東京五輪が開幕し、出場している選手の活躍はもちろん競技を支えるスタジアムやアリーナへの関心も高まっている。国内にあるスタジアムやアリーナの多くは地方自治体が整備し運営している。限られた財源を有効活用するには、民間の資金やアイデアをより取り込む必要がある。スポーツ施設の整備や運営に詳しい日本総合研究所の東一洋氏に、現状の課題や今後の在り方を聞いた。
――自治体がスポーツ施設を整備・運用している現状をどう見る。
「少子高齢化が進展している上、自治体の財政は厳しさを増している。スポーツ施設への投資はさらに減るだろう。大規模スポーツイベントをきっかけにした自治体による施設の新規整備は難しい。サッカーなどプロリーグのあるスポーツ施設はこれまでの行政主導による整備から、チームやスポンサー企業などを巻き込んだPPP/PFIに変わっていくだろう」。
「指定管理者制度やBTO(建設・管理・運営)方式のPFIなどは、事業内容をよく分析すると官民連携と言い難い部分がある。事業スキーム、特に運営部門で民間の創意工夫に対するインセンティブがほとんどない。毎年同じことをやっていても一定の収入が保証されるような従来のやり方は、もはや価値がないと考えている」
――民間の創意工夫を後押しする方策は。
「新たな手法としてBT(建設・移管)+コンセッション(公共施設等運営権)方式のPFIが広まりつつある。イベント需要やプロスポーツの試合による安定的な収益が見込める大都市圏は、コンセッション方式で事業者に最大限の経営自由度を付与するべきだろう。自由に運営できれば創意工夫の余地は確実に広がる」
――既存施設を再生する事業も増えつつある。
「老朽化施設を再生するRO(改修・運営)方式のPFIは、施設単体で無く周辺と一体でスポーツの価値を顕在化するという視点が求められる。観戦環境の多様化・付加価値化、ICT(情報通信技術)を活用した『観る』機能の導入が必要だ。ただしコストを負担しつつ、得られた収益を官民で折半するなど、適切なインセンティブがなければ民間投資を呼び込むのは難しい」
「タイムシェアリングや米メジャーリーグなどで導入されているレベニューシェアリングといった仕組みが、今後の地方でのスポーツ施設整備の鍵となる。自治体は整備費を全額負担せず、代わりに毎年一定時間、施設を借り上げるタイムシェアリングは、自治体にとってコストの抑制手法になる。ベニューシェアリングはスポーツ施設の収益と非収益の部分を区分し、収益が得られる部分のコストは民間、非収益部分を公共機関が負担する方法だ。スタジアムではスタンドと商業施設を一体的に整備すれば、スポーツイベントがない日でも人の流れを生み出し、安定的に収益が得られる」
――千葉、茨城両県の現状をどう捉えているのか。
「東京という大都市圏に近い千葉県や茨城県には、複数の有力プロスポーツ球団・クラブがある。公共に依存しなくてもスポンサーやサポーターの資金力やアイデアで、スタジアム・アリーナビジネスを展開することができるだろう。民間主導の動きに公共を巻き込んでいくというスタイルが、全国でも最も実現しやすいエリアだと考えている」。
(リサーチ・コンサルティング部門地域・共創デザイングループシニアマネジャー)
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