2021年8月24日火曜日

【駆け出しのころ】安井建築設計事務所取締役兼副社長執行役員・村松弘治氏

  ◇野心を持って新たな挑戦を◇

 子どものころから絵を描くことが好きで建築を見る機会も多く、大学の建築学科を選びました。最初は住宅中心のアトリエ事務所で、建築ができるまでのプロセスなどについて多くを学びました。ここでは建築にとって一番大事なディテールを勉強し、クライアントとの接し方や施工者との距離の置き方など建築家になるための教育も受けることができました。

 4年ほど勤務してから欧州に建築を見る旅に出ました。あるクライアントとの会話がきっかけでした。欧州に長く住んでいた方で現地の建築の話になるのですが、人がどのような感性で建築を使い、まちとどう関わっているのかがつかみ切れないことがありました。写真だけではなく実際に知りたいと考え、香山壽夫東京大学名誉教授の『ヨーロッパ建築案内 ギリシャから現代まで名作330選』(工業調査会、1987年)と地図を手に、船とシベリア鉄道などを乗り継いで欧州に行き、車を借りて二十数カ国を見て回りました。

 後世に残る建築は単体で建つのではなく、人やまち、自然とマッチしています。スウェーデンのストックホルム市庁舎と、フランスのル・コルビュジエが手掛けたロンシャン礼拝堂とラ・トゥーレット修道院が、特に印象に残っています。

 帰国後、縁あって安井建築設計事務所に入社しました。アトリエ事務所時代とプロセスが違う部分はありましたが、あまり苦はなく、大規模な建築も手掛けることができました。

 設計部時代は効率的に物事を進めることを常に考えてきました。BIMの立ち上げもその一つでした。建築プロジェクトは、たくさんの会社や組織が絡み合って進みます。トータルで組み立てることが新たな建築を創り出す人間の役割です。クライアントの文化もさまざま。良い意味で誘導することも大事ですね。分かりやすい言葉で説明して安心してもらい、いつまでに何を決めなければいけないのかをしっかり伝える。そうして信頼感を得るよう努力してきました。

 フィジカルなデザインは誰にでもできます。「モノのデザインとコトのデザイン」という言い方をしていますが、一番難しいのは人の活動をしっかりと見極めて建築に反映することです。その積み重ねが建築と周りをつなげ、まちづくりに広がります。DX(デジタルトランスフォーメーション)も同じ。都市オペレーティングシステムは整備されつつありますが、生産的に物を造るだけではなく、人と人、人とまちを結びつける視点が重要です。BIMはその基盤と考えています。

 若手には人がやっていないことをやり遂げるような野心を持ってほしいですね。相手の懐に飛び込み本気になる姿勢が重要。環境やエネルギーなど新しい要素を取り入れ、社会と向き合って建築のプレゼンスを高めてほしいと思っています。

欧州建築旅行時に乗車したシベリア鉄道。到着したモスクワでの一枚

 (むらまつ・こうじ)1982年武蔵工業大学(現東京都市大学)工学部建築学科卒、アトリエ・ドム入社。88年安井建築設計事務所入社、2011年執行役員、14年常務執行役員東京事務所長、19年専務執行役員、20年取締役、21年4月副社長執行役員。福島県出身、62歳。

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