2024年7月25日木曜日

回転窓/ふるさと納税の使われ方

 生まれ育ったまちへの恩返しになればとふるさと納税を考えている。なるほどと思える返礼品だが、他の自治体も調べてみると特産品をはじめ旅行チケットやイベント観賞といった体験を重視したものなど、その多彩さには驚く▼長野県小谷村が返礼品に村内の水力発電所で発電した電気の提供を始めた。同県のほか中部4県(岐阜、静岡、愛知、三重)に居住し電気契約している世帯が申し込める▼村は2020年に気候非常事態宣言を表明し、50年までに二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロを目指している。1万円の寄付で150キロワット時を提供し、CO2排出量は70キログラム削減されるそうだ▼総務省は先月、ふるさと納税に関する基準を見直すと発表。来年10月から利用者にポイントを付与する仲介サイトで自治体が寄付を募ることを禁止する。サイト間でのポイント競争の過熱を問題視した措置。自治体が仲介サイトに支払う手数料やポイントも税金で賄われていることを踏まえると致し方なかろう▼納めた税金で育ったまちや応援したい地域に活力が生まれてほしい。返礼品だけではなく使われ方にもっと目を向けなければ…。

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2024年7月23日火曜日

回転窓/日焼けにご用心

 仕事がら外出する機会が多いこともあり、晴雨兼用の折り畳み傘を常備している。この時期は突然の夕立に加え、日傘としても頻繁に使用する▼温暖化の進展などにより、夏場の暑さは年々厳しさが増す一方。肌を刺すような日差しやうだるような暑さを少しでも和らげようと、都市部を中心に「日傘男子」が急増しているとか。女性限定のイメージが強かった日傘の男性利用も市民権を得つつある▼デパートなどの傘売り場では多種多様な機能やデザインの商品を豊富にそろえる。紫外線(UV)の遮蔽(しゃへい)率の高いUVカット加工を施し、内側の遮熱加工で暑さを防ぐ工夫も。はっ水性に優れたものも多く、急な雷雨に襲われた時も安心だ▼大手化粧品メーカーの研究によると、UVのダメージを受けやすいのは女性より男性なのだそう。意外にも男性の方が肌のバリアー機能が弱く、抗酸化力が低い傾向にあるという▼先週末までに梅雨明け宣言の地域が一気に広がり、全国的に夏本番を迎える。屋外作業が基本の建設現場では熱中症と合わせ、UVの対策も重要となろう。スキンケアに疎い男性陣は日焼けにご用心を。

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2024年7月22日月曜日

回転窓/タウトの日記をたどる

 ドイツ人建築家のブルーノ・タウト(1880~1938年)は日本に長期滞在していた当時、群馬県の草津温泉(草津町)や四万温泉(中之条町)などを訪れている。日記にその記述がある(『日本 タウトの日記』岩波書店)▼出版社編集長らと四万温泉に行ったのは35(昭和10)年6月。途中で織物を作る農民と会った後、旅館の温泉に入り夕食を取った。公衆浴場やわらぶき屋根の古い神社などを見たことも書かれている▼タウトが「四萬は、深い渓谷の中にあり、淙々と流れる澗流は、この邊になるととりわけ美しい」とつづった魅力は今も変わらない。地元関係者に聞くと、最近は静かな時間を求める外国人観光客らも増えているという▼タウトは日本滞在3年半のうち2年以上を群馬で過ごしている。34年8月から日本を去る36年10月まで、高崎市の少林山達磨寺境内「洗心亭」を住まいにしていた▼京都、仙台にも滞在し、日本の伝統美を高く評価したタウト。県指定史跡の洗心亭にはドイツ語で〈私は日本の文化を愛す〉と書かれた碑が立つ。この夏、日記を頼りにゆかりの地巡りへ出かけようと決めている。

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2024年7月19日金曜日

回転窓/深刻化する交通空白

 最寄りの駅前でタクシーを待つ列が長く伸びる光景をよく見るようになった。買い物袋を抱えた高齢者や子ども連れらが待ち続けているが、タクシーはなかなか来ない▼1日約5万人が利用する首都圏の鉄道駅前でさえこの状況。地方で深刻度が増しているのは想像に難くない。国土交通省のまとめによると、2019~21年度にバス・タクシーのドライバーは約5・5万人減少した▼地方などで乗り合いバスや鉄道路線の廃止も増えている。08~23年度に計2・3万キロ超の乗り合いバス路線がなくなった。高齢ドライバーの免許返納も進んでいる状況下で、公共交通の確保は死活問題となる▼こうした課題に対応するため、国交省が17日に「交通空白」解消本部を立ち上げた。本部長の斉藤鉄夫国交相は「交通空白問題の『主治医』として知恵を絞って取り組みを進めていく」と表明した▼自家用車で乗客を有償運送する「ライドシェア」の普及促進などが柱。運賃・料金の多様化も検討課題だ。自動運転の普及で状況は変わるだろうが、社会実装には時間がかかる。課題を乗り越えるための工夫と関係者の協力が求められている。

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2024年7月18日木曜日

回転窓/AIの生かし方

 未来から送り込まれたサイボーグが一人の女性をどこまでも追い回す--。米俳優アーノルド・シュワルツェネッガー主演のSFアクション映画「ターミネーター」は、初公開から40年がたつ今も古さを感じさせない不朽の名作といえる▼同作はシリーズを通して「スカイネット」と呼ばれる架空のAIが登場する。人類とAIをテーマにした映画は多く、時にはAIが暴走するなど身の毛もよだつ作品に出会う▼現実の世界で注目度が高い生成AIは、さまざまな分野で業務負担の軽減に役立つ。行政機関では相模原市が6月定例議会で市長の答弁書をAIで作成した。東京・品川区は区民からの要望をAIで分析し、補正予算の編成に生かした▼浜松市の企業が開発した「AI語り部」は、戦争体験を語り継ぐ人たちが高齢化していることに対応。質問者の問い掛けに最適な答えを語り部の映像と共に出力する▼AIの台頭で将来なくなると言われている職業がある。新聞記者も候補の一つ。とはいえ読者に価値ある記事を書き続けなければ、淘汰されてしまうのはいつの時代も変わらないだろう。AIに教わるまでもないが…。

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2024年7月17日水曜日

回転窓/伝統と創造の甲子園

 阪神甲子園球場が8月1日に開場100周年を迎える。プロ野球・阪神タイガースのホームグラウンドであり、高校野球の聖地としても数々の記憶に残る熱戦のドラマが繰り広げられてきた▼長い歴史の中で継続的に改修を重ねている。最も大規模だったのが2007年10月から10年3月まで3期に分けて行われたリニューアル工事。耐震補強や内外装改修、甲子園の名物である内野席の一部を覆う大屋根「銀傘(ぎんさん)」の架け替えや外壁に植生されたツタの植え替えなどが実施された▼球場を運営する阪神電気鉄道は昨年7月、数年後に銀傘を高校の応援団が集まるアルプス席まで拡張する構想を発表。観客の暑さを和らげ熱中症対策に万全を期す▼大屋根はもともと開場当初から戦前まで「大鉄傘(だいてっさん)」という呼び名でアルプス席まで覆われていた。一連の改修は次の100年に向け新たな価値を創造し、誰にも愛される日本最古の球場としての歴史と伝統を紡いでいく意味合いがある▼夢の舞台を目指す高校球児らの全国各地の予選でも熱闘が続いている。1年で最も熱い甲子園の夏がまもなく到来する。

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2024年7月16日火曜日

回転窓/街路樹の恩恵

 うだるような暑さの日中は、歩道を歩いているだけでもつらい。そんな時は信号待ちで街路樹がつくる木陰に入り、先客がいればつかの間の涼を共有している▼身近な街路樹には〈夏の日差しをさえぎったり、排気ガスや騒音をやわらげ、道路沿いの環境を守ります〉などといった役割がある(東京都建設局ウエブサイトより)。中でも今の季節は強い日差しを遮断してくれるのが何よりありがたい▼街路樹の歴史は古い。近代では1870(明治3)年、都内の新島原(京橋)と根津門前(本郷)の道路中央にサクラが植栽されたという。恐らくこれが明治に入り東京で初めての街路樹と、映画監督・脚本家の樫原辰郎氏が『帝都公園物語』(幻戯書房)に書いている▼都市やまちにグリーンインフラとして恩恵をもたらす街路樹だが、大径木化や過密化、根上がり、落ち葉、倒木などが問題となることも。それぞれの地域や沿道に適した形での効果的、効率的な維持管理が求められる▼小欄がいつも目にする街路樹は、毎年11月ころに葉がきれいな黄色に染まる。いずれ来る秋の姿を思い浮かべながら、厳しい暑さを乗り越えよう。

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2024年7月12日金曜日

回転窓/「お客さまは神様」の真意

 民鉄やJR各社ら鉄道事業者が暴力行為防止のPRポスターを12日から一斉に張り出す。「その拳、一発でもダメ!」と強く表現した▼鉄道事業者37社局の統計によると、2023年度の鉄道係員に対する暴力行為は517件。曜日では金土日、時間帯では夜・深夜が多い。年齢別では60代以上が唯一2割を超えているが、年代に限らず幅広い層が加害者になっている▼「お客様は神様です」というフレーズは歌手の三波春夫が広めたとされる。三波は『歌藝の天地』(PHP研究所)で「舞台に立つとき、敬虔(けいけん)な心で神に手を合わせたときと同様に、心を昇華しなければ真実の芸はできない」と記している▼芸一筋に生きた中で「お客様を神様とみる」という心構えを持ち続けたのが真意。聴衆にこびる発想ではないと、三波のオフィシャルサイトは記している▼顧客とサービス提供者の双方がいなければ社会は回らない。お互い様の気持ちが不可欠だ。働き方が変わりつつある建設業界と発注者との関係も同じ。より良い社会を保ち続けるためにも、カスタマーハラスメントには毅然とした態度で臨む必要がある。

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2024年7月11日木曜日

回転窓/建設ファンのコンビニ経営者

 自宅近くの駅周辺にはコンビニエンスストアが5店舗もひしめき合う。弁当や飲料水などを意識してコンビニで買っているわけではないが、いつからかヘビーユーザーの一人となっている▼コンビニ業界大手セブン-イレブンの1号店が東京・豊洲に開店してから5月で50年を迎えた。現在の国内店舗数は約2万1000超に上る。この間に多くの新サービスを導入しコンビニの進化をリードしてきた▼1978年にのりを自分で巻くおにぎりを発売し、81年に宅配便の取り次ぎ、87年に電気料金の収納代行を開始。2001年にはコンビニATMの銀行が誕生し、10年からは住民票の写しなども発行可能に。他のチェーン店を含めてコンビニは生活に欠かせないインフラとなっている▼コンビニ店を経営する知人からうれしい話を聞いた。作業服姿で買い物に来る建設業の人たちの印象はとても良いのだとか。レジなどで気さくに声を掛けてくれる人が多く、「それがうれしく気持ちいい」という▼建設業で働く一人一人が業界のブランディングを担う。身近なところでのちょっとした気配りでも建設ファンを増やしていける。

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2024年7月10日水曜日

回転窓/被災地の漁港復興へ

 石川県漁業協同組合によると、能登半島の北から南には年間100種類以上の魚がやってくる。同組合は甲殻類なども含めた県産水産物を「石川の四季のさかな」と呼んで観光客らにアピールしている▼その「夏のさかな」の一つがスルメイカ。刺し身はもちろん、煮ても焼いても甘みと弾力があっておいしい。内臓と塩を漬けて発酵させた「いしる(いしり)」は万能調味料として日本三大魚魚醤(ぎょしょう)に数えられている▼1月1日の能登半島地震では、石川県内の60漁港が被害を受けた。同下旬には一部の漁港で定置網漁が再開され、組合関係者は当時を「再建の一歩になった」と振り返った上で、今も各地で復旧工事を続ける建設会社に「とても感謝している」と話す▼先週5日、水産庁は被災した漁港を復旧する技術的な考え方をまとめた。地盤隆起の被害などに対しての復旧計画を立案する自治体に役立ててもらうのが狙いだ▼被災地では機能が停止したままの漁港がまだ多い。県外漁船の寄港が制限されるなどスルメイカ漁への影響も続く。「復興は先の長い話ですよ」と組合関係者。建設業の担う役割はこれからも大きい。

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2024年7月8日月曜日

回転窓/触れて感じる大切さ

 本紙が創刊80周年を迎えた2008年から09年にかけて、建築家・池原義郎氏(1928~2017年)と各界識者の対談シリーズを掲載した。テーマは「再生への実践シナリオ」。毎回、21世紀に目指すべき「都市と環境」について語り合っていただいた▼対談者のお一人が安田侃氏。世界に知られた彫刻家で、大理石やブロンズの作品は多くの人を魅了する。対談では手掛けた作品に触れる人が「時と自分を感じてほしい」と話した▼炭鉱の町だった北海道美唄市に芸術広場「アルテピアッツァ美唄」が開設されたのは1992年。廃校となった旧栄小学校を活用し、美唄で生まれ育った安田氏の作品が屋内外に展示されている▼ここを訪れると空や木々、丘、広場、木造の旧校舎、彫刻などが一体で作り出す心地よい空間が出迎えてくれる。時間がゆっくり流れる中で作品に触れながら鑑賞する人たちの姿は印象的だ▼建築でも触れて感じることは大事であり、「手は非常に生命的なもの、そこに通い合うものを感じるのですね」と池原氏。お二人の話を振り返り、改めて普段は意識しない手で感じる大切さに気付かされる。

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2024年7月4日木曜日

回転窓/日記と天気

 もうたばこは吸わないと「禁煙」を決意してから日記を付けている。何とかめげずに「卒煙」できた後も続けていて、読み返すと夏の時期には豪雨など天候のことを書いている日が多い▼今年の梅雨明けは沖縄を除きもう少し先のよう。懸念されるのは大規模水害を引き起こす線状降水帯の発生だ。奈良県十津川村で1日、大雨による土砂崩れで道路が寸断し住民17世帯が孤立した▼線状降水帯の予測精度を高めるため、気象庁はスーパーコンピューターを投入し、従来の11地方予報区を府県単位に切り替えて半日程度前から警戒を呼び掛けている。大雨による河川増水に悩まされてきた福島市は、レーダー雨量などの実績値を基に15時間後の河川水位を予測するシステムを使い、早期の避難誘導に役立てている▼気象情報大手のウェザーニューズはオムロンと共同で湿度や風速などを計測する気象センサーを販売。1分ごとの大雨や強風が観測でき、気象の変化を迅速に把握できるという▼ここ数年で進歩を遂げている気象予測技術を活用して災害リスクの低減につなげたい。今夏は日記に災害のことを記さないですむよう願う。

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2024年7月3日水曜日

回転窓/眺める派の富士

 日本を代表する国内最高峰の富士山。生まれ育った静岡、現在暮らす神奈川の地で日々眺めてきたその姿は、いつも変わらず威風堂々としている▼遠方からも一目で分かる特徴的な形は芸術家たちの創作意欲をかき立て、無数の作品を世に出してきた。江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎の代表作である「富嶽三十六景」は世界的に知られる▼独創的な構図で富士の威容を示しつつ、周辺のさまざまな場所で生き生きと暮らし、働く庶民の姿などを描いた風景版画シリーズは全46図に上る。当初刊行された36図が好評だったことから、10図が追加・制作された▼きょう3日に発行される新紙幣のうち、千円札の裏面には同シリーズでも特に有名な「神奈川沖浪裏」が描かれている。海外の競売では1枚数億円で落札されるなど人気が高い▼個人的に富士山は眺めて楽しむ派だが、国内外から登山を楽しむ人が急増。オーバーツーリズム(観光公害)が問題視される中、1日に山開きした山梨県側登山道(吉田ルート)では人数規制と通行料を導入し、5合目付近には仮設ゲートが設置された。世界に誇る文化遺産を守り続けねばならない。

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2024年7月2日火曜日

回転窓/縁の下に光を

 陰ながら人々や社会のために重要な役割を果たす人は「縁の下の力持ち」と呼ばれる。これまで建設業の活動をたたえる際、このことわざがよく使われてきた▼日々の暮らしや経済・社会を支えるという使命を担う建設業。災害発生時には被災地で真っ先に重機を動かし、道路啓開やインフラの応急復旧、被災者の支援活動に懸命に取り組む。名声など見返りを求めず、それらを当たり前のように実行する姿はまさにことわざの示す通りだろう▼元日発生した能登半島地震から6カ月が過ぎた。国土交通省北陸地方整備局はこの間の被災地支援や復旧・復興の取り組みをまとめ、写真や図表を多用し160ページ超にわたって詳報している▼建設関連の企業・団体名や個人名を出しながら、甚大な被害を受けた被災地での建設関係者の対応を紹介。個社の工夫などにもスポットを当て、資料には多くの活動事例や作業に従事する人々の思い、地元からの感謝の声などが載る▼苦労をいとわず、被災地で奮闘を続ける人たちの姿は、悲しみに暮れる被災者を勇気づけ、復興への活力にもなろう。建設専門紙として、その姿に光を当て続ける。

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2024年7月1日月曜日

回転窓/芸術作品とハエ

 たとえ一匹でも近くに飛んでくると煩わしいハエ。例年6~7月に最も多く発生し、8月にやや減少するものの秋に再び増加するとされる。こうした時期に備え、各地の家畜保健衛生所などは畜産業者に対し適切な対策を講じるよう注意喚起している▼ハエは感染症を媒介し、家畜にストレスを与えて生産性も低下させてしまう。畜産業者にとっては悩みの種であり、大量発生を防ぐために発生源などへの対策が欠かせない▼飲食店にも迷惑な存在だが、昔からハエを描いた美術作品は珍しくないという。月刊誌『芸術新潮』6月号(新潮社)は〈ハエはどう描かれてきたのか?〉とタイトルの付いたリポートを掲載している▼イタリア・パルマで14世紀から現在に至るハエの作品50点以上を集めた展覧会がこのほど開催された。現地リポートでは展示作品のいくつかを画像とともに紹介。果物や婦人の肩にハエがとまっている絵画など、いずれも独特の世界観が表現されている▼作者たちはどのような意図でハエを描いたのだろう。羽音が聞こえただけで不快感を覚えて遠ざけたいハエも、作品の中で放つ存在感は強く印象に残る。

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2024年6月28日金曜日

回転窓/2024年の6月末

 建設業に時間外労働の上限規制が適用されて3カ月がたつ。皆さんの職場で劇的な変化は起きているだろうか▼多様な実態がありそうだが大きく二分されるように感じる。一つは既に変化が生じている現場。数年前に固まった案件を除けば価格も工期も「2024年問題」を前提に組み立てられている。徐々に影響は浸透しているはず▼一方で来るべき変革が到達していない現場もあるのでは。「適正工期を確保できなければ存亡に関わる」と、下請を中心に事業展開する業界団体のトップが訴える▼アンドパッドが19日に発表した建設業従事者の調査結果では、4月の残業時間が45時間超だった人の66%が「(残業時間は)変わらない・増えた」と回答している。「上限規制開始以降も変化がない働き手も一定数いる」(同社)ことをどう受け止めるべきか▼この1年は揺れ動く時期になりそう。もしも働き方改革の恩恵が浸透せずに不満を持つ人が増えれば、ある瞬間から雪崩のような人材流出を招きかねない。幸いにも第3次担い手3法など追い風がある。変革への動きを報道の立場からもしっかり後押ししていきたい。

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2024年6月27日木曜日

回転窓/住まいの終活に

 最寄り駅の近くにあった空き家3軒がコインパーキングに生まれ変わり、この半年で相次ぎオープンした。駅周辺に駐車場が少ないため、毎日ほぼ満車と稼働状況は好調のようだ▼総務省の調査によると全国の空き家は昨年10月時点で過去最多の900万戸で、うち放置された物件は385万戸に上る。空き家が荒廃すれば倒壊の危険や防犯上の問題があり、取り壊しや管理、活用が喫緊の課題となっている▼空き家対策の一環として国土交通省らが自身の死後に持ち家などをどのように処分、活用してほしいかを書き込む「住まいのエンディングノート」を作成した。ノートには所有したり借りたりしている建物・土地を書き出し、それぞれについて「売却など自由にしてよい」「貸すのは構わない」などの意向を記していく▼法的拘束力はないが、遺言状よりも簡単に自分の考えを示せる。家族が元気なうちにこれからの住まいの「生かし方」「しまい方」を話し合うきっかけになるだろう▼思い入れのあるわが家が放置空き家にならないよう、あらかじめ考え行動を先延ばししない。そうした住まいの終活にノートは利用できる。

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2024年6月26日水曜日

回転窓/地域ブランドを支える

 さくらんぼは6月に旬を迎える品種が多い。日本有数の産地である山形県が今年はPRに一段と力を入れている▼出荷が最盛期に入った人気の「佐藤錦」とともに、山形県は2023年から市場に本格的に出回るようになった大玉の新品種「やまがた紅王」を推しているという。20日にはその大きさを競うコンテストが寒河江市の最上川ふるさと総合公園で行われた▼山形県内には、さくらんぼと関わりの深い建設会社も少なくない。山形新幹線のさくらんぼ東根駅がある東根市に本社を置くある建設会社は、耕作放棄地の一画に新社屋を建てた▼新社屋の設計は、さくらんぼの手入れを手伝ってもらえたり、子どもたちが宿題をやったりと、地域に開かれた建物をコンセプトにしたそうだ。23年9月に完成し、今春に新社屋となって初の新入社員を迎え入れた▼山形県でのさくらんぼ栽培は1875(明治8)年に始まり、来年に150周年を迎える。長い歴史の中で、地域を挙げてブランド価値の形成と向上に努めてきたからこそ今日があるのだろう。そうした守り手、担い手の地道な努力と行動が地域の魅力を支えていく。

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2024年6月25日火曜日

回転窓/こどもまんなか社会へ

 過去最多の56人が立候補した東京都知事選(7月7日投開票)が先週告示され、選挙戦が本格化している。首長や議員のなり手不足が深刻化する地方公共団体・議会もある中、首都の行政トップへの関心度の高さがうかがえる▼候補者はそれぞれが思い描く政策やビジョンを訴え、有権者の賛意を得ようと懸命だ。防災や行財政改革のほか、深刻化する少子化問題を受けた子育て支援などで独自の公約を表明。人口減少に歯止めがかからない情勢打破に向け、関連施策への注目度は大きい▼厚生労働省の2023年人口動態統計によると、1人の女性が生涯に産む子どもの人数を示す合計特殊出生率は、8年連続低下の1・20で過去最低を更新。0・99の東京は全国で初めて1を割り込む▼24年版の子ども白書で気になる調査結果が目に付いた。「自国の将来は明るい」と思う子ども・若者の割合は約2割にとどまり、「こどもまんなか社会の実現に向かっている」と思う人はさらに下回る▼親だけでなく、子ども自身も将来に希望を持てなければ少子化の連鎖が続く。だれもが明るく、安心して暮らせる社会が何より求められる。

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2024年6月24日月曜日

回転窓/現場の日常を守る

 建築現場の事務所前に並べられたプランターに目が止まった。かわいい花々が歩道からよく見え、行き交う人たちに一服の清涼剤となっている▼暑くて多湿な日が続く、建設現場では労働災害に一層の注意が必要な時期を迎えた。事故防止に安全パトロールは重要な活動の一つ。ある専門工事会社の社長が安全大会でこんなやりとりを紹介した▼現場内で細かく確認して回る模様を動画配信サイトにアップすると、業界関係者からなのか「うるせえ」「お前がやれ」などのアンチコメントが。一方でこうした投稿を「そんなコメントしかできないから底辺と言われるんだ」と指摘する声が寄せられた▼これは現場の取り組みを支持してくれるコメントに違いないが、「我々は底辺でも何でもない。すごく素晴らしい技術を持ち、すごく夢のある業界で働いている」と社長。安全大会で得たことを最前線の職人たちにしっかり伝えるとともに、業界のイメージを変えていく必要性も訴える▼事務所前の花がきれいな現場は、朝早くにじょうろを持った職員の水やりから一日が始まる。そうした大切な日常も安全に作業を続けてこそ守れる。

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2024年6月21日金曜日

回転窓/退職代行サービスの広がり

 9・3%の企業が退職手続き代行サービス業者からの退職要請を経験していることが、東京商工リサーチの調査で分かった。大企業では18・4%と2割近い。接客や販売など消費者と対面する業種が多く、上位15業種に建設業は入っていなかった▼退職にはステップアップという前向きなものから、処遇や職場環境、人間関係への不満などさまざまな理由があろう。本来は自ら退職の意向を伝えるべきだが、ニーズがないところにサービスは生まれない▼「気に掛けてもらっていたから余計に退職を言い出しにくかった」とサービスを利用した人から聞いた。「退職代行業の浸透は『円満退職』という言葉を死語に追いやる契機になるかもしれない」(同社)▼エン・ジャパンが昨年10月に発表した調査によれば、退職代行サービスの利用率は2%にとどまる。だが、世代別では40代以上が1%なのに対して、20代は5%と多い。世代が変わるにつれて利用率が上がっていきそう▼最初は非常識と思われていても社会に浸透してしまえば当たり前になる。人的資本経営が求められる時代。常識の変化にも向き合うことが必要になる。

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2024年6月20日木曜日

回転窓/自動運転と学問

 国内の大学で最も長い歴史を持つ東京大学は1877年、近代国家の樹立を成し遂げるために設立される。以来、大学からは各分野で活躍する優秀な人材が輩出されてきた▼現在、国内には800弱の大学があるが、少子高齢化を背景に廃校の憂き目にあう大学も少なくない。特色ある学科を設置するなど各大学がしのぎを削っている。最近は情報・メディアや危機管理など文系と理系が融合した領域の学科を新設する動きが目立つ▼埼玉県深谷市にキャンパスを構える埼玉工業大学は、IT、AI、電気電子の3専攻で構成されていた工学部情報システム学科に「自動運転専攻」を新設する。日本初の試みであり、来年4月に開講する予定だ▼この専攻では自動運転に欠かせない基礎を1年次に学ぶという。4年間でモビリティに関する専門知識や技術を習得する▼物流業界の人手不足への対応や高齢ドライバーによる事故防止の切り札などとして自動運転への期待は高い。来年度には、特定の条件下で操縦者が不要の移動サービスが全国で始まる見通し。最先端の学問を修めた学生が社会で活躍できる領域は広がっている。

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2024年6月19日水曜日

回転窓/インバウンド需要を支える

 日本を訪れる外国人旅行客が急増している。日本政府観光局(JNTO)によると、今年のインバウンド数は1~4月累計で1160万1200人となり、過去最多だったコロナ禍前の2019年同期(1098万0482人)を上回る▼観光庁の調査では、外国人による宿泊や買い物などの旅行消費額も1~3月の速報値で1兆7505億円と四半期ベースで過去最高を更新した。歴史的な円安の影響が大きい▼政府は外国人1人当たりの旅行消費額を引き上げる目標を掲げる。主なターゲットは長期滞在が見込める富裕層。国内各地で30年ごろまで高級ホテルの建設ラッシュが続く見通しだ▼インバウンド数が増え続けていけばホテルだけでなく商業施設や交通インフラなどのニーズも高まる。建設業が果たす役割は大きく、観光立国の実現へ継続的に貢献し成長できそうだ▼25年大阪・関西万博の会場で、完成すれば世界最大級の木造建築物になるシンボル施設、大屋根リングのパビリオンワールド西工区が7日に上棟した。開幕まであと298日。万博開催がインバウンドのさらなる増加に拍車をかけることになるだろう。

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2024年6月18日火曜日

回転窓/新風に葉が舞う土木界

 今年の男女共同参画週間(23~29日)のキャッチフレーズは「だれもがどれも選べる社会に」。そうした社会の実現に向け、国民一人一人の理解を深める関連行事が各地で行われる▼1999年6月23日に施行された男女共同参画社会基本法を踏まえ、男性と女性が職場や家庭、学校、地域でそれぞれの個性と能力を最大限に発揮できる「男女共同参画社会」の創出を推進。ジェンダー(社会的性別)平等など、性的属性に関する認識や価値観が多様化する中、従来の社会構造や慣習も変化しつつある▼11月に創立110周年を迎える土木学会の112代会長に佐々木葉氏が就いた。初の女性会長として注目を集める中、14日の定時総会後の就任あいさつで、マイノリティーの女性の地位向上に尽力された人たちに感謝し「やったぜ」と喜びをあらわにした▼新会長は歴代会長の出身校や就任時の職域など属性を分析。目を向けるべきは個々の属性だけではなく、人としての多様性を尊重することだと訴える▼会員約4万人を誇る学会に吹き込む新しい風は、建設業界にどのような変化をもたらすのか。今後の活動が注目される。

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2024年6月17日月曜日

回転窓/座敷ほうきに魅せられて

 イネ科の植物ホウキモロコシは、昔から箒(ほうき)の材料に使われてきた。時代とともに生産者は減ったが、伝統的な箒づくりの継承へ栽培を復活させた地域もあるようだ▼古民家を再生し地元の魅力的な商品が売られている店で、職人の手仕事による座敷箒を先日購入した。米寿を迎えた職人に店主がお願いし店に置かせてもらえたそうで、複数を仕入れても短期間に売れてしまう人気商品となっている▼自然素材を使った工芸品の箒は軽くて弾力と柔らかさがあり、長持ちするのも特徴だ。手に入れた箒は赤、緑、黒色の糸を編み込んだ模様がきれい。細身の柄がしっくりと手になじむ▼こうした国産の箒が見直されており、その理由には電気エネルギーに頼らない生活への関心や土に返る素材、道具としての美しさなどが挙げられるという。箒の歴史や作り方が分かる書籍『イチからつくるホウキ』(宮原克人・編、堀川理万子・絵/農文教)から引いた▼高性能な電気掃除機やロボット掃除機も頼りになるが、何より丹精込めて作られた箒の使い心地は癖になる。分野を問わず職人の熟練した技とはそういうものだろう。

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2024年6月13日木曜日

回転窓/現場の声を新制度に

 建設現場に外国人の姿を見るようになって久しいが、その技能を目にする機会は少ない。先日都内で開かれた協同組合東京鉄筋工業協会(鉄工協)の鉄筋技能大会で外国人技能実習生の技を間近に見学できた▼会員5社から11人(うち女性2人)の実習生が出場。部材の配置をミリ単位で調整して精度に注意を払い、スピードも気にしながら柱・梁部分の鉄筋を組み上げていった。手際良く作業を進める姿は日頃現場で技能を培い、大会に向け練習を重ねてきたことが分かる▼鉄工協の早川謙太郎理事長は「実習生の作品の出来栄えが素晴らしかった。今回の経験を生かし、さらに技能を身に付けてもらいたい」と総括。上位入賞者だけでなく、参加した実習生たちが笑顔で健闘をたたえ合う姿に胸を打たれた▼今国会で出入国管理・難民認定法と技能実習法の一括改正案が審議されている。技能実習に代わる外国人材受け入れの新制度「育成就労」の創設が柱となる▼深刻な人手不足を踏まえた人材確保が目的だが、外国人が日本に来て良かったと思える制度にしないといけない。現場の声を新しい制度に生かしていってほしい。

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2024年6月12日水曜日

回転窓/能登半島地震の教訓

 キャンピングカーの人気が続いている。エンジンを切ってもリチウムイオンバッテリーからエアコンを利用でき、内外装のデザインにこだわった新車を投入するなど、メーカー側も性能・機能拡充に力を入れる▼今年1月半ば、キャンピングカーを扱う企業や団体などに内閣府の職員が電話をかけ続けたと聞いた。能登半島地震の被災地で宿泊施設が不足し、支援のために現地入りした関係省庁の職員に宿として使ってもらおうと考えたようだ▼このほど政府の検証チームが同地震の被災地支援に関する検証結果をまとめた。岸田文雄首相の指示を受け、課題を整理した上で必要な取り組みを列挙している▼可搬式浄水施設や二輪巡回車両など被災地で役立つ技術・製品をカタログに示した。遠隔操縦式バックホウの活用のほか、工事現場の「快適トイレ」を公共工事で標準化する施策も。非常時に被災地への供給を円滑にする狙いがある。トレーラーハウスやキッチンカーなどを平時から登録し、非常時に備える仕組みも検討する▼災害と向き合う人たちの経験や教訓を次の有事に生かす。その積み重ねが強靱な国土につながる。

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2024年6月11日火曜日

回転窓/バカンスと五輪

 100年ぶりのパリでの夏季五輪開幕まで1カ月半余り。コロナ禍によって多くの会場が無観客となった前回の東京大会とは一変し、世界中の人たちが通常開催によるスポーツの祭典を心待ちにしていよう▼現地はさぞや盛り上がっているかと思いきや、パリジャン・パリジェンヌはこの時期、避暑地へのバカンスで地元から離散するのだとか。特に今夏は五輪競技を観戦しようと、多くの外国人が訪れることになり、街中は普段以上に混雑が予想される▼欧州視察でパリに先月訪れた企業幹部の話によると、現地では近年の猛暑続きでバカンス需要が高まっているという。世界各国から人の波が押し寄せ、熱気がさらに高まる街に居残るより、例年以上に郊外での長期休暇を楽しもうと考える人たちは少なくないようだ▼パリ市民の五輪への関心度は別として、経済界の期待は大きい。パリ五輪・パラリンピック組織委員会が先月発表した大会開催による経済波及効果の試算額は、最大111億4500万ユーロ(約1兆8800億円)を見込む▼世界有数の観光都市で開かれる国際イベント。その成果は他国の取り組みでも参考になろう。

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2024年6月10日月曜日

回転窓/先人からの手紙

 社内で書棚を整理していると、建設会社の社長を務められた方からの手紙を見つけた。封筒の消印に30年以上前の日付が記されている▼宛名は日刊建設工業新聞社の先代社長。今は鬼籍に入っている2人の間で手紙のやりとりがあったようで、当時の建設業界を知る人であればつづられた内容のことがよく分かる▼公共工事を巡る不祥事が相次いだため、入札契約制度が大きく変わろうとしていた頃である。そうした中で手紙の送り主は、建設業界が直面する問題を念頭に「変えたからといってそれだけで解決出来るものではない」と書いている▼そして「建設業の抱えている背景がどんなものか理解もしないで正面だけを見、横、背面を見ていません」と、国の審議会で進められていた議論に懸念を示す。文面からは社長在任中に起きたことへの忸怩(じくじ)たる思いや新体制となった会社への期待、今後の建設業界をどれほど案じていたかが伝わってくる▼激動のただ中にいた建設人が何を考え、どのような問題意識を持っていたのか。その後も時代は目まぐるしく変わってきたが、一通の手紙から多くの教訓が読み取れる。

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2024年6月7日金曜日

回転窓/負債か資産か

 近所に古民家を展示する施設がある。中には合掌造りのそば処があり、そばに加えモツ煮込みや日本酒のメニューも。今の時期に新緑の下で昼酒を楽しむ人も少なくない▼展示施設ではボランティアが説明役を務める。近年は外国人の往来が増えた。古民家の移築や維持にはコストがかかるが、ここにしかない価値を提供している▼官民連携で遊休公的不動産を有効活用するための「スモールコンセッション(公共施設等運営権)推進方策」を国土交通省が策定した。成功例の一つに挙がるのが岡山県津山市。市が所有する江戸期の古民家をリノベーションして、ホテルとして活用中だ▼行政の枠内で進める指定管理ではなく、民間の柔軟な意向を生かそうとコンセッションを導入。指定管理だと毎年300万円の支出だったのが、コンセッションでは同450万円の収入になる▼公式サイトによると明日の土曜は予約で満室となっており、地域の魅力向上に一役買っているようだ。遊休不動産は放置されると負債になるが、生かし方次第で資産になるという視点は大事。街にある資源を上手に生かす地域が増えるよう期待したい。

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