉県秩父市、北堀篤会長)▽NOTE(兵庫県丹波篠山市、藤原岳史社長)▽三井住友ファイナンス&リース(東京都千代田区、橘正喜社長)-の4社。共同出資会社を設立してプロジェクトを推進する。

 初弾で改修するのは、昭和初期に完成した登録有形文化財の「小池煙草店」(番場町17の10、113平方メートル)と、隣接する「宮谷家」(同17の10、147平方メートル)。明治から昭和初期にかけて竣工した「マル十薬局」(宮側町17の5、390平方メートル)も改修する。改修ではホテル以外にレストランやカフェの機能も併設する。3棟で一つの分散型ホテルとして整備する予定。滞在客の市内回遊を促す。

【五輪競技施設の活用策検討】有明アーバンスポーツパーク運営支援業務2、PwCアドバイザリーに

  東京都財務局は「令和3年度有明アーバンスポーツパーク(仮称)運営事業に係る支援業務委託(その2)」の落札者をPwCアドバイザリーに決めた。希望制指名競争入札を15日に開札し、同社が533万50000円(税込み)で落札した。入札には2社が参加した。

 東京五輪のスケートボードや自転車競技の会場となった「有明アーバンスポーツパーク」(江東区有明1の7)の競技施設を活用するなどして、「有明アーバンスポーツパーク(仮称)」を整備する計画。PFIで民間事業者に整備と運営を任せる見通し。

 委託業務では、これまで検討した実施方針案や要求水準書案の修正・精査、募集要項の作成などを支援する。履行期間は2022年3月31日まで。

【延べ39.5万㎡規模を計画】札幌市北5西1・2地区再開発、マスターアーキテクトに内藤廣氏

再開発ビルの現時点での完成イメージ(準備組合発表資料から)

  JR札幌駅周辺で再開発を計画している札幌駅交流拠点北5西1・西2地区市街地再開発準備組合(理事長・吉岡亨札幌市副市長)は15日、マスターアーキテクトに建築家の内藤廣氏(内藤建築設計事務所)を選定したと発表した。内藤氏は今後、設計業務を担当している日本設計とともに、施設全体のデザイン監修を担う。

 事業実施区域は札幌市中央区北5西1、西2、西3の一部で、施行区域は約3・4ヘクタール、事業区域は約2・5ヘクタール。再開発ビルは西1街区に高層棟1棟を配置する計画で、S・SRC造地下4階地上46階建て延べ約39万5000平方メートルの規模を見込む。交通結節点としてバスターミナルの再整備と北海道新幹線駅との連携を図るとともに、にぎわい・交流機能としての商業機能、宿泊機能を備えたホテル、道外からの本社機能を誘導する高機能オフィスの導入などを目指している。

 現在は日本設計が基本設計を進めている。今後は施設の各箇所のデザイン体制を構築し、マスターアーキテクトとデザイナー、建築設計者の協業により建物デザインを具体化していく予定。北海道の玄関口にふさわしい新たなシンボル空間や、周辺との一体感が感じられる景観を形成し新たな札幌の顔づくりに取り組んでいく。

 今秋にはみらい推進機構に委託している特定業務代行者の選定作業も終わる見通し。2022年度に都市計画決定を受け、23年度上期までに基本・実施設計を完了して着工、29年秋の供用開始を目指す。

【既存施設の利活用も検討】葛西臨海水族園整備PFI、実施方針など公表

  東京都が計画する葛西臨海水族園(江戸川区)の整備事業が始動する。都は16日、事業にBTO(建設・移管・運営)方式のPFIを適用するための実施方針と要求水準書案を公表した。

 PFI法に基づく事業に特定した上で、2022年1月に入札を公告する。既存施設の「利活用の基本的考え方」も合わせて策定。「新たな水族館と有機的に連携しながら利活用していく」とした。

 葛西臨海水族園の所在地は臨海町6の2の3。新施設を既存の隣接地に建設し、設備や展示ガラスの老朽化を解消する。現施設は1989年10月に開園した。新施設の規模は延べ約2万2500平方メートルを想定。総水量は約4600トンを計画している。都が昨年10月にまとめた事業計画によると、施設整備費(税込み)は244億~275億円。

 事業名称は「葛西臨海水族園(仮称)整備等事業」。新施設の設計や施工、工事監理、建築物の保守・維持管理などを任せる。飼育展示業務などには指定管理者制度を別途採用する。

 実施方針と要求水準書案に対する意見の提出期限は10月6日。アドバイザリー業務を手掛けるPwCアドバイザリーへのメールで受け付ける。入札公告後の22年4月に応募者と対話。同7月に提案審査書の提出を締め切る。落札者の決定は同9月を予定。同12月契約する。新施設の設計・建設期間は22年12月~27年9月を想定。28年3月の供用開始を目指す。事業期間は48年3月31日まで。

 既存施設利活用の基本的考え方では、環境教育を基本に文化、観光、福祉などさまざまな分野での用途を検討するとした。設備更新やバリアフリー対応などで維持管理費が発生するため、建物が確実に保存できるような資金確保の制度構築を目指す。

 今後は民間事業者へのヒアリングやサウンディング(対話)調査でさらに情報を収集する考え。水族園の機能を新施設に移した後、建築家の谷口吉生氏が設計した既存施設は、状態を確認して利活用方針を固める。

2021年9月16日木曜日

【回転窓】秋の色彩

  通勤電車の車窓から見える景色も、秋の色が深まってきた。桜並木の葉は緑から黄色に変わり、線路沿いに群生するススキも銀色の穂が揺れだした▼色彩の感覚は人それぞれ微妙に異なり、表現もさまざま。ススキの穂の色も白や黄金などを推す人も多かろう。古くから身近にあったススキは、多くの歌人・俳人らに詠まれた。秋の季語「真赭(まそお)の糸」は穂が赤みを帯びた様を表す▼「名月の出るやゆらめく花薄」〈子規〉。旧暦8月15日の中秋の名月は農業の行事と結び付く。月見ではススキを供えて収穫物を悪霊から守り、翌年の豊作を祈願する意味が込められている▼ススキは生活必需品でもあった。民家のかやぶき屋根には、ススキなどの茎や葉を利用。農村部では秋から冬にかけた農閑期に共同で材料のカヤを集め、屋根の補修やふき替えを行う。屋根材以外に炭俵や家畜の飼料などとしても重宝された▼かつては屋根材を栽培する広大なカヤ場だったが、現在は関東有数のススキの名所で知られる箱根・仙石原。秋の行楽シーズンには多くの人でにぎわう。今も昔もススキは日々の暮らしに彩りを添えている。

【富士山科研ら調査、精進湖起因説覆る】富士山北麓の「赤池」、出現要因は降雨

20年7月に出現した赤池(富士山科研提供)

  山梨県富士山科学研究所(山梨県富士吉田市、藤井敏嗣所長)は、富士山北麓に時折出現する幻の湖「赤池」の水質を調査した結果、出現要因が主に直近の降雨によるものであることが判明したと6日に発表した。これまでは出現場所から約1km離れた精進湖と地下でつながっている説が有力視されていた。今回の調査結果で定説を覆したことになる。

 富士山科研と山梨大学大学院総合研究部、立正大学地球環境科学部が共同で調査した。2020年7月に出現した赤池の水を採取することに成功し、水質や安定同位体比を分析した。結果によると、赤池の水の安定同位体比が同時期に採取した精進湖の湖水と明らかに異なっていると判明。赤池出現後の降雨時に、赤池の水の安定同位体比が大きな変化を示したことなどから、赤池に流入する水が主に直近の降雨に由来すると突き止めた。

 赤池は精進湖の南東約1km、富士パノラマラインの瀬之波橋の真下付近(富士河口湖町)に大雨が降ると出現する。過去40年で7回の出現が報告され幻の湖と呼ばれている。

【スタジアム在り方検討で基礎情報収集】静岡市サッカースタジアム先行事例調査、デロイトトーマツに

  静岡市は公募型プロポーザルを実施した「サッカースタジアム先行事例調査業務」の委託先候補にデロイトトーマツフィナンシャルアドバイザリーを選定した。概算事業費は269万5000円(税込み)。

 日本平スタジアム(清水区村松)はJリーグ清水エスパルスのホームスタジアムとして使われてきたが、Jリーグのライセンス基準である屋根のカバー率不足やアクセスの不便さなどの課題が指摘されている。また、スポーツ庁が主導で進めた調査で、これからのサッカースタジアムは従来の運動施設とは異なり、さまざまな役割が期待されていることが明らかになった。

 調査では、市にふさわしいサッカースタジアムの在り方を検討するための基礎的な情報を収集する。国内外の事例を参考に整備内容や施設規模、整備手法、検討手法などを調査する。民間活力導入や複合施設化なども併せて検討し、新たなスタジアムに必要な規模やアクセスなどについて整理する。履行期間は2022年3月15日まで。

2021年9月15日水曜日

【四足歩行ロボが現場を巡回】竹中工務店と竹中土木、実証実験で有効性確認

  竹中工務店と竹中土木は14日、米ボストン・ダイナミクスが開発した四足歩行ロボット「Spot」を使った現場管理の実証実験で、自動巡回と遠隔操作機能の有効性を確認したと発表した。

 工事記録写真の撮影や工事進捗(しんちょく)管理など、現場管理業務の負担を10%程度削減できたという。搭載機器のユニット化などに取り組み、2024年の実用化を目指す。

 実証実験は19年10月から複数の建築現場や土木現場で行ってきた。自動巡回の実証では3Dレーザー測域センサーを利用し、Spotの背中に全天球撮影カメラ(360度カメラ)を搭載。現場環境が日々変化しても自分の位置や経路を把握し、工事進捗管理などに必要な写真を取得できることを確認した。建物1階からスロープや階段を利用し、4階のフロアを巡回して戻るといった日常運用を想定した実証実験にも成功した。複数の大規模な建築現場で自動巡回の有効性を確認した事例は国内初という。

 遠隔操作機能の実証では両社が開発した首振り台座付きタブレット端末や小型プロジェクター、通話装置、小型コンピューター、バッテリーを搭載。LTEモバイルルーターで遠隔通信を行った。遠隔地からパソコンなどで操作し現場の作業を確認できる。現地の作業員らとモニターなどに投影された資料や図面を共有しながら打ち合わせも可能。測量機を搭載すれば遠隔地から寸法や精度管理業務なども行える。

 今後は搭載機器のユニット化やオペレーションシステムの開発を進める。搭載ユニットは他の移動ロボットへの応用も検討し、開発中の「建設ロボットプラットフォーム」との連携を目指す。両社はSpotの実用化に向け20年12月から鹿島を加えた3社で共同研究を開始。実証の成果を3社連携にフィードバックし、現場の働き方改革などにつなげていく考えだ。

【万が一に備えて対応を】中部まちづくり協会、水害対応でピクトグラム制作

  中部地域づくり協会地域づくり技術研究所(犬飼一博所長)は、早期避難を促す取り組みの一環として、水害への事前の備えを表したピクトグラム「ソナエルピクト」を制作した。

 避難行動のチェックリストとしての活用のほか、図柄は防災訓練などでも自由に使うことができる。同協会ホームページで公開している。

 東京五輪でピクトグラムへの関心が高まったことから、学校全体で防災活動に取り組んでいる愛知県立豊橋工科高校の協力を得て制作した。「非常食・常備品の用意」や、防災アプリの登録・防災リスクの確認などを意味する「防災情報の収集」「早めの避難」など8種類。備えや確認ができたものにはチェックを入れる。避難場所や電話番号の記入欄も設けている。より多くの人に利用してもらえるよう、自治体にも情報提供する。

 同協会ホームページではこのほか、「あつまれ動物の森(あつ森)」を活用した防災啓発動画、浸水疑似体験映像、防災啓発冊子「自然に学び、自然に備える」なども公開。日常生活の中での準備や早期避難の重要性を訴えている。

【自然に寄り添う建築追求】高松宮殿下記念世界文化賞、建築部門はグレン・マーカット氏に

グレン・マーカット氏(撮影・Anthony Browell)

  日本美術協会(総裁・常陸宮さま)は14日、世界の優れた芸術家に贈る第32回(2021年)「高松宮殿下記念世界文化賞」の受賞者4人を発表した。建築部門はオーストラリアのグレン・マーカット氏(85)が選ばれた。受賞者にはメダルや賞金1500万円などを贈る。10月に式典などを予定していたが、新型コロナウイルスの流行を踏まえ中止する。

 マーカット氏は英国で生まれ、若くしてオーストラリアに移住した。先住民族アボリジニの言葉「大地に軽く触れる」をモットーに、個人住宅を中心に450件以上の設計に従事。地元の木材や波形鋼板、石、ガラス、コンクリートなど簡素な素材を使い、自然に寄り添う建築を生み出してきた。

アーサー&イヴォンヌ・ボイド教育センター
(1999年完成、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州、
撮影・Anthony Browell、画像提供・TOTO出版)

 出世作となった高床式家屋の「マリー・ショート/グレン・マーカット邸」は、二重屋根の天窓や壁のルーバーで日差しや風の向きや量を調整でき、空調に頼らず快適に過ごせる。代表作には「アーサー&イヴォンヌ・ボイド教育センター」などがある。

 特別な場合を除き1人ですべての設計作業をこなす。コンピューターは使わず鉛筆で克明な図面を描くという。02年に同国で初めて米プリツカー賞を受賞。09年に米国建築家協会(AIA)ゴールドメダルを獲得した。08年には日本で展覧会が開かれた。

2021年9月14日火曜日

【回転窓】スポーツの力

  東京五輪・パラリンピックが閉幕してもプロスポーツに休みはほぼなく、国内外でさまざまな試合が行われている。テニスの四大大会、全米オープンもその一つ▼12日にニューヨークで車いす部門の決勝戦が行われ、男子シングルスで東京パラリンピック金メダリストの国枝慎吾選手が2年連続8度目の優勝を遂げた。女子シングルス決勝は上地結衣選手が準優勝。休む間もなく戦い続けるトップ選手の体力と精神力には感服する▼米MLBの大谷翔平選手、サッカーイングランドプレミアリーグの強豪に移籍し早速出場した冨安健洋選手。海外で活躍する日本人選手は数多い。海外の試合がテレビだけでなくインターネットで見られるようになり、スポーツ好きにはうれしいのだが、つい時間を忘れてしまい、翌朝寝不足で後悔してしまうこともしばしば▼海外のスポーツを見ていて思うのは立派で雰囲気のあるスタジアムが本当に多いこと。歴史や文化、気候、ビジネスモデルなどで日本と海外の違いを感じる▼隣の芝は青く見えるとも言うが、それでもできることは日本でもあるはず。経済活性化にぜひスポーツの力を、と願ってやまない。


【日本工営海外子会社、都市開発で攻勢狙う】英国建築設計会社・BDP、専門知識生かし存在感を発揮

  ◇知見生かし存在感高める◇

 日本工営の海外子会社で英国に拠点を置く建築設計会社のBDP(マンチェスター)が、事業規模の拡大に向けた動きを強めている。7月1日付で就任したニック・ファルハム最高経営責任者(CEO)は、これまでの大規模建築プロジェクトで得た知見などを生かし「BDPの存在感を高める」ことを経営戦略の重要項目に掲げる。日本工営との連携を深め、土木と建築が融合した都市開発プロジェクトで攻勢を掛ける。


 --BDPの強みは。

 「ウエストミンスター宮殿(ロンドン、1903年竣工)の大規模改修など規模が大きく、非常に複雑なプロジェクトに対応している。各スタジオを通じて地元の知識と理解を得ながらサービスを提供している。創業から60年がたち、世界をより住みやすい環境にするのが使命と捉えている。早い段階で業務に最新技術を取り入れてきた。例えば仮想空間に設計デザインを表現した没入型3D環境を構築し、顧客からの要望を設計プロセスに反映している」

 「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で通信環境は飛躍的に向上した。建築や都市計画を取り巻く市場は拡大傾向にある。豊富な専門知識を持った当社の社員が国内外で活動し地域に根差した提案をすることで、競合他社との差別化を図っている」

ウエストミンスター宮殿の大規模改修で設計を手掛けた(BDP提供)

 --注力分野は。

 「シンガポールとニューデリー、上海の各拠点を軸に交通インフラや公共交通指向型開発(TOD)で収益拡大を狙う。蓄積した知見を生かし日本工営や現地法人とも連携し、スマートシティーにも力を注ぐ。当社は英国内でもいち早く設計業務にBIMを活用した。直近で手掛けた製薬大手・アストラゼネカのグローバル本社(ケンブリッジ)などは好事例だ。BIMの情報を工事関係者と共有し、多くの部材をプレキャスト(PCa)化したり無駄なコストを抑えたりして工期短縮を実現した」

 --市場開拓をどう進める。

 「カナダに拠点を置く建築設計会社のクアドラングル(トロント)を傘下に収め、2020年11月からBDP-クアドラングルとして運営している。200人以上のスタッフが在籍し、住宅や店舗などで強みを生かしている。デジタルコンテンツの急成長を理由にスタジオや編集スタジオの需要が増加している。北米を中心にサービスを提供し、当社のブランドと存在感を高めたい」

 「7月には大規模なスタジアム建築を得意とする英パターン・デザインを買収した。パターン社は22年のサッカーワールドカップ(W杯)カタール大会で使用するアフマド・ビン・アリ・スタジアムなど2施設の設計を手掛けている。イングランドプレミアリーグのエバートンFCが計画している新スタジアムにも携わっている。スタジアムの複雑な構造を理解し、地域社会に対して永続的で良いレガシー(遺産)を提供するには、高度な専門知識が必要だ。当社とパターン社は国際的なネットワークやスタジアム設計の専門知識を持っている。需要増が見込めるスポーツ施設やeスポーツ競技場で強みを発揮する」

アフマド・ビン・アリ・スタジアムはカタールW杯の試合会場になる(BDP提供)

 --日本工営とのシナジー(相乗効果)をどう最大化する。

 「日本工営の経営理念や組織力、世界を網羅するエンジニアリングサービスとのシナジーを期待している。東南アジア諸国連合(ASEAN)地域で都市化が急速に進行している。既に両社はアジア地域でのマスタープランづくりを手掛けている。住みやすい都市にするには何が必要か、意識を共有できている」

 「ショッピングセンターや住宅などが入居するリバプール・ワンは、王立英国建築家協会(RIBA)のスターリング賞にノミネートされた。この複合施設の開発を通じ、市内中心部の再生に貢献した。インドネシアのパティンバン港開発事業では、グリーンインフラを中心としたマスタープランを策定した。物流やレジャーを中心とした活気ある都市が具現化できた。今後も当社と日本工営は持続可能な都市の実現に向け大規模な都市デザイン、インフラ・エネルギープロジェクトで価値を提供していく」。

 《会社概要》

 1961年に設立。歴史的建造物や複合施設、オフィスの設計などを得意とする。社員数は7月末時点で1295人。20年度の売上高は約180億円で英国トップクラス。16年に日本工営の傘下に入り、土木・建築一体のインフラ整備や都市開発で受注拡大を狙う。

2021年9月13日月曜日

【凜】日本高速道路保有・債務返済機構総務部管理課係長・須坂馨さん

  ◇感謝の気持ちを忘れず前進◇

 公共の仕事に関心があり、首都圏の高速道路網を支える首都高速道路会社に入社した。車の運転が好きなことも動機の一つだった。事務系の総合職として、財務部や総務・人事部などを担当。入社後すぐに配属された高速道路の建設・管理に関する部署では利用者の苦情対応などに奔走した。「直接電話で話して対応する。大変だったけれど乗り切れたという自信とある意味度胸も付いた」と振り返る。

 2019年7月に日本高速道路保有・債務返済機構に出向。仕事のエリアが首都圏から全国に広がった。高速道路各社が実施する高速道路の建設や維持管理に関するさまざまな申請や依頼に対し、内容を精査して必要に応じ国などの承認を受け、許可手続きなどを進める。機構は出向者が多く「いろんな会社の人たちと知り合い、知識を深めることができる。ここに来て良かった」。

 職場の人たちの影響で登山という新たな趣味に出合えた。コロナ禍のため、いまは少数や一人での登山となっているが「ゴールに向かって無心で進む。美しい景色がご褒美になっている」と笑顔を見せる。

 「よりよく楽しく、今あるものに感謝」が人生のモットー。仕事や家事もほんの少し前進できないか、良くならないかと考える。上司や同僚に恵まれ、夫や子どもたちが仕事を理解し協力してくれる。「ありがたい」と感謝の気持ちを忘れない。

 (すさか・かおる)

【中堅世代】それぞれの建設業・296

仕事で自分の原点になった鉄道が今日も走る

 ◇みんなの思いを結実させた原点◇ 

 こんなはずではなかったのに--。就職が決まった行政機関への出勤初日、佐々木哲治さん(仮名)の足取りは重かった。新社会人としての船出を迎え、希望に満ちあふれた周りの姿に、恨めしさのような気持ちさえ抱いていた。

 インフラの設計を手掛ける企業に勤務していた父は、整備に携わった橋梁などにしばしば連れて行ってくれた。「こんなに大きい橋を一から造るなんて」。父の仕事に憧れるようになり、「自分もやってみたい」という思いが次第に膨らんでいった。大学で土木技術を学び、就職活動を始めるころには、父と同じように設計者として働くだろうと信じて疑わなかった。

 だが当時は就職氷河期。多くの人が就職先を見つけられない厳しい市場環境が、佐々木さんにも襲いかかった。数十社の土木設計企業に履歴書を送るも、相次いで届く「お祈り」の連絡。失意のどん底に突き落とされ「毎晩浴びるほど」に酒を飲み、気を紛らわす日々が続いた。

 苦労の末に内定をつかんだのは地元の行政機関。「正直なんとなく採用試験を受けて」決まった就職先に、希望や熱意を持つことが当時はどうしてもできなかった。

 入庁して配属されたのは、鉄道新線の整備を推進する部署だった。大規模な土木工事を伴うプロジェクトに当初は期待したものの、既に着工している事業で「一から設計できない」。自身にとって不本意な仕事に、「よく飛ばされなかった」と振り返るほど「ふてくされた態度」で業務に当たっていた。

 設計者、施工者、地域住民など、多くの関係者との折衝を、事業主体としてコントロールすることを求められた。トラブルが重なり、逃げ出したくなることもあった。「事業に対して強い思いを持っているからこそ、意見が出てくる」との相談した上司の言葉にはっとした。みんなの思いを必ず結実させる。心を入れ替え、使命感を持って新線の整備に取り組むようになった。

 完成を迎えた時の喜びはひとしおだった。多くの人が駅や車両を往来する光景を見て、「住民の役に立てた」と胸が熱くなったのを覚えている。「ここで働いていく」決意が固まった瞬間だった。

 行政機関が持つ幅広い業務内容も、新たなモチベーションとなった。ジョブローテーションで複数の部署を回り、公園や道路の整備などの仕事を経験。さまざまな形で住民たちの豊かな生活に貢献するとともに、それぞれの部署で得た知見から広がる視野に、自身が成長を続けていける手応えをつかんだ。

 仕事が煮つまったり疲れを感じたりした時に、あの鉄道路線を見に行くことがある。行政職員として導いてくれた「自分の原点」を眺めていると、明日への活力がわいてくる。失意や不満にとらわれた、かつての姿はそこにはない。自信と誇りを胸に今日も職場に向かう。

【きみに期待】鉄建建設海外事業推進室総務部課長代理・山内将浩さん

山内さん㊧と山本総務部長

 ◇後輩と一緒に考え解決したい◇

  入社後15年のキャリアのうち、半分以上を海外に関する業務にささげてきた。現在も海外事業推進室で東南アジアなどの業務フロー改善などに従事する。海外への駐在も多く、現在は都市高速鉄道(MRT)の工事を受注しているバングラデシュ・ダッカで活躍中だ。

 入社後は東北支店総務部に6年勤務し、工事事務担当として青森、岩手、秋田、宮城の作業所を担当した。その後海外事業部に異動し、ベトナムとカンボジア、バングラデシュに駐在。2021年から現職に就いている。

 現在は海外工事の業務フロー改善を目的にERP(統合基幹業務)システムの導入準備を進めている。自身の知識や経験を次世代に引き継ぐため、「問題が発生した時には一緒に考えながら解決していきたい」と後輩の育成にも力を入れる考えだ。ERPシステムを活用した管理体制の強化で、分析用データの収集とコスト削減を目指す。

 上司の山本潤一郎海外事業推進室総務部長は「深く思い悩まず仕事を進めていくタイプ。自身の持つ知識や経験を生かして部門を取りまとめ、後輩からも頼られるリーダーになってもらいたい」と今後に期待する。

【駆け出しのころ】日建設計執行役員エンジニアリング部門構造設計グループ・杉浦盛基氏

  ◇考えて決める重みと醍醐味

 学生時代、建築の意匠・デザインは自分が良いと思っても、相手によって異なる評価もあり、同じ物差しでは測りにくい印象を持ちました。よって重力という不文律がある中、一定の決まり事に基づいてつくり込む構造設計の方が自分に合っていると感じました。

 スポーツ好きで大学時代はアメリカンフットボールに熱中しました。担当の先生から「根性と体力がありそうだから設計事務所に向いている」と言われ、入社して確かに根性と体力が必要だと実感しました。

 堅いイメージだった当社に入ってみると、サークル活動が盛んでイベントの多さに驚きました。テニス部やサッカー部など複数の部活を掛け持ち、仕事と遊びを両立しながら、忙しくも毎日が充実していました。職場も東京、大阪、名古屋を行き来し、社内外で築いた人とのつながりは大きな財産です。

 入社から4年の間で印象深い仕事は、デザインが個性的な東京・飯田橋と桜田門の派出所、構造が複雑な製鉄所の施設、東京湾アクアラインの川崎人工島「風の塔」など。風の塔の設計では、構造物の高さを決めるのに海上の現地でアドバルーンを揚げたり、外装の壁の汚れ具合を中央道・恵那山トンネルで調べたりするなど、構造設計以外にも貴重な経験をしました。通常の構造物と大きく異なり、どうしてこうなるかをきちんと考える大切さを学びました。

 若い頃は分からないことをただ尋ねるのではなく、自分で考え結論を出した上で先輩らに相談するよう意識しました。想定が甘く、間違いや至らないところは少なくありません。それでも周りの方々からアドバイスやサジェスチョンをもらいながら答えを導き出していったことが、成長につながったと思います。

 瀬戸デジタルタワー、京都迎賓館、名古屋市科学館理工館・天文館など、構造設計者として転機になったプロジェクトは多々あります。

 設計監修のザハ・ハディド・アーキテクツと設計JVで取り組んだ新国立競技場の設計では、今までにない新技術など、世の中を変えるきっかけになるようなものをいろいろ仕込むことができました。素晴らしいものになったと思えていただけに、白紙撤回となったのは非常に残念。当時の設計チームでは、技術もさることながら他国を含め他社の人たちが国際プロジェクトでどのように立ち回っているのかが分かり、刺激を受けました。こうした経験が次の新カンプ・ノウ計画コンペ(スペイン・バルセロナ)につながっています。

 つくり上げるまでにいろいろと苦しみはありますが、完成した時の喜びに勝るものはありません。さまざまな経験が自身の成長、ひいては会社の発展につながります。若い人たちには、設計の世界で物事を決める重みを感じながら、仕事の醍醐味(だいごみ)を味わってもらいたいです。

入社1年目、同期らと参加した会社の運動会で
(右端が本人)

 (すぎうら・しげき)1991年名古屋工業大学工学部社会開発工学科卒、日建設計入社。2020年執行役員エンジニアリング部門構造設計グループプリンシパル(現任)、21年からグローバルデザイン部門エンジニアリンググループ(構造・監理)プリンシパルを兼務。愛知県出身、53歳。

2021年9月9日木曜日

【屋内自転車競技施設に採用】清水建設、独自の屋根構造形式を実用化

鉄骨トラスで楕円形のドーム屋根を構成した(報道発表資料から)

  清水建設は独自の屋根構造形式「リングシェル」を開発し、「千葉JPFドーム」(千葉市中央区)で実用化した。単層の鉄骨トラスを組み合わせ、楕円(だえん)形ドーム屋根の骨組みを構成している。リングシェルの適用によって鉄骨構造で軽やかな、膨らみを抑えた楕円形の屋根を実現した。千葉JPFドームの大屋根は無柱の大空間として千葉県内最大という。10月2日に供用を開始する。

 千葉JPFドームに適用したリングシェルでは鉄骨トラスの剛性と耐力を高めるため、大屋根外周部に72本のケーブルを配置した。ケーブルは鉄骨トラスの外周部と大屋根中央下部に設けた直径84メートルの鋼製リングを放射状に連結。緊張されたケーブルで鉄骨トラスが外側に広がる力を低減し、大屋根の骨組みトラスを構造的に完結・独立させる。施工に当たっては鉄骨精度の確保が課題となったが、計測管理を徹底することでスパン119メートルに対して最大56ミリのたわみに収めた。

 千葉JPFドームはJPFが千葉公園内に民設民営事業として整備する自転車競技施設。約2500席の観客席を備え、周長250メートルの木製トラックは世界選手権仕様となっている。個性的なデザインのドーム大屋根を、シンプルな鉄骨構造で表現している設計が特徴。大屋根は総重量約1000トン、直径198メートルの球の表面を楕円に切り取った形状をしており、薄く軽やかなつくりで観客席と木製トラックを包み込む。

 施設はS一部SRC造地下1階地上4階建て延べ約1万4300平方メートルの規模。設計・施工は清水建設が担当した。

【多機能型施設で地域活性化】スポーツ庁ら、スタジアム・アリーナ改革モデル施設募集

  スポーツ庁と経済産業省は、スポーツ施設を街づくりや地域活性化の核とする「スタジアム・アリーナ改革」の実現を目指し、モデル施設を募集している。

 参加表明が10月12日まで、申請書類は同12日~11月1日に日本経済研究所公共デザイン本部インフラ部へのメールで受け付ける。2022年2月に選定結果を公表する。

 補助金や交付金事業での優遇や情報発信などでモデル施設の取り組みを後押しする。応募できるのはスタジアムやアリーナの新設、建て替え、大規模改修を計画する地方自治体と法人格を持つ団体。構想や計画の策定、設計・建設などを対象とする。

 政府は地域の交流拠点になる多機能型のスポーツ施設を25年までに20拠点整備する目標を掲げている。20年度はモデル施設の初弾として11施設を選定した。応募の詳細はスポーツ庁のホームページへ。

【堀米選手に続け!!】東京・江東区、夢の島競技場にスケボーパーク整備へ

山崎区長を表敬訪問した堀米選手㊧(江東区提供)

  東京五輪のスケートボード男子ストリート競技で初代王者に輝いた堀米雄斗選手を記念したスケートボード練習場が東京都江東区に誕生する。堀米選手は江東区出身。区は陸上競技場・夢の島競技場に「(仮称)堀米パーク」を整備する。8日に会見した山崎孝明区長は「若者の人気を集めるスケートボードをさらに盛り上げたい」と練習場の整備に意欲を示した。

 区の建築・土木職員は多くが東京五輪・パラリンピック組織委員会に出向し五輪施設の建設に携わったという。会見で山崎区長は「彼らの知見を堀米パークの整備に生かしたい」と表明。年内にも設計者を選定する。

 年度内に設計を終え2022年度に工事を実施する。区の担当者は「家族でスケートボードを楽しめる施設にしたい」としている。夢の島競技場の所在地は夢の島1の1の2。敷地面積は2万6800m2。

 堀米選手は金メダル獲得後の先月6日、山崎区長を表敬訪問。区長はスケートボードパーク構想を明らかにしていた。

2021年9月7日火曜日

【回転窓】何事も安全が第一

  通行量が多い東京都内の幹線道路をさっそうと駆け抜ける電動のキックスケーターを目にする機会が多くなった。想像以上にスピード感があり、運転している人の体感速度はかなりのものだと思う▼通勤や移動で密を避ける手段として自転車を利用する人が増えていると聞く。電動キックスケーターも都会の新たな移動手段として注目され、国は規制緩和に向け実証実験を実施している▼道路交通法で原付きバイクに分類される電動キックスケーターは免許の所持や車道走行はもちろん、ヘルメットの着用も必要になる。道が混んでいるからといって、車の間を縫うように走ったり、歩道を通行したりすれば事故のリスクは高くなる▼実際、交通違反や事故の件数は増加傾向にあるそう。モーター駆動でほとんど音がしないことで接近に気付かない歩行者もいるだろう。一時期、街中を低速走行するハイブリッド車の走行音が静かすぎて、歩行者が車の接近に気が付かないことが問題になったケースと似ている気がする▼便利な交通手段もルールを守らなければいっときの流行で終わってしまう。何事も安全第一と肝に銘じてほしい。

【佐藤可士和氏が内装監修】くら寿司浅草ROX店、独建築デザインアワードで最高位受賞

  東京都台東区にある「くら寿司浅草ROX店」がドイツの国際建築デザインアワードでインテリア部門の最高位「ベスト・オブ・ベスト」を受賞した。

 クリエーティブディレクターやグラフィックデザイナーとして活躍する佐藤可士和氏が内装を監修。江戸時代の日本の「祭り」をイメージし、ジャパニーズモダンなデザインで店内を仕上げている。

 浅草ROX店はくら寿司のグローバル旗艦店という位置付けで、日本文化を世界に発信する役割を担っている。観光と食事が同時に楽しめる「サイトイーティング」がコンセプト。日本の文化や食事が体験できる店舗として、独「ICONIC AWARDS 2021」のインテリア部門で高い評価を受けた。主催はドイツデザイン評議会。

 昨年10月に第54回日本サインデザイン賞の銅賞(日本サインデザイン協会)を受賞。国内初となる内装意匠登録も終えている。

【オンラインで10日まで】土木学会と建築学会、21年度全国大会開幕

  土木学会(谷口博昭会長)の2021年度全国大会が6日開幕した。新型コロナウイルスの流行やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展などを念頭に、社会の変化に適応した土木インフラの将来像を発信する。7日からは日本建築学会(田辺新一会長)の21年度全国大会が開幕。ウィズ・アフターコロナへの対応やSDGs(持続可能な開発目標)、BIM、災害対策といった幅広い分野で意見を交わす。いずれもオンライン形式で開催。大会期間は10日まで。

 土木学会の大会テーマは「これまでも、これからも生活経済社会の礎を築く土木~市民と連携し、土木のビッグ・ピクチャーを描こう~」。産学官の土木技術者らがテーマに関連した講演や討論会などを行う。9~10日には「第76回年次学術講演会」として多様な分野の研究者による研究発表(講演総題数は約3200件)も予定する。

 当初は関東支部が中心となり神奈川県平塚市にある東海大学湘南キャンパスでの現地開催を目指していた。大会の様子は動画で生配信。コロナ禍前の通常開催時と同じ3万人程度の参加を目指す。実行委員長は国土交通省関東地方整備局の若林伸幸局長が務める。

 谷口会長は8日午前に基調講演する。社会全体を俯瞰(ふかん)するビッグ・ピクチャーとして、長期の視点に立ったプロジェクトの在り方や投資額などを明示した土木インフラの将来像を提唱。社会を取り巻く最新の課題や変化に対応し、経済を支える土木インフラの役割を訴える。

 日本建築学会の大会テーマは「つなぐ、集う、楽しむ」。東海支部が中心となり名古屋市昭和区の名古屋工業大学での開催を目指していたが、新型コロナでオンラインに切り替えた。1万人程度の参加を見込む。

 田辺会長はホームページに公開したあいさつで、「オンラインでどのような大会ができるのか壮大な社会実験の場でもある。未来に貢献できる建築に関して議論できればと思う」と呼び掛けた。勅使川原正臣大会委員長は「ご協力いただき大会を盛り上げるようお願いする」、井戸田秀樹大会実行委員長は「今後の大会はどうあるべきなのか、一緒に考える大会にできれば」とコメントを寄せた。

 学術講演会で6027件、建築デザイン発表会は203件の発表を予定。記念行事では「ニューノーマルの建築観:身体・距離・時間・領域」をテーマに、環境デザイン研究所の仙田満会長や建築家の坂茂氏らが有識者と語り合う対談動画を公開している。

2021年9月6日月曜日

【回転窓】いつかの3回目のために

  夏の盛りのころよりも空気が澄んで海と空の境がだいぶはっきりしてきた。東京五輪のサーフィンの舞台となった千葉・九十九里浜の南端に位置する一宮町。緊急事態宣言で海水浴場は開設されず、無観客の五輪会場のように静かな夏が過ぎた▼コロナ禍の前は住民が浴衣で関係者を迎えるイベントなどを計画し、「サーフィンと生きるまち」を国内外にアピールする案を練った。「コロナを恨めしく思った」と馬淵昌也町長が広報誌で振り返っていた▼熱戦の続いた東京五輪・パラリンピック。感染症が大流行するさなかの異例の競技会は、躍動した選手の笑顔や涙、記録とともに、挙行を巡る賛否の両論が語り継がれる▼暮らす人や都市の景観、競技会場を整えた建設技術、感染症対策の実態…。日本の今は世界の人々の目にどう映り、どう伝わったか、おもてなしはできたのか。責任者と関係機関にしっかり総括してもらいたい▼千葉県はサーフィン競技の開催が財産として残るまちづくりに取り組むという。願わくば安心・安全で誰もが歓迎する3回目を。開催の価値と教訓を正しく受け止め、後世に正確に残さねばならない。

【長野県大町建設事務所、ドローンで撮影】トンネル工事の貫通動画、SNSで77万回再生

 トンネル貫通動画が思わぬ反響--。SNS(インターネット交流サイト)のツイッターに長野県大町建設事務所(@NaganoOmachiken)が投稿した「(仮称)雨中1号トンネル」工事の動画再生回数が77万回を超えた。

 貫通の瞬間をドローン(小型無人機)で撮影した珍しい映像。コメント欄に「CGみたい」「まず見ることができない場面で貴重」といった感想が書き込まれ、3万6000件以上の「いいね!」が付いている。リツイートも1万4000件を超えた。

 SNSで話題が広がる、いわゆる「バズる」状況に同事務所は「想定外の反響に驚いた」という。県の出先事務所は工事や交通規制の情報をSNSやウェブで発信しており、「災害時の速やかな情報伝達などにつながれば」(同事務所)と期待している。

 動画を撮影したのは長野県小谷村で施工している「(仮称)雨中1号トンネル」工事の現場。延長は339mで戸田建設・鷲澤建設JVが施工している。NATMで掘削し6月12日に貫通した。