2021年8月31日火曜日

【回転窓】心は熱く頭は冷静に

  来年11~12月にカタールで開催される2022FIFAワールドカップのアジア最終予選が9月に始まる▼日本を含め最終予選に出場する12カ国が6チームずつ2グループに分かれ、10試合を戦って各グループ首位と2位の計4チームが本大会の出場権を得る。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を背景にホームゲームの中立地開催を検討する国もある。地の利やサポーターの後押しがない状態での試合は難しいだろう▼大勢が集まるイベントの開催に制限が掛けられるようになって1年半以上。変異株が猛威を振るう状況では致し方ないのだろうが、それでも閑散としたスタジアムで選手や監督の声が響き渡る様子はいまだになじめない▼今夏に英国で行われたサッカー欧州選手権・ユーロ2020はワクチン接種が進んでいる状況を踏まえ、有観客で大会が行われた。観戦者の多くがマスクを着用せず、密になって声援を送った光景も。大会後の調査では9000件以上の感染者が出たそうだ▼好きなチームを応援したいという気持ちは理解できる。それでも油断は大敵。「心は熱く頭は冷静に」を心掛けたい。

【日本工営JVら現地調査で確認】沖縄・小浜島で希少種のヤエヤマヤマガニ発見

  沖縄県立芸術大学や琉球大学の研究者が、希少種とされる「ヤエヤマヤマガニ」を沖縄県八重山諸島の小浜島で発見した。

 環境省の準絶滅危惧種に指定され、生物多様性関連で業務受託した日本工営ら3者JVと両大学の研究者が現地調査の過程で個体を確認。研究者らは同島の環境保全に努めながら、ヤエヤマヤマガニの生態研究が進むと期待する。

 ヤエヤマヤマガニは、最大甲幅が45mmに達する大型のサワガニ類の一種。陸生傾向が強く、水辺付近に巣穴を掘って生息している。島間の移動ができず、石垣島や西表島で生息が確認された固有種。沖縄県が発注する「生物多様性おきなわブランド発信事業」を受託した、沖縄県環境科学センター・沖縄環境地域コンサルタント・日本工営JVらの調査で発見した。小浜島に点在する水辺や湧水など9地点で確認済み。良好な生息状況だった点も判明した。

 希少種の発見は日本甲殻類学会(朝倉彰会長)が26日に発行した学術誌『キャンサー』で発表している。


【横断歩道をかさ上げ】国交省ら、生活道路の安全確保へ「ゾーン30プラス」創設

  国土交通省と警察庁は生活道路の交通安全を確保するため、新たな区域指定制度「ゾーン30プラス」を創設する。車道のうち横断歩道部分だけをかさ上げする「スムーズ横断歩道」などを整備し、車両の速度を抑制。国交省らは「ゾーン30」を抱える複数の道路管理者と調整を終えており、9月以降に整備を本格化する。

 ゾーン30は歩行者や自転車の通行が多い生活道路に設定し、車両の最高速度を時速30キロに制限する。2001年に制度運用を開始した。今後指定するゾーン30プラスの区域内では、主にスムーズ横断歩道を設置してバリアフリー環境の向上と安全確保を両立する。

 路面のうち横断歩道部分だけをかさ上げ。高さを路側にある歩道とそろえるため、歩行者は段差のない状態で道路が横断できるようになる。車両は段差を乗り越えるため速度を落とすことになる。

 杭が地中からせり上がる「ライジングボラード」も必要に応じて導入する。国交省は車道を蛇行させる「クランク」や「スラローム」も有効な手段と見ている。

 ゾーン30は生活道路に設定するため、ほとんどのケースで自治体が道路管理者になる。国交省は社会資本整備総合交付金を重点交付し対策を推進する。スムーズ横断歩道は9月以降に▽京都府舞鶴市▽神戸市▽兵庫県明石市▽山口県下関市▽北九州市▽大分県別府市-の6カ所で整備に着手する予定だ。

 運用の体制も改める。従来は警察による速度規制と道路管理者による整備は別々に実施していた。今後は交通事故の発生状況や住民の要望などを踏まえ、道路管理者と警察が連携して整備計画を策定する。住民の合意も得た上で決定する。

【10月に事業者選定プロポ公告】三重県伊賀市、忍者体験施設をPFIで整備へ

 三重県伊賀市はRO(改修・運営)方式のPFIを導入し、旧上野市庁舎(上野丸之内)の改修と一体的に進める「(仮称)忍者体験施設整備事業」の実施方針改定版を公表した。

 10月に特定事業に選定、公募型プロポーザルで事業者募集手続きを開始する。12月に参加申請、2022年3月に企画提案書を受け付け、同5月に契約候補者を決める予定。実施方針の見直しは、20年8月の公表以来3回目。

 成瀬平馬屋敷跡(上野丸之内)を活用した忍者体験施設の整備と周辺エリアを包括的に捉えたエリアマネジメントにより、観光まちづくり拠点を形成する事業。

 実施方針によると、特定事業で忍者体験施設の整備・運営、必須付帯事業で旧上野市庁舎改修、任意付帯事業で旧上野公園観光食堂施設(上野丸之内)、旧桃青中学校(上野丸之内)、旧曙保育園(上野忍町)、伊賀越資料館(小田町)、旧伊賀信楽古陶館(上野丸之内)の5施設を利活用する。

 忍者体験施設の敷地は1017平方メートル。延べ1700~2100平方メートルの施設を整備する。

 市指定有形文化財の旧上野市庁舎は、RC造3階建て延べ6038平方メートル。坂倉準三が設計、1964年に完成した。改修し、新図書館、公民連携による観光まちづくり拠点、まちめぐり拠点(観光案内)に利用する。

 忍者体験施設と任意付帯事業の事業方式は事業者の選択制。旧上野庁舎については、RO方式を採用する。参加できるのは、複数法人のグループ。建設企業は、市外業者の場合、土木・建築一式工事の許可を受け、いずれかの総合評定値1000点以上が条件。

 選定された事業者と市は、22年6月に基本協定、同7月にPFI事業の仮契約、同9月に本契約を結ぶ。事業期間は44年3月末までの20年間。実施方針についての対話申し込み・質問を9月10日まで産業振興部観光戦略課で受け付ける。

2021年8月30日月曜日

【回転窓】廃虚の価値とは

  国の登録有形文化財には明治や大正のモダンな近代建築や江戸時代の雰囲気が残る古民家などが多い。文化財保存は完成当時の姿が最も重視され、そこに価値があるとされてきた▼6月に「廃虚の女王」と呼ばれる朽ちかけた古いホテルが文化財に登録された。神戸市を見下ろす摩耶山の中腹に建つ「旧摩耶観光ホテル」がそれ。「マヤカン」の愛称で廃虚ファンによく知られた存在という▼企業の保養施設として1930年に完成し戦後はホテル、合宿所と営業形態を変え93年に閉鎖。その後は使われず荒れ果ててしまった。現在は有志や地域住民らが維持補修しつつ、安全を確保した上でツアーを行い、その雰囲気を伝えている▼朽ちてしまった今の姿を美しいと感じ、建物の持つ魅力に動かされた人たちの情熱が結実し、廃虚で初めて国の登録文化財となった。マヤカンの保存・活用の取り組みは、今まで壊されるしかなかった廃虚に違う視点や選択肢を与えた▼「廃虚に価値があるのか」との賛否が起きる珍しい文化財が誕生した。取り壊せず扱いに困っている建物に対する議論が広がり、深まっていくことを期待したい。

【関空ターミナル拡張や高速道路整備など】政府、大阪・関西万博関連のインフラ整備計画決定

関空第1ターミナルビルのリノベーション完成イメージ
(関西エアポート報道発表資料から)

  政府は27日に「国際博覧会推進本部」(本部長・菅義偉首相)の会合を首相官邸で開き、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)に関連するインフラ整備計画を決定した。国直轄事業や補助事業など国庫を支出する事業を計画に位置付け、円滑な実施を支援する。会場へのアクセス向上を目指し、関西国際空港の国際線エリアを拡張。淀川左岸線(2期)整備の工事を前倒し、開催時に新大阪駅・大阪駅と会場を結ぶシャトルバスのルートとして暫定利用する。計画に盛り込んだ事業の総事業費は算定していない。

 計画では大阪万博の開催を支え、効果を高めるインフラ整備事業を▽会場周辺のインフラ整備▽会場へのアクセス向上▽安全性の向上▽にぎわい・魅力の向上▽広域的なインフラの整備-の五つの柱で整理した。

 会場の夢洲(大阪市此花区)へのアクセスを高める事業として位置付けた関西空港の機能強化では、第1ターミナルビルをリノベーションする。南、北ウイングに分かれている国際線エリアを一体化し、ビル内の面積を8・4万平方メートルから10・5万平方メートルに拡大。出発エリアの面積も従前から60%増の1・6万平方メートルとする。

 淀川左岸線(2期)整備は、完成時期を26年度末から前倒しする。開催期間中に同線をシャトルバスルートとして暫定利用することで、新大阪~夢洲間の所要時間を現行の35分から19分に短縮する。

 安全の確保に向け、建設から80年以上が経過した大阪駅前の地下広場を更新。無電柱化や南海トラフ巨大地震に備えた河川・海岸堤防の耐震化なども行う。来場者の交流拡大につなげるため、「うめきた2期」(大阪市北区)地区での複合開発などを推進し会場周辺のにぎわいを高める。会場周辺だけでなく大阪・関西の成長基盤として、広域的な交通インフラ網を着実に整備していく方針だ。

【大戸川ダム事業再開へ】国交省が概算要求に関連費計上、22年度本体設計着手へ

大戸川ダムの建設予定地
(国交省近畿地方整備局提供)

  国土交通省は凍結されていた大戸川ダム(大津市)の建設事業を再開する。26日に公表した2022年度予算の概算要求に、関連経費17億53百万円を計上した。地質や環境を調査した上で、ダム本体などの設計に着手する。国交省は調査・設計で4年、工事に8年程度かかると見積もっている。20年代後半に工事が本格化する見込み。事業費は約1080億円と試算している。

 建設予定地を通る県道16号大津信楽線の付け替えや家屋移転は、事業の凍結前に完了している。22年度以降、堤体や仮排水トンネルといったダム関連施設、林道の付け替え道路の設計などを実施する。工期の見通しは民主党政権時に実施したダム事業の検証過程で試算していた。

 国交省は08年、淀川水系の河川整備計画改定で関係府県に意見を照会した。大戸川ダムは「一定の治水効果は認めるが、優先順位の問題から計画に位置付ける必要はない」との共通認識が示され、着手を見送っていた。

 水害の被害が拡大しているここ数年の状況を受け、再度ダム建設を盛り込んだ変更案を作成して4月に関係府県へ照会。合意が得られたため6日に計画を改定した。新計画はダムが環境に与える影響を最大限回避するため、必要な調査を実施した上で本体工事に移ると規定した。

 大戸川ダムは洪水調節を目的とした重力式コンクリートダム。堤高67・5メートル、総貯水量2210万1000立方メートルを計画し、洪水調節量は約2190万立方メートルを見込む。

【困難乗り越えたトンネルマンの闘い】鉄道運輸機構、青函トンネル工事記録映像をYouTubeで公開

 鉄道建設・運輸施設整備支援機構は、津軽海峡を横断し本州と北海道を結ぶ世界最長の海底トンネル「青函トンネル」の工事記録映画を、動画投稿サイト・ユーチューブの「JRTT鉄道・運輸機構公式チャンネル」にアップした。

 1964年に調査坑と先進導坑の掘進が始まり、85年に本坑が貫通し88年に開業。24年にわたる工事記録を初めて一般に公開。幾多の困難を乗り越え完成に至った、知られざる「トンネルマン」たちの物語を今に伝える。

 記録映画は、47分の通常版と、17分の縮小版の2本。同機構の前身となる日本鉄道建設公団が89年に作成した。今後も長い間眠っていた貴重な記録映画を順次公開。「東北新幹線岩手一戸トンネル-世界最長陸上トンネルに挑む(31分)」「京葉線-多摩川をわたる沈埋トンネル(31分)」を予定している。

【凜】和歌山県庁西牟婁振興局・熊谷冴矢子さん

  ◇地元の人や山に貢献したい◇

 入庁して4年目。今は出先機関で治山事業を担当している。働き始めて感じたのは、人を育てることにとても力を注いでいること。技術系の職員として採用された後、計画測量から詳細設計まで仕事に必要な知識を身に付ける機会が数多くあった。まだまだ経験は浅いが、これまでの仕事で「自分ができないことを委託しても良いものはできない」と痛感。技術者として「『こうしたい』という考えを持たなければだめ」と思うようになった。

 実家は農業を営み、子どもの頃の遊び場は山や川。高校3年生だった2011年に紀伊半島大水害が発生し、土石流が町を襲い多くの犠牲者が出た。身近にある山や川も状況によって姿が一変する…。「地元の人や山に貢献したい」という思いで森林科学が学べる大学に進み、土砂災害の研究に打ち込んだ。

 印象に残っている仕事は入庁後に初めて完成した落石対策の工事。集落の区長から「これだけやってもらったら安心」と掛けてもらった言葉が心に染みた。現在は複数の工事を受け持っている。建設会社の担当者と交わす言葉で強く感じるのは「安全のために良いものを作りたいという思いは一緒」ということだ。

 働く上で異動はつきものだが、「愛着を持っていた現場を他の職員に引き継ぐのは悔しい」そう。いつか「『この谷全部を自分が整備した』と言えるような達成感を味わいたい」と思っている。

 (農林水産振興部林務課技師、くまたに・さやこ)

【やっぱり!マイ・ユニホーム!!】ヤシマ工業(東京都中野区)「伝統の『柿渋』配色がアクセント」

  マンションなどの大規模修繕工事を手掛ける建設サービス会社のヤシマ工業(東京都中野区、小里洋行代表取締役)は10年ぶりに社員用の制服をリニューアルした。サプライヤーはセレクトショップ・BEAMSのユニホームブランド「ユニフォーム・サーカス・ビームス」。ヤシマ工業の創業は1804(文化元)年。200年以上の伝統をデザインや色使いにさりげなく落とし込み、ユニホームを仕上げた。

 リニューアルしたのはブルゾンとパンツ、長袖シャツの3点。ブルゾンとシャツは品格を感じさせるネイビー、パンツには清潔感のあるブラウンを採用した。ヤシマ工業は創業当初、塗料に使われていた柿渋で商いをしていた。柿渋の色合いは赤みを帯びた優しい茶色。同社の伝統をブルゾンの配色に取り入れ、襟裏を柿渋と同系色のオレンジにしてアクセントを付けた。

 リニューアルでは機能面とディテールにこだわった。背面に通気性の良い生地を使い着用時の蒸れや暑さを軽減。胸ポケットはペン差しを多彩にして機能性を高めつつ、左右非対称の配置でファッション性も向上させた。5月から着用しており、「スタイルが良く見える」「洗濯してもすぐ乾く」と社員の評価も上々だ。

【駆け出しのころ】大日本土木代表取締役専務執行役員建築本部長・櫻井俊介氏

  ◇発言に責任持って行動を◇

 ものづくりに携わりたいという漠然とした思いから、建築の世界に入っていきました。当社に入社後、研修を経て日本住宅公団(現都市再生機構)の賃貸住宅の建設現場に数カ月勤務。本配属されるはずだった別の現場が着工のタイミングなどが合わず、同期6人が同じ現場に集い、短期間でしたが苦楽を共にしました。

 仮設道路の荒れた箇所を砕石で整えたり、現場内のごみを片付けたり、雑用で毎日が過ぎていきました。特に技術的な仕事はしませんでしたが、現場を清掃し片付けてないと工事が進まないという基本を体で学んだと思います。

 夏ごろに千葉の高校増築工事の現場に移り、2年ほど勤務します。新人時代は現場のことをよく分からないながらも、とにかく一生懸命動きました。3年目に東京・代官山の高層マンションを担当した時、施工図を描かせてもらいました。現場では施工図に基づいて作業が進むわけですから、自分が間違えば大勢の人たちに迷惑が掛かります。その頃から技術者としてのプライドと責任感が膨らんでいきました。

 現場管理に当たり、若い頃に先輩から「自分の発言には責任を持て」と諭された言葉が強く印象に残っています。私の注意や配慮が足らず、おそらく何かクレームが入ったのでしょう。当初の計画・工程に基づいて自分が伝えたことも途中で変わったり、できなくなったりすることはあり、その後のフォローまで責任を持って行動することが大切です。

 6年目ごろに担当した茨城県内の中学校舎の改築工事は特に大変だった現場の一つ。お盆明けに工事が始まり、翌年3月の竣工という厳しい工期。次席の立場で現場を管理し、プレッシャーも大きかったです。夜中まで作業し、休む間もない現場でしたが、その中学校が母校だった地元の職人たちが文句も言わずに頑張ってくれました。

 現場は学校や庁舎、オフィス関係を中心に回り、勤務地は首都圏が多かったです。一時期、東北の各地を転々とし、福岡・小倉の税務署の現場を担当した後、次は札幌の郵便局の現場勤務を打診された時は、さすがに勘弁してほしいと伝えました。官公庁の工事実績を踏まえ、人員配置を考えた時に遠隔地への異動もある程度は仕方がないことだと思いますが、会社側も理解してくれて首都圏の現場に戻ってきました。

 結婚後は、家族に竣工した建物をできる限り見せてきました。新しい建物だけでなく、実際に使う発注者の方が施設のことを熱心に説明し、喜んでいる姿を家族に見せられたことがうれしく、やりがいと誇らしさを強く感じました。

 建設業で働く人はエッセンシャルワーカーであり、人々が普通に生活するために欠かせない施設を整備し、維持し続けています。若い人たちにはそうした仕事に携わることに誇りと自信を持ってもらいたいです。

入社5年目ころ、東京都内の高校増築現場で

 (さくらい・しゅんすけ)1981年日本大学理工学部建築学科卒、大日本土木入社。建築本部建築営業部長、建築本部長(現任)などを経て2021年6月から現職。岐阜県出身、63歳。

2021年8月26日木曜日

【設計自由度が飛躍的に向上】清水建設、曲面形状のガラスファサード構築構法開発

  清水建設は曲面のあるガラスファサードが構築可能な「3次元曲面ガラススクリーン構法」を開発した。化学強化合わせガラスで成形した曲面ガラス部材を点支持構法で接着・接合。支持部材の構造を最適化して施工性と品質を確保する。

 従来は困難だった複雑な曲面形状のガラスファサードが構築可能になり、建築ファサードの設計自由度が飛躍的に高まるという。

 東京都江東区の技術研究所に縦5メートル、横3メートルの実大モックアップを構築した。モックアップを使って施工の実効性を確認する。実大性能試験で地震や風圧などに対する強度を検証し、プロジェクトへの適用を提案していく。

 同構法は、支持部材の製作にコンピューターを使ったデザイン手法と金属プリンティング技術を活用する。ガラス部材の曲面形状にベストフィットする金属製の支持部材を一品生産。完成した部材の形状を3Dスキャナーで計測し、製作精度を確認して施工する。施工時にはガラス部材と支持金物の接合点を構造接着剤で固定。施工精度が確保しやすく、取り付けの手間も低減する。

 コンピュテーショナルデザイン手法の普及で、3D曲面を取り入れたガラスファサードの採用が増えている。だが3D曲面形状のガラスファサードは施工精度の高さが求められ、フラットなガラスファサードに比べ高いコストをどう抑えるかが課題だった。

【新型コロナ】東京都、大規模接種の対象に建設業追加

  東京都が新型コロナウイルスワクチンの大規模接種で対象業種に建設業を追加した。都内在住か都内勤務の建設業従事者が接種を受けられる。

 会場は東京都庁(新宿区)の北、南両展望室と乃木坂(港区)の計3カ所。インターネットで予約できる。使用するワクチンは米モデルナ製。

 都の担当者は「大手は職域接種が進んでいるが、中小企業の社員が接種できていないという声が多い」と建設業のワクチン接種の現状を説明した。「東京五輪・パラリンピック関係者などの大規模接種が一段落した」ことも、追加の要因の一つという。

 都は今月に入り消毒・清掃業や飲食業といった業種にも接種対象を広げている。こういった業種と同様に「現場で都民と接する機会が多い」(都担当者)建設業従事者を対象に加え、感染流行に歯止めを掛けたい考えだ。

【橋長1696m、年度内完成目指す】徳島南部道の吉野川河口新橋、PCaセグメントを最終架設

橋桁の架設が完了した「吉野川大橋(仮称)」
(西日本高速道路四国支社徳島工事事務所提供)

  西日本高速道路四国支社が徳島市の吉野川河口部に建設していた徳島南部自動車道の吉野川大橋(仮称)がつながった。干潟を訪れる渡り鳥に配慮し、主塔やケーブルのない最大支間長130メートルのコンクリート橋桁(15径間連続箱桁橋)を採用。橋長1696・5メートルで、吉野川に架かる橋の中で最も長い橋となる。 

 同橋は、徳島南部自動車道徳島JCT~徳島沖洲IC間(4・7キロ)にあり、2015年度に着工した。上部工は架設桁を用いたPCa(プレキャスト)セグメントによる張り出し架設工法を採用。23日に最後となる490個目のPCaセグメントの架設作業が鹿島・三井住友建設・東洋建設JVの施工で行われた。

 今後、橋の連結に必要な作業や架設桁の撤去、路面の舗装などを進め、21年度中の完成を目指す。

【防災・減災対策強化、陸上競技場は球技専用に】川崎市、等々力緑地再編整備実施計画の改定骨子策定

等々力緑地の再編イメージ。球場側から中央広場を俯瞰(川崎市HPから)

  川崎市は、中原区にある「等々力緑地」の再編整備実施計画改定骨子をまとめた。施設の老朽化や2019年10月の台風19号で大規模な浸水被害を受けたことなどから、公園全体のゾーニングや防災・減災対策などを見直す。民間活力を導入した既存施設の増築・改修の手法も検討する。陸上競技場は球技専用スタジアムに改修する方針。11月に公表する計画改定案でスタジアムの整備スケジュールなども明らかにする。年度内の計画改定を目指す。

 現在都市公園として告示している面積は36・3ヘクタール。新たに公園として6・9ヘクタール、事業化検討エリアとして12・9ヘクタールを加え、計画対象区域面積は56・4ヘクタールになる。

 既存施設では等々力陸上競技場と等々力補助競技場を現在地で改修し最適化する。陸上競技場はサッカーやラグビーなどの利用を想定した球技専用スタジアムに改修する。民間提案や他都市の事例などを参考に、施設の複合化なども検討する。サッカーJリーグ・川崎フロンターレのホームスタジアムであることから、地域のシンボリックな施設になるよう整備する方針だ。

 とどろきアリーナの利用状況は飽和状態で市民らの利用ニーズに応えられていないことから、民間提案の整備手法なども含め再整備案を検討する。整備位置は未定。緑地全体の再編に合わせて考え方を整理する。

 浸水被害を受けた市民ミュージアムは、被災リスクの少ない場所に移転・新設する方向で検討する。新規施設として民間収益施設やプール、スケートボード、ドッグラン、バスケットコートなどの整備も検討する。

 6月に骨子案のパブリックコメントを実施した。市民からの要望を受け、緑地内施設で発生した浸水被害については、釣池やグラウンドなどに一時貯留機能を設けるなどの対策を検討し、計画に位置付ける。隣接する多摩川や多摩川緑地との連続性確保では、分断する多摩沿線道路に橋を架ける検討をする。脱炭素社会の実現に向け太陽光発電などの導入も検討するなどとしている。

【五輪競技施設など移設】東京都、有明アーバンスポーツパーク運営事業支援業務を発注

  東京都財務局は24日に「令和3年度有明アーバンスポーツパーク(仮称)運営事業に係る支援業務委託(その2)」の希望制指名競争入札を公告した。27日まで電子調達システムで参加申請を受け付ける。9月15日開札する。参加要件は「企画立案支援」か「市場・補償鑑定関係調査業務」のA、B等級の格付けなど。

 東京五輪でスケートボードや自転車競技の会場となった「有明アーバンスポーツパーク」(江東区有明1の7)の競技施設を移設するなどして、「有明アーバンスポーツパーク(仮称)」を整備する計画。建設地は江東区有明1の7の2。PFIを採用して、民間事業者に整備と運営を任せる方針だ。

 委託業務では、事業者選定に向けこれまで検討した実施方針案や要求水準書案を修正・精査、募集要項の作成などを支援する。履行期間は2022年3月31日まで。

2021年8月24日火曜日

【12月に東京都内で表彰式】日建連表彰2021、BCS賞15件と土木賞11件選定

  日本建設業連合会(日建連、宮本洋一会長)は、建築、土木両分野の表彰制度「日建連表彰2021」で26件の受賞を決めた。2019年に創設した日建連表彰は、国内の優れた建築物を表彰するBCS賞と、土木分野の優れたプロジェクトや構造物を表彰する土木賞で構成。今回は2回目の選考で、第62回「BCS賞」に15件、第2回「土木賞」は11件(特別賞1件含む)を選定した。

 受賞対象の建築物や土木プロジェクトなどは、20日に開いた日建連表彰委員会(委員長・押味至一副会長土木本部長)で選定。12月9日に東京都港区の「The Okura Tokyo」で表彰式を開催する予定だ。祝賀会は未定。いずれも実際に開催するかどうかは新型コロナウイルスの感染状況を見て10月ごろに判断する。

 2回目の日建連表彰は1月に募集手続きを始め、2月から選考を実施してきた。BCS賞には74件、土木賞には62件の応募があった。

BCS賞を受賞した「有明体操競技場」(日建連提供)

 BCS賞の選考で重視した特徴の一つが、建築主や設計者、施工者による「三位一体」での取り組み過程。日建連によると、設計者や施工者の優れた技術力やノウハウなどを結集し、建築主の情熱を具現化した建築物が多く見られたという。環境負荷の低減を目的に国産木材を多様に採用している有明体操競技場(東京都江東区)など、地域の特性や自然条件、先進技術を生かした建築物を多く選定。「建築文化の高まりを感じさせる意欲的な作品がそろっている」と評価した。

土木賞を受賞した「首都高速1号羽田線東品川桟橋・鮫洲埋立部更新事業(Ⅰ期)」
(日建連提供)
 土木賞の選考では、さまざまな課題を克服するための施工プロセスを重視。高速道路の通行に及ぼす影響を最小限に抑えながら工期短縮も図るプロジェクトを多く選定した。これらを代表するプロジェクトとして評価したのが首都高速道路会社の「首都高速1号羽田線 東品川桟橋・鮫洲埋立部更新事業(1期)」。供用開始から50年以上が経過した延長1・9キロの区間で1日当たり7万台の交通を遮断せず工事を進めるため、プレキャスト(PCa)化の推進や工期短縮といった工夫を高く評価した。

【異例のスピードで手続き】文化審、高輪築堤(東京都港区)の史跡指定を答申

高輪築堤の遺構(東京都港区提供)

  文化審議会(文化審、文部科学相の諮問機関、佐藤信会長)は23日、JR山手線の高輪ゲートウェイ駅(東京都港区)周辺で出土した、日本初の鉄道路線の一部「高輪築堤」の遺構を史跡に指定するよう、萩生田光一文科相に答申した。近く指定される見通し。通常は指定まで数年かかるが、緊急的な保存が必要との判断から異例のスピードで手続きが進んだ。

 高輪築堤は1872年に日本で初めて開業した鉄道路線の一部。整備当時、用地取得が困難だったため海上に築かれた。JR東日本が進める品川開発プロジェクトで都市計画決定されたI期の1~4街区と、構想段階(II期)の5、6街区にわたり約800メートル出土した。同社が4月に公表した保存方針によると、橋梁部を含む約80メートルと公園隣接部の約40メートルを現地保存し、信号機土台部を含む約30メートルを移築保存する。史跡指定されるのは現地保存する計約120メートル。文化審は「交通の近代化や、それに用いられた土木技術などの歴史を知る上で重要」と評価した。

【凜】群馬県建設業協会・福永功子さん

  ◇「地域の守り手」笑顔でサポート◇

 職員になって3年目、総務と経理を担当する。「間違いがないか、適正に処理できているかと心配になる時がある」という。日程表に業務の内容とポイントを書き入れ、翌年には振り返りながら段取りするよう心掛けている。「明るく生き生きと働ける職場」を目指し、職員のコミュニケーションや福利厚生の充実に気を配る。

 治水や水利、暮らしを豊かにするインフラの整備を担い、時代を彩って今も価値ある建築物を造ってきた建設業を身近に感じていた。「造る面にばかり目が向いていた。国や自治体と災害協定を結んでいると職員になって知った」。会員企業は自然災害の発生前から警戒活動に対応し、不測の事態が起これば緊急出動する。毎冬の除雪も手掛け、昨秋からは豚熱(CSF)の防疫にも奮闘。「安全・安心な暮らしの維持に不可欠な存在」。活躍がクローズアップされる機会がもっと増えてほしいと願っている。

 今夏、印象に残るエピソードが増えた。県が建設業をエッセンシャルワーカーに位置付け、ワクチンの優先接種の対象に加えた。「とても意義深い。地域の安全・安心を守る姿が広く理解され、認識が新たになればうれしい」とほほ笑む。

 休日は球技に励む子供と過ごす時間が長く、スコアブックを付けるのがうまくなった。海外ドラマを見るのが安らぎのひととき。新シリーズを楽しみにしている。

 (ふくなが・のりこ)

【やっぱり!マイ・ユニホーム!!】クボタ「130周年でリニューアル、誇り持てるデザインに」

  クボタは2020年の創業130周年を記念し、10年ぶりにユニホームをリニューアルした。グレーの生地に映える涼しげなペールブルーのラインがアクセント。新しいユニホームは、大手スポーツ用品メーカー・ミズノの開発ノウハウを活用し、さまざまな機能素材を採用した。6月から順次着用を開始している。

 動きやすさを追求したミズノ独自のウエア設計で、腕の曲げ伸ばしや足の屈伸動作時の引きつれ、圧迫感を軽減した。臭い対策ではブルゾンとポロシャツの襟元や脇など汗が気になる部分に、臭いの元を分解して軽減する「ミズノデオドラント」を採用。

 夏の働きやすさにも配慮し、夏用ブルゾンの両肩前方と背中の中央、夏用パンツの膝裏に通気性に優れたメッシュ素材を配置し、衣服内の蒸れた空気を外に逃がすことができる。

 リニューアルに携わった人事部労務厚生課の中野たき子さんは「工場の社員は来場者の目に触れる機会が多いため、社員が誇りを持てるユニホームを目指した。クボタブランドを社内外に効果的にアピールし、優秀な人材を確保して社内の士気を上げていきたい」と話している。

【駆け出しのころ】安井建築設計事務所取締役兼副社長執行役員・村松弘治氏

  ◇野心を持って新たな挑戦を◇

 子どものころから絵を描くことが好きで建築を見る機会も多く、大学の建築学科を選びました。最初は住宅中心のアトリエ事務所で、建築ができるまでのプロセスなどについて多くを学びました。ここでは建築にとって一番大事なディテールを勉強し、クライアントとの接し方や施工者との距離の置き方など建築家になるための教育も受けることができました。

 4年ほど勤務してから欧州に建築を見る旅に出ました。あるクライアントとの会話がきっかけでした。欧州に長く住んでいた方で現地の建築の話になるのですが、人がどのような感性で建築を使い、まちとどう関わっているのかがつかみ切れないことがありました。写真だけではなく実際に知りたいと考え、香山壽夫東京大学名誉教授の『ヨーロッパ建築案内 ギリシャから現代まで名作330選』(工業調査会、1987年)と地図を手に、船とシベリア鉄道などを乗り継いで欧州に行き、車を借りて二十数カ国を見て回りました。

 後世に残る建築は単体で建つのではなく、人やまち、自然とマッチしています。スウェーデンのストックホルム市庁舎と、フランスのル・コルビュジエが手掛けたロンシャン礼拝堂とラ・トゥーレット修道院が、特に印象に残っています。

 帰国後、縁あって安井建築設計事務所に入社しました。アトリエ事務所時代とプロセスが違う部分はありましたが、あまり苦はなく、大規模な建築も手掛けることができました。

 設計部時代は効率的に物事を進めることを常に考えてきました。BIMの立ち上げもその一つでした。建築プロジェクトは、たくさんの会社や組織が絡み合って進みます。トータルで組み立てることが新たな建築を創り出す人間の役割です。クライアントの文化もさまざま。良い意味で誘導することも大事ですね。分かりやすい言葉で説明して安心してもらい、いつまでに何を決めなければいけないのかをしっかり伝える。そうして信頼感を得るよう努力してきました。

 フィジカルなデザインは誰にでもできます。「モノのデザインとコトのデザイン」という言い方をしていますが、一番難しいのは人の活動をしっかりと見極めて建築に反映することです。その積み重ねが建築と周りをつなげ、まちづくりに広がります。DX(デジタルトランスフォーメーション)も同じ。都市オペレーティングシステムは整備されつつありますが、生産的に物を造るだけではなく、人と人、人とまちを結びつける視点が重要です。BIMはその基盤と考えています。

 若手には人がやっていないことをやり遂げるような野心を持ってほしいですね。相手の懐に飛び込み本気になる姿勢が重要。環境やエネルギーなど新しい要素を取り入れ、社会と向き合って建築のプレゼンスを高めてほしいと思っています。

欧州建築旅行時に乗車したシベリア鉄道。到着したモスクワでの一枚

 (むらまつ・こうじ)1982年武蔵工業大学(現東京都市大学)工学部建築学科卒、アトリエ・ドム入社。88年安井建築設計事務所入社、2011年執行役員、14年常務執行役員東京事務所長、19年専務執行役員、20年取締役、21年4月副社長執行役員。福島県出身、62歳。

2021年8月20日金曜日

【回転窓】試されるエンタメ

  新型コロナウイルスの猛威が止まらない。20日から緊急事態宣言の対象が拡大し、建設現場でも危機感が強まっている▼「社員や作業員の感染増加が日本全体の傾向と完全に比例している」。ゼネコン関係者からはそうした声も。現場が止まる事態には至ってないものの、家庭内感染も広がっており封じ込めに苦慮している▼さらなる経済低迷が危惧される中、野外音楽イベントの草分けと言われるフジロックフェスティバルが20~22日に新潟県湯沢町で開かれる。2年ぶりの今回は規模を縮小し、抗原検査キット配布や個人情報登録アプリの義務付け、検温済みリストバンドの装着、飲酒禁止など感染対策を徹底するそうだ▼大型イベントの開催には賛否の声が渦巻く。後援する同町にはさまざまな意見が寄せられている。何事にも通じるが楽しむには工夫や努力、責任が伴う▼主催者や出演アーティストはもちろん、来場者も姿勢が問われる。コロナ禍で苦境に直面しているエンターテインメント業界。社会から認められる形で事業が続き、観客も感動を味わう--。そうした新しい未来が見えるよう期待したい。

【スマホで最適経路案内】バリアフリー経路検索サービス、東京パラ会場周辺で提供開始

 オリンピック・パラリンピック等経済界協議会(豊田章男会長)は、パラリンピック東京大会の会場周辺を対象に、バリアフリー情報などを提供するサービスを19日開始した。国土交通省が調査し電子化した情報をベースにNTTがシステムを開発。スロープやエレベーターなどの設置状況を提供し、車いす利用者や高齢者がストレスなく移動できるルートを案内する。

 「Japan Walk Guide」はスマートフォンで利用する。パラリンピックが閉幕する9月5日まで利用できる。専用サイトにアクセスして出発駅と目的地の会場を入力すると、通常の乗り換え検索アプリと同様、経由する駅や所要時間などが表示される。

 「バリアフリールート」のアイコンも同時に表示。選択すると、会場最寄り駅から会場までの最適なルートを地図で案内する。エレベーターやスロープ、横断歩道などの状況を考慮し最適な経路を示す。

 国交省は東京五輪・パラリンピックを見据え、2016年に東京都内でバリアフリー情報の調査を開始した。競技会場周辺の駅や主要ルートの約78キロの情報をオープンデータとして公開。民間事業者による新サービスの開発に期待している。サービスは同協議会が提供するホームページにアクセスして利用する。

【熱海土石流】中部整備局、復旧作業に無人化施工バックホウを投入

無人化施工建機で二次災害を防止しながら土砂を除去する
(中部整備局提供)

  静岡県熱海市伊豆山地区で発生した土石流災害の復旧・復興作業で中部地方整備局は19日、既設砂防堰堤(逢初川砂防堰堤)付近に無人化施工バックホウ2台をヘリコプターで搬入した。20日以降、堰堤内に堆積した土砂や石の除去作業を始める。

 富士砂防事務所熱海緊急砂防出張所は、バックホウが作業する足場を確保するための敷鉄板や、遠隔操作する作業台を構築するための単管パイプなどの関係資材を18日に搬入済み。バックホウのバケット接続、作業台構築など進めている。天候の状況を見て除去作業に入る。

【施工は鹿島JV、今秋に33基設置完了】秋田沖洋上風力、モノパイルの据え付け着々

プロジェクトでは風車を支えるモノパイルを33基施工する(秋田洋上風力発電提供)

  丸紅らが設立した秋田洋上風力発電(秋田市、岡垣啓司社長)が秋田県の秋田、能代両市沖で計画する着床式洋上風力発電施設で、基礎の据え付けが順調に進展している。EPCI(設計・調達・施工・据え付け)方式により、風車の基礎などを鹿島・住友電気工業JVが担当。SEP(自己昇降式作業台)船を用いた大口径鋼管杭「モノパイル」の打設などを4月に開始。計画する33基のうち8割強(7月末時点)を施工済みで、今秋に完了予定だ。

 「秋田港・能代港洋上風力発電施設建設工事」として、秋田港と能代港の港湾区域内に、ブレード直径117メートルの風車を合計33基新設する。総出力は138・6メガワット。風車を含めた全体完成は2022年12月を予定する。

 基礎工事のうち、鹿島がモノパイルや接続部材「トランジッションピース」の据え付け、海底部の洗掘防止工を、住友電気工業が海底ケーブルを手掛ける。

 施工に当たって鹿島は、英シージャックスの日本法人が保有するSEP船「ザラタン号」を日本船籍に変更して利用。800トンつり級のクレーンを搭載しており、シージャックスが持つ洋上風力の施工ノウハウと、鹿島の国内での洋上施工経験を融合させながら、1本当たり360~880トンという重量の巨大モノパイルを据え付けている。特に注意するのが杭の精度だ。鹿島の宮本久士土木管理本部再生エネルギー部長は「安全に事故無く、できるだけ確実に早く進めることを意識している」と話す。

発電施設の整備を支えるため、埠頭に資機材の保管拠点を設けている
(秋田洋上風力発電提供)

 モノパイル打設後に、キャップをかぶせるようにトランジッションピースを設置し、高強度のグラウトで充填する。洗掘防止として、石材を網に入れた構造物「フィルターユニット」などを設置する。

 打設は昼間に行うが、作業船のコストが高いため、準備など可能な範囲で夜間作業し、24時間体制で現場を動かしている。「苦労はあるが、今後に向けたかけがえのない経験になる。最後の1本が終わるまで慎重にいく」(宮本部長)という。

2021年8月19日木曜日

【回転窓】チョウザメと盆の月

  立秋が過ぎ、暦の上では秋を迎えた。今年は一足早く秋雨前線が活発化し、長雨続きでお盆休みは巣ごもりだった方も多かろう▼お盆は旧暦の7月15日を中心に行われる祖先の冥福を祈る仏事。盂蘭(うら)盆会とも呼ばれる。コロナ下で遠出がはばかられるご時世だが、墓参りなどで故郷に帰った方も少なくないようだ▼浴(ゆあみ)してわが身となりぬ盆の月〈一茶〉。盆の月は秋に入って最初の満月を指し、この日に盂蘭盆会を行うところも。供養の行事で忙しい一日を終え、湯あみでようやくわれに返った姿が目に浮かぶ▼今年の盆の月は8月22日。英語で8月の満月は「スタージェンムーン(チョウザメ月)」。米国の先住民が各月に見られる満月に動物や植物、イベントなどの名前を付け、季節を把握していた名残。この時期を象徴するものがチョウザメ漁だった▼神秘的な月の満ち欠けは各地の風習などと強く結びつく。月面開発の覇権争いが活発化する状況で、国土交通省が月面基地の建設を見据え無人化施工技術などの提案を募集中。技術の進歩に期待しつつ、月の世界が無秩序に踏み荒らされぬよう願いたい。

【多機能スポーツ施設へ着々】日ハム新球場(北海道北広島市)にキッズエリア設置へ

キッズエリアの完成イメージ
(ファイターズスポーツ&エンターテイメント提供)

  建設中のプロ野球・北海道日本ハムファイターズの新球場を保有・運営するファイターズスポーツ&エンターテイメント(札幌市、川村浩二社長)は、北海道北広島市で建設中の新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」にキッズエリアを設置する。教育玩具などを手掛けるボーネルンド(東京都渋谷区、中西弘子社長)と戦略的パートナーシップを締結し、新球場内外に子ども向けの遊び場やフィールドを整備する。

 新球場内に設置する遊び場は、乳幼児から小学校高学年までを対象とし、床面積は1930平方メートル(屋内1050平方メートル、屋外880平方メートル)とボーネルンドが全国で運営する遊び場施設の中で最大となる。隣接地には新球場のミニチュア版となる約30メートル×約30メートルの子ども用フィールドも整備する。川村社長は「子どもの学びや成長に寄与する街づくりを推進していく」とコメントした。

【東京・京橋に新ランドマーク】新TODAビル、2024年4月竣工目指し起工

新本社ビルのエントランスは京橋の回遊拠点にもなる(戸田建設提供)

  戸田建設が東京・京橋の旧本社ビル跡地などに建設する「(仮称)新TODAビル」の工事が18日、本格的に始まった。本社機能をはじめオフィスやミュージアムなどが入る。自社の設計・施工で2024年4月末の竣工を目指す。

 建設地は東京駅に近接し銀座や日本橋をつなぐ中央通りに面する。超高層ビルでは事例の少ない免震コアウォール構造を採用し最高グレードの耐震性を確保。街のにぎわいを受け止め回遊拠点としての役割も発揮するため、オフィス以外の機能も充実する計画だ。

 同社は今年、創業140周年を迎えた。新本社ビルの建設には全国の支店から技術者が結集。「100年後まで存在意義のある建物づくり」に挑んでいく。

 建設地は旧本社ビルなどがあった京橋1の7の1(敷地面積6147平方メートル)。施設規模はSRC・RC・S・CFT造地下3階地上28階建て延べ9万4795平方メートル。地上8~12階を本社として利用し、13~27階がオフィスフロアとなる。1~3階にシェアオフィスや飲食店舗を配置。4~5階にカンファレンスホール、ミュージアムなどを6階に設ける。
新本社ビルの完成イメージ(戸田建設提供)

2021年8月18日水曜日

【回転窓】治山治水対策の必要性

  日本で初めて治山治水を説いた法令は「諸国山川掟(さんせんおきて)」と言われる。江戸幕府が洪水対策の一環として1666年に発した▼法令と言っても条文は三つだけで内容も簡明だ。森林の乱開発で土砂流出による災害が頻発していたため、草木の根株採掘を禁じ、河川上流の木立がない場所で苗木の植栽を推奨し、土砂災害に遭いやすい場所で新田開発の禁止などを定めた▼同じ頃、岡山藩の儒学者、熊澤蕃山も著書『大学或問(わくもん)』で山林と河川の整備を一体的に進めるよう説いている。蕃山は「近年山荒れ川浅くなって国土が荒廃しているのは不用意な開発の結果」として新田開発を禁じ、治水治山の具体策を記している▼先週末から日本列島に前線が停滞し、各地で洪水被害や土砂災害が発生している。長雨や突然の豪雨で眠れない日々を過ごされている方も多かろう▼8月の平均降雨量に対して4~5倍の雨が短期間に降る。地球温暖化に伴う気候変動としか思えない。これに対応するには、従来の治水対策だけでは難しい。治山治水対策への思い切った予算措置と迅速な対応を政府にお願いしたい。

【合材プラントの背後に虹】世紀東急工業の社内フォトコン、最優秀賞は「明日への架け橋」

三瓶隆幸さんの作品「明日への架け橋」
  世紀東急工業は「第2回STKフォトコンテスト」を、東京都港区のTKP田町カンファレンスセンターで7月16日に開いた。職員から135点の現場写真が集まり、職員86人による投票の結果、南相馬混合所(福島補材センター)の三瓶隆幸氏が応募した作品を最優秀賞に選んだ。

 撮影の舞台となった福島県南相馬市の南相馬混合所は、東日本大震災で被災した浪江町の旧相双合材工場の後継として設置した。三瓶氏の作品タイトルは「明日への架け橋」。プラントの背後に虹が架かった瞬間を撮影し、幻想的な風景が多くの共感を得たという。

 最優秀受賞作品以外にも施工中の土木舗装工事や竣工工事の写真などを選出。職員からは「全国各地で職員が頑張っている現場の熱意や雰囲気が伝わり励みになった」などの感想が寄せられた。来年以降もフォトコンテストを継続する。

【新事業創出や街づくりDX後押し】国交省、56都市の3D都市モデル公開

東京・新宿駅周辺の3D都市モデル(国交省報道発表資料から)

  国土交通省は東京23区など全国56都市の3D都市モデルを構築し、オープンデータとして公開した。総面積は約1万平方キロ。約1000万棟の建物が含まれる。出典を明記すればデータを加工したり商用利用したりできる。民間企業の新事業・新サービスの創出、自治体による街づくり分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)、脱炭素化の取り組みを支援する。

 国交省は「プロジェクト・プラトー」と銘打ち、3D都市モデルを段階整備している。事業を通じ効率的にデータを整備したり更新したりするスキームを確立。より緻密なデータを作る場合に必要な地上測量のマニュアルも作成する。

 自動運転技術やドローン(小型無人機)を使った輸送技術などで、民間によるイノベーションに期待する。建物屋根の面積や向きが分かるため、太陽光発電のポテンシャルが推計でき脱炭素化施策にも貢献する。

 新たに3D都市モデルを公開した都市は次の通り。

 ▽札幌市▽福島県郡山市▽同いわき市▽同白河市▽茨城県鉾田市▽宇都宮市▽群馬県桐生市▽同館林市▽さいたま市▽埼玉県熊谷市▽同新座市▽同毛呂山町▽千葉県柏市▽東京23区▽東京都八王子市(南大沢地区)▽同東村山市▽横浜市▽川崎市▽相模原市

 ▽神奈川県横須賀市▽同箱根町▽新潟市▽金沢市▽石川県加賀市▽長野県松本市▽同岡谷市▽同伊那市▽同茅野市▽岐阜市▽静岡県沼津市▽同掛川市▽同菊川市▽名古屋市▽愛知県岡崎市▽同津島市▽同安城市▽大阪市▽大阪府豊中市▽同池田市▽同高槻市▽同摂津市▽同忠岡町

 ▽兵庫県加古川市▽鳥取市▽広島県呉市▽同福山市▽松山市▽北九州市▽福岡県久留米市▽同飯塚市▽同宗像市▽熊本市▽熊本県荒尾市▽同玉名市▽同益城町▽大分県日田市▽那覇市。

2021年8月17日火曜日

【回転窓】多くは語るまい

  国内景気の低迷が長期化の様相を呈している。16日に内閣府が発表した2021年4~6月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)は物価変動の影響を除いた実質で前期比0・3%増。年率換算で1・3%増だった▼長引く新型コロナウイルスの流行が経済活動の足かせになっている。だがワクチン接種で先行した欧米各国の景気は回復基調が鮮明。緊急事態宣言の発令と解除を繰り返し、有効な手だてが見いだせない政府の動きは経済低迷と決して無縁でないだろう▼東京五輪で日本選手のメダルラッシュに湧いた今月上旬。景気浮揚のきっかけになるのではと期待する向きもあったが、閉幕後に豪雨が列島各地を襲い、予断を許さない状況が続く。コロナ禍と自然災害。「どうして」と天を仰ぎたくなる気持ちになる▼厳しい状況に直面し不安な避難生活を送る人たちが数多くいる。被災地では災害現場の最前線で地域を守るという使命感を胸に秘め、昼夜を問わず懸命に対応する建設業界の方々も▼悪循環から抜け出すには一体、何が必要なのか。政府の強いリーダーシップに期待したいところだが…。これ以上は言うまい。

【記者手帖】交通網の恩恵

  4年間所有していた自家用車を手放した。名古屋で1年間過ごし、無くても日常生活に困らないと判断したからだ◆静岡の実家は最寄り駅まで車で約25分、バス停まで徒歩約15分かかる場所にある。公共交通機関がカバーしていない場所で生活するため、自家用車は必需品。名古屋に引っ越す時も駐車場付きを必須条件に物件を探すほど、自家用車が無い生活は考えられなかった◆今の住居からは、市営地下鉄の最寄り駅まで徒歩約5分。地下鉄が市内の行きたい場所をおおよそカバーしているため、日常生活で困ることは無い。帰省や出張など長距離移動の際も、名古屋駅にアクセスすればJR東海道新幹線、東海道本線、中央本線、名古屋鉄道、近畿鉄道、高速バスなどを利用でき、移動手段は事欠かない。交通網の充実による恩恵を実感した1年だった◆名古屋駅には数年後、リニア中央新幹線も乗り入れる。東京~名古屋間を40分で結ぶこの交通網は、名古屋に大きな変化をもたらすはず。名古屋駅の東西駅前広場改良、久屋大通を中心とした栄地区の再編など、変貌するまちの姿を鮮明に伝えられるよう、自身のスキルを成長させねば。(松)

2021年8月16日月曜日

【中央公園の新たな玄関口に】旧広島市民球場跡地整備事業、NTT都市開発ら9者グループに

イベント広場の完成イメージ(広島市報道発表資料から)

  広島市は、Park-PFI(公募設置管理制度)と指定管理者制度を活用する「旧広島市民球場跡地整備等事業」の整備・管理運営候補者にNTT都市開発を代表とするグループ「NEW HIROSHIMA GATEPARK」を選定した。グループは代表企業以外に大成建設、中国新聞社、広島バスセンター、広島電鉄、NTTアーバンバリューサポート、NTTファシリティーズ、シーケイ・テック、NSP設計で構成している。

 同グループの提案は、「新しいライフスタイルの入り口として、中央公園の新たな入り口として、にぎわいあふれ、世界に誇れる求心力のある都市公園をつくる」を全体コンセプトに、▽市民の新しいライフスタイルへのゲート▽地域全体の魅力と回遊性を高めるゲート-の二つのゲートを掲げ、多様な人々が集い平和を実感できる市民公園、地域全体の魅力向上・回遊性向上に貢献する計画としている。

 特定公園施設については、平和軸をつなぎ、未来の平和をつくるシンボルとなる「ピースプロムナード」と、旧広島市民球場の“かたち”を継承する「二つのリボン」を骨格とした公園を計画。周辺ゾーンの特徴を園内に取り込み、それぞれを結ぶことで、人を引き寄せるこの場所ならではのにぎわいと回遊性を生む公園とする。ピースプロムナードは、平和記念公園から中央公園に至る平和軸を顕著化させ、路面電車の被爆敷石や水景、桜並木など広島の土地や歴史とつながりがあるデザインとする。二つのリボンは、旧広島市民球場の形状を大小二つのリボンで表現。リボンに囲まれたモアレプラザが野球場特有の祝祭性や中心性を継承し、公園全体ににぎわいを発生させる計画。

 ここに整備する公募対象公園施設は、広島の都心に新しい人の流れとにぎわいをつくり公園と一体的に利用できる木造店舗群を提案。親和性の高い店舗を誘致し、都心部で不足している「居心地の良い屋外環境」と「休憩できる滞在型施設」を計画地内に適切に配置する。各店舗は公園の外周部に点在させ、変化に富むシークエンスを生みだし、紙屋町から新サッカースタジアム方面へ人々を導く。店舗は木造の低層で水平基調の外観とするほか、公園に人々の居場所となる大きな屋根を架けて整形な“ハコ”型の店舗を形成、開放的なデザインと必要な機能面が両立する計画とする。

 公募設置等計画の有効期間は2022年4月1日から20年間。指定管理期間は23年3月(目標)から約19年間。

【回転窓】異例の夏にできること

  盆休みや長期休暇を終えて、今日から仕事を再開される人が多いことだろう。コロナ禍2度目の夏休みは、子供たちの苦労も小さくない▼工作教室やキャンプ体験など、楽しみにしてきた予定が緊急事態宣言の延長・拡大で消し飛んだ地域がある。近所の少年サッカーチームは、感染対策の徹底を条件に開催される大会への選手派遣を巡って、成長と安全を両にらみする難しい判断を家庭に委ねた▼全国を見渡すと、児童などの体験や発表を「二度とない貴重な経験」として、教育委員会が機会の確保に一定の理解を示した県がある。公営のプールやキャンプ場が入場者を制限しながら営業を継続し、思い出を残す機会を提供している▼友達との絆や趣味、好きな運動などに過剰な自粛のしわ寄せがいくような事態は避けたいが、ウイルスに感染してもさせてもいけない。配慮のない無秩序な外出はだめだけれど、楽しい思い出は残したい。大人も子供もそれぞれの立場で感染症との向き合い方を考えざるを得ない状況が続くのが残念でならない▼どうか来年は安心してたくさんの笑顔が見られますように。今できることを考えたい。

【モデルにめるる起用】建災防、全国労働衛生週間の啓発ポスター販売

  建設業労働災害防止協会(建災防、今井雅則会長)は、10月1~7日の2021年度「全国労働衛生週間」(準備期間は9月1~30日)に向け、普及啓発ポスターの販売を始めた。

 「めるる」の愛称で知られるモデルでタレントの生見愛瑠さんをモデルに起用。ネコのポスターも用意している。いずれも同週間のスローガン「向き合おう! こころとからだの 健康管理」を記載している。

 ポスターのサイズはB2判(縦73cm×横52cm)で、価格は220円(税込み)。東京からの注文は建災防本部の教材管理課、東京以外は道府県支部で受け付ける。

【中堅世代】それぞれの建設業・293

若き日の現場経験が公務員になった今でも生き続けている

 ◇より良い行政サービスを求めて◇

  民間企業で経験を積み公務員に転職する技術者は少なくない。生まれ育った街の市役所で働く秋山大輔さん(仮名)もその一人。子どもの頃からものづくりが好きで、大学では建築を学んだ。卒業後はゼネコンに入社して約10年間、数多くの建設現場に従事した。

 「更地だった場所に一つ一つの工程を経て、建物が完成していく。そんな現場に携われるのが建設会社で働く一番の魅力だった」と振り返る。当時の現場は長時間労働が当たり前だったが、一つの現場が終わってから次の現場で仕事が始まるまでの間に長期休暇を取る働き方も悪くなかった。

 だが30代を迎え家庭ができるとワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭の調和)を意識し始めた。「コンクリートから人へ」をスローガンに掲げた政権が誕生し、建設投資の先行きに不安を覚えたことも、新たな道を考えるきっかけだった。

 地元の自治体が建築系の技術職を中途採用していることを知った。「最初は興味半分で受けてみた」が結果は合格。建設業の仕事にやりがいは感じていた。自身が公務員になることをあまり考えたことはなかったが、「せっかくの縁。挑戦してみよう」と転職を決めた。

 地方公務員として再出発し、公共施設の営繕部門や街づくりの関連部署などを担当してきた。施工者から発注者に立ち位置は変わったが、「ゼネコン勤務時代に培った知識や経験は今の仕事にも生きている。施設を利用する市民の顔が間近で見える機会が増え、本当にうれしい」。利用者のためにできることをしたいという思いは強くなっている。

 市民との距離が近づくと、うれしい場面以外の光景にも遭遇する。図書館の新築工事で建設地の前にある広場を閉鎖した時、「いつも憩いの場所として利用されていた親子が悲しそうな表情をしていた。公共サービスの質を高めるためとはいえ切ない気持ちになった」。より良い公共空間を整備し多くの人に喜んでもらおうと心に決めた。

 市内にある著名建築家が設計した施設の建て替えを巡り、市民から保存を求める声が挙がったこともある。子どものころから慣れ親しんだ施設を解体することに自分自身も戸惑った。けれども老朽化の進行もあり、「市民の安全を守るには建て替えがベストな選択」と思った。建築のプロという立場から、市民や議会に建て替えが必要と丁寧に説明した。

 公共施設の適切な維持管理や自然災害への備えに加え、デジタル対応、脱炭素といった新たな政策課題も山積している。財源などの制約は多く、対応できる範囲にも限りはある。だが「何か方策を模索していきたい」と力を込める。

 公共インフラは建築だけでなく、土木、都市と幅広い分野にまたがり、市民の暮らしに直結している。ゼネコンの技術者、地方自治体の公務員と重ねてきたキャリアを総動員し、市民に寄り添った行政サービスを提供し続けようと思っている。

【凜】五洋建設見積部主任・横塚真帆さん

 ◇経験積み再び現場へ◇

  大きなプロジェクトに携わってみたい-。大学で建築を学び、ものづくりの最前線で働きたいという願いをかなえるため、就職先にゼネコンを選んだ。入社後1カ月で初めて配属された現場。大学で学んだ建築用語と現場で飛び交う専門用語のギャップに戸惑いながら、とにかく「顔を覚えてもらいたい」という一心で業務に取り組んだ。

 入社してからあっという間に時間が過ぎ、さまざまな現場を経験した。特に印象に残っているのは、海上に構築した人工地盤に4階建てのターミナルビルを建築した現場。国内に類を見ない工事に携わることができ、技術者として大きな経験になったと感じている。「建設の仕事はチャレンジできる場所が多く充実している」と語る。

 入社9年目。7月から現場を離れ見積部に異動した。現場一筋で所長になりたいと考えていた一方、「見積もりや積算、技術、営業などさまざまな部署の仕事を知りたい」という思いも心のどこかにあった。「一つのプロジェクトに関わるいろいろな業務を理解し、再び現場に立ちたい。自分が見積もりを手掛けた工事に所長として携わることができたらうれしい」と目を輝かせる。

 会社には女性の技術職員が増え、大勢の後輩が自分の後に続いている。これからもしっかりと前を向き「一つでも多く私自身の経験を伝える」と心に決めている。

 (よこつか・まほ)

【やっぱり!マイ・ユニホーム!!】日本国土開発「オリジナルのファン付き作業服も追加」

  日本国土開発は4月に迎えた創立70周年の記念事業として、35年ぶりにユニホームをリニューアルした。グレーとネイビーでシックにまとめ、コーポレートカラーのグリーンとレッドのラインをあしらった。スタイリッシュなデザインは社員に好評で、女性用とオリジナルのファン付きジャケットもラインアップした。

 新しいユニホームは上からフルハーネス安全帯が着用できる。フルハーネスを着用しても前面の大型ポケットが使える。背面の反射材はハーネスのストラップがかぶらない位置に配置した。ファン付きジャケットも着用できる。「袖が膨らむと作業効率が下がる」という意見を受け、ベストタイプを採用した。

 リニューアルのプロジェクトチームに携わった建築事業本部設計部意匠グループの大西暁子グループリーダーは、「若手社員が中心のプロジェクトチームで現場第一主義をコンセプトにブラッシュアップし、安全性と機能性、快適性の三拍子がそろった作業服を実現できた」とアピール。「会社の顔としてふさわしいユニホームに仕上がっている」と出来栄えに胸を張る。

【駆け出しのころ】横河ブリッジ執行役員大阪工事本部長・菊池俊介氏

  ◇橋に魂を入れ達成感を◇

 就職活動中は特に「橋」にこだわりはありませんでした。どうするか悩んでいたころ、教授の勧めもあり横河工事(現横河ブリッジ)に入社しました。当時は「橋の工事をしている会社らしい」という認識しかありませんでした。

 入社して半年後、京都府内で小規模な橋梁架け替え工事をいきなり1人で任されました。右も左も分からない現場に立ち、当時は携帯電話もありません。困ったことがあれば現場の近くにあった喫茶店に駆け込み、先輩に電話し教えてもらった記憶があります。

 4カ月ほどで工事が終わり、すぐに大阪府内の橋梁現場に配属されました。貨物線が東海道本線をまたぐトラス橋の架設工事でした。回転工法という特殊な工法を使い、その様子がテレビのニュースで放映されるなど難易度、注目度ともに高い工事でした。工事所長が30代後半、次席は20代後半、その下が21歳の私という若すぎる編成に不安も感じました。

 鋼橋の現場管理は重量物を上下させたり、回転させたりするハンドリングが重要な仕事です。施工計画書を見ても理解できないことが多く、必死に勉強しました。当時は現場監督業務の合間に職人の仕事を手伝うのが暗黙の了解で、そこでさまざまなテクニックや小技を学びました。工事終盤には自ら測量、レイアウトした水田の排水溝や重力擁壁を施工したことが印象に残っています。

 阪神高速湾岸線延伸工事などに従事した後、入社4年目の結婚を機に計画部門へ異動になりました。会社の配慮はありがたいことですが、正直現場勤務を続けたい思いもありました。計画部門では道路橋示方書や架設設計施工指針などの関連基準書を何度も読み込みました。案件ごとに橋梁の設計計算や架設用仮設備の構造計画・強度計算などを実務として経験したことは、4年後に現場復帰した時に役立ちました。計画部門で力学的な知識を頭にたたき込んだ結果、自然に施工計画の立案や原価計算ができるようになっていました。

 工事部門に復帰後は所長として、大型工事や多種多様な架設工法を担当しました。特殊工法を使う現場は全体のごく一部しかありません。結果的に大半の架設工法を経験できたことは何事にも代え難い財産です。2003年以降は管理の立場になりましたが、「架からなかった橋はない、終わらなかった工事もない」という信念で、前向きに問題解決に取り組む原動力になっています。

 現在は制約条件も多く、いきなり若手が1人で工事を担当できる環境ではありません。工事が大型、長期化し若手を現場責任者に配置しにくいのが実情です。けれども数々の困難を克服しながら工事を完成させた時の達成感や充実感は決して変わりません。楽しく真剣に仕事と向き合い「橋に魂を入れる」を体験してほしいですね。

入社1年目で担当した大阪府内のトラス橋架設現場で(右端が本人)

 (きくち・しゅんすけ)1981年大阪府立高専(現大阪府大高専)土木工学科卒、横河工事入社。取締役建設事業本部・保全事業本部副本部長、同安全品質管理本部長を経て2018年から現職(執行役員制度導入で19年7月から執行役員)。大阪府出身、60歳。

2021年8月5日木曜日

【回転窓】再び緊急事態宣言

  さはら刺身生姜醤油/たひ刺身/かぢき刺身/まぐろ霜降りとろノぶつ切り/ふな刺身芥子味噌/こちノ洗い…。おいしそうな食べ物が延々と続く▼小説家で随筆家の内田百〓(門がまえに月)が1944年に書いた『餓鬼道肴蔬(こうそ)目録』。戦争中で食べ物がない時、内田は記憶の中からおいしいものや食べたいものを探してみようと思い、料理名を次々と挙げた▼内田が当時の状況をどう見ていたのかは分からないが、作家の嵐山光三郎氏は戦中に「ひたすら料理名だけを書いていくことの不屈の執着心は、想像力と空想のなかに自己を遊ばせる百〓(門がまえに月)の意地が屹立(きつりつ)している」と評す▼政府は2日、新型コロナウイルスの緊急事態宣言を埼玉、千葉、神奈川、大阪の4府県に適用した。発令中の東京、沖縄と合わせると6都府県に広がり期限も31日までに。飲食店などはまた時短営業を強いられつらい時期が続く▼仕事は単にお金を稼ぐだけの行為ではない。苦労も多いが達成感や充実感も得られる。いまは我慢の時だが、宣言明けにはまたおいしい料理を提供してほしい。こちらも食べたい料理を今から書き出しておくか。

【回転窓】現実と向き合い、真摯な姿勢を

  新型コロナウイルスの流行が長引き、業種間で業績に与える影響も大きな差が出ている。打撃を受けた企業であれば、経営を存続するためにコスト削減や処遇の見直しなど厳しい選択をせざるを得ないケースもあろう▼経団連が先月末に公表した大手企業の「2021年春闘妥結結果」の最終集計。定期昇給とベースアップを合わせた月例賃金の上昇率は1・84%と前年に比べ0・28ポイント低下した。2%を割り込むのは13年以来8年ぶりという▼建設業の月例賃金上昇率は2・43%。自動車など5業種が2%を超えた。一方、コロナ禍で苦境に直面する私鉄に加え、鉄鋼や貨物運輸などの業種も1%の上昇率にとどまった▼政府が賃上げを要請し経済界が応える「官製春闘」が始まったのは14年。それが正しい姿だったのかは賛否両論あるだろう。五輪開催による景気の再拡大という思惑が外れ、大手企業であっても業種間はもちろん、同じ業種の中でも徐々に差が浮き彫りになり始めている▼大手企業以上に中小企業は大変な思いをしているはず。政府には現実と正面から向き合い、道を指し示す姿勢が求められているのではないか。

【回転窓】視力と安全

  先日、地元の警察署で運転免許証を更新した。優良運転者講習を受ける前に行った深視力検査で2回不合格となり、3回目で何とかクリア。無事にゴールドの免許証を手にすることができた▼深視力検査は大型やけん引などの運転免許を取得・更新する際、通常の視力検査と合わせて義務付けられている。3本の棒のうち真ん中の1本が前後に動き、全て一列に並んだ時にスイッチを押す専用の検査機を使用。3回押して前後の誤差が平均2センチ以下で合格となる▼人は右目と左目の位置が完全に対称でないため、同じ物体を見た時に左右で微妙なずれが生じる。そのずれを一つの像として処理する時に遠近感、距離感を得て物体の位置状況が把握できる▼距離感が不正確だと、特に大型車両では大きな事故につながる恐れがある。交通ルールの順守と合わせ、身体的能力の維持や向上も安全運転には欠かせない要素の一つといえよう▼交通事故は減少傾向にあるものの、年間死亡者数は3000人近くに上る。安全で快適な交通社会の実現は道半ば。自動運転など先進的な技術の力も借りながら、不幸な事故が無くなる日を待ちたい。

【初期投資500億円、小型EV15万台分】エンビジョンAESCジャパン、茨城県に国内最大規模のEV電池工場建設

新工場の完成イメージ(報道発表資料から)
  中国系車載電池大手のエンビジョンAESCジャパン(神奈川県座間市、松本昌一社長兼最高経営責任者〈CEO〉)は、茨城県に国内最大規模の電気自動車(EV)向けリチウムイオン電池工場を建設する。10月に着工し、2024年の量産開始を目指す。設備投資額は初期計画で約500億円、将来的な能力増強も含め計1000億円以上の投資を予定している。

 建設地は県中部にある茨城町の茨城中央工業団地内。敷地面積は約36ヘクタール。建屋は工場棟、オフィス棟などで構成する。設計・施工者は非公表。年間生産能力は6ギガワット時。小型EV(40キロワット時)の15万台分に相当する。将来的には18ギガワット時まで生産能力を増やす。主に日産自動車のEV向けに次世代(第5世代)リチウムイオン電池を生産する。

 4日に水戸市内会見した松本社長は「最新鋭の設備を導入したスマートファクトリーを実現する」と語った。同席した大井川和彦知事は「思う存分企業活動が行えるよう環境をしっかり整えていきたい」と立地を歓迎。アシュワニ・グプタ日産自動車最高執行責任者(COO)は「EVのラインアップを拡充していくため茨城の新工場に期待している」と話した。

【延べ3.9万㎡、設計・施工は竹中工務店】日経新聞社と大和ハウス工業、大手前1プロジェクト(大阪市中央区)に着手

複合施設の完成イメージ(大和ハウス工業提供)

  日本経済新聞社と大和ハウス工業は、大阪市中央区の日経新聞社旧大阪本社跡地で計画する「大阪・大手前一丁目プロジェクト」の新築工事に1日着手した。テレビ局や高級ホテルなどが入る延べ約3・9万平方メートルの複合施設を整備する。設計・施工は竹中工務店。2023年12月末の竣工を目指す。

 計画地は大手前1の1の1ほか(敷地面積4373平方メートル)。京阪電鉄天満橋駅に近接する。建物はS造地下1階地上21階建て延べ3万8810平方メートルの規模。高さは約98メートル。「和模様」を外観コンセプトに、市松模様や隣接する大阪城の白壁や石垣などをイメージしたデザインを採用した。

 1~4階は日経新聞社のグループ企業のテレビ大阪が入居し、新本社として活用する。イベントなどを開催し、地域ににぎわいを生み出す。6~20階には、米ヒルトンが「ダブルツリーbyヒルトン大阪城」をオープンする。客室数は377室。レストランやフィットネスプール、会議室などを併設する。

2021年8月3日火曜日

【民主導の官民連携に転換を】日本総研・東一洋氏に聞く「次世代スポーツ施設整備の在り方は」

  東京五輪が開幕し、出場している選手の活躍はもちろん競技を支えるスタジアムやアリーナへの関心も高まっている。国内にあるスタジアムやアリーナの多くは地方自治体が整備し運営している。限られた財源を有効活用するには、民間の資金やアイデアをより取り込む必要がある。スポーツ施設の整備や運営に詳しい日本総合研究所の東一洋氏に、現状の課題や今後の在り方を聞いた。

 ――自治体がスポーツ施設を整備・運用している現状をどう見る。

 「少子高齢化が進展している上、自治体の財政は厳しさを増している。スポーツ施設への投資はさらに減るだろう。大規模スポーツイベントをきっかけにした自治体による施設の新規整備は難しい。サッカーなどプロリーグのあるスポーツ施設はこれまでの行政主導による整備から、チームやスポンサー企業などを巻き込んだPPP/PFIに変わっていくだろう」。

 「指定管理者制度やBTO(建設・管理・運営)方式のPFIなどは、事業内容をよく分析すると官民連携と言い難い部分がある。事業スキーム、特に運営部門で民間の創意工夫に対するインセンティブがほとんどない。毎年同じことをやっていても一定の収入が保証されるような従来のやり方は、もはや価値がないと考えている」

 ――民間の創意工夫を後押しする方策は。

 「新たな手法としてBT(建設・移管)+コンセッション(公共施設等運営権)方式のPFIが広まりつつある。イベント需要やプロスポーツの試合による安定的な収益が見込める大都市圏は、コンセッション方式で事業者に最大限の経営自由度を付与するべきだろう。自由に運営できれば創意工夫の余地は確実に広がる」

 ――既存施設を再生する事業も増えつつある。

 「老朽化施設を再生するRO(改修・運営)方式のPFIは、施設単体で無く周辺と一体でスポーツの価値を顕在化するという視点が求められる。観戦環境の多様化・付加価値化、ICT(情報通信技術)を活用した『観る』機能の導入が必要だ。ただしコストを負担しつつ、得られた収益を官民で折半するなど、適切なインセンティブがなければ民間投資を呼び込むのは難しい」

 「タイムシェアリングや米メジャーリーグなどで導入されているレベニューシェアリングといった仕組みが、今後の地方でのスポーツ施設整備の鍵となる。自治体は整備費を全額負担せず、代わりに毎年一定時間、施設を借り上げるタイムシェアリングは、自治体にとってコストの抑制手法になる。ベニューシェアリングはスポーツ施設の収益と非収益の部分を区分し、収益が得られる部分のコストは民間、非収益部分を公共機関が負担する方法だ。スタジアムではスタンドと商業施設を一体的に整備すれば、スポーツイベントがない日でも人の流れを生み出し、安定的に収益が得られる」

 ――千葉、茨城両県の現状をどう捉えているのか。

 「東京という大都市圏に近い千葉県や茨城県には、複数の有力プロスポーツ球団・クラブがある。公共に依存しなくてもスポンサーやサポーターの資金力やアイデアで、スタジアム・アリーナビジネスを展開することができるだろう。民間主導の動きに公共を巻き込んでいくというスタイルが、全国でも最も実現しやすいエリアだと考えている」。

 (リサーチ・コンサルティング部門地域・共創デザイングループシニアマネジャー)

【熱海土石流から1カ月】地域建設業の復旧支援、新たな対応を提唱

  静岡県熱海市伊豆山地区の逢初川流域で発生した大規模な土石流災害から3日で1カ月を迎える。地域建設業の懸命な作業で土砂やがれきの撤去が進み、市は一部区域で立ち入り禁止を解除した。

 国の応急工事も進んでいる。ただ住宅の被害が多発し被災者の生活再建は見通しが立たない。地元の建設業団体は公共土木施設の応急対策などに限られる災害協定の範囲を見直し、個人の暮らしを再建する貢献でも新しい支援の在り方が必要と訴えている。

 被災地では国土交通省が県の要請を受け、直轄で逢初川水系の緊急砂防工事に取り組んでいる。24時間態勢で地盤の動きを監視しながら二次災害の防止を徹底しつつ、既設堰堤や土石流発生起点(源頭部)の土砂撤去、仮設ブロック堰堤の設置、砂防堰堤の新設などを計画する。

 県は復旧・復興に向けた推進体制として「逢初川下流域復旧・復興チーム」を発足。河川工事や港に流入した土砂の撤去などを急ぐため、今月から本格的な調査などに着手する。伊豆山地区にある県営七尾団地の駐車場を使い、2年後をめどに災害公営住宅の完成を目指す。

 土石流災害で全壊や半壊といった被害が集中したのが住宅。静岡県建設業協会(静岡建協、石井源一会長)傘下の三島建設業協会(三島建協、小野徹会長)によると、地元市町と結ぶ災害協定は地域建設業の活動範囲が公共土木施設の応急工事などに限られる。地域建設会社が住宅で発生した災害ごみの排除や搬出などを行うのは制度面で難しい。

 静岡建協で環境・災害対策委員長を務める三島建協の土屋龍太郎副会長(土屋建設社長)は「市町の災害対応は国や県と異なり住民との関係が深い」と指摘。新たな役割として「災害協定に市民の暮らしに関する事項を加えてほしい」と訴える。当面は県の市長会に呼び掛けていく。

 国交省の防災担当者によると、災害協定の内容は裁量権が比較的大きい。各地で自然災害の発生頻度が増す状況で、地域の守り手として建設業に求められ、果たすべき役割をもう一度考える必要がありそうだ。

【大林組が水素製造・供給】トヨタ、水素エンジン車両で耐久レース完走

  トヨタ自動車は7月31日から2日間、大分県日田市で行われた「スーパー耐久レースinオートポリス」に水素エンジン車両で参戦し、大林組が製造した地熱由来の水素でレースを完走した。使用段階だけでなく製造段階でも二酸化炭素(CO2)の排出がゼロのグリーン水素を初めて活用。自らレースに参戦したトヨタの豊田章男社長は業界を超えた連携、エネルギーの地産地消に期待した。

 大林組は地熱発電の電力を水素製造に利用する実証装置を大分県九重町に建設し同18日に運転を開始した。グリーン水素の製造から輸送、貯蔵、供給まで一連の取り組みを実証する国内初の事例。地熱を使って約150世帯分に相当する125キロワットの電力が発電できる。1時間当たり水素供給能力は10ノルマル立方メートル。

 トヨタが水素エンジン車両でレースに参戦するのは、静岡県の富士スピードウェイで5月に行われた24時間耐久レースに続き2回目。グリーン水素の活用は初めてで、大林組が全量の約30%を供給した。

 7月31日に両社社長らが会見。豊田社長(写真㊧)は「カーボンニュートラルはエネルギーを作る、運ぶ、使うの各段階で連携が大切だ。水素エンジン開発の挑戦に共感いただいた大林組やトヨタ自動車九州の熱意ある行動に感謝したい。もっと仲間を増やしたい」と話した。大林組の蓮輪賢治社長は「業界を超えた水素連携が実現し光栄に思う。担当技術者も含めモチベーションが高まった」と語った。

【概算事業費は1100億円】首都高新京橋連絡路、国交省ら検討会が整備を了承

  国土交通省と東京都、首都高速道路会社などでつくる検討会は、首都高都心環状線と八重洲線の間に新線「新京橋連絡路」を整備する計画を了承した。事業区間は約1・2キロ。日本橋区間の地下化に伴って失われる環状機能を代替する。概算事業費は約1100億円を見込む。都らは今後、関係者との調整や都市計画の変更などに着手する。日本橋区間の地下化と同時の2035年ころの供用を目指す。

 首都高都心環状線の交通機能確保に関する検討会(座長・吉岡幹夫国交省技監)の第4回会合を7月30日にウェブで開いた。

 新線は八重洲線の南端である西銀座JCTと、都心環状線の築地川区間の間を結ぶ。地下区間は約1・1キロで開削部約300メートル、シールド部約800メートル。完成2車線となる。

 築地川区間の大規模更新も併せて実施する。同区間は河床を活用して整備したため道路上に複数の橋脚がある。▽新金橋▽新富橋▽三吉橋▽亀井橋-の4橋を架け替えて橋脚を除去する。擁壁なども更新する。

 湾岸線から延びる晴海線と都心環状線との接続は、京橋JCTと銀座出入り口付近の2カ所になる計画だった。だが京橋JCTでの接続は新線の合流部と干渉する。国交省らは接続箇所を銀座出入り口付近だけに絞る方向で計画を見直す。

 事業は首都高速会社と都が共同で整備する「合併施工方式」を想定する。費用は首都高速会社が有料道路事業などで約600億円を払う。都は街路事業として約300億円を支出する。周辺の民間開発からも約200億円の拠出を見込む。都有地の活用や容積率の緩和といったインセンティブを与え、負担に協力してもらう。

 概算事業費の内訳は▽用地・補償費130億円▽近接構造物防護工250億円▽開削工200億円▽シールド工330億円▽擁壁・掘割工10億円▽設備工170億円▽出入り口改修10億円。

 日本橋区間の地下化に伴い江戸橋JCTで複数のランプウェイが廃止され、都心環状線の環状機能が失われる。国交省らは八重洲線と東京高速道路(KK線)で代替する案も検討していた。だがKK線に大型車両を通すには床版や桁の補強が必要で、高架下に入居するテナントも含む全面的な作り替えが避けられない。都がKK線を歩行者空間として再生する方針を打ち出したこともあり、KK線の活用を断念して新線を整備することにした。

2021年8月2日月曜日

【回転窓】自宅で聞いたセミの声

  自宅の小さなベランダが園芸の場になって久しい。最近ますます増えてきた植木鉢をパズルのように動かしながら洗濯物を干している。そんな苦労も収穫した野菜や果物を味わえばすっかり忘れてしまう▼コロナ禍の自粛生活でたまったストレスを発散したいと、東京都内の住宅街やビルの貸農園で農作業を楽しむ人が増えている。収穫の喜びはもちろん、屋外で密にならずに適度な運動にもなる▼身近でお得なレジャーとしてキャンセル待ちの農園もあるそう。ブームを追い風に、都市部にある遊休地を活用し貸農園に参入する企業が増えればより多くの人が楽しめ、職業としての農業の門戸も広がるだろう▼都市は人口集中で宅地化が進み、農地や樹林地が限られ、多様な生物を育む空間が極めて少なくなっている。住宅街に開墾した農園や建築物の屋上・壁面緑化などが有機的につながり緑のネットワークになれば、動植物の生息・生育環境の確保、維持につながっていくのではないか▼先日、自宅でセミの鳴き声を聞いた。わが家のベランダが生き物たちの緑のネットワークにささやかながら一役買っていればうれしい限り。

【凜】アークノハラ・岩切萌実さん

 ◇製品の魅力、多角的に伝える◇

  入社4年目で新しい商材の拡販プロモーションを主に担当する。広告掲載や販売促進ツール作成、展示会参加に加え、営業として神奈川と長野の2県を回る。

 思い入れがある製品は入社直後に顧客へのPR資料作りから携わった道路のひび割れ抑制シート。「舗装設計マニュアルを読み、開発者に勉強会をセッティングしてもらった。道路工事がこんなに奥深いとは思わなかった」と振り返る。導入後に現地へ様子を見に行くことも。「自分が効果を実感していないと思いが伝えられない」という思いがある。

 自動運転を支援する電光掲示板など関連製品事業にも携わる。実証実験に参加し、「車だけではなく、道路側の製品も安全・安心にとって大事だと感じた。進化の過程が見られて面白い」と笑顔で話す。

 学生時代の研究テーマは観光地の再活性化。衰退気味の観光地に滞在しカフェを運営しながら課題を探った。「魅力があるけれど知る手段が無いことが問題だった。どう伝えるかが重要だと思った」。それは建材商社で働く今にも通じる。

 「将来は製品の販売戦略立案やマーケティングプロセスの全般をやりたい」と話し、「ほかの製品に対しても、もっと知識を吸収する必要がある」と気を引き締める。休日はギョーザなど、得意料理を家族に振る舞う。魚がきれいにおろせるようになりたいとはにかむ。

 (いわきり・もえみ)

【中堅世代】それぞれの建設業・292

3密に気を付けながら他業種とも仲良く話すように心掛けている

 ◇生き生きと働く姿、子どもたちに◇

  建設現場で躯体構築に従事する中根良介さん(仮名)。元請のゼネコンから若くして優秀な職長として認定され、数々の現場で活躍してきた。温和で人当たりが良いタイプ。「回りが支えてくれて、力を貸してもらえたから仕事ができている。皆の見本になれたらそれが一番」と笑顔で話す。

 建設業界に入ったのは18歳。高校を中退して身の振り方を考えあぐねていた時に、年上の知人から「土木の仕事をやってみないか」と誘われた。建設業界への興味はまったく無かったが、現場に入って仕事を始めてみると、難しさと同時に面白さを感じた。

 誘ってくれた知人は、現場経験20年以上の大ベテラン。「世話してもらいながら、いつしか現場の仕事にのめり込んでいった」と振り返る。原動力となったのは「職人として追いつきたい」というライバル心だった。「今から考えるとおこがましい」と恥ずかしそうな表情を見せ、「何とか近づきたいと思って必死だった。いまだに超えられていない」と話す。

 力を伸ばすために必要な素養には「聞く力」を挙げる。入ったばかりのころは分からないことだらけだった。ベテランになるにつれ知識も経験も増えるが、現場が変わるたびに新たに覚える事柄が必ず出てくる。「分からない時に分からないと聞かなければ吸収できない」と中根さん。今の現場は、若い現場監督の下で働いている。「元請だからと気負ったりせずに、分からないことを職長や作業員たちにどんどん聞いてくる。だから、吸収が早く、こちらも仕事がやりやすい。自分も見習っていきたい」。発注者でも元請でも下請でも、現場を円滑に進めるためには、そうした姿勢が必要だと感じている。

 現在の現場は、昼夜で進める土木工事。特に注意するのが夜間作業だ。決められた作業を、予定時間までに確実に終えなければいけない。多い時には50人以上を率いて作業する。大事にするのは支え合うチームワークで、「お互いに楽しく働くことが理想」と話す。やりがいや充実感を得ながら働くという意味で、甘えを認めることではない。「なあなあになると、トラブルが生じたり事故が起こったりしてしまう。それでは駄目だ」と厳しい口調で言い切る。

 40代に入って、体がきついと思うようになってきたという。教わる立場から、現場を引っ張る職長に成長してきた。今後は、育てる側に軸足を移していく時期となる。

 担い手不足をひしひしと感じており、子どもから見た仕事の姿を大事にしたいと思っている。「現場で働く大人が生き生きとしていたら、『私もやりたい!』と言ってもらえる」と中根さん。そのためには、まずは自分自身と周りの人を、もり立てていくことが不可欠だ。普段の仕事の中で自分ができることを地道に積み上げる--。そうした姿勢で日々、現場に立ち続ける。

【やっぱり!マイ・ユニホーム!!】三菱電機ビルテクノサービス「エンジニアの熱中症を防止」

 三菱電機ビルテクノサービスは、昨年7月からフルハーネス安全帯に対応したミズノ製のワークウエアを導入している。エレベーターの昇降路や空調設備のある屋上などで保守・工事に当たるエンジニアの酷暑対策を強化。体表を冷やすファン付きウエアと、ファンによる送風効果を高める通気性の高いシャツの2種類を導入し、エンジニアの働きやすさに配慮した。

 導入したのはファン付きウエア「エアリージャケット」と「夏用高通気性シャツ」。エアリージャケットは両脇のファンから送風し、首の前後や両腕から風が通り抜ける設計で涼しさを保つ。体表を冷やすことで、余分な汗をかかずに体力の消耗を抑える効果もあるという。シャツは従来着用していた作業服のデザインをベースに、ファンの通気性を最大限に発揮する素材の選定も含めて改めてデザインした。

 エンジニアは1日に複数の現場を移動することもある。作業着には着脱しやすく、通気性や耐久性の高いウエアが求められていた。夏用高通気性シャツを着た状態でフルハーネスを装着し、その上にエアリージャケットを着用すれば着替えは完了。作業開始までの機動性も高まっている。シャツの上からフルハーネスを装着し、さらにエアリージャケットを着用すれば作業を開始できる

【駆け出しのころ】りんかい日産建設取締役常務執行役員管理本部長・村崎善道氏

  ◇自発的な行動で力付ける◇

 就職活動をした時期はバブル期のまっただ中で、大学の同級生は金融や証券会社などに入る人が大勢いました。私はどうせやるならものづくりの会社で大きなプロジェクトに関わりたいと考え、建設会社を志望しました。

 縁あって入社した日産建設(現りんかい日産建設)で横浜支店に配属され、6カ月の研修期間のうち後半の3カ月で現場を回りました。最初の2カ月は東名高速道路の拡幅工事。現場事務所に泊まり込みの生活で苦労もありましたが、入社早々、技術系の同期らと実際の現場作業を経験できたのは良かったです。

 最後の1カ月は横浜市内のマンション現場。墨出しなど施工管理について、先輩方から丁寧な指導を受けました。工事主任が当時の日誌に書いてくれた「君のこれからの職務は分からないが、現場の大変さだけは心にとめて覚えておいて下さい」という言葉を、今でも大切にしています。

 研修後、支店では現場支援の工事事務を担当。請求書の処理や地鎮祭・竣工式の段取り、近隣のあいさつ回りなど、土木・建築現場のあらゆる事務的業務を任されました。当時は現場数も多く、2年目には若手ながらも約20カ所の現場支援に当たりました。

 初めて地鎮祭の司会を担当したマンションの案件で大失敗もありました。竣工後の施主への引き渡しでは営業と現場の担当者が対応するのですが、現場担当者の都合が付かず、私が同席することになりました。本社が用意した書類一式の中身をよく確認せずに持ってきたため、いくつか書類が足りないことが現地で判明。当時は携帯電話もなく、施主の事務所の電話を借りて支店から届けてもらうようにしました。

 これで終わらず、最後に手形をもらって渡す領収書を用意してないことにその場で気付きます。上司の顔がまともに見られず、穴があったら入りたい心境でした。大恥をかいたことで、その後は手続き関係の書類確認を徹底しています。

 3年半の支店勤務を経て本社に異動後は管理畑を歩いてきました。投資家向け情報提供(IR)や株主対応など、裏方の仕事は気苦労も多かったですが、どんな仕事でも自分を成長させることに注力し、それが会社のためになると考えて取り組みました。日本建設産業職員労働組合協議会(日建協)の執行委員時代には労働条件を担当し時短・賃金政策を任され、いろいろと勉強になりました。

 当社が経営破綻した時、能力の限界を超えたさまざまな修羅場を乗り越えてきたことは、自分の力になったと思います。大規模なリストラで弱気になった時、父親から「最後の1人になっても残れ」と諭され、頑張ることができました。

 若さはそれ自体がかけがえのない財産。何事にもひるまず挑戦できる。若手には自発的に行動し、率先して発言しながら経験を重ね、力を付けてもらいたいです。

入社1年目、初めて司会を担当した
マンション建設現場の地鎮祭で

 (むらさき・よしみち)1988年明治学院大学法学部卒、日産建設入社。管財人室課長、経営企画部長などを経て、2021年6月から現職。兵庫県出身、56歳。